「ウェールズさまーーー!」
ルイズは頭が床にめり込んでひっくり返ってるウェールズに駆け寄り、今にもその首をはねようと手刀を構える才人の前に滑り込む。
「この人はアルビオンの皇太子ウェールズ様なのよ!」
ルイズはウェールズを助け起こす。しかし、ワルドと才人は今までの行動からウェールズと信じる事は出来なかった。そんな二人の視線を感じてルイズはウェールズの変装をとる。
「ほらっ!これは変装なのよ!こうして空賊に成りすまして、反徒達の補給線を絶つための作戦をやってたのよ!きっと!」
その変わりようを見て才人は驚いているが、ワルドは表情を変えない。
「ルイズ、君は騙されているんだよ。女性を辱めようとする奴らがアルビオン軍、ひいてはウェールズ皇太子であるはずが無いだろう」
ワルドは男たちが持っていた曲刀を手に取ると、その首をはねようと構える。
「まっ、待ってくれ!頼む!」
才人達にのされていた船員の内一人が意識を取り戻し、這ってくる。才人は拳を構えるが、船員は必死に訴えかけてくる。
「お願いだ聞いてくれ…その人は正真正銘のウェールズ皇太子だ…女性たちの事は心配しなくていい、船倉より…環境のいい船室に移しただけだ…」
それを聞いてもなおも曲刀を構えたままのワルドの手を才人が止める。
「待ってくれ、こいつを起こして話を聞いてからでもいいんじゃないか?」
ワルドは仕方ない、という表情で曲刀を床に突き刺す。
「怪しければ首をはねる。これは同意をもらってもいいね?」
才人は頷くと、ウェールズに近づき頬を軽く叩いて目を覚まさせる。目を覚ましたウェールズは才人達を見て一言呟く。
「君達のような優秀な戦士がいれば…戦局は大きく違っただろうね…」
ウェールズは立ち上がると、才人達に敬礼する。
「私はアルビオン王立空軍大将ウェールズ・テューダーだ。よろしく…そうだね、僕が皇太子という証拠を見せよう」
ウェールズは自己紹介を終えるとルイズの水のルビーを指さす。
「それはアンリエッタがはめていた水のルビーだろう?これはアルビオンに伝わる風のルビーだ」
二つのルビーが近づくと互いに共鳴し合い、虹色の光を生み出す。
「王家にかかる虹の架け橋さ」
本物という証拠を見せられ、ワルドはひざまずき、名を名乗る。
「申し訳ございません。無礼をお詫びしますウェールズ皇太子。私はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」
才人もワルドの真似をしてひざまずく。
「ルイズの使い魔の平賀才人です。先ほどのご無礼、お許しください」
ウェールズはふらつきながら叩きつぶされた椅子の上に腰掛けると、ため息をしてうなだれる。
「すまないが、場所を移して話そう。まさか君たちがこんなに強い何て…ニューカッスルの城までご足労願おう。少し休みたいんだ…」
才人達を乗せた軍艦『イーグル』はアルビオンの海岸を3時間ほど進むと、突き出た岬の所までやって来る。それは歴史を感じさせる見事な城だった。
「あれがニューカッスル城…」
才人はその姿に魅入っていたが、船が突如沈むような航路をとる。才人はどうしてかウェールズに聞くとニューカッスル上の上空を指さす。
「かつての本国艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だ。反徒に奪われてからは『レキシントン』と名を変えているがね。あいつが空を塞いでいてね、嫌がらせのように大砲をぶっ放していくんだ」
あれの反乱から全てが始まった。と呟くウェールズはどこかさみしそうだった。
「という訳で、大陸の下の秘密の港から出入りするのさ」
ルイズはふと疑問が生まれる。
「ウェールズさま?何故普通の港から入らないのですか?情報では港を取り返したとか…」
ウェールズは首を横に振る。
「配下の一人…60年来の爺やが先日裏切ってね、取り返した時の戦力を全て奪われた挙句、港も奪われたのさ」
