ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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夢の中で

 幼いアイズは母の膝の上で英雄の物語を聞く。

 この物語は大好きだ。この物語も、の方が正しいだろう。

 母から読み聞かされる英雄達の物語が何より好きだった。

 愉快な仲間達の会話に笑い、強敵が出ればハラハラし、悲しい物語では泣き、ハッピーエンドで感動する。

 そんな感情豊かで表情豊かな少女。

 

「いつつ……加減しろクソオヤジ」

「加減されて強くなれるのか?」

「……………」

「あ、お父さん!」

 

 と、そこへ父がやってきた。隣にはアイズより幼い白髪赤目の少年。

 短い木剣を片手に不機嫌そうな顔をしている。

 

「ベルも、お疲れ様」

「……………」

 

 アイズの言葉に少年──ベルはふん、と顔を逸らす。負けたのが悔しいのだろう。大人に負けるのは当たり前だが、彼はこれまで多くの所謂悪い大人達と喧嘩して勝っている。それだけでも凄いと思うが満足できないらしい。

 

「もう、拗ねないでよベル」

 

 子供らしい反応にアイズがクスクス笑うとふん、と鼻を鳴らし顔を戻す。アイズは母の膝により深く腰掛けるとベルを手招きする。

 

「おいで、一緒に読んでもらおう?」

「ああ……」

 

 母の膝の上に座るアイズ、そのアイズに抱き締められたベル。両親は微笑ましいモノを見たというように笑い、父が母が背を預けていた木によりかかる。

 

「ふふ。じゃあ、ベル君も来たことだし最初からね?」

 

 母がページを戻し、物語が再び語られる。

 

「この物語は好き?」

「あなたは?」

 

 問いかけるアイズに母は微笑み頷く。

 

「私も、あの人のおかげで幸せだから」

 

 屈託な笑顔を浮かべる母に、アイズは羨望を覚える。その視線に気づいたのか母は笑い頭を撫でる。

 

「あなたも素敵な相手(ひと)に出会えるといいね」

「……………?」

 

 何故だろうか、その言葉に、胸を抉るような痛みを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 場面が変わる。

 そこは薄暗い洞窟の中、少年は追いかけてくる異形の影から逃げる。

 怪物(モンスター)の、ゴブリン。いかに小さなモンスターであろうと人間が、ましてや子供がこの群に遭遇したらただではすまない。

 追い詰められ、へたりこみ涙目になるアイズ。と、涙で歪んだ視界に白い影が揺らめくのが見えた。瞬間、ゴブリンの首が飛ぶ。

 

「帰るぞ………」

「あ………」

 

 差し出されるのは自分より一回り小さな手。その手を取り立ち上がると、今度は大きな影が現れる。

 ベルは直ぐ振り返り剣を構える。

 が、その影は真っ二つに切り裂かれる。そこには銀色の長剣を持った父が居た。

 

「二人とも、大丈夫か?」

「………師匠」

「良く逃げなかったな、ベル」

 

 と、頭を撫でる父にベルは頬を赤くして顔を逸らした。

 

「良くアイズを守ってくれた」

 

 そう、守ってくれた。二人とも、助けてくれた。そんな二人の姿が物語の英雄達に重なる。と、父が膝を曲げアイズと視線を合わせる。

 

「私は、お前の英雄になることは出来ないよ」

 

 既に、お前のおかあさんがいるから、と彼は続け、隣に立つベルをチラリと見る。

 

「ベルは? ベルは私の英雄になってくれる?」

 

 と、アイズは顔を赤くして両手を後ろに回し、もじもじと照れながら幼馴染みに尋ねる。

 

「………俺は───悪いなアイズ。俺はお前の英雄にはなれない」

 

 

 

 

「…………へ」

 

 気が付くとアイズは元の姿に戻っていた。目の前にはひっくひっくと嗚咽をあげる幼い少女(アイズ)

 別に、ユメミールを使わせたロキにも作ったナァーザや売ったミアハに悪気があるわけではない。ただ、使用者が夢に飲まれないため現実を思い出させるだけ。それが最悪のタイミングで起こってしまった。

 運がない、ただそれだけ。

 

「ひっく………ベル、ベルぅ………」

「………どうして、泣いてるの?」

 

 少女に問いかけるアイズ。少女は泣きはらし赤くなった目をアイズに向ける。

 

「ベルが、行っちゃった………モンスターの所に、私を置いて………行っちゃった…………行っちゃったよぉ……」

「………………」

 

 ああ、そうだ。思い出した。

 ベルは自分の幼馴染なんかじゃない……自分ももう子供じゃない。ベルは、オラリオで出会ったのだ。

 そして、モンスターを家族と呼び、モンスターを庇っていた子供達とモンスターが居るから、アイズの英雄にはなれないと去っていった。

 

「何で、何で……? 助けてくれるって言ったのに……」

「………ベル、にも……何か理由が……」

「理由があったら、怪物を助けて良いの? 全部、彼奴等のせいなのに!」

「─────!」

 

 少女の言葉に、アイズは思い出す。

 好きだった居場所は壊れた!

