アニエス、セニカは森の中を全力で走る。コスモスを倒したブラックギラスjr・レッドギラスjrは、人が多くいるであろうトリステインの町目掛け進撃していた。トリステインの町からわずか数キロしか離れていない現在位置から、二匹を追い抜いてアニエス達が町に到着する事は不可能だ。
「はあっ!はあっ!待って下さい、たいちょぉ!」
「しゃべる前に走れ!セニカ!」
二人はトリステインに残っている銃士隊に、迫る危険を伝えるために、見張りが狼煙を視認出来るところまで移動していた。
「狼煙さえ確認されれば、彼女たちが避難誘導をしてくれる!急げ!」
銃士隊は、度重なる怪物被害への対応の一環で、住民の避難訓練を徹底的に行っていた。狼煙さえ届けば人的被害はゼロになるだろう。移動中、セニカはアニエスの後を追いかけるので精いっぱいだった。しかし余裕のない中でも、セニカはどうしても気になる事があった。
「副長とミス・ロングビルは大丈夫でしょうかっ!?ウルトラマンの蘇生を試みるって言ってましたけど!」
アニエスは足を止めずに話す。
「二人は本気だった!あの思いを信じるしかないだろう!他に出来る事も無いんだ!」
二人が話している間に、開けた丘に到着する。セニカが即座に可燃物を用意し、アニエスが火を手際よく起こす。瞬く間に狼煙が立ち上る。
「頼む…気付いてくれよ…」
アニエスは、祈る事しか出来ない自分が不甲斐無かった。
マチルダとミシェルは無力感に包まれていた。コスモスが敗れた時、絶望感に打ちひしがれた。大切な物を、愛する者を奪われ、踏みにじられたのだ。だが、諦めていなかった。自分たちを絶望から救ってくれた才人を、諦める気にはなれなかった。しかし、確かな方法が無いのも事実だった。
「蘇生ったって、どうすればいいんだい?あたしのゴーレムの心臓マッサージは効果無かったし…」
ミシェルは、縮小光線銃で小さくしたリムを抱えながらため息をつく。
「リムの電気ショックもダメだった…」
二人は、万策尽きた、という状態だった。
「なぁ副長さん?ウルトラマンについて何か知らないかい?」
ミシェルは首を横に振る。
「流石に知らないさ。ウルトラマンは有名ではあるが、あまり詳しい情報は明らかになっていないんだ…」
そうか…、とマチルダが呟くと、暫く沈黙が続く。それを破ったのはミシェルだった。
「明かりはいらないだろう?まだ昼だぞ?」
マチルダもほぼ同時に声を掛ける。
「光?別にまだ…」
「「ん?」」
マチルダはきょとんとしている。
「副長さん…?あたしは何も…」
ミシェルも同様だ。
「ミス・ロングビル?…いえ、私も何も…っ!まさか!テレパシー!?」
二人は意識を集中し、微かに聞こえるその『声』に耳を傾ける。
ひ…か…
ひ…か…り…を…タイ…マーに…
「これは、間違いない!才人だ!才人の声だ!」
二人は才人が生きていた事に歓喜する。すぐにミシェルが何かを思いついたのか、杖を取り出す。
「ミス・ロングビル!『錬金』だ!鏡を作って太陽の光を集めよう!カラータイマーに照射すれば、エネルギーが戻るに違いない!」
ミシェルは杖を掲げると、いくつもの鏡を『錬金』で作り出す。マチルダは太陽の位置から角度を計算、カラータイマーに出来るだけ多くの光を集められるように鏡を配置していった。
暗い、暗い、光の無い…寒さと、息苦しさしかない世界。そこで才人は目を覚ます。見回そうにも、何も見えない。光が、暖かさが、欲しかった。手を伸ばしもがき、光を求めていると、声が聞こえる。
「大丈夫だよ、相棒。落ち着け」
「デルフ!?いるのか?」
いつも一緒だろ、とデルフリンガーが呟くと、才人に現在の状況を説明する。
「…と、まあこんな感じだね」
才人は、自身の体たらくに落ち込んでしまう。
「そっか…俺、また負けたのか…」
ドロボンの時から成長してないな…と、自嘲する。しかし、デルフリンガーはあっけらかんと笑い飛ばす。
