ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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【共存派】
マリィ【異端児】
【豊穣の女主人】
リュー・リオン
クロエ・ロロ
ルノア・ファウスト

【反対派】
【ロキ・ファミリア】
ラウル・ノールド
アナキティ・オータム
その他


オッタル


豊穣の女主人

「うぅ、俺が指揮官で良いんすかね………」

 

 ラウルは小隊を率いて歩く。

 フィン自身は大隊を指揮するのには向いているし小隊ももちろん使えるが、今回は一部の者達に指揮系統を分けていた。そのうち一人がラウル。

 

「しゃんとしなさいラウル」

 

 と、アナキティ・オータム───アキが呆れたように言う。

 

「アキ、敵はどうっすか?」

「風が強くなってきたせいで風下の匂いが解りにくいけど、幸い前が風上だし………前に敵はいないわ」

 

 と、その時パシャっと水音が聞こえた。降ってきたか? いや、だとすると大きすぎる。しかしモンスターや人間の匂いはしない。これは、水?

 

「………構えるっす」

 

 その反応を察したラウルが他の面々に構えるように言う。少し進むと現れたのは水路だ。

 

「………水が溜まってる?」

 

 おかしい。此処は数百年前に滅びた街。水路の機能が残っているとは思えない。

 と、水を覗いたラウルは、()()()()()

 

「──ぬぇい!?」

「ヒャ!?」

 

 ラウルが飛び退くと相手も水底に潜る。が、数秒後恐る恐る顔を出す。

 藍色の肌の顔が覗く。滑らかな瑞々しい肌、耳の代わりに生えた可愛らしい鰭、翡翠のように美しい瞳はラウルの瞳をジッと見返し小首を傾げる。貝と真珠の髪飾りが揺れた。

 

「………………!」

 

 ニコッと微笑む彼女。ラウルの頬が思わず赤く染まる。アキが何テレてんのよと蹴りつける。

 

「コンニチハ! 貴方達ガ冒険者?」

 

 パシャリと彼女の背後で()()が跳ねる。そして、ラウル達はベルが提示した異端児(ゼノス)の恩恵の中に『人魚の生き血』があったことを思い出す。

 

「ま、マーメイド!?」

「ウン! 私、マリィ!」

 

 海豚の様に水面を跳ね全身を露わにするマーメイド。貝殻のブラジャーを付けており、やはりモンスターとは思えないほど美しい肢体をしている。

 

「で、でも水面から出れないならほっといても良いんすかね?」

「馬鹿ラウル、相手は『魅了』(チャーム)を使うのよ。気絶ぐらい───」

「ベルニ頼マレタカラ、私頑張ルヨ!」

「……あれを?」

 

 無垢な笑みを浮かべるマーメイドにグサグサ良心が刺激される。だが、彼等は見誤っていた。

 そもそもマーメイドのマリィがどうやってこの場に来たのか。誰かに運ばれた? 普通ならそうだろう。が、ベルがわざわざ運ぶ者が居なければ逃げることも出来ない者を連れてくるはずがない。

 

「【契約ハ果タサレズ、シカシ姫ハ泡ト共ニ登リ空ヲ舞ウ】」

「な!? モンスターが、詠唱!?」

 

 前例がないわけではない。実際59階層で【ロキ・ファミリア】が遭遇したモンスターや、ベルとオッタルが倒したイシュタルが密かに地上に運んだモンスターも詠唱し、魔法を使った。しかしそれは『精霊の分身』(デミ・スピリット)という特殊な存在だったからだ。

 確かに異端児(ゼノス)も特殊な存在だが………。

 

「【ソット・マリーノ】!」

 

 水面が揺らぐ。ゴボリと表面張力で出来た滴のように半円形の水の固まり。水路の水だけではない、空気中の水分や地下水なども集めてあっという間に巨大なドームを作り上げた。

 

「エーショー? 良ク解ラナイケド、ベルガクレタ本読ンダラ出来タ!」

 

 恐らく魔導書(グリモア)だろうが、魔剣に匹敵する高級品をあっさりモンスターに渡すとは。

 よくよく見れば水のドームは流れがある。取り込まれれば脱出は不可能だろう。

 

「大丈夫、溺レタラ出シテアゲルカラ!」

「「「────!!」」」

 

 咄嗟に弓などを放つが水流に逸らされ、外に吐き出される。ある程度の流れは意思で操れるようだ。

 

