ゼロの使い魔~真心~   作:へドラ2

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お待たせしました。続きです。魔獣の正体とは…


ゼロの使い魔~真心~第32話

 才人は地下室に入ると、ベッドが二つしか無い事に気付く。一つはルイズ、一つはワルドである。もちろん自分のは無い。

「(…やっぱりか、おりゃ使い魔だもんな)二人で寝てよ。俺は外で変な奴来ないように番してるから」

 部屋を出ようとすると、ワルドに肩を掴まれ側に引き寄せられる。

「まあまあ、ちょっと待つんだ」

 ルイズに少し待つように言うと、二人は一旦部屋を出る。出るなりワルドは才人の耳元で囁く。

「いいかい?ベッドは二つ、人は三人。一人がベッドで寝ないという選択肢よりもだ、もう一つの選択肢の方が良いとは思わんかね?」

 才人は言われて気付く。そのもう一つの選択肢という物に…その大胆さにも。

「まさか、二人で寝るのか!?いくら何でも早くないですかい旦那!?」

 ワルドは不敵にほほ笑む。

「なに、僕のルイズは素直になれないところがある。少々積極的にならねばな‼」

 才人はぼそっと呟く。

「この間は酒で失敗してましたからね…」

 ワルドは痛い所を疲れうめくが、咳ばらいをする。

「ゴホンッ!…とにかくだ、協力、頼むよ?」

 才人は「もちろん」と、即答した。二人は部屋に戻るとルイズに一つのベッドに二人が寝る事を提案する。

「まあ!ワルドさま!なんてお優しい、うちの使い魔なんかを布団で寝かせてくださるなんて…ありがとうございます」

 ワルドは「なんのなんの」とニヤついている。思ったよりすんなりいって機嫌が良い様だ。その時、ルイズのお腹が可愛く鳴く。同時にルイズは真っ赤なリンゴの様になる。

「そう言えば朝から食事していなかったね、まだ明るいし店も開いてる時間だ。何か買いに行こう」

 

 

 

 ワルドはルイズの手をとると一緒に買い物に行った。才人は二人きりにしろというワルドのアイコンタクトを受け取り一人別行動をとる事になる。

「言ってもそんなに開いてる店ないな…」

 一人、道を歩く才人だが、やはり魔獣への備えで早々に店を閉じてしまう所が多い。どこもかしこも閉店だらけだ。そうして歩いていると、少し開けた広場にやって来る。

「…ん?何だ?」

 その広場の真ん中で、大きな声で一人の男性が叫んでいる。周りにはそれに呼応するように「そうだー!」、「ひゃっはー!」と叫ぶ人々が。見る限りは、皆若者の様だ。

「魔獣なんか迷信だー!世迷い事だー!」

 どうやら、魔獣の事を信じていない者もいる様だ。演説して支持を訴えている。しかし、才人がどうこう言って何とかなる問題では無い。才人は無視して、まだ食料品を売っている店を目指して歩き出した。

 

 

 

 戻ってきた三人は食事を始める。ワルドの過去の武勇伝で盛り上がるが、ルイズは以前聞いていた事もあり少し盛り上がりに欠けるようだ。そんな空気を換えようと才人が話題を切り出す。

「あっ!そうだ!ここでなぞなぞタ~イム!」

「「え?」」

 二人は驚いているが、もう引っ込みがつかない。才人はいくしかない、と続ける。

「朝は四本、昼は二本、夜は三本足、これな~んだ?」

 才人からしたらそんなに難しい問題では無い。かつてスフィンクスが旅人に出したといわれるなぞなぞだ。しかし、この国の人間からしたら難しいようだ。二人は首をかしげる。

「まさか、僕の知らない幻獣が?いや、しかし…」

 ワルドとルイズが物凄く悩み出してしまい才人はミスった。と反省した。結局二人は分からず、休む事にした。ルイズは疲れが出たのか、すでにまどろみに包まれる。が、ワルドは流石は軍人。そうも疲れていない。今がチャンスだ!と思いルイズの肩を引き寄せる。才人はそれを見てベッドに入る。

「さ、もう疲れただろう。ベッドに行こうか」

 ワルドはルイズをベッドに導こうとする。ルイズは眠い目をこすりながらワルドの背中に手を添える。

「お休み…ふわぁ~…」

 そのままワルドに布団をかけ、反対側の布団に入る。

 