「何でぇ相棒!おでれーた!気分はもう、救世主ってかい!」
才人は、デルフリンガーの突然の嘲りに戸惑う。
「なっ何だよ!?デルフ!?」
デルリンガーは言い聞かせるように話し始める。
「なぁ相棒、お前さんが戦い始めたのは高々ここ一、二ヶ月だろ?言っちゃぁまだまだ、しろーとだ。むしろよくやってらぁな。」
だけど、とデルリンガーは続ける。
「まだ一人で何でもできる訳ねぇだろ?他の奴らを頼って少しずつ強くなりゃ良い。負けたっていいさ、逃げ出したって良い。仲間を頼れ、一人で抱え込もうとすんな。な?相棒、そう…落ち込むなや?」
デルリンガーは励ましてくれていたのだ。そう気付いた才人は、もう少し言い方が無いか?と、笑みが零れる。その時、遠くから声が聞こえる。
「ほら。姉御さんたちが呼んでるぜ」
才人は、遠くに小さな光が差し込んできた事に気が付く。声は微かにしか聞こえないが、誰のものかはすぐに分かった。
「マチルダ…ミシェル…」
入り込んでくる光がどんどん強くなり、才人を包み込む。二人の想いが込められた優しい光、冷え込んでいた才人の心が暖かくなるのを感じた。
「…ありがとよ、デルフ、ミシェル…マチルダ。おかげで、まだ戦えそうだ!」
才人は光を取り込み、自らの光に変換、より巨大なエネルギーを生み出す。
「ウオォォォォ!」
ミシェルはマチルダに怒鳴りつける。
「もっとしっかり持って!ずれてるよ!」
マチルダは逆に怒鳴り返す。
「そっちこそ!ちゃんと持って!あたし一人で持ってるようなもんじゃないか!」
ミシェル達は、コスモスのカラータイマーに太陽の光を集める鏡を『錬金』したまでは良かったが、大きく、バランスが取れず、重いので、二人がかりで支えていたのだ。
「どうだい!副長さん!何か変化あった!?」
マチルダが聞くと、ミシェルはちょっと待って、と目を細めながらコスモスを覗き込む。
「ッ!、カラータイマーが赤く点滅してる!エネルギーが戻ってるんだ!もうちょっとだよ…?!」
その時、コスモスの体がまばゆいばかりに輝きはじめる。
ありがとう…マチルダ…ミシェル…行ってくる!
コスモスのテレパシーに、頷いて答えた二人は、光る光球となったコスモスを見送った。
戦いの傷跡深いトリステインの町に、レッドギラスjr、ブラックギラスjrはついに到着、逃げ回る住民を攻撃、蹂躙し始めた。しかし、既に銃士隊が動いていた。
「急げ!押すんじゃない!落ち着いて避難するんだ!」
アニエス、セニカの狼煙が届いたのだ。避難は九分九厘終わり、残るはわずかになっていたが、流石に間に合わない。銃士隊員の内何人かがマスケット銃で目玉を狙い、ブラックギラスjr、レッドギラスjrの注意を引く。その間に逃げ遅れた住民を他の銃士隊が逃がす作戦だ。
「こっちだ化け物!」
人間からのこざかしい小賢しい抵抗に腹を立てたのだろう、レッドギラスjr、ブラックギラスjrはその場で抱き合い、回転を始める。
「なっ!?なん…うわぁぁぁ!」
二匹はその場で回っているので、町への直接のダメージは無い。しかし、『ギラススピン』による突風により、町がえぐられ、砕かれ、銃士隊員を吹き飛ばす。このままでは頭から地面に落ちる。死を覚悟した銃士隊員だが…
突然、柔らかい感触に包まれる。
「間に合ったか!」
駆け込んできたアニエスが、すんでのところで受け止めたのだ。見ると横に疲弊しきったセニカもいる。
「た…たい…ちょ…はぁ、はぁ…も、無理ですよ…」
「現状は!?」
アニエスは、セニカの訴えを半ば無視して、銃士隊員に状況報告を求める。
「避難は殆ど終わりました!しかし、化け物をどうするかは…」
大丈夫だ、とアニエスが言うと同時に空に巨大な光球が現れる。
(やったか…流石だな、ミシェル…)
「デァァ!」
光球がコスモスの姿に変わり、光の粒子を右手に集中、地面に着地と同時に解き放つ。
(フルムーンレクト!)
