才人達は学長室に集まっていた。学院に帰ってきた時すでに朝方だったが、寝ずに起きていたオスマンに呼ばれていた。才人はロングビルを抱きかかえたまま立っていた。
「よくぞフーケを捕えてくれた君たち!おまけに宝物を全て取り返してくれるとは!」
オスマンは喜々としながら話す。
「よもやミス・ロングビルがフーケだったとは…驚いた…」
しかしオスマンには身に覚えがある。初めてロングビルとあったのは町の酒場。ロングビルから話しかけて来たのだ。この時その色香に負け「秘書にならんか?」と下心から声をかけたのだ。その時からすでに狙われていたのだろう…その事をオスマンは胸の中にしまっておく。
「君たちのシュヴァリエの爵位申請を王宮に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。と言ってもミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っている為精霊勲章の授与を申請しておいた」
ルイズ達三人の顔がぱあぁっと輝く。しかしルイズはロングビルを抱えて立つ才人を見つめる。
「オールド・オスマン…サイトには…」
「残念ながら彼は貴族ではない」
返す言葉の無いルイズは黙り込んでしまう。
「ちょっと待った」
言い放ったのは才人。ロングビルをソファに下ろし、オスマンに詰め寄る。才人という人間を詳しく知らないオスマンでもその普段と違う雰囲気に身を引いている。
「何にもないんですか?こん中じゃ一番頑張ったのに?」
「しっしかし…」
才人はルイズ達に向き直る。
「悪い、少し席を外してくれ」
オスマンは勝手な事をするなと言おうとするが、ルイズ達は分かっていたかのように部屋の外へと出てしまった。
「これでよし…」
「…どういうつもりじゃ?」
オスマンは警戒しながら問いかける。すると…
「こういう事さ」
才人は服の下に隠していたマルス133の銃口をオスマンに向ける。
「そっそれは破壊の杖!?」
「撃つかどうかはあなた次第です、お話聞いてくれますか?」
オスマンは才人が言う前に杖をふるい魔法を放とうとするがそれよりも早く才人が後ろに回り込む。
「銃口が向けられると攻撃されるのが分かる…破壊の杖の正体を知ってる証拠だ…お話、いいですよね?」
この様子を扉の前で盗み聞きしていたルイズ達は後にこう語る。こんなに怖い才人は初めてだ、と。
オスマンの口から語られたのは三十年前の森での出来事だった。
「ワイバーンを一撃で消し炭に変えたその武器、それを持っていた彼は君の言うオレンジの服装をしていたよ。同じ墓に埋葬してある。おぬしは彼と同じ世界から来たんじゃろう…」
そうですかと呟く才人にオスマンは恐る恐る問いかける。
「…そろそろ杖を下ろしてくれんかね?…それは私の命の恩人の杖だ、それを向けられるのは…」
「はい、じゃあこれからが話の本筋です」
オスマンは内心驚いていた。才人が戻る方法が無い事が分かったのに妙に落ち着き、動揺していないからだ。それは才人がウルトラの父が言っていた侵入者の事もあり帰るという考えを持っていなかった為だ。才人はマルス133を下ろさない。これからが一番大事という事だろう。
「実はこの破壊の杖とその他の宝物を取り返した恩賞をもらいたいんですよ」
「おぬしは欲が強いのかな…?」
「さあ?ただ守りたい人がいるんですよ」
オスマンはロングビルを見る。
「…フーケの事かね?」
「彼女はロングビルです」
「…ほう?」
「彼女はロングビル、魔法学院長オールド・オスマンの秘書ロングビルです。フーケは戦闘中に死にました」
「…なるほどの」
オスマンは才人の意思を理解したのか考えこむ。
「それが君の望みか…その者は今までにいくつもの悪行を重ねた盗賊、いつこちらに牙を向くとも…」
「それは無い」
才人の断言に思わずオスマンは黙り込む。暫く無言の時間が続く。
「何故じゃ?」
「彼女は自分の犯行の愚かさに気付きました。もう二度としないでしょう、それに…」
才人は悩むが、オスマンに話す事にした。
「彼女はこの世界の貴族社会の影の部分での被害者だ。路頭に迷った孤児達を助けるために罪なき者を喰い物にしてきた貴族から金品を奪っていたんです。復讐の意味で」
「…それが正当化されるとでも?」
「いいえ」
才人はあっさりと言う。
「ならば何故?」
「あなた達貴族は責任を取る必要があります。自分たちの栄光の為に犠牲になってしまった人々の為に…それにこの話はあなたにとっても悪い事じゃないですよ?」
その時「確かに」と第三者の声がする。
「ロングビルさん!」
「フーケ!」
ロングビルは立ち上がるとオスマンに向き直る。少しよろけてしまうが、才人に支えてもらう。
「大体、今の給料でこの仕事の量は厳しかったんだ…すこし上げてもらって再雇用ってのもいいかもねぇ…」
確かにロングビル程の優秀な人材はそういない。しかし、それだけで王宮に虚偽を報告し、フーケを見逃すのは…とオスマンは悩む。そこでロングビルはダメ押しをする。
「オールド・オスマン女湯覗き二十八回セクハラ四十二回」
「ふぉっ!?」
オスマンの驚嘆の声が上がる。
「シェヴルーズ不正会計六件、クレシェンテ教諭横領500エキューその他にも…」
