ベル君に憑依して英雄を目指すのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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鐘楼

 ウィーネは困惑していた。突然泣き出した父の敵の少女に、どうすればいいのか解らない。

 ふざけるな! と叫べばいいのだろうか?

 何を今更! と責めればいいのだろうか?

 解らない。だって、その姿は父と初めて会った時を思い出してしまう、とても悲しそうな姿だったから。

 

「───っ、ああ……うるせぇ」

「………え?」

「あああ────あれ?」

 

 その声に2人は同じ方向を見る。声を発したのは、首が曲がったベル。片腕が動き頭を押さえるとゴキリと音が鳴り、立ち上がる。首はもう折れていなかった。

 

「なん……で……だって……」

 

 確かに死んだはずだ。ベルの生死によってその機能を止める【砕けた幻想】(スキル)は確かに効力を失っていた。なのに……

 

「ああ、まあ……一度死んだよ。おかげさまでな」

 

 魔力だって尽きていたはずだ。体力も同様に。その二つをなくしてどうやって……。いや、そもそも蛇の効力が消えたのは彼が死んでからの筈……

 

「けど、もらった。魔力も体力も………人生も、ちゃんと受け取ってきた」

 

 全身の傷が治っていく。それだけではない、今まで消えなかった古傷まで消えていく。と、そんなベルに抱き付くウィーネ。

 

「お父さん……お父さんお父さんお父さん!」

「とと……大丈夫だウィーネ、幽霊じゃないから」

「……………」

「───!?」

 

 抱き付くウィーネの頭を撫でるベルを見て、また背中が熱くなる。ウィーネを蝕む蛇がうねり、ウィーネが顔をしかめた。

 

「………あ……違──」

 

 何が違うの? 嫉妬したんでしょ、あの光景に。何も違わない。相手に心が有ろうと、向こうにも正義が有ろうと、ベルに近づく奴が許せない。

 

「──違う」

 

 嘘つき。ほら、早く代わって。後は全部、私がやるから。

 

「やめて──もう──」

 

 やめない。これは貴方()が望んだこと。

 

「違う──私、もう───ベルを、殺したくない」

 

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

「─────ッ!!」

 

 響きわたる声に耳を押さえる。だが、声は鳴り止まない。頭の中に直接響き、蝕んでくる。 

 これは、誰だ? 誰の声だ?

 途中までは自分の声だ、否定したくとも、解ってしまう。けどこれは違う。明らかに怒りを含んだ声が頭の中に響く。

 

 あの人形を、役立たずを、虫螻を、裏切り者を、生意気な下位世界の奴隷の器を潰せ、斬れ、壊せ、殺せ。

 

「入って、こないで………」

 

 ベルへの殺意(想い)によって効果を増す【砕けた幻想】(スキル)が、嫉妬により効果を現す【嫉妬の龍】(スキル)が、逆説的にアイズの想い(殺意と嫉妬)を増長させる。

 

「やめ、て………嫌だ………」

 

 私の想いを誰かが語るな。そう思いたいのに、ズルズルとそれは入ってくる。拒絶したいのに、触れることが出来ないような不快な感覚。自分が自分以外の何かに変えられる感覚。

 

「……ベル、助けて………」

 

 何を言ってる、お前を助けないと言われたばかりだろう。

 

「────」

 

 ああ、そうだった。あの時も、自分の英雄になれないと言われたではないか。

 

「悪いなアイズ──」

「───!」

 

 また言われるのか? 嫌だ。それは嫌だ………。

 

「約束を破っちまって。助けるって約束したのにな……今度は助ける………いや、違うな………約束破って今更だけど、俺にお前を助けさせてくれ」

「………………」

 

 そんなの、ずるい。

 そんな言い方されたら、また期待してしまうではないか。

 

「うん……私を、助けて」

「ああ……」

 

 その言葉を聞いて、アイズは安堵しながら意識を手放した。

 

 

 

「………さて」

「────アハ♪」

 