ルイズ達は顔を青くする。
「もしあのまま港に行けば、全員貴族派に捕らわれていただろうね」
どうやら、ウェールズ達は補給線を絶つと同時に、おびき寄せられた船を助ける任務も担っていたのだ。それを知り、才人達は改めてウェールズに感謝したのだった。
「まあ…君達なら何とかなったかもしれないけどね…」
ウェールズの悲しげな呟きは、風にかき消され誰の耳にも届かなかった。日が差さず、厚い雲で視界がゼロの大陸の下。反乱軍が絶対に入ってこれない領域だ。そこを『イーグル』号は苦も無く進んでいく。
「王立空軍の航海士なら測量と魔法の灯りだけで行けるさ。反徒共は所詮、空を知らぬ無法者さ」
ウェールズが言う間に船は黒い大穴に吸い込まれ、ニューカッスル秘密の港に帰航した。ウェールズに促され一行はタラップを降りる。
「パリー…何故…」
またウェールズは悲しげに呟く。才人はパリーという人物を知らないが、恐らくここに来るまでに聞いた長年仕えてくれた爺やの事だろう。気の毒に…と同情する事しか出来ない才人だったが、それを口に出すことは絶対にしなかった。
(んな、分かり切った事。言われたかねぇよな)
ルイズ達はウェールズに付き合い、ニューカッスル城の彼の居室へと招かれる。そこは殆ど物が無い、とても質素な部屋だった。
「では、本題に移ろうか?」
ルイズから手紙を受け取り、それを読んだウェールズは机の引き出しを開けると、宝石の散りばめられた小箱を取り出す。
「僕の宝箱さ」
箱の中身を覗き込むルイズ達にウェールズは照れ臭そうにはにかんで見せる。箱が空いた時、唯一中を覗けたルイズが見たのは蓋の裏側に美しく描かれたアンリエッタの肖像画だった。
「これが君たちのお目当ての手紙だよ。確かに返却したぞ」
ルイズは元々手紙が入っていた封筒に丁寧にしまう。ウェールズは手紙を渡す時、手紙に愛おしそうにキスをしていた。それだけでウェールズとアンリエッタがどういった関係なのか、ルイズ達はすぐに分かった。
「失礼します!殿下!」
突然の声に才人達が振り向くと、扉の前に伝令兵がやってきていた。扉越しに報告するようウェールズに促された伝令兵は慌てた声で報告する。
「ご報告します!明日の正午、反徒共がこの城に攻撃を仕掛けると宣戦布告してきました!」
ルイズ達は目を見開くが、ウェールズはあっけらかんと答える。
「伝え返せ!正々堂々、真正面から撃ち合ってやるとな!」
伝令兵は少し戸惑っていたがすぐに返事をし、また駆けて戻っていった。
「なっ!?大丈夫なんですか!?今のこんな状態で!」
ルイズはウェールズに詰め寄るが、ウェールズはきっぱりと言い切った。
「ああ。これで残るは反徒共に王家の誇りと名誉を示して敗北するのみだ」
その発言を聞いてルイズは震える。死を恐れないのかと問わずにはいられない。言いかけるルイズの両肩に手が乗せられる。ワルドと才人だ。
「ルイズ、軍人ってのは、男ってのは厄介な生き物でね。戦いの中で敗北にでさえ美徳を持ってしまうんだよ」
ワルドは諭すようにルイズに語りかける。しかし、才人は少し呆れながらルイズに語りかける。
「お前だって、前はそんなだったろ?…ったく、この世界の貴族って奴は…王族って奴は…」
言いたい言葉を飲み込む才人。しかし、ルイズはアンリエッタの事を思い出す。こんな事、彼女が望むはずがない、と。ルイズは俯きながらウェールズに問いかける。
「…王軍に、勝ち目は…無いのですか?」
しかし、ウェールズは何でも無いように答える。
「無いよ。我が軍は百にも満たない。軍とも呼べない程だ。対して敵軍は五万、万に一つの可能性も無い。我々にできるのは精々勇敢な死にざまを見せつけるだけさ」
ルイズは拳を握りしめながら言葉を漏らす。
「殿下の、犬死も…その中に含まれてんの…?」
