お待たせしてすみません。
ツルク星人は傷を抑えながら暗い空間に帰還する。奥に座っている影はそれを見て嘲笑する。
「ふん!…奇怪宇宙人とまで言われた天下のツルク星人がまさか原住民程度に負けるとはなぁ…?」
ツルク星人は怒りに震えて言い返す。
「ふざけるな!私の実力はこんな物ではない!それに…」
この後の一言が場を騒然とさせる。
「俺を刺した男がウルトラマンだ!」
影は衝撃の一言に立ち上がる。
「何だと!あのガキが!?」
「間違いねぇ…近づかれた時、光の力を感じた!」
「…そうか」
影は少し考え込むと立ち上がる。
「お前の残り3000人、ウルトラマン一人で相殺する。正体を掴めたのなら早々に始末するに越した事はない、行け!ツルク星人!」
ツルク星人襲撃事件後、学院生は宿泊先の宿に到着した。襲撃事件は学院生の混乱を招くため、教師陣にのみ伝えられた。しかし、急に復興救援を中止にする訳にもいかず、護衛に銃士隊をつける中での続行が決まった。キュルケ達は早々に自分の部屋に戻る。学院生の中には友人の部屋を訪れ談笑する者など、不謹慎にも旅行気分である。そんな中、才人はルイズにことわり裏庭でマチルダと特訓していた。
「うわぁ!」
才人はマチルダに投げ飛ばされる。これが何回も続いている。しかし才人は何度も立ち上がり、また投げ飛ばされる。
「ぐわぁ!」
「肩に力が入りすぎだよ!流れる水を意識しな!」
マチルダは厳しく顔を引き締め稽古をつける。しかし実はにやけるのを我慢するためだった。内心才人の力になれるのがとても嬉しいのだ。
「お願いします!」
「行くよ!」
特訓はまだまだ続く。
ミシェルとアニエスは宿の一室で打倒ツルク星人の作戦会議をしていた。が、妙案が浮かばず悩みこんでいた。
「こんな時に魔法衛士隊がいれば戦力的に何とかなるのに…」
ミシェルが呟く。アニエスが即答する。
「無い物ねだりをするな。それに…」
アニエスの言葉にミシェルが重ねる。
「「頼れるのは己の剣のみ」」
ですね、というミシェルにアニエスは呆れる。分かってるくせに言うな、という顔をしている。今回、アンリエッタのゲルマニア訪問に近衛隊である銃士隊が何故ついて行っていないのか。銃士隊を信用せず魔法衛士隊びいきの老中達のせいもあるが…
「あいつらに復興活動は出来んからなっ!」
細かい仕事が出来ないのだ、あいつらは。とアニエスは少し小バカにする。気を取り直してミシェルに質問する。
「なあ、ミシェル。あのヒラガサイトという少年、あの怪人の正体を知っていたよな?何かしらの弱点を知ってるんじゃないか?」
「いえ、彼も過去の文献で知る程度で詳しくは…」
「…そうか」
話は振り出しに戻ってしまった。暫くして、アニエスは長く座っていた為か体が固まってしまったのだろう。立ち上がり、う~んと伸びをする。
「ミシェル、剣の稽古だ、付き合え!」
「はい!」
二人は気分転換に裏庭で剣の稽古をする事にした。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
才人が特訓を初めて二時間になる。復興作業からのツルク星人戦、二時間に及ぶ特訓で才人は体力を使い果たしていた。しかし、まだ続けようと立ち上がろうとする。そのまま崩れ落ちてしまった。
「休憩だよ、才人」
「まっ…まだ…出来る…」
才人はマチルダに支えられ抱きかかえられる。
「休憩も特訓の内さ」
そう言われマチルダに自然に膝枕される。才人は頭をマチルダに撫でられ赤くなり、気恥ずかしくなったのか起き上がるとマチルダの横に座る。
「そうだ才人。あの歌聞かせてくれないかい?」
「あの歌?」
「品評会の歌さ」
才人はそう言えば、マチルダは聞いた事が無かったなと思い出す。特訓のお礼の意味も含めて歌う事にした。
「伴奏は無いけどごめんね」
才人は息を整えると、伴奏が無い分心を込めて歌い出す。
『記憶の……消え……』『思い出して……か』
それを聞いていたのはマチルダの他にもう二人。アニエスとミシェルだ。
「初めて聞く歌だな」
「ええ…」
二人は初めて聞く歌に聞き入る。するとアニエスの目じりから涙が零れてくる。それを見たミシェルは驚き駆け寄る。
「どうしたのです、隊長!」
「お前こそ」
言われてミシェルも自身が涙を流している事に気が付く。その手で拭うがあふれ出して止まらない。ミシェルは静かに呟く。
「故郷を思い出しますね…」
「故郷?トリステインじゃないのか?」
「ええ、トリステインも故郷といえば故郷ですが、私の本当の意味での故郷は…もう帰れないんです…」
ミシェルは遠い目をするが、アニエスが肩を抱く。
「私もさ」
「え?」
「私も帰る故郷が無いんだ。同じだな…涙の理由も」
ミシェルははっとすると涙を拭きこの話はやめましょう、と提案する。しかし、当のアニエスは何か気が付いた様子だ。
「思い出して…ヒラガサイト…そうか!」
「どうしたんですか隊長!」
「ヒラガサイトの歌の歌詞だ!思い出したんだ奴に初めてダメージを与えた時の事を!」
