ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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勇者の憧憬

 フィンは今回のゲームにおいて指揮を捨てた。

 向こうの動きが読めないなら、如何にフィンといえども最適解を出せるとは思えなかったからだ。

 向こうの大将は伏せられているが予想はつく。ベルだ。

 バレれば一番狙われる役柄を、巻き込んでしまったと考えているであろうベルが他者に押し付けるはずがない。

 厄介なのは町の外に逃げられることだ。何せ、あくまで陣地を指定されたが町から出るなというルールは明記されていない。というか漆黒のミノタウロスがベルのランクアップの糧となったあのミノタウロスなら町というフィールドは狭すぎる。

 ゲームにおいて公平のギルドであろうと異端児(ゼノス)という存在を知っていた以上その辺りも考慮した上でフィールドを選んでいるならフィールド制限なんて作らないはずだ。

 

「………と」

 

 気配を感じて立ち止まる。現れたのは数人のアマゾネス。

 ティオネを連想させる目をしていた。

 

「……やあアルガナ、久し振りだね。君達が敵に回ってしまって残念だよ」

「はぅ!?」

 

 何やら頬を紅潮させて悶え始めた。うん、ティオネとそっくりだ。

 

「けど、加減をする気はないよ。というか、加減なんかして負けたら色々失いそうだしね……」

 

 そう言って槍を構える。同時に、アマゾネス達が殺到した。

 

 

 

 

『おおっと、【勇者】(ブレイバー)との突然の遭遇で【 麗 傑 】(アンティアネイラ)達が瞬殺されリリルカ・アーデも絶体絶命かと思いきや、光ったぞー!?』

『ミィシャ、解説が抽象的すぎるよ………けど、傍目から見ても動きが速くなっているのが解るわね………強化系のスキルかしら?』

 

 流される解説に、『豊饒の女主人』で酒を片手に観戦していたアスフィは目を細める。

 

「単なる罪滅ぼしのつもりでしたが………まさか自ら危険地帯に飛び込むなんて……いえ、そういえば彼女も冒険者でしたか」

 

 リリを包んだ光には見覚えがある。自分の元主神が間接的に殺しかけ、ベル・クラネルの英雄譚に付け加えようとしていたヒロインの一人、春姫の魔法。

 彼女の一時的にランクアップさせるという強力無比な魔法は狙われる可能性が高く、下手をすれば命を失い良くて廃人になっていたかもしれない彼女へ謝罪としていざという時のためにハデスヘッドを渡していたのだ。

 それも音を反響させ気配を感じさせてしまうことのない改良型の。

 

「………ベル・クラネルを英雄にする、でしたか………」

 

 来るべき災厄、その時人類を纏める象徴が欲しい。それがヘルメスの悲願だ。彼と世界各地を回って、アスフィも()()の一端に触れた。

 

「けど、導く必要なんて、きっとない………少なくとも、あなたの目に狂いはないのだから」

 

 

 

 

 

(───重くなった? いや、それだけじゃないね)

 

 フィンに振り下ろすハルバードの速度が上がり、フィンの攻撃を受けた際に吹き飛ぶ距離が減り、動きも洗練さが増した。

 力、耐久、俊敏、器用………おそらく魔力も上がっている。

 基本アビリティの大幅強化? だとしてもこの上がりよう、まるでランクアップだ。

 

「ああぁぁぁぁぁっ!!」

「………しっ!」

 

 が、フィンは考え事をしながら戦えるほどの余裕がある。ハルバードを弾き無防備な腹に石突きを向けるが、弾かれた勢いそのまま後ろに回転すると後ろ向きで棒高跳びのように距離を取った。

 その曲芸のような動きに賞賛を送りたくなったフィンだが、直ぐにその場から飛び退く。

 先程まで居た場所を褐色の足が貫いた。

 

「ああ……やハり……強い……良いナ、フィン」

「ああ、くそ……やってくれたね……立てるかいレナ」

「うう、お腹痛いよぉ~………この体を傷物にして良いのはベート・ローガだけなのにぃ」

「……流石、アマゾネスだね」

 

