(リムって、エレキングの名前なんだ…)
才人は怪獣に固有名詞がある事に若干のカルチャーショックを受けながらマチルダのいる馬車に戻る。
「おーい!マチルダ!」
マチルダは待ちくたびれたという顔をして出迎える。
「お疲れさん、早く乗ってよ」
しかし、才人は乗る事を拒んだ。ごめん、と一言謝る。
「どういう事…だい?まさか…」
「あの女と何かあったの!?」
突然割り込んできたのはルイズだ。窓から身を乗り出している。今にも落ちそうなルイズに、才人は落ち着いて説明する。
「悪いルイズ、俺の腕が必要らしいんだよ。火事場泥棒が増えるから、とっちめるの手伝ってくれってさ」
渋々ルイズは了承する。
「そう…まぁ、頼られるのは悪い事じゃないわよね…」
才人は次にマチルダに耳打ちする。
「ごめん、俺ミシェルさんに協力する事にしたんだ。後は頼むよ」
マチルダは才人をにらみつける。
「やっぱりあの女と!」
才人は普段の柔らかい表情を消して、真面目な顔になる。
「お願いだ…これは『コスモス』としてのお願いなんだ」
マチルダはその一言でだいたいを悟ったのか落ち着きを取り戻す。
「分かった…何かあったら呼びな…絶対力になるから…!」
才人は一言、ありがとうと伝えその場を後にした。
再び路地裏で合流した才人とミシェルは場所を移し静かな公園に来る。…元はトリステイン国民の憩いの地だったが、アトラー星人の攻撃で完全に蝋化してしまっている。今は静けさが全てを満たしていて物悲しい。
「なぁ副長さんよ?一つ聞いていいかい?」
それをデルフリンガーのあっけらかんとした声がぶち壊す。
「おいデルフ…」
「いいじゃねえか相棒、このままじゃいつまでも座りっぱなしだぜ」
確かに、才人がミシェルの頼みを受けたとはいえ、お互い重大な秘密を言い合ったばかりで、気まずい雰囲気の真っ只中にいるのは事実だった。
「で、副長さんよ?その見た目はホントの姿なのかい?」
瞬間、ミシェルの体が跳ねる。才人はその反応でだいたいが分かった。確かに才人もピット星人の存在を資料でしか知らない。本来の姿など知りもしないのだ。だが、ミシェルに「見たい」とは言いたくなかった。
「そっ、それよりも、ミシェルさん…」
「無理をするな、ヒラガ」
ミシェルは震えをこらえながら言う。そして少しずつ話し始める。
「私がピット星人とミシェルの融合体というのは話したな?」
「ああ」
「だが、ミシェルの魂が死んだわけじゃない。私はミシェル、ピット星人の二つの魂が混ざり合ってできているんだ」
才人はその状態の苦しさが何となく想像できた。
「だからかな…?自分のピット星人としての姿を、私の中のミシェルが受け入れられないんだ…」
ミシェルは少し俯いてしまう。才人は震えるミシェルの肩に手を置き、一言だけ呟く。
「そっちが無理すんなよ…」
ミシェルの震えが止まる。
「悪かった、もう大丈夫。「ミシェル」がどういう奴についてはまた今度教えるよ、今は『リム』についてだ」
ミシェルは脱線した話を元に戻す。
「『リム』…エレキングは私と離れ離れになった時、私はこの国側に落ちた。だがリムはあの方角に落ちて行ったんだ。私にはそこに行く手段が無くてな…」
ミシェルは空を指さし物思いにふける。きっと自分の力で助けに行きたいという気持ちなのだろう。
「よし!分かった!じゃあ、俺の手に乗って、そこまで行こう!」
「頼むっ」
それを聞いたデルフリンガーは意気揚々と鞘から飛び出し、才人の手に収まる。
「よっしゃ!いくぜ、相棒!」
才人はデルフリンガーを高く掲げる。
「コスモーーース!」
悠然と飛び上がるコスモスを、マチルダは馬車を走らせながら見送った。
「あなたなら大丈夫…才人、必ず帰って来なさいよ」
コスモスが飛び立って二分、ミシェルをバリアで包み高速で飛んでいる時、巨大な湖を見つけた。コスモスはミシェルにテレパシーを送る。カラータイマー音が大きくミシェルの声が届かないからだ。
(ここは?)
(ここは…ミシェルの知識で知っている。ここはラグドリアン湖、水の精霊が住む湖だ…しかし、ここまで大きかったか?)