「行クヨ?」

「た、退避!」

 

 ラウルが慌てて叫ぶ。

 マーメイドは水中速度と旋回能力がモンスターの中でも群を抜いて高い。水のドームは基本的には彼女を中心にして動くようだ。マーメイドの速度で。

 冗談ではない。

 

「アハハ! 私今、陸地ニイル!」

 

 と、思いきや横に避けたラウル達をあっさり追い抜くドーム。どうも彼女、ラウル達より陸地に意識が持ってかれているらしい。『いけねっ』と思い出したように振り返るその姿はやはり子供のように無垢だ。

 

「何を遊んでいるのですかマリィさん」

 

 と、そこへ声がかかる。建物の上に現れたのは覆面のエルフ。その横に、【ロキ・ファミリア】達が見知った顔を見つける。

 

「ルノアさんにクロエさん?」

「どーも」

「何時もご利用ありがとうございますニャー。今回は敵だけどニャん」

 

 隣に立つのは『豊饒の女主人』の店員クロエ・ロロとルノア・ファウスト。どちらも店員の服ではなく冒険者のような格好をしていた。

 

「リュー、私マリィサンジャナクテ、マリィ、ダヨ?」

「いえ、そうではなく───はぁ、もう良いです。すいませんマリィ」

「───!」

 

 名前を呼ばれパァと微笑むマリィ。

 

「マリィ、展開してください」

「ワカッター! 【海底ト空ハ我ガ遊ビ場】、【アクア・フィールド】!」

 

 と、マリィが水の中で両手を広げ追加詠唱を唱える。水のドームが弾け飛び周囲に大小様々な水の固まりが空中に漂う。

 

「恨みはありませんが、此処で倒れていただきます」

「安心するニャ。今回の毒はただの麻痺毒だから」

「手をバラしてんじゃないわよ。本当に馬鹿ね」

「二人ともその辺に、来ますよ」

 

 と、【ロキ・ファミリア】の団員達が飛び出してくる。三人はそれぞれバラバラの方向に避け、翻弄しようとするも相手は天下の【ロキ・ファミリア】。打ち合わせすらせず相手を決め迫る。

 

「ホイット」

 

 俊敏に自信がある団員は間違いなく魔法を得意とするであろうリューに。が、水球を跳ねながら移動したマリィがその腕をつかみ別の水球に移動する。

 

「───な!?」

 

 一瞬で背後に移動され狼狽する団員達に木剣が迫る。首筋や胸に打ち込まれ気絶する団員達。リューはずぶ濡れになった己の身を見下ろす。

 

「………マリィさん、別に私に支援は」

「マリィ、ダヨ?」

「…………」

 

 リューが呆れている間にマリィはクロエ達を支援しにいく。

 時に運び、時に【ロキ・ファミリア】の団員達に体当たりして姿勢を崩させ本人は水の中を泳ぎ回り変幻自在に移動する。

 

「ニャッハッハ! 移動が楽で良いニャ!」

「この、元から私より速いくせに!」

「楽できるならするのがミャーのやり方ニャ!」

 

 コイツムカつく。

 ふふんと無い胸を張る同族にアキが抱いた感想はそれだった。

 

「この!」

「きゃー! マリィ、助けてニャー!」

「任セテ! モウ大丈夫」

 

 剣を振るえば棒読みで叫び美しい人魚が目の前の黒猫を攫っていく。空を切った剣を見てケラケラ笑うクロエ。

 

「やーいやーい、ノロマノロマ!」

「ノロマー?」

「お、ほらマリィも一緒にノーローマー!」

「ノーローマー!」

 

 ブチリ、と、アキの中で何かが切れる音が聞こえた。

 

「ニャアアアアッ!! ぶっ飛ばしてやるニャー!」

「わ、キレた。こわ!」

 

 ロキに弄られすっかり身を潜めていた猫人(キャットピープル)特有の訛りを全面に出し、アキが迫る。が、キレただけで勝てるほど目の前の相手は甘くない。元より向こうはブランクがあるとは言えベルと同じく対人戦を、それも1対1を得意としていた暗殺者だ。腕に浅い傷が付けられ、麻痺毒が──

 

「この!」

「ニャ!?」

 

 回る前に深く自身の腕を切りつける。吹き出す血とともに毒が流され、しかもクロエに向かって飛ぶ。視界を遮られたクロエにアキの蹴りが腹にめり込む。

 