 基本的にその身一つで作戦も何もなく戦う種族。故にアビリティも耐久と力が高くなる傾向にあるが、手加減したとは言え平然と立ってこられるとは……いや、転がっている瓶をみる限り、ポーションで回復したのだろう。

 

「そういえば【ディアンケヒト・ファミリア】は其方側についたんだっけ」

「ええ。これは【ミアハ・ファミリア】の二属性回復薬(デュアル・ポーション)ですが……」

 

 医療系ファミリアの殆どはレアドロップアイテムである『人魚の生き血』を欲して向こうについた。ベルの言う、異端児(ゼノス)の価値を証明するように。

 

「さあフィン、続きダ!」

 

 と、アルガナが駆け出す。それに続くようにレナが、アイシャが、リリが迫る。

 変身魔法を使い獣人化したリリ、元より身体能力に優れたアマゾネス達。しかし、それでも【勇者】(フィン・ディムナ)には届かない。

 アルガナから放たれた蹴りを斜めに構えた腕で受け流し、腹を殴りつける。同Lv.の為、手加減は一切しない本気の一撃。

 地面がひび割れるほどの震脚から生み出されたエネルギーは全て拳を通りアルガナの腹に炸裂する。

 

「ごあ!?」

 

 内臓が圧され胃の中身を吐き出す。あまりの速度にアルガナの身体は慣性でその場に数瞬とどまり故に更に深くめり込む。脳があまりの激痛に意識を手放させた瞬間、アルガナの身体が先程同様褐色の砲弾となり吹き飛ぶ。

 

「ちぃ!」

「うん、良い判断だ」

 

 飛び出してきたアイシャの剣は既に紅色の光を纏っていた。おそらく、吹き飛ばされた後直ぐに唱えていたのだろう。『並行詠唱』ではない、純粋な詠唱の下紡がれた魔法の威力は先程とは比べ物にならない。しかし、当たらなければいい。

 が───

 

「らぁ!」

「───!?」

 

 アルガナという砲弾が破壊した瓦礫を持ち上げ投げつけてくるリリ。当たっても大したダメージは受けないだろうがフィンの注意と視線を遮る。

 

「【ヘル・カイオス】!!」

 

 ゼロの距離で放たれた長文詠唱の魔法。紅色の斬撃波がフィンの小さな体を呑み込み吹き飛ばす。

 

「やった!?」

 

 と、レナが笑みを浮かべる。如何に一級冒険者でも、あの距離であの魔法を食らえば無事では済まないはずだ。

 しかし無事では済まないという事は決して動けないという事ではない。

 

「【魔槍(まそう)よ、血を捧げし我が額を穿て】」

「────!?」

 

 アイシャが咄嗟に砂煙の中に感じる気配に大剣を振り下ろす。と、同時に拳が砂煙の中から突き出してくる。

 

「【ヘル・フィネガス】!」

「が──!」

 

 大剣が砕かれアイシャの身体がくの時に折れ曲がる。レナが即座に反撃しようとするがギロリと赤い瞳に睨まれ硬直し、その頭を掴まれ地面に押し付けられた。

 停止状態から急激な運動に脳が揺さぶられ気絶するレナ。残りはリリ一人。

 

「おおおおおおおおっ!!」

「───ッ!!」

「ぐ──!?」

 

 狂戦士の様な雄叫びをあげるフィンにリリが咄嗟に『強臭袋』(モルブル)を投げつける。

 

「【告げる、十二時のお告げ】───!」

 

 元々はレナが狙っていたベート・ローガなど獣人種への対策だったが、戦闘意欲の向上により冷静な判断力を失ったフィンには五感を強く刺激するだけで過剰に反応してしまう。

 距離を取るように飛び退くフィンを見てリリははっ、と意地の悪い、昔に戻ったような笑みを浮かべる。

 

「なっさけないですね勇者様。自分以外の小人族(パルゥム)の、それも少女があのタイミングで攻撃してくるなんて思いませんでしたか? そんなんだから魔法に頼ることになるんですよ。全ての小人族(パルゥム)の頂点に立っているなんて思い上がらないことですね」

 

 実際リリの言うとおりだ。フィンは油断していた。

 長文詠唱の魔法の至近距離発動直前というあのタイミングで、この中で一番弱いリリから注意をそらしてしまった。故に虚を突かれ結局至近距離で食らい、戦闘意欲向上の魔法で痛みを誤魔化す。

 フィンはリリを敵と判断した。

 格下の団員でもなく、導くべき同胞でもない。明確な敵と。故に好戦的な今のフィンはリリに向かって飛びかかった。

 

 

 

(───あー………痛い)

 

 吹き飛ばされた先で転がり空を見上げるリリ。曇天の空は今にも降り出しそうだ。雨でも降れば少しは動きすぎて上がった体温を冷ましてくれるだろうか?