しかし、これだけ大きければ…と思い、コスモスは人里離れた森の中に着地して才人の姿に戻る。
「よし、周りに家が見えたから聞き込みをしよう。もしかすると何か情報が手に入るかもしれない」
「ああ、行こう」
才人達が歩いていると湖の中に家が沈んでいるのが見える。水かさが以前より増えているのだろうか?と、考えて歩いている事二時間程、空を飛んでいる時に見えた家が見えてくる。ドアをドンドン!と叩いてみる。
「すいませーん!誰かいまブっ!」
ドアが突然開き才人は顔面に強烈な一撃をもらう。
「おお、あなたは国の騎士さまでおいでですか?」
ドアから出てきた初老の農夫がミシェルに詰め寄る。
「あ、ああ、そうだが…」
初老の農夫は表情が明るくなる。
「来てくださったんですかい!?ありがたいこって!」
ミシェルはこの農夫から詳しく話を聞くことが出来た。得られた情報は、いくら領主に頼んでも今だ誰一人として来てくれなかった事。水かさがどんどん増えて村が沈みかけている事。そして…
「とんでもねぇ化け物が湖に住み着いちまったんでさぁ!」
一番知りたかった情報だった。化け物は夜に現れる事が多く、近隣住民は眠れぬ夜を過ごすらしい。二人は夜まで待つことにした。
双月が湖を照らす頃、二人は小高い丘の上で今か今かと待ちくたびれていた。才人はミシェルに鼻の手当てをしてもらいながら湖を眺めていた。しかし暇なのでミシェルに何となく話しかける。
「なぁミシェルさん、何で俺がウルトラマンって分かったんだ?」
それは最初から才人が持っていた疑問だった。何故自分の正体が分かったのか?、と。
「それは…脳波さ。初めてあんたとあった時に受信した脳波と、巨大化したあんたの脳波が完全に一致してたからね。その時に」
才人はアトラー星人戦の時の事を思い出す。そう言えばミシェルの胸当てを引きちぎり、胸を見てしまった事も一緒に思い出し顔が赤くなる。
「何を思い出してるんだ…なぁヒラガ?」
少し怖くなったミシェルの気を逸らそうと才人は考えをめぐらす。そう言えばあの時…助けてくれたのは…
「なぁミシェルさん、あの時の『錬金』はミシェルさんなのか?」
才人一人では倒せなかったアトラー星人。あの助けがあったからこそ倒せたのだ。そして、ミシェルはメイジだ。
「ああ、あの時か。そうだよ、私さ。只のピット星人でしかなかった私は力が無くてリムを助けられなかった。だけど…ミシェルと一体化した私には杖の力があるんだ!…って、思ってね。どうしようも無い状況を何とかしたいって、全力を尽くしたいって思ったのさ」
「そうだったんだ、ありがとうミシェルさん」
才人は助けてくれた事への感謝の気持ちを込めて、笑顔でお礼を言う。しかし、ミシェルは突然そっぽを向いてしまう。
「どっ、どうしたの?ミシェルさん?」
「…見るな」
「え?」
「ヒラガ、今はこっちを見るな」
ミシェルは自分でもわかるくらい激しく照れていた。恐らく顔は真っ赤だろう。
(何故だ…!…なぜこんなに照れる!にやける!只礼を言われただけだろうが!…ごまかそう)
「ヒラガ、今回の事件の黒幕についてだが…」
ミシェルが言いかけた時、突然空気を震わす咆哮が二人を貫く。才人は驚き、周りを見渡す。
「これがリムの鳴き声か?」
が、すぐにミシェルは否定する。
「いや、違う!こんな声じゃない!別の怪獣だ!」
その時、ラグドリアン湖から巨大な影が立ち上がる。
クギャァァァン!
魚の様な見た目、青い体、才人が持っている写真データに入っている。ウルトラマン二世とウルトラマンエース、ウルトラマンメビウスとの戦闘記録が残っている怪獣だ。
「巨大魚怪獣、ムルチ!」
ムルチは歩きながら家々に迫る。このままでは家が踏みつぶされるだろう。ここで才人は一つ疑問を持つ。怪獣がいるのに犠牲者が出たという話を農夫からは聞いていなかったからだ。
(何故なんだ…?)
その時、長い尻尾が水中から伸びムルチに巻き付き、水中に引きずり込もうとする。それは才人は写真で、ミシェルは毎日のように、見ていた事がある物だった。それの持ち主はゆっくりと湖から上がり姿を現す。
キィィィィ!
「「リム!(エレキング!)」」
エレキング…『リム』は強引にムルチを湖に引きずり込もうとする。ムルチはもがくが電撃を受けてしまい、逆らえずそのまま引きずり込まれてしまった。
「どっ!どうなってんだ?」
才人とミシェルは茫然と立ち尽くすしかなかった。
翌日、ミシェルと才人は朝から手分けして聞き込みを続けた。怪物を見たという住民は多くいたが犠牲者は誰一人としていなかった。昼頃、二人は湖畔で合流すると情報を整理する。
才人は、だいたいの事情が読めた。
「ミシェルさん、たぶんだけど…リムは人間をムルチから守ってくれているんじゃないか?」
犠牲者がいない現状、昨日見た光景、才人が導き出せた答えはそれしか無かった。ミシェルの顔が明るくなる。
「リムは…あの子は優しい子だった!それじゃやっぱりあれはリムなんだ!生きてたんだ!」
ミシェルは幼い子どものようにはしゃぐ。それを見ていて、才人は少し微笑ましくなった。この人もこんな笑顔で笑えるんだ、と。
「良かったねミシェルさん」
「ああ!ありがとうヒラガ!君のおかげだ!」
ミシェルは感極まって才人に抱き着く。その豊満なふくらみにより才人は幸福に包まれる。が、すぐに頭を振り現実に戻る。
「でも、再会にはまだ早いよ」
「分かってる、ムルチだろう?」
ミシェルは才人から離れると、改まって向き直り頭を下げる。
「ヒラガ、ムルチを倒してリムを自由にしてやってくれ!」
才人は即答する。
「当たり前だよ…行くぞ!デルフ!」
「おうよ!行くぜ!相棒!」
才人はデルフリンガーを引き抜き叫ぶ。
「コスモーーース!」
次回に続きます。