 好きだった日々は砕け散った!

 愛していたあの人達は、奪われた!

 直ぐに母が!

 次に父が!

 ここはアイズの夢の中。現実と違い、その光景は簡単に変わる。

 思い出す度に思い出したくない光景が映し出される。

 

「モンスターは殺さなきゃ……」

「わか、ってる……そんな事、言われなくても………」

「じゃあ、どうしてこんな所に居るの?」

「それ、は………」

 

 だって、ここなら幸福を感じていられるから。ずっと、此処にいたいと思っていたから。 

 

「忘れるの? ベルがモンスターを庇ったことを………」

「……………」

「大っ嫌い………大嫌い……ベルなんて、大嫌い……」

「ち、違う……私は、ベルの事……嫌ってなんかない……ちゃんと、話せば……きっと……」

「ベルに庇われた子達も、モンスターも、一緒に行ったレフィーヤもティオナも………大嫌い」

「レフィーヤ、達も? モンスターだけじゃなくて………?」

「………子供だね、私」

 

 クスリと目の前でアイズが笑う。何時の間にか、年齢が逆転していた。

 ああ、正しくアイズは子供だろう。幼い頃、全てを失い、その時からきっとアイズの心は止まっていた。憎しみという炎に囚われ、少しずつ周りに感化されても、それは嘗ての優しく純粋な少女に戻ってきていただけ。

 子供なのだ、アイズは……。

 だからアイズはベルに依存した。してしまった。

 甘えられるから、縋れるから。

 ベートと違って強くあり続けようとする事を望まない。

 リヴェリア達と違って成長を願わない。

 ティオナやティオネと違って同格として見ない。

 レフィーヤやほかの団員と違って上に見ない。

 好きなだけ甘えられた。助けてと、縋れた。

 でも、ベルは行ってしまった。モンスターを助けるために【ロキ・ファミリア】に背を向けて……。

 少女(アイズ)は知らない。その感情を。目の前のアイズはきっとそれだ。

 

「教えて、貴方は………何なの? どうして、皆嫌いなの」

「嫌い? 嫌い………大嫌い。皆大嫌い……憎い、殺したい………死んじゃえ」

「どうしてそんな事を言うの……」

 

 少女(アイズ)には解らない。目の前の感情が何を条件に『皆』を嫌っているのか……。

 

「ベルも嫌い……大嫌い。置いてった、捨てた…………」

「違う、そんなんじゃ………」

「弱い私。認めたくないんだね…………まだ縋りたいの? 助けてもらえると思ってるの? 違うよ、そんな事ある訳ない。ベルはモンスターを選んだ……人間よりも、あっちを選んだ……大嫌い……大嫌い大嫌い……大嫌い!」

「────ッ!」

 

 ビクッと肩を竦める。

 

「ベルは………でも、ならどうするの……」

「連れ戻す。それが無理なら、その時は───どうしよう………?」

「ベルに、変なことしないで!」

 

 幼い体で必死に叫ぶ。その細い首に、白魚のような指が這う。

 アイズが普段浮かべる、人形の様な無表情に見つめられる。

 

「馬鹿な私。今更ベルを守ろうとしても、助けようとしても……無駄なのに……ベルは私を助けてくれなかったのに」

「違う、そんなんじゃ……だって、ベルは人間だから、仲間だから……守らなきゃ」

「嘘吐きな私。本当は違う……ベルにそばにいて欲しいだけ。捨てられたくないだけ………復讐も忘れて、ベルとずっと一緒に……」

「ち、ちが──」

弱い私(あなた)は要らない」

 

 ピキリと、罅が入るような音が聞こえる。

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 ベルは不意に顔を上げる。

 何か途轍もなく嫌な予感がした。その正体は、生憎解らない。

 

「お父さん?」

 

 と、髪を洗われていたウィーネが顔を上げる。

 

「ああ、いや………何でもない」

「………レフィーヤには相談するの?」

「何でそこでレフィーヤが………ああ」

 

 と、そこで納得する。

 彼女も頼られたいんだろう。でもベルを一番支えているのは、頼りにされているのは誰か心の何処かで知っていた。

 自分の特別な存在から向けられたい感情を他人に向けられ、不快に感じる。

 その感情が何か、ベルは知っている。

 

「嫉妬してるのか。安心しろ、お前は俺の大切な娘だ……」

「えへへ~」

 

 頭を撫でられ目を細めるウィーネ。機嫌が直ったようだ。そんな娘の様子にベルは微笑む。

 ある少女が、彼に向けて欲しい笑みを。




因みにこれは『ナニカ』がアイズに干渉したわけではなく、ユメミールとアイズの感情が最悪なタイミングで合わさった結果です


すまない、これから暫くFGOに潜る。本当にすまない
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