 目の前の暴風の化身を見て、ベルが思い出したのは『精霊の分身』(デミ・スピリット)だった。

 無理矢理押し付けられた悪意に支配され、狂ったように笑う。神にも劣らぬ美しい顔で、美しい笑顔を浮かべながらも嫌悪感を感じられずにはいられない笑みを浮かべ嘲らう。

 

──助けるよ、あの子を──

 

「……解ってる。って、(ベル)?」

 

──消えかけだけどね。手伝うよ──

 

「助かる」

 

──同じ自分自身じゃないか。お礼を言われるような事じゃ───来るよ!──

 

「アハハハ!」

「────!」

 

 暴風が迫る。咄嗟にウィーネを抱えて上に飛べば、ベルは上空(うえ)に居た。

 

「…………あ?」

 

──そりゃあねぇ、君の冒険を誰よりも近くで見てきた傍観者の経験値(エクセリア)だよ。上がり幅も大きいよ──

 

 と、その言葉に【操作画面】(メニュー)を使用するベル。

 

 

『ベル・クラネル ヘスティア・ファミリア

 

 

『Lv.5

 力:EX5267

 耐久:EX7052

 器用:EX4356

 敏捷:EX8141

 魔力:EX5507

精癒:F

幸運:F

思考加速:F

火傷無効:G

格上特攻:I

《魔法》

【アルケイデス】

・自己ステイタス更新

・この魔法は使用と同時に消滅する

・詠唱式【我は大神の子、この世の子。我は新たな世を告げる大鐘、我が名は】

【ブロンテ】

付与魔法(エンチャント)

・神性雷属性

・速攻魔法

【アンチ・カース】

・解呪魔法

・呪詛、結界魔法の破壊

・精神束縛の完全破壊。術者へ何らかの制裁

・詠唱式【砕け散れ邪法の理】

《スキル》

【親愛一途】(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

・祖父達との約束に対する想いの続く限り効果持続

・祖父達との約束に対する想いの強さの丈で効果向上

【英雄願望】(アルゴノゥト)

能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権

【操作画面】(メニュー)

・自己ステイタスの閲覧可能

・討伐モンスター図鑑自動作成

・マップ表示

・索敵

・アイテム収納空間作成

【不屈の闘志】(ベルセルク)

・肉体の修復

・体力、魔力を消費する 

【精神保護】(マインドブロック)

・精神への干渉を拒絶する

・術者との実力差によって変動

・受ける、受けない選択可能   』

 

「…………は?」

 

──発展アビリティは諦めてね。あれは君自身がこの世における不安定さ故の、ある意味異世界人の証拠である転生特典みたいなものだもの──

 

「いや、それよりこれ………アビリティ……」

 

 EXとか初めて見たんだけど。と、困惑するベル。それに対してベルはああ、と納得したように呟く。

 

──僕にとって君と共に見てきた経験は特別で、君にとっても僕から渡される経験値(エクセリア)は特別だったってことだよ──

 

 それに加えLv.1からLv.5に至るまでの間溜まっていた経験値(エクセリア)だ。成る程それならば納得が出来る。納得しよう。

 

「アハ、居タ──」

「───っ!」

 

 と、キョロキョロ辺りを見回していたアイズがベルに視線を向ける。抱えられたウィーネに向けた殺気、ベル自身に向ける殺気が圧力となって迫る。だが、怖くない。あんな無理矢理作った偽物の感情なんて怖くも何ともない。

 

──救うよ──

 

「解ってる」

 

 言われるまでもないことだ。迫り来るアイズの攻撃を避け地面に降りるとウィーネを下ろす。急激な加速と停止に気持ち悪くなったのかウィーネの顔色は悪いが、再び相手を見失い周囲を見渡すアイズを見て表情を変える。

 

「………お父さん」

「何だ?」

「あの人、苦しそう……あれ、お父さんと同じ理由?」

「まあ、俺と同じ奴にやられてるな」

「…………お父さん」

「ん?」

「あの人を助けて上げて………それで、お父さんに変なことする奴なんかやっつけちゃえ!」

「………おう」

 

 と、その声に気づきアイズが下に向き、同時にベルが飛び出す。空中でぶつかり合う。

 