 まあ自分にしては頑張った。手を借りたとは言え、あのフィン・ディムナに傷を負わせたのだ。もう十分──

 

「──頑張ったなんて、死んでも言える訳ないでしょうが!」

 

 懐から取り出した赤い液体が入った瓶。『人魚の生き血』を飲み全快するリリ。直ぐに立ち上がり駆け出す。

 

「……やあ、戻ってくるなんて意外だよ」

 

 そこに立っていたのは魔法を解除し理性を取り戻し、エリクサーで傷を完全回復したフィン。リリの武器は折れている。咄嗟に武器で防いだおかげで気絶せずに済んだが、ただでさえ低い勝率が余計に減った。

 

「どうする気だい? まさか、まだ戦うなんて言う気じゃないよね?」

「…………」

 

 フィンはリリの頭脳を評価している。だからこそ、勝ち目がない戦いは、時間稼ぎにすらならない無意味な戦いはしないと判断した。

 リリもその言葉の意味を理解し目を閉じる。

 

「……………」

 

 思い浮かべるのは二人の冒険者。兎のように白い髪と赤い目をした少年に、太陽のように眩しい笑顔を浮かべる褐色の少女。憧れであり、目標。

 背中に刻まれたステイタスがじんわりと熱を持つ。

 

「─────!!」

「さっきも言いましたよ。理性飛んでて覚えてないんですか? 思い上がるな」

 

 殴りかかってきたリリに目を見開くフィン。とはいえこのLv.差。予想外ではあるが避けられないわけではない。

 もとより圧倒的に此方が上で、しかも武器を失った相手だ。油断はもうするつもりもないし、負ける気も──

 

「────!」

 

 頬を拳が掠り皮膚が裂ける。明らかに速くなっている。槍で防ぐと僅かに伝わる衝撃が重くなっていく。

 

(スキルの効果? 此処にきて、まだあがるか!)

 

 思い出すのは四肢を切られなお赤い髪の女に挑んだ少年。巨人を倒した少年。暴牛に打ち勝った少年。死にかけても戦った少年。

 思い浮かべるのは下手をすれば地上から居場所を失う現状でなおも笑う少女。ミノタウロスと腕相撲して負けても笑っている少女。嘗ての師のような存在に勝ったんだと嬉しそうに笑う少女。

 リリを冒険に誘った二人の姿。

 

「あああああ!」

「────っ!」

 

 今度はリリが獣のように叫び、フィンの表情に険しさが現れ始める。

 

 彼等に追いつきたい。

 彼等に頼られたい。

 彼等に並びたい。

 思いの丈により効果が向上するスキル【疾風兎】(ラピッドリィ)【女戦士】(アマゾネス)。それが書かれたスキル欄が焼けそうなほど熱い。

 地面を踏み砕くほどの威力の震脚、そこから伝わる力は先程アルガナ(Lv.6)を倒したフィンの一撃にも匹敵する。フィンはそれを槍で防ぎ、靴の裏が地面を削る。

 

「見ているのは僕じゃなさそうだね」

 

 フィンは一族の再興の為、象徴に、光になろうとした。しかし目の前の同胞はそんな光などに目を向けてすらいない。

 

「リリに言わせれば、たった一人の生き方縛って崇めないと立ち上がれない奴等なんてとっとと滅びろと思いますがね!」

 

 拳を尚押し込もうとしてくるリリ。フィンも負けじと押し返しリリに問いかける。

 

「なら、ティオナやベルの生き方はどうなんだい? 少なくともベルは最近まで、縛られていたよ」

「それでも! あの人は貴男とは違う!」

 