 

「「…あれ?」」

 

 

 何故かワルドと才人が向かい合って布団に入り、ルイズが反対側のベッドに入る。二人は跳ね起きてルイズの方を見るが、既に寝息をたてていた。

「…俺、見張りしますね」

「…頼んだよ」

 二人は、何とも言いがたい空気に包まれたのだった。

 

 

 

 才人はデルフリンガーに何か起きたら起こす様に頼み、ドアの前に座りながら仮眠をとる。そうして朝を待つことにした。まどろみの中、先ほど見た一団の事を思い出す。

(…もしも本当は魔獣がいなかったら、あいつらは得意な顔をして喜ぶんだろうな。けど…俺たちが信じてるように本当に魔獣がいたら…危険なんじゃないか?…流石に非難するよな…?)

 しかし、そこまで考えた所で昼間の疲れに全身を包まれ、眠りに落ちてしまった。

 

 …………………

 

 朝方まで眠っていると、地下室全体が震え、轟音が響き渡る。

「…ッ!魔獣が出たのか!?」

 才人は驚いて飛び起きて、咄嗟に身を守ろうとデルフリンガーを引き抜くが、デルフリンガーに落ち着くよう言い聞かせられる。

「おいおい、今ここに出た訳じゃねえだろ?」

 才人は落ち着きを取り戻すが、同時に大切な事を思い出す。

「そうだ!あいつら!」

 才人は慌てて地下室から飛び出す。何事かと起きて来たルイズや、ワルド達をしり目に地上に飛び出す。

 

 

 広場近くにそいつはいた。四つの複眼を持ち、四本の触覚が生えていて、どことなくぎこちない動きの四つ足で動く怪獣。

 

 

「あれが魔獣!」

 遠くを見るとラ・ロシェールの山の方に大きな穴が開いている。おそらくそこから出てきたのだろう。どことなく幼い印象を持たせる鳴き声が特徴的だ。

「キューン!キューン!キャッ!キャッ!」

 怪獣は何かを追いかけている。襲っているというよりは遊んでいる様だ。しかし、追いかけれれているのは…。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 昨日、魔獣はいないと豪語していた若者たちだ。才人はやっぱりか、と舌打ちをしながら助ける為に駆けだす。一気に駆け寄り、三人両脇に抱える。本人たちが何が起きたか分からない内に、安全な宿の地下室の入り口まで運び、また何人かを抱えて運ぶを繰り返す。最後の一人になったところでついに怪獣に気付かれてしまう。

「キャ?キュッキュッ!」

 怪獣は標的を才人に帰る。急に向きを変えて来たので、才人は慌てて踵を返す。

「マジか!?」

 才人は全力で逃げ回るが、逃げ切るには巨大すぎる体。建物を踏みつぶしながら近づいてくるそれを、建物の間を最低限の動きで抜ける事で逃げていく。その時、怪獣の腕が吹き飛ばした家が才人の上に降ってくる。

「くそっ!」

 デルフリンガーで人が一人通れる穴を切り裂き、針の穴を通すように抜け出す。巻き起こる粉塵に紛れ、才人は怪獣から逃れようと全力で走り、何とかして少し離れた家々の影に隠れる。怪獣は才人を見失ったようだ。少し周りを見渡すと、家をもぎ取り重ねて遊び始める。

「何だ?積み木のつもりか?」

 才人は今回無理に怪獣に関わらず、戦わなければ良いなと思っていた。しかし、ここまで被害を出されては放っておけない。才人はデルフリンガーを掲げ、変身しようとする。

「行くぞデルフ!」

「おうよ!相棒!」

「コスモーー…」

 

 

 待って!

 

 

 才人は突然の声に変身を止める。誰かに見られたかと思い周りを見渡すが、誰もいない。改めて変身しようとするが、再び声が呼び掛けて来る。

 

 

 お願い!やめて!あの子を傷つけないで!