ルイズの言葉が少しずつ荒くなる。握る拳からは血が滴る。才人はその異変に気付いていたが、ルイズの気持ちを考えると指摘する気になれなかった。
「当然だ、私は真っ先に死ぬつもりだよ」
その一言がルイズの堪忍袋の緒を引きちぎった。振りぬかれる拳、簡素な木のベッドを押し砕き叩き伏せられるウェールズ。こんな事普段のルイズは絶対にしないだろう。顔を青くして止めに入る側だろう。しかし、親友を思う女は違う。ルイズはウェールズの胸倉をつかみ上げる。
「女舐めてんじゃないわよ!女残して死ぬっての!?そんなの女が望む訳ないでしょ!?責任とりなさいよ甲斐性なし!」
ここまで怒ると思ってなかったワルドと才人はその剣幕に思わず腰を抜かす。しかしウェールズは臆さずルイズを真っすぐ見つめて問う。
「まさか従妹のアンリエッタと僕が恋仲だったとでも?」
「分かんない奴が何処にいんのよ!この手紙も恋文でしょう!?」
響くルイズの怒号。
「私は幼き頃、恐れ多くも姫様のお遊び相手を務めさせていただきました!姫様の気性は大変良く存じております!分け隔てなく優しい事!負けず嫌いな事!あの姫様が愛した男を見捨てる事をするはずが無い!手紙には書いてあったんでしょ!亡命してくれって!書いてあったんでしょ!」
ウェールズは首を横に振る。
「とぼけないで!」
ウェールズは苦しそうに呟く。
「私は王族だ、嘘などつかぬ」
嘘だ、ルイズはすぐに分かった。
「アンリエッタは王女だ。自分の都合を、国の大事に優先させるわけがない」
恐らくウェールズはアンリエッタを庇おうとしている。情に流される女と臣下に思われるのが嫌なのだろう。でも、分かっていてもルイズは感情を抑えられなかった。言葉が溢れてくる。
「関係ないでしょ!姫様だって、姫様だって女です!姫様だって!姫様だって!…姫様だって…ひめ…うぅ」
次にルイズからあふれ出したのは涙だ。手で押さえても溢れる程の涙が頬をつたう。ウェールズは俯き言葉を失うが、立ち上がるとルイズの肩に手を置く。
「君は…正直だ。とても、とても。しかし…それでは大使は務まらんよ?」
ウェールズは時計に目をやる。
「そろそろパーティだ…君たちも出席して欲しい。僕たちがもてなす最後の客人だ」
パーティは城のホールで行われた。簡易の玉座が置かれ、そこに年老いたアルビオン王ジェームズ一世が腰掛けている。才人は皮肉を込めて呟く。
「明日で終わっちまうからって、派手なこって…」
ワルドもルイズの隣で頷く。
「終わりだからこそ…か」
ジェームズ一世が立ち上がると演説が始まった。明日の戦は一方的な虐殺になるであろう事、勇敢な配下の貴族たちを死なせたくない事を述べると、『イーグル』号で脱出するよう促す。しかし、配下の貴族は血気盛んに叫び始める。
「耄碌には早いですぞ!陛下!」
「我らがお待ちする命令は唯一つ!『全軍前へ!』それ以外の命令は耳に届きませぬ!」
響き渡る「アルビオン万歳!」の声。それは広がり続け、ついにはホール全体での大合唱にまでなる。才人は憂鬱になってきた。死を前に明るく振る舞う人たちが、この上なく悲しい存在に見えたのだ。
「ねぇ?サイト?」
おもむろにルイズが尋ねてくる。才人は自然とルイズの手元に目が行く。どうやら一口も食べていないようだ。まあ、才人も同じだったが。
「何?」
「私、この旅で色んな体験をしたわ。特に多かったのが…人の死…」
才人はルイズの横顔を眺める。それは物憂げな顔をしていた。
「皆、死ぬことが怖くて、怯えて、逃げ出して…イフェメラの時も、すごかったわ…相手を攻撃してまで生き残りたい…そんな執念を感じた」
才人は心の中で今までの事を思い出す。ほんの数日間の旅なのに、どれだけの命が失われただろうか?才人がいたせいで消えた命もあれば、いなくても消えた命が数多くあった。
「なのに何で?何でこの人たちは死を恐れないの?皆、必死に生きてたのに…」
才人は水を一口飲むと、ルイズに向き直る。