「クロエ!」

 

 と、水球の中から飛び出したマリィがクロエを抱え別の水球に飛び込む。ゴシゴシと目元の血を落としクロエを水の中から出すとクロエはゲホゲホせき込んだ。

 

「ちょっと気管に入ったニャ」

「ゴ、御免ネ……大丈夫?」

「ざまあみろニャー!」

「野郎、ぶっ飛ばしてやるニャ!」

 

 と、マリィの心配をよそに飛び出すクロエ。マリィは良かった、元気そうとホッとする。と、何かがマリィの水球に飛び込んだ。

 

「アレ、泳ギタイノ?」

 

 マリィが首を傾げるが相手は気を失っていた。なので外に出してやると別の水球に飛び込む。

 どちらも同じ場所から飛んできた。見ればルノアがLv.3の団員達を文字通り殴り飛ばしていた。

 

「オー」

 

 狙って水球に当てる辺り、手加減する余裕があるのだろう。マリィはパチパチ拍手を送った。

 

「ア、助ケナキャ、溺レチャウ」

 

 パンッと手を鳴らすと水球の中から地面に落とされる団員達。

 

「この、いい加減にくたばるニャ!」

「おミャーが倒れろニャ!」

 

 残るはアキただ一人。三人でかかればあっという間に決着が付くが、アーニャとの喧嘩でも見ているようで放置することにした。

 

「【戯れろ】」

「ニャ!? うざい顔が増えた!?」

「はあぁ!? ミャーの可愛らしい姿に何言ってるニャ!」

「クロエ、可愛イ。ネ!」

 

 と、呆れる二人をよそにマリィは笑み浮かべ応援していた。

 

「吹っ飛ぶニャ!」

「甘いニャ!」

「後ろニャ!」

「遅いニャ!」

「そっちこそ!」

「なんの!」

 

 と、互いに速度を自慢するかのように高速で相手の死角に移動しあう。そして───

 

「ニャ、しま──!?」

 

 アキの半身ほどが水球に捕らえられる。

 

「よし、計算通りニャ!」

 

 絶対嘘だ。

 肩で息をするクロエを見てルノアとリューは確信した。純粋なマリィは「クロエ、スゴイ! 頭良イ!」と誉めているが。

 

「ぐっ!?」

 

 麻痺毒の付いた刃が首の皮膚を裂く。深い傷ではないが、此処では毒を出すために深い傷を付けることが出来ない。

 指先から腕まで動かなくなっていき、水球に飲まれるアキ。息が出来ずにやがて意識を失った。

 

「終ワッタ?」

「はい。移動しましょう」

「解ッター」

 

 リューの言葉にマリィが水球の中を泳ぐ。宙に浮いた水球も合わせて動く。と、その時──

 

「轟音が聞こえたが、違ったか」

「「「────!?」」」

 

 ズン、と押しつぶされそうな圧力を感じる。振り向けばそこには大剣を背負った大男が。

 

「………【猛者】(おうじゃ)………」

 

 オッタルはルノアの鉄拳によって破壊された壁を見ながら嘆息する。そして、目の前を無視して通り抜けようとする。

 

「───ッ!」

 

 ベルとアステリオスから言われていた言葉がある。

 手を出すな、あれは相手が決まっていると……。

 しかし、しかしだ………良いのか、行かせて?

 

「───三人とも、此処で止めます」

「………まあ、アステリオスには悪いけど、此奴が相手じゃね……」

 

 アステリオスは彼と決着をつけたいと言っていた。だが、これは異端児(ゼノス)の未来を賭けた大事な勝負だ。自分達で勝てるとは思えないが、彼が勝つために少しでも手傷をと構える。彼には悪いが、ちゃんとした決着は別の機会につけてもらおう。

 オッタルが大剣に手をかけると同時に飛び出すリュー達。彼女達は、見誤っていた。

 

「ぬん──!」

 

 ゴッ! と空気が質量を持ったかのように迫る剣圧。大剣を振るった、ただそれだけ。

 それだけで町の一角が吹き飛んだ。

 マリィがとっさに全員を水球で包んだが一瞬で剥がされ、剣圧に押しつぶされる。

 その威力は決してLv.4が耐えられる威力ではなかった。




因みに豊穣の女主人の店長であるミア母さんって可憐で美しかったかもしれないらしい
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