ゼロの使い魔~真心~   作:へドラ2

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続きです。お待たせしました。今回仕事云々の前に、すごい悩んでしまいました。本文は長くなってしまうし、怪獣は出てこないし…でも、書き上げたので見て行ってください。


ゼロの使い魔~真心~第30話

 夜、一人部屋にて。いつの間にか届いていた指令文書の封を開ける。ここにはいつも自身の立場を利用し、出来うる限りの成果を上げるよう書かれている。毎度無茶な指令が多いので、時折見るだけで憂鬱になる指令文書だが、これも己の理想、願いの為。見ないわけにはいけない。

「…なんだって…無理難題じゃないか…」

 どうしようもない、どうにもならない、という諦めの感情と一緒にベッドに横になる。今回のは今までの中で一番の無理難題だった。暗殺任務なのだが相手が大物すぎる。

「…プリンス・オブ…ウェールズ…」

 アルビオン王国の皇太子、金髪の美青年、高い実力を持つメイジ、まさに絵に描いたような王子様だ。そんな人物に近づくなんて余程の事が無ければ無理だ。他者を寄せつけぬ厳戒な警備をかいくぐり、寝首をかく。言うは楽だが、やるのは無理に近い。…やりようは無くも無いが。

「いくら俺でも…うぅん…」

 今回は立場を利用しようが無い。どうすればよいか。寝転がりながら考えていると…。

 

コンコンッ!

 

 吉報がやって来た。それは、こちらからは普段ご機嫌伺いしかしない上司だった。だが、この日程、自分の上司が輝いて見えた日は今まで無かった。今まで一度も…。

 

 

 

 

 日が沈む頃、ルイズと才人は王宮から戻ると、学院に戻り遠出の準備をしはじめた。オスマン学院長には全てでは無いが、事情は説明してある。今回は特別に、授業については単位を用意してくれるらしい。

「…なぁルイズ?手伝ってくんない?」

 返事が無い。振り向くと、既にベッドでご就寝だ。明日、朝早く出発するので早く寝ると言っていたが、せめて準備が終わってからにしてほしかった。…まぁ王宮での事件、その後のどんちゃん騒ぎ、と地味に疲労が溜まっていたのだろう。アルコールもまだ完全には抜けていないだろうし。

「よっこいせ、と」

 才人は全ての準備を終えると、寝床の藁に座り込む。相変わらずこの藁はチクチクするなぁと、不平を漏らしていると…。

 

コンコンッ!

 

 誰かが部屋のドアを叩く。こんな時間に誰だろう…と言いたいがまだそこまで遅い時間ではない。才人は「はーい」とドアを開ける。

「あれ?タバサ?」

 それは普段訪ねてこない意外な相手だった。小柄な体に美しい青髪が印象的な彼女は、こちらから尋ねない限り会話をする機会は殆どない。

「どうしたんだ?」

 タバサは何も言わずに、才人を目の前の部屋…キュルケの部屋に促す。

「暫く、お願いしたい」

 どういう事だ?才人が尋ねるとタバサは言いずらそうに呟く。

「急用が出来た…どうしても、行かなきゃならない」

 そう言う彼女の手元には小さな筒が握られ、中から紙がのぞいている。手紙だろうか?しかし、自分たちの事もある。返答に困る才人だが、タバサの決意のこもった瞳に強い意志を感じる。

「…分かった、大事な用事なんだろ?キュルケはこっちに任せてくれ。あっ、でも俺も行かなきゃいけないところがあるから、シエスタに頼むことになるかもだけど…いいか?」

 タバサは小さく頷くと、窓へ駆け出しシルフィードに飛び乗る。

「ありがとう…」(私には、守る物が他にもあるから…)

 タバサは呟くと、そのまま夜の闇に消えてしまった。才人は今のキュルケの状態を確かめようと思い、デルフリンガーを留守番にして、キュルケの部屋のドアをノックする。

 

コンコンッ!

 

「キュルケ…才人だよ、入っても…いいか?」

 返答は無く、沈黙が流れる。やっぱり、まだ人と話せる状態じゃないのかな、と才人は思い、シエスタにこの事を頼むために立ち去ろうとする。その時…。

「…どうぞ」

 か細い声が聞こえる。以前のキュルケからは考えられないような弱弱しさ。あの元気な頃を知っている身としては悲痛だった。

「入るよ…」

 中には毛布を頭から被り、美貌のかけらも無い、生気の失せたキュルケがいた。部屋に双月の灯りしかない為、キュルケの姿がよく見えない才人はキュルケに近づこうとした。が、布を踏んで転んでしまう。