「お前にだってあるだろ?貴族の誇り、名誉、プライド…それをあいつらも持ってて、勇敢とはき違えた感情で必死に守ってんのさ」
私もああだったのかしら?とルイズは呟く。
「完全に同じって訳じゃないけど…あったばっかの頃は…あんなんだった」
ルイズはそう…、と呟き俯き、才人の手を握る。
「ウルトラマンは…ウルトラマンは助けてくれないの…?」
才人はルイズの手を握り返せなかった。
「ウルトラマンは…コスモスは…俺たちがどうしようもないくらいピンチの時に来てくれるんだ…俺の世界いたウルトラマン達は、絶対に人間同士の戦争には介入してこなかった」
ルイズは握り返さない才人の手を無理にでも握ってくる。
「ミス・ロングビルの時、来てくれたわよ?イフェメラの時だって、今日の事件だって…私たちのピンチにはいつでも、来てくれたわよ?」
才人にはルイズの頬には涙が伝っているように見えた。泣きすぎて涙も出ないくらい乾ききっているはずのルイズにだ。
(ルイズ…)
才人は無性にルイズの手を握り返してやりたくなった。しかし、こらえた。耐えた。自分に、『ウルトラマンコスモス』はその手を握り返してはいけないのだ。
「俺だって、俺だって…」
助けたい、力になりたい、その言葉を才人は飲み込み、心の奥に封じ込めた。
少しして、才人は疲れ切っているルイズをワルドに預ける。料理を小皿に分け、水を一杯注ぎ、お盆に乗せる。
「食べさせてやってくれ、今腹ん中空っぽだろうからさ」
ワルドはルイズを背中に負ぶると、お盆を受け取る。
「気遣いありがとう。使い魔くんはどうする?」
才人は頬をポリポリとかく。
「まずは、王子に謝ってくる」
今日だけでウェールズにどれだけ暴力を振るったか、失礼をしたか。冷静になると一国の王子様になんてことをしでかしてしまったのか…。
「ルイズを頼むぜ、婚約者さん?」
ワルドが部屋に行くのを見届けると、才人は貴婦人に取り囲まれるウェールズに声をかける。
「やあ、君はラ・ヴァリエール嬢の使い魔くんだね?」
「そうです。先ほどは主人が大変失礼しました」
気にしなくていい、ウェールズは笑いながらそう言い、ワインを仰ぐ。才人は言うかどうか迷うが、思い切って聞いてみる事にした。
「ちょっといいですか?」
才人は場所を変えるよう提案し、バルコニーに出る。
「何だい?話って?」
才人は咳払いしてウェールズに問いかける。
「失礼ですけど…その、負けが分かり切っている戦を何でしなくちゃいけないんですか?」
ウェールズは笑みを消し、毅然とした態度で答える。
「我らは勝てずとも、勇気と名誉を反徒共に見せつけ、王家達が弱敵でない事を示さねばならぬのだ。それが王家に生まれた者の…義務だ」
才人は少し俯く。
「姫様は貴方を愛してる、亡命の事、手紙に書いてあったんでしょ?」
ウェールズは黙ると少し首を傾ける。肯定だろう。
「愛するが故に、知らぬふりを…身を引かなければならない時がある。私がトリステインに亡命すれば…それは反徒共の攻め入る格好の口実になるだろう」
この事はアンリエッタには秘密にな。そういい笑うウェールズに才人は言い返す。
「分かりました。勇敢に戦って死んでいきましたって言っときますよ」
「ありがとう…ところで君はラ・ヴァリエール嬢の恋人かい?」
唐突な質問に才人はすぐに反応できないが、「いいえ」と短く答える。
「婚約者はワルド子爵の方ですよ」
そうか…と言うウェールズは考え込んだまま黙り込む。「僕とアンとのはもう無理だが…」と呟いた後、次の言葉を待っていた才人が聞いたのは思いがけない一言だった。
「伝えてくれ、明日君たちの結婚式を執り行いたいと」
「え?」
続きます。ゼロの使い魔の二次創作で多いのが、ウェールズ生き残らせるか問題。はてさてゼロの使い魔~真心~はどうなるでしょう?
ルイズについて、今回はっちゃけました。こんなことしねー!という意見もあると思いますが、ご容赦を。