ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「ベルさぁぁぁん!」
「……………」
扉を開け入ると静まりかえる店内。そして、真っ先に復活したシルが飛びついてくるがその頭を押さえる。シルがジダバタ手を伸ばしたがパッと離すとバランスを崩し倒れて「うみゅ!」と鳴いた。
「あいたた、ベルさん酷いです」
「いきなり飛びかかってきたからな」
鼻を押さえ涙目で見てくるシルに淡々と返すベル。エルフのリューが呆れたようにため息を吐いた。
「確かに突然の奇行でしたが気を悪くしないでくださいクラネルさん。シルも、アナタを心配していたのですから」
「俺を?」
「【ガネーシャ・ファミリア】から逃げ出したモンスター討伐に赴き、三日も顔を見せなかったのですよ?殺されたのではないかと心配したのです」
「ああ………それは確かに、俺が浅はかだった。心配かけて悪いなシル」
「………じゃあ、抱きついて良いですか?」
「好きにしろ。なれている」
「ベルさん! ………ん?なれてる?」
ベルに抱きついたシルだったが発言を思い出し首を傾げる。なれてるって何だなれてるって。こういう事を良くしてたのだろうか?女と。
「聞けばシルバーバックを単身で倒したとか。駆け出しだというのにお見事です」
「そうか? ここの店員の殆どが楽に出来そうだが」
「………そういえば対人経験が多いのでしたね。確かに今の私達ならその通りですが、駆け出しの頃の私達では殺されて終わりです」
ベルの言葉にピクリと反応した店員だったがリューの一言で仕事に戻る。
「そうか。まあ、取り敢えず俺は一度ホームに戻る。シル、離れろ」
「あ、はい……」
名残惜しそうに離れるシルを後目に去ろうとするベル。リューが首を傾げた。
「聞かないのですか?」
「聞いて欲しいのか?」
「………いえ」
なら良いだろ、と出て行こうとするベルに、シルがハッと呼びかけた。
「あの、ベルさん! シルバーバックと戦う姿、かっこよかったですよ!」
「……………そう言われるなら、少しは近づけているのかもな」
誰からも好かれるという英雄に。
ベルは自嘲するように笑い今度こそ店を出た。
「はいちゅーもく!」
【ロキ・ファミリア】のホームでロキがパンパン手を叩くと集まった面々が視線を向ける。主神や団長、副団長の側に立つ見覚えがない男女。彼らが今回の集会の主役だろう。
一人は顔を赤くして震えながら服の裾を掴むツインテールの少女。一人は顔に傷跡をつけた白髪赤目の少年。その少年を見て一人の人狼があんぐり口を開けていた。
「こいつらは本日より正式にウチ等の傘下ファミリアになった【ヘスティア・ファミリア】の主神ヘスティアと、唯一の団員ベル・クラネルや。基本的にベルっちは【ヘスティア・ファミリア】として活動するけど、場合によっては組むこともあるだろうし仲よーしてな。んでこっちのちっこいヘスティアはまあ給仕や。優しくしてやるんよー」
「くー! 神の僕が給仕……」
「何時まで言っとんのやドチビ。諦めーや」
唸るヘスティアにケラケラ笑うロキ。ベルは挨拶もすんだのでさっさと行こうとする。
「何処へ行く?」
「ダンジョン」
尋ねたリヴェリアにそれだけ言うと再び歩き出した。
「………はぁ、まるであの子が増えたみたいだな」
「これから大変そうだね。ま、頑張れ」
頭を押さえやれやれと首を振るリヴェリアにははは、と愉快そうに笑うフィン。件の『あの子』を見ると首を傾げてきた。
「へー。じゃあやっぱりモンスターを探していた白髪の冒険者って君のことだったんだー。ふーん」
「何怒ってんだ?」
「モンスターの脱走なんて大事件の後姿見せず心配して、三日経って現れて事情聞いたら三日間ずっと寝込んでたって聞いて心配してるのに『どうでも良い。ダンジョンに潜るから先に手持ちの魔石を換金してくれ』なんて言われたらそりゃキレるよ! ベル君は私をなんだと思ってるのかなぁ!?」
「………公私区別が出来てない職員?」
「誰だってこんな事されたら公でも私でも普通に怒るわ!」