言われてミシェルも思い出す。初めてツルク星人にダメージを与えたのは才人だ、自分達が両手の剣を押さえつけている時に。
「三段階なら…!有効打を与えられる!」
「そうだ!セニカを呼べ!我々も特訓だ!」
セニカは銃士隊ではアニエス、ミシェルに次ぐ実力ナンバー3である。警備の交代の合間に睡眠をとっていたセニカは、アニエスに叩き起こされ特訓の為に裏庭に引きずられて来たのだった。この時のアニエスの様子を後にセニカはこう語る。
アニエス隊長に夜這いされるかと思った、と。
翌日、銃士隊の隠密な護衛の下、学院生達の復興作業が始められた。しかし、それを知る由もない学院生達は無気力な態度で従事している。キュルケは汗を流しながら不平を言う。
「何でこんな汗まみれにならないといけないのよ…」
「大切な支援活動」
「ハイハイッ…後、おねが~い」
「押し付けないで欲しい」
タバサの不平もそこそこにキュルケは教師陣の目を盗んでサボり始める。それに呼応するように男子生徒何人かが付いていく。キュルケは日陰の下に腰掛けると取り巻きの男どもに扇がせ、肩を揉ませる。しかし、その心は満たされない。一番欲しい男が手に入っていないからだ。
(はぁ~あ…ダーリンともっと一緒にいたいなぁ~…)
キュルケの胸に伸びるギムリの手を叩き落とす。
(ダーリンは他が目に入らないくらいの勢いで作業に集中してるし…最近はミス・ロングビルも怪しいのよね…)
キュルケがライバルに先を越されないようにどうすればいいか考えていると、突然肩に何かが落ちたような軽い衝撃が走る。そこには確かペリッソンが肩を揉んでいるはずだ。
「ちょっと何してるの…」
そこにはペリッソンはいた。しかし、いると言っていいのだろうか?首から上が無かった。血液が流れだし、その首元から少しずつ赤く染めていく。キュルケは肩に落ちた物を恐る恐る見る。
ペリッソンの首だった。再び振り返るとそこには血塗られた剣を舐めているツルク星人がいた。
「「「ギャァァァーーー!」」」
複数の叫び声に一番に反応したのはコルベールだ。すぐに学院生が全員いるか確認する。アニエスは驚愕を隠せない。
「バカな!この警備網をすり抜けたのか!」
コルベールはそんな事より、とアニエスに詰め寄る。
「とにかく今は全員の安否を!」
確認作業が即座に行われるが重大な事実が明らかになる。
「ミス・ツェルプストーがいません!」
「男子生徒も数人見つかりません!」
大騒ぎしている中ふと、ルイズが呟く。
「……サイト?」
キュルケ達はひたすら走っていた。止まるわけにはいかない、少し前につまずいたスティックスがツルク星人に首を飛ばされている。それより前に杖を構えたマニカンは杖ごと縦に切り裂かれ、真っ二つになった。全てキュルケは目で追えなかった。本能的に理解した。勝てない、殺される。
「はぁ…はぁ…あっ!」
ここでキュルケはバランスを崩し転倒する。他の男に助けを求めようとするが、誰もキュルケに目もくれず逃げ出してしまった。
(嫌!死にたくない!死にたくない!死にたくない!)
キュルケは恐怖から後ろを振り向く事さえ出来ない。振りかぶる音が聞こえる。死んだ、キュルケは確信した。しかし、いつまでたっても意識がある。
(あ…れ…?)
冷静になってくると不思議な感覚がする。まるで抱きかかえられているような…
「生きてる…?」
キュルケはいつの間にかツルク星人を遠くから眺める距離にいた。暖かく包み込む感覚が全身を包んでいる。
「ダーリン…?」
「もう大丈夫…助けに来たよ」
才人はキュルケを物影に下ろすとツルク星人の前に立ちふさがる。ツルク星人はにたりと顔を歪める。
「まんまと来たな、トクベツテンはモラッタぁ!」
ツルク星人が激昂する、が才人に対して落ち着けよ、とデルフリンガーが言う。
「銃士隊の作戦なら奴を倒せる!それまでもたせるんだ!相棒!」
才人は落ち着いて呟く。
「もう来てるよ」
才人の視界にはツルク星人の後ろから駆け寄るアニエス達が見えていた。
「行くぞ!ミシェル!セニカ!」
アニエス達はアニエス、ミシェル、セニカの順番に並びを変える。
「「「突撃!」」」
三人は全速力でツルク星人に飛び込んでいく。ツルク星人は急な事に驚いてはいるが迎え撃つために剣を振る。
「はあっ!」
一太刀目をセニカが全力で弾き、横に転がる。
「せいっ!」
二太刀目をミシェルが押し返し、後ろへすり抜ける。
「とどめぇ!」
がら空きになったところにアニエスが全力の突きを顔面に叩き込み、そのままの勢いでツルク星人を蹴り飛ばす。
「やったか…?」
固唾を持って見守る才人がポツリと呟く。蹴とばされて倒れ込んでいるツルク星人は、数回痙攣した後完全に息を引き取る。
「やった、やったぞ~!」
ツルク星人を倒した事に銃士隊の面々は抱き合って喜ぶ。当面の危機は去った、そう思い安堵する才人だが…
「兄者~!」
「え?」
声の方に全員が振り向くとそこには今しがた倒したはずのツルク星人が立っている。
「よくも兄者を!許さんぞ~!」
倒されたツルク星人を兄者と呼ぶツルク星人は巨大化し才人達目掛け攻撃を始めた。
次回に続きます。少々お待ちください。