「イデっ!?…これ…」

 才人が踏んだのは薄い布だった。なんだろうと思い拾い上げると、それは見覚えがあるものだった。以前キュルケが才人を誘惑する時に着ていたネグリジェだ。

「捨てて!」

 キュルケの必死の叫びに、才人は咄嗟にゴミ箱を探し投げ込む。

「見たくもない、見たくもない!…男を寄せ付ける物なんて!」

 そう言うとキュルケは毛布で全身を覆い隠れてしまう。その震える様子には恋多き魔性の女の面影は無かった。おそらくキュルケが自分で引き裂いたのだろう。才人はキュルケを治せないにしても、何か出来ないか、元気付けられないかを考え込む。

「…サイト…何をしに来たの?」

 キュルケの問いに才人はタバサの事を伝える。キュルケは驚いて泣き叫び、暴れだし才人に掴みかかる。才人が必死になだめると落ち着きを取り戻すが、震えが止まらない。才人は考えた末、キュルケを癒す方法を一つ思いつく。

「…えっと…なぁ、花を見に行かないか?」

 

 

 

 

 学院にあるマチルダの花壇。それは、シエスタの故郷の不思議な土の効果もあり、季節外れの草花も育てることが出来る花壇。才人はそこにキュルケを連れて来た。相変わらず毛布にくるまっているが…。

「綺麗…」

 才人の世界には『フラワーセラピー』という言葉がある。今育てているコスモス・ブーゲンビリアにその効能があるかどうか分からないが、少しでもキュルケを癒せればと考えたのだ。

「そうだろ?…ん?…あれ?っあ!」

 才人はその時、信じられない物を見た。いくら何でも早すぎる、あり得ない事だ。まだそこまで遅い時間ではないが、寝ぼけているのではないかと目元を強めに擦る。

「マジか…芽が出てる…チグリスフラワーの芽が出てる!」

 才人はチグリスフラワーに駆け寄り、見間違いじゃないかとまじまじと見つめる。キュルケは訳が分からず才人を眺めている。が、すぐに才人に手を引かれる。

「キュルケ見てくれよ!」

「あっ…!」

 キュルケは引かれるまま、芽の前まで連れて来られる。そこには小さく芽吹く可愛らしい姿があった。

「…可愛い…」

 キュルケは、人間の吐息で揺れてしまうような小さな命に魅入る。才人はその姿を見て、呟く。

「…チグリスフラワーは百年に一度しか咲かないんだ」

 百年に一度、その事実はキュルケを驚かせるのに十分だった。

「え?…百年?!」

 才人はキュルケが食いついたことに「これだ!」と思い、続けて話す。

「そう、百年。奇跡だね、俺たちはすごい奇跡を見てるんだ。俺もまさか芽吹いてるなんて思わなかった…でも」

 キュルケは…何?と呟く。

「キュルケはこの奇跡が続くと思うかい?」

「え?」

 どういう事だろう?キュルケが疑問符を浮かべる。

「この小さな命が芽吹いたのは奇跡、だけどそれを育てるのは人間なんだよ、誰かが世話しないといけないんだ。キュルケは出来る?」

「無理よ」

 即答だった。才人はたじろぐが負けじと続ける。

「そうかな?キュルケは面倒見いいじゃん」

「今の私に出来るとでも!」

 キュルケの本音だ。自分の状態についてはよく理解しているようだ。悲痛な叫びに心えぐられるが、ここで負けて押し黙る訳にはいかない。

「出来るさ!…覚えてる?俺が無理なトレーニングをしてた時、誘うふりして止めてくれただろ?ルイズに対してもさ、からかうようにして、クラスで孤立しないようにしてくれてただろ?キュルケは…優しいよ。」

 キュルケは自分の事をよく見ていた才人に驚く。

「俺さ、明日からアルビオンに行かなきゃいけないんだ。…だから花の世話を頼みたいんだ。シエスタに手伝ってもらってさ…だから、ちょっとずつ、外に出てみようよ」

 才人は少しでも元のキュルケに戻って欲しかった。だから、才人なりの全力で思いをぶつけたのだ。最初は少しでも癒しになればと思ったが、いつの間にか全力になってしまっていた。

「…ふふっありがと、サイト…こんな私を心配してくれて…」

 キュルケが笑みを浮かべた。ツルク星人の時以来見ていなかった笑顔だ。キュルケは才人の手を握り、その胸に顔をうずめる。

「分かったよ、サイト。私やってみる…ありがとう、連れて来てくれて」

 キュルケは花の世話を引き受けてくれた。これがいい方向に転ぶかは分からない。でも、少しでもキュルケの治療になる事を願う才人だった。

 

 

 

「ふぅ…」

 才人は学院の廊下に腰を下ろす。キュルケを部屋に送った後、シエスタにキュルケの事を頼んできたのだ。そのまま部屋に戻…らずに新しく出来た用事を済ませに行く。

 

コンコンッ!