【目覚メヨ】(テンペスト)

【轟け】(ブロンテ)

 

 精霊の風と神の力を授かった雷がぶつかり合う。押し勝ったのは精霊の風。数十人分のステイタスを取り込んだアイズの力には、やはり及ばない。

 

「キャハ!」

「────ッ!」

 

 本来ならLv.6とはいえ空気摩擦により焼かれる速度。しかし周囲の大気と共に動くことで摩擦を無くし音速を超え動き回るアイズ。

 ベルが金属を超音速で飛ばすも殆どが回避され直撃するかと思ったものも圧縮された向かい風により空気摩擦を上げられ直撃する前に溶ける。

 

「ちぃ!」

 

 ズキズキと全身に痛みが走る。限界値を越えたアビリティに肉体が悲鳴を上げているのだ。

 

───早く使いなよ、せっかくの魔法じゃないか──

 

「言われるまでもない………【我は大神の子、この世の子。我は新たな世を告げる大鐘、我が名は】」

【目覚メヨ】(テンペスト)

 

 と、詠唱中のベルにアイズが迫る。

 

「【アルケイデス】」

「────!?」

 

 ステイタスが更新され、Lv.が上がる器が中身にあわせて昇華され、整う。

 ベルから感じる威圧感が増す。アイズが反射的にその場にとどまり、暴風を飛ばしてくる。ベルが雷を放ち、相殺した。

 

「───ッ!」

 

 それでもやはり向こうが上。個人の力で抗える限界を超えている。

 

「ならやりようはある───」

 

 リィンと(チャイム)()が鳴る。

 ゴォンと大鐘楼(グランドベル)(おと)が響く。

 白く輝くベルを見てアイズは警戒したように距離を取り、ベルを見失う。

 

「───!?」

 

 元よりベルは人と殺し合って生きてきた。一瞬でも気を抜けば、意識の隙間に入り死角に移動するなど訳はない。しかも相手はアイズのポテンシャルを少しも活かせていない。

 

「【砕け散れ邪法の理】」

「────!」

「【アンチ・カース】」

「ア───!?」

 

 バキンと鎖が砕けるような音と共にアイズの纏っていた風の鎧が剥がされ身を覆っていた蛇の紋様も消えた。

 

 

 

 嗚呼、失敗だ。

 まあ良い、手は打てる。また波長の合う魂を見つけて、送り込む。そしてあの生意気な人形を──

 と、下位世界を見下ろす神は目が合う。

 

───!?

 

 何故、見える。見ている。お前はもう、其方に縛られたはずだろう!?

 

「逃がすかよ。好き勝手して、何の制裁も無いと思ってんのか?」

 

 バチリと白雷が弾ける。

 見えたところで何だと言うんだ、そこから、此方にはどうせ関われない。と、余裕ぶる。

 だが忘れていた。【ベル・クラネル】は生粋の()()()の魂。『ベル・クラネル』は異物を世界から排除する世界の下部。

 【アンチ・カース】は大神と呼ばれるほどの神が孫を想い孫に送った贈り物。

 この家族を、侮りすぎていた。

 制裁を加えるために、世界に穴があく。その穴から、見つかる。

 心せよ、深淵を覗く時はまた、深淵もお前を覗いているのだ。

 

「ケラウノス」

 

 その日、人里離れた山奥で、もはや何の神を崇めていたのかすら忘れ去られた古い石の祠が()()()()()()()()()()により破壊された。

 

 

 

 

「………さて、ベル」

 

──なに?──

 

「魔力が尽きた、どうしよう………」

 

 と、磁界を飛び回る雷の翼が消え、気絶したアイズを抱えたまままっさかまに落ちていくベル。

 

──大丈夫だよ、ほら───

 

 地面から何かが翼を広げ飛んできた。ウィーネだ。ベル達を掴むと翼をめいっぱい広げ、空にとどまる。

 

「ん───!」

「重いか?」

「だい、じょーぶ……」

「少ししたら魔力も回復する。ちょっと待っててくれ」

「………ん」

 

 

 

 

「蛇が、消えた?」

「っう………」

 