 更に力が増す。二人の力が拮抗する。

 

「確かにベルは、周りの目を気にしていた、貴男と同じ………でも、切り捨てた。迷わなかった、貴男と違う!」

「────!」

「………あなた、ベルに憧れてますね?」

「……あまり、口にして欲しくないなぁ!」

「───ッ!」

 

 足払いからの蹴り。リリの小さな体が吹き飛ぶも地面に当たる瞬間回転し威力を殺し立ち上がる。

 直ぐにフィンを睨みつけるとフィンはリリの言葉に苦笑いを浮かべていた。

 彼女の言うとおりだった。どうしようもないほど愚かで、だけどあんなにも心を縛っていた鎖を切り捨てて世界を敵に回した【愚者】(ベル・クラネル)に、【勇者】(フィン・ディムナ)は憧れてしまった。

 

「そうだね………だからこそ、僕はこのゲームに勝ちたい。ゲームに勝利した後を忘れて、ベル・クラネルにゲームで……出来るなら直接戦って、勝ちたい」

「行かせませんよ、リリが……止める」

 

 拳を構える少女にフィンは槍を地面に突き刺し同様に拳を構えた。リリよりはるかに洗練された構え。

 

「「……………─────!!」」

 

 どちらも無言で足に力を込め、合図が行われる前に飛び出す。

 リリに耐久力補正はない。だから躱し、殴る。フィンは耐久力こそリリよりあるが全アビリティで一番下。今や自分に匹敵するリリの攻撃をまともに喰らう気はない。

 一見すると二人の見た目も相まって子供の喧嘩。しかし巻き込まれれば無事では済まぬ暴力の応酬。

 

 もっと速く。彼の様に。

 もっと強く。彼女の様に。

 

 いえ。

 いいえ。

 

 足りない。足りない。

 もっと強く、もっと速く、もっともっと!

 並ぶだけで満足するな。越える覚悟で突き進め!

 

「ああああああっ!!」

「おおおおおおっ!!」

「リリ様ぁ!」

 

 拮抗していた二人の殴り合い。しかし此処で一つの前提条件。

 リリは階位昇華(レベルブースト)を行っていたのだ。

 そして今、その前提条件が消えた。

 

「────あ」

 

 急激な身体能力の変化にバランスを崩し倒れる。フィンに向かって

 

「────! 【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】!!」

「!?」

 

 突如何の攻撃力も持たない魔法の詠唱を唱えるリリ。しかしフィンは目を見開く。リリの目的を察したから。それを行った人物を知っているから。

 距離を取ろうとするもリリが腕をつかみ引き寄せ、抱きつく。

 

「逃げないでくださいよ勇者様」

 

 艶めかしい声が耳元で囁かれる。ゾワリと背筋を這う何とも言えない感覚、瞬間───爆発。

 魔力暴発(イグニス・ファトゥス)

 ベルがアイズに行ったそれ。魔力の爆発がリリとフィンを飲み込んだ。

 

「────っ」

 

 が、此処でも前提条件がある。

 ベルとアイズのLv.差は1で、ランクアップ前の能力値(アビリティ)は魔力を含めて全てカンスト。その上で気絶させることも出来なかったのだ。

 煤まみれになったフィンがぐったりと気絶したリリの体を支える。そして、周囲に視線を向けた。

 

「誰か、居るんだろ? 出て来てくれ……」

「…………はい」

 

 と、現れたのはアイズにも劣らぬ美しい金の髪を持った狐人(ルナール)の女性。その視線はリリに向いていた。

 

「この子を頼む」

「え、あ……はい」

 

 一応は敵だ。なのにリリをあっさり手渡されポカンとする女性。フィンは地面に突き刺した槍を引き抜くと歩き出した。

 

「………この戦いの後なんて忘れる気だったけど…………この戦いが終わった後結婚しようかな………まずはプロポーズからだけど……」

 

 いや、その前に既に好きな相手が居るんだった。しかも目下フィンすら憧れている存在が……。

 何というか、色んな意味で負けられない相手になってしまった。

 

「……問題は、アイズか………アイズより先に彼を見つけて、勝たなきゃ話にならない」

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