 

「何じゃね?」

 ここは学院長室。オスマン学院長のいる部屋だ。もっとも、用事があるのはオスマンではない。

「マチルダいますか?」

 用事があるのはマチルダだ。チグリスフラワーの事を伝えなければならない。

「才人!少し待ってね」

 マチルダは仕事終わりだったのか荷物を片付けていた。オスマンにお先に失礼します、と言うとマチルダと才人は学院室を後にする。

「マチルダ、少し話があるんだけど、花壇に行かないか?」

 才人が誘うと、マチルダは真剣な表情になる。

「ああ、あたしも話があるよ…」

 才人とマチルダは花壇に来ると、チグリスフラワーの芽の前に並んで座る。

「チグリスフラワー!芽が出たんだね!」

 マチルダが、才人が思っていた以上に喜んでくれたので嬉しくなる。キュルケに世話を頼んだ事も伝えると快諾してくれた。

「他の女だったらどういう事か問い詰めるけどね…」

「?何か言った?」

「何にも」

 マチルダは少し膨れっ面だが、すぐに真剣な表情になる。

「才人…また危険な所に行くのかい?…詳しくは言えないんだろうけどさ…」

 才人はマチルダが心配そうにしているのを感じ取り、安心させようと明るくふるまう。

「大丈夫さ!いつものように帰って…」

 瞬間、マチルダが才人を抱きしめる。普段抱き着いてくるより激しく、力強い抱擁だ。いつもの幸せな感触より先に戸惑いが生まれる。

「才人は!才人はそうやって!いつも、いつも無茶して!怪我してばっかじゃないか!」

 才人はマチルダの涙声を聞いて、軽々しく大丈夫と言った事を激しく後悔した。今まで、自分は何度怪我をして帰ってきただろうか?…才人は少し考え、何かを思いついたのか立ち上がる。

「見てて…マチルダ」

 何をするのか分からず見守るマチルダの前で、才人は両腕を胸の前で交差し力を溜める。

「…ァァアアアッ!コスモーーース!」

 才人が叫ぶと、二人は光に包まれる。マチルダがまぶしくて目を閉じ、目を開けるとそこは学院のはるか上空だった。

「えぇ!?」

 マチルダは慌てて自分のいるところを見る、青い、地面?いや…これは!

「コスモスの手の上!?」

 コスモスの手のひらの上だった。

「自分で変身できるようになったのかい!?」

 コスモスは首を横に振る。

(いや、実は今のはたまたま上手くいっただけ。練習では200回に一回、出来るかどうかかな?)

 その間に、マチルダを青いバリアが覆っていた。

「これは?」

(バリアだよ、マチルダを守る為のね。じゃ!行くよ!)

「え!?ちょっ、何!?」

 コスモスはあっという間に雲を抜け、宇宙に出る。マチルダは驚いて目を瞑っているが、コスモスに目を開けるように促される。

「なっ、なにを?…え、ふわぁ!すごい!」

 その時マチルダの視界に入ってきたのは…

 

 

 

「何だいこれ!?星の光がこんなに!」

 宇宙に煌めく、星々の輝きだった。コスモスはマチルダにこの光景を見せたくて、ここに連れて来たのだ。マチルダは子どもの様にはしゃいでいる。

 

 

(なあマチルダ)

「?何だい?」

 コスモスはマチルダに謝罪する。

(すまなかった、軽々しく大丈夫などと言ってしまって…これはその…謝罪の気持ちだ)

「あぁいや、あたしこそすまなかった。ムキになっちゃって…」

(…マチルダ、俺には夢がある。憧れていたウルトラマン達の様になる事だ)

「夢…」

(自分の力で手に入れたわけじゃないけど…手に入れたからには夢を叶えたいんだ…憧れた英雄に…だから)

 マチルダは真剣に聞いている。

(俺の無茶、少しだけ目を瞑ってくれ。それで救われる人がいるなら、俺は救いたいんだ)

 マチルダは考え込んで、ため息を漏らす。

「…分かったよ、あんたはウルトラマンだもんね。でも…約束っ!」

 マチルダはコスモスに小指を突き出す。

 

 

「絶対死ぬな!あたし、待ってるから…」

 

 

 

 コスモスはマチルダと固く約束した。必ず生きて帰って来ると。そして煌めく星々に誓った。必ず自身の夢を叶えると。

 

 

 

 

 

 




続きます。ようやく次回、出発です。
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