 リヴェリアとレフィーヤが立ち上がる。フィルヴィスもまた、困惑していたエルフ達から距離を取った。

 動けないでいたフィルヴィスだったが彼女を捕らえるという行為に移れないでいたエルフ達。しかし、誰が彼女達を責められようか。自分達の部隊の隊長が倒れ、同様の症状のレフィーヤとフィルヴィスも倒れた。

 その後は遠くで破壊音が鳴り響くし爆音と同時に地面が揺れたと思ったら嵐が消えるし、色々起こりすぎていた。

 

「………まだやるか、レフィーヤ……」

 

 リヴェリアはレフィーヤに問いかける。一時的にだが、ステイタスが確実に消えていた。それどころか本来の身体能力すらまともに使えなかった。

 

「ええ、まだ終わってません」

「だが、お前は……」

 

 おそらく魔法のストックはもう無い。一時的とはいえステイタスが消えたのだ。魔法暴発(イグニスファトゥス)も起きていなかった。間違いない。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来たれ】」

「………そうか」

 

 詠唱はさせぬと迫るリヴェリア。レフィーヤはそれを避けながら、時には喰らいながらも詠唱を続ける。

 

「【繋ぐ絆、楽園の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ妖精の輪】」

 

 レフィーヤは歌う。リヴェリアの顔に焦りが見え始める。

 

「【どうか──力を貸し与えてほしい】──【エルフ・リング】」

 

 が、魔法が完成した瞬間が一番の隙。リヴェリアが振るった杖が額をかすり、魔法円(マジックサークル)が消える。が、成功したと思うのも同じく隙。レフィーヤは飛び退くように距離を取る。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う───】」

「───ッ!」

 

 スペック上ではリヴェリアが勝っているのだろうが、レフィーヤはベルと共に修行していたのだ。近接戦で回避にのみ徹すれば後衛でレフィーヤを捉えられる者はいない。

 詠唱が完成する。リヴェリアもまた、詠唱を始める。

 

「「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」」

 

 異口同音に紡がれる歌。氷付けにして動きを止める気なのだろう、どちらも同じ思考に至ったようだ。

 

「「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬──我が名はアールヴ】!!」」

 

 完成は同時。放たれるタイミングは同じ。速度は同等。

 威力は───リヴェリアが上。

 

「────ッ!」

 

 レフィーヤの放つ吹雪がリヴェリアの吹雪に押される。氷付けになってなるものかと飛び退いた瞬間リヴェリアの吹雪がレフィーヤの居た地面を凍らせる。

 

「【一掃せよ、破邪の聖杖(いかずち)】」

「────!?」

 

 紡がれる()()()()。先程、レフィーヤは【エルフ・リング】を失敗したわけではなかったのだ。

 魔法の完成が隙を生むように、相手の邪魔をなし油断を生むように、勝利は慢心を生む。

 

「【ディオ・テュルソス】!」

「────!」

 

 だが、ギリギリ躱す。そして、今度こそレフィーヤは手を出し尽くした。油断はしない。確実に意識を刈り取る。

 と、駆けてくるリヴェリアを見てレフィーヤは笑みを浮かべる。

 

「遅いですよ、ベル──」

「!?」

 

 背後から自身の体に当たる雷。それは間違いなくレフィーヤが放った魔法。だが、曲がる性能はなかったはず。ならば何が?

 簡単だ、曲げられる者が居た。それだけ。

 

「───ベ、ル……?」

「不意打ちで悪いな……」

 

 とん、と地面に足を付けるのはベル。ただし、何時もと違った。古傷が消えており、片目にも変化があり、どこかすっきりしたようにも見える。

 

「助かりました。でも、何かあったんですか?」

「………全部、後で話すよ。リヴェリア達にも」

「────ッ」

 

 急に自分に向けられた視線にリヴェリアは驚くも、ベルの顔を見る。

 

「………そうか……なら、約束だ。きちんと、聞かせてくれ」

 

 それだけ言うと、リヴェリアは意識を手放した。




リヴェリア、ベルとレフィーヤの共同作業で敗れる
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