「待ってくれ!まっ、まさか…」
「あぁ、これ系統の事はすでにまとめてある。裁判では全て話す事になる。それでもいいかい?」
これらはロングビルがいざという時の為に調べておいた学院の不祥事及び隠蔽されてきた事柄である。これらを全て突き止められる能力を見せつけられてしまい、更に裁判で話すと迫られ、ついにオスマンが折れた。
「わかった…降参じゃよ、あっぱれじゃ。…私も手を貸そう」
「ごめんなさいオスマンさん脅してまで話を聞いてもらおうとして…」
才人はオスマンに謝るとマルス133をオスマンに渡す。
「いや…友の杖を取り戻してくれた事は事実じゃ、礼を言う」
そう言うオスマンは静かに木箱にマルス133をしまう。懐かしいのか少し悲しげな様子をしていた。そして同時に自身が使い方もわからなかった物を完全に使いこなす才人に脱帽した。
(やはりガンダールヴ…侮れんなぁ…)
その後才人は部屋を出てロングビルとオスマンの二人にする。これから後は二人の話し合いだ。
「頑張ってね、マチルダさん…」
数日後、魔法学院では『フリッグの舞踏会』が行われていた。フーケ騒ぎで延期になっていたが数日遅れで行われる事になったのだ。今年の主役はルイズ・キュルケ・タバサの三人。フーケ討伐によるシュヴァリエ授与が大きい。
「ダ~リ~ン!後で踊りましょうね~!」
…と言っていたキュルケは10人近い男に囲まれている。このままでは才人と踊るのは明け方だろう。タバサは寄ってくる男たちが持ってくる料理と格闘している。先日までゼロのルイズと馬鹿にされていたルイズは美しいパーティドレスに身を包み、その美しさを存分なまでに輝かせ急に言い寄るようになった男子達とダンスをしている。
「なぁ相棒お前さんなら無理言えば入れてくれんじゃねぇの?」
デルフリンガーがぼやく。才人は使い魔だからとホールに入れてもらえず学院内の芝生の上に寝ころんでいた。しかし、才人は首を横に振る。
「いいんだ、興味なんか無いし…今は一人が良い…」
実はルイズもこの事に抗議したのだが才人が自分から断ったのだ。
「まだ気にしてんのかい?過ぎた事だろ?」
「簡単に何か割り切れないさ…俺は人を脅した。それも怪獣用の兵器で。後悔してるよ…それしか出来なかった自分が嫌いになるね」
「気にしすぎさ」と言いかけたデルフリンガーが鞘に戻る。急に黙ってしまった事に問いかける前に二人の人影が現れる。
「それで助かったあたしがいる。それでいいじゃないか」
「シエスタ!ロングビルさん!」
現れたのはシエスタとロングビル、しかしロングビルは顔をしかめる。
「おいおい才人だけはマチルダって呼んで良いっていったろ?」
「あっ…ごめんごめん。まだ慣れなくて」
マチルダとシエスタは才人を挟むように座る。するとシエスタはサンドイッチを取り出し二人に渡す。
「まあまあ、せっかくのミス・ロングビルの復帰祝いなんですから喧嘩しないでくださいよ」
「そうだマチルダ、あの後どうなったんだ?まだ俺詳しく知らないんだけど?」
「ああ、そうだね…」
マチルダは数日前の事をかいつまんで説明してくれた。再び学院で働く事になった事、以前の給料の数倍で雇用してもらっている事、これなら盗賊をしなくてもやり繰りすれば仕送りを続けられること等。
「だから才人、全部あんたのおかげなんだよ。自分を責めるようなことはしないでよ」
「そうですよ才人さん!こんな凛々しいしゃべり方のミス・ロングビルの方が私好きです!」
「ありがとシエスタ」
そっか…救われた人がいる…それでいいじゃないか…と才人は考えるようにした。罪悪感は消えないが。
「辛気臭い顔してないでさっ飲みましょ!」
シエスタが取り出した飲み物で3人は乾杯するが才人は思いっきりむせる。
「こっこれ酒!?未成年に何飲ませんだよシエスタ!」
「ええぇ!才人さん未成年なんですか!?」
ここで才人はこの世界での成人が16歳と知るのだった。
一時間後、才人とマチルダはシエスタの大いびきを聞きながら飲んでいた。
「シエスタが酒乱だったとは…」
マチルダはあたしも知らなかったよと笑っている。…が目は笑っていない。
(シエスタの奴、抜け駆けはダメって約束したじゃないか…酔ってすぐに忘れて才人にキスしやがった!)
酔ったシエスタは才人に抱き着き頬にキスをしたのだ。
(年上舐めると痛い目見るよ!)
いつの間にか二人は謎の協定を作っていたらしい。そんなことをマチルダが考えていると才人に話しかけられる。
「マチルダ、ありがとう励ましてくれて…」
「いいんだよっ、元はあたしのせいだしね…それに」
マチルダは笑顔で言う。
「才人はあたしの初心を思い出させてくれた。才人がいなけりゃもっと盗みをしていたし大切な人たちを苦しめていた…才人はあたしにとっての『コスモス』さ」
マチルダは何か思いついたのか才人の頬に触れると顔を寄せる。それは一瞬か、永遠か。才人にとってはどちらにも感じられた。
「お礼だよ、あたしのコスモス」
マチルダはそう言うとシエスタをおぶって「また明日ね」と行ってしまった。突然の出来事だが妙にはっきり記憶に残り、才人は顔が鮮血のように赤くなっていた。
才人のセカンドキスは甘く優しいものだった。
オチを考えるのに時間をかけすぎました。申し訳ないです。