ゴチン! とベルの頭を叩くエイナ。ステイタスカンスト中のベルの頭を何の恩恵も持たないエイナが叩くとどうなるか?答えは明白。ケロッとしているベルと手を押さえるエイナの図が出来上がった。
「うぅ………冒険者って………むぅ、仕方ないなぁ。どうせ止めても行くんでしょ?」
「ああ」
「私そろそろ上がりだから、少し待ってて」
「……………」
「勝手にダンジョンに潜ったら怒るよ?」
「解った」
ベルははぁ、とため息を吐いてギルドの受付から離れた場所にある椅子にドカッと座る。潜れなくて苛立っているのだろう。彼は強くなりたいようだし。
そう聞いた。
英雄になりたいという者は幾らでもいる。それは名誉を欲して、金を欲して、女を欲して。英雄になって得られる何かを期待して。そう言った者達は皆何らかの光を目に宿す。
ベルにはそれがない。英雄になることが当然と思っているような………いや、これは正しくない。英雄を目指すのが当然と思っているような目だ。
「………これも何か違う、かな?」
英雄を目指すと言い、実際エイナの忠告も聞かず冒険しようとする。一応主神であるヘスティアにステイタスの更新をネタにある程度抑えられているが少なくとも実行しようとしている。熱意を感じる……筈だ。なのに感じない。
そう、あれはもっと、縛り付けられているような。英雄にならなくてはならないから目指す、そんな感じだ。目的も目標もなくただ目指し、瞳には熱も光も籠もらず冷たい影が広がるだけ。
「心配だなぁ、本当」
それなのにそれ以外となると少しは熱を持つ。解りにくいが興味を示す。
人並みの感情は持ち合わせており、その後英雄になる事を目指す機械としての機能を埋め込まれたようなそんな感じ。
「ベル君が興味持ったのはご飯と武器、防具の話だったかな? でもこの前豊穣の女主人で大食いの白髪冒険者の噂があったし………うん、防具にしよう」
「【ヘファイストス・ファミリア】か……ブランド品じゃん」
「大丈夫。新人鍛冶師の店もあるから」
恐らく高価な商品には見向きもしないだろう、買えないから。
買えたとしてもベルの戦闘スタイルは基本的に投擲ナイフと近接ナイフを使った中近距離型。使い捨ての利く安いモノの方があっているだろう。故に高いのが売ってる階層は無視。
「じゃあベル君、好きなの見てきて良いよ。あ、防具を見て回るんだよ?武器じゃないからね」
ここはしっかり念を押しておく。こうでもしないとまた武器だけ集める可能性もある。
「あ、これなんか良いかも……」
見つけたのはプロテクター。ベルのイメージカラーには合っていないがナイフも収納できそうだし耐久力も高そうだ。
コレ、あげたら喜んでくれるだろうか?
「………………」
購入してしまった。ベルはベルで軽装の鎧を購入していた。やはり基本的には俊敏を生かした戦闘方法が得意なようだ。
「ベル君の戦いの癖って何処でついたの?」
「盗賊狩り。あの頃はガキで、身体に合う鎧作るにはオーダーメイド。金なんてないから諦めて攻撃を避けることに専念し続けた内に染み着いた」
「幼い頃からかー。なら、仕方ないのかな?」
それで今まで生きていたのだからまあ、やはりそれが一番合っている動きなのだろう。なら、やはり軽装を選んで失敗ではなかった。
「ベル君、はいこれ……」
「プロテクター?」
「プレゼント」
「……………幾らだ?」
「お金はいいの。プレゼントだってば……」
呆れたように肩をすくめるエイナ。押し付けるようにプレゼントを渡す。
「…………寝ればいいのか?」
「何でそうなるかな」
「冗談だ」
解りにくい。
「………ありがとな、エイナ。今度何かお礼をする」
「あ、う……うん」
素直に礼を言われ少しくすぐったく感じるエイナ。ベルはそのままダンジョンに向かって歩く。
何となく放っておけない。放っておくと絶対無茶をする。実力はあるから頼りになる筈なのに世話が焼けるとは変な性格だ。
「気をつけてよ、ベル君」
叶うことなら死に場所を探す口実作りのように力を求め続ける彼の命を、ほんの少しでも防具が守ってくれますように。
そんな願いを込め祈るハーフエルフは、その防具があっさり砕かれることになる未来を想像できなかった。