光の粒子が、二匹を包み込む。しかし、『ギラススピン』で全ての粒子を吹き飛ばしてしまった。二匹の咆哮がトリステインの町を震わせる。
(効かない…あいつら生まれ持っての凶暴さ、残忍さって事か…)
頭上にも死角は無い。どうすれば、と考えているとレッドギラスjrは後ろを向き、逃げた住民たちの方へ向かっていく。
(っ!待て!)
コスモスは走り出すが、ブラックギラスjrが立ちふさがる。にたりと口角を上げるブラックギラスjr。それはある事実を示していた。
(こいつら!わざと人間を襲って見せる気か!)
なんて残忍な事を…コスモスは怒りに震える。…内側から溢れ出る怒りの感情。
(これは…相棒、お前さんの努力が実る時が来たぜ…)
コスモスは両腕を上空に向け、太陽の光エネルギーを全身で吸収する。
(マチルダ、ミシェル!俺に力を貸してくれ!太陽よ!俺に力を、皆を守れる力を!)
「デァァァァ!」
コスモスの体が半透明になり、筋肉が何倍にも膨れ上がる。体が二回り近く大きくなり、頭部に三日月の様なトサカと、赤いクリスタルが生まれる。最後に体の青いラインの殆どが赤く染まり、左右非対称のカラーリングになる。
「デァァ!」
そこには以前とは違い、力強さ溢れる巨体がいた。その変わりようにアニエスも驚いており、言葉が出ない。ブラックギラスjrも突然の事にたじろいでいるが、牙を向きだしにして喉を狙い突撃してくる。
「フンッ!」
コスモスがその剛腕を振りぬく。それだけでブラックギラスjrの角をへし折り、地面にめり込ませてしまった。何事かと後ろを振り向いたレッドギラスjrは、ブラックギラスjrの姿を見て戸惑うが、自身の兄の惨状を見て怒りに吠える。
「グギャゴォォ!」
コスモスはレッドギラスjr向け走り出すが、それよりも速くレッドギラスjrが懐に飛び込み、コスモスの喉目掛け角を突き刺す。デルフは、簡単に懐に入られたコスモスの、動きの鈍さが気になった。
(…ははーん、こりゃ相棒の頑張りすぎたな。今まで鍛えてきたパワーを反映できたのはいいが、筋肉の付きすぎだ。こんなんじゃ、まともに動けないな…っま、いいか。今は)
コスモスの喉に突き刺さったはずのレッドギラスjrの角。それはコスモスに触れた途端に砕け散り、逆にレッドギラスjrが吹き飛ばされる。苦痛に悶えるレッドギラスjr、その体を片腕で掴み上げると動けないブラックギラスjrに向け投げつける。
「「グギャォォ!」」
凄まじいダメージを受け、痛みの悲鳴を上げる二匹。しかし、互いに支えあって立ち上がると『ギラススピン』の体勢をとる。回転が速くなりコスモスに迫りくるが、一歩も動かずに静観している。
「何をしている!避けろ!」
アニエスの叫びに、デルフリンガーは一人呟く。
(大丈夫、増えすぎた筋肉は伊達じゃねえ、だろ?相棒…)
ドガァ!
『ギラススピン』の直撃!…しかし。
「デアッ!」
コスモスは真正面から受け止め、完全に『ギラススピン』を静止させる。よく見るとコスモスの指が二匹の体に深々と突き刺さり、鮮血が流れ出していた。コスモスは指を引き抜くと両腕を振りぬき、二匹を地面に沈ませる。
「「グガァ…」」
もう体を動かすことも出来ない。そんな二匹にコスモスは両拳を突きつけ、その間にエネルギーを溜めていく。それは球状に固まり、炎の超破壊球弾となる。
「ドアァァ!(止めだーー!)」
打ち出された一撃はレッドギラスjrブラックギラスjrに直撃、その体を木端微塵に吹き飛ばす!断末魔の叫びを上げる事無く、二匹は消滅した。
(やったぜ、マチルダ…ミシェル…全部、終わった…)
コスモスは一人、心の中で呟くと、その姿を消した。
続きます。今回からぶっコロナ、登場です。