 

 

「誰だ!何処にいる?何を知っているんだ!?」

 才人が叫んでいると、宿からワルドが走ってやって来る。

「大丈夫か!?話は彼らから聞いたよ。あれが魔獣か…」

 「彼ら」とは才人が今しがた助けた人達だろう。ワルドは杖を構えると、怪獣を睨みつける。

「あまり関わりたく無かったが、こうなればしょうがない。僕の魔法で黒焦げにしてやる!」

 ワルドは建物の影から飛び出そうとした時、再び声が聞こえる。

 

 

 やめなさいジャン!傷つけてはダメ!

 

 

 ワルドにも聞こえたのだろう。つんのめって、たたらを踏む。しかし、先ほどとは少し様子が違う。何と、ワルドを名指ししたのだ。ワルドもこれまでに無い程、取り乱している。

「…どういう事だ…?何で!どうして!?あり得ない!」

 ワルドは半狂乱になって叫ぶ。

 

「何処にいるんだ!母さん!」

 

 才人は突然出て来た単語に驚く。この声の正体がワルドの母親?十分驚きだが、例えそうだとしても姿を現さないのは何故だ?この怪獣の何を知っている?

「何処だ!?何処にいる!?返事をしてくれー!」

 ワルドは冷静さを完全に失っていた。ここまで取り乱すなんて、ワルドにとって母親はどのような存在なのだろうか?ワルドはそのままフラフラと歩きだしてしまう。

「駄目だ!見つかる!」

 才人は慌ててワルドを担ぎ上げると、怪獣の視界に入らない事を祈り宿に飛び込んだ。丁度地下室から上がってきたルイズとぶつかって怒られるが、それどころではないとルイズも連れて直ぐに地下室に入る。

「ワルドさま!?どうなさったんですか!?」

 ルイズはワルドが担がれている事に驚嘆するが、説明は後で、と才人に言われベッドまで運ぶのを手伝う。

「母さん!母さん!かっ…ん?ここは…?」

 段々と落ち着いてきたワルドを寝かせると才人は座り込んで考え込む。ここに隠れていれば安全か?それともここまで探しに来るか?そんな時、また外で轟音がする。才人とルイズは宿から出て様子を見に行く。

「「な!?」」

 そこには家を踏みつぶし、地下室の入り口に手を入れる怪獣の姿があった。

「キャッ!キャッ!」

 おそらく穴を掘って遊んでいるつもりだろうが、そこに避難している人からすればたまったもんじゃない。才人は何とかして止めないといけないと思い、何かを思いついたのか地下室に走る。

「ちょっとサイトどうしたの?」

 追いかけるルイズに才人は振り返らずに答える。

「ギターだよ!あれを使えばもしかすると…」

 ルイズはますます疑問が広がる。なぜ今ギター?才人は部屋からギターを持ってくると、ルイズの前でしゃがみ込む。

「手伝ってほしい、乗ってくれ!」

 ルイズは勢いに負け才人の背におぶさる。才人は怪獣に近づきながら作戦を説明する。

「一か八か、子守唄を歌う。あいつは生まれたばかりの赤ん坊みたいなところがあるんだ、上手くいくかもしれない」

 ルイズは怪獣の巨体を見てあれで赤ちゃん?と疑問になる。…確かに、無邪気に遊んでいるように見えなくもないが。才人に歌詞を教えられると、掴まる腕に少し力を入れる。

「…危なくなったら守りなさいよ」

 才人は、固い決意を述べる。

「…命に代えても守るよ」

 二人は怪獣の前に来ると、大きな音で注意を引き、子守唄を唄い始める。

「「ね~むれ~、ね~むれ~、母のむ~ね~に、ね~むれ~ね~むれ~、母のて~に~」」

 怪獣は初めて聞く音に興味津々になり聞き入っている。上手くいった!二人が確信した時、怪獣はおとなしくなりその場に突っ伏して可愛い寝息をたて始めた。

「「やった…」」

 二人は上手くいった事より、緊張から解き放たれた事に安堵し、その場でへたり込む。

(それにしてもワルド子爵の取り乱しよう…何が…?)

 二人は眠る怪獣を背に、ワルドを介抱するため宿に戻る事にした。その時、またあの声が聞こえた。

 

 

 

 イフェメラを…イフェメラを傷つけないで…!

 

 

 

 

 




続きます。魔獣の正体はイフェメラでした。まあ…分かってる人結構いたみたいで…

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