ゼロの使い魔~真心~   作:へドラ2

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続きです。死闘。


ゼロの使い魔~真心~第43話

 ルイズは言葉を失う。目の前で起きた激動の全てをその目にしていたからだ。ワルドに殺されそうになったが、突如姿を消したウェールズ。遥か遠くまで殴り飛ばされたワルド。そして、そのワルドを殴り飛ばした才人。

「サイト!あんたっ、なんで!?」

 ワルドとルイズの間に立ちふさがるように才人が躍り出る。

「昨日王子様の暗殺計画を知っちまってさ、結婚式の前からずっと地下に隠れてた。で、王子様がヤバくなったからデルフで穴開けて助けた」

 ルイズはそれを聞いて顔を青くする。ずっといたという事は、自分の気持ちを全て知られてしまったという事だ。

「ルイズ…お前の気持ち、知っちまった…悩ませちまったな…」

 才人は申し訳ないと目線で訴えてくる。ルイズはその目を直視できなかった。そうしているとワルドがうめき声を上げる。

「悪かったな。お前の結婚は延期だ」

 才人はデルフリンガーを抜くと、礼拝堂の椅子に叩きつけられたワルドに向け構える。

「まず一番にするのは帰る事だ。…あのバカの目ぇ覚まさせてな!」

 才人は全力で駆け出し、ワルド目掛けデルフリンガーの峰を振り下ろす。それはワルドの体に触れる事無く床を叩き砕く。

「ッ!?」

 才人は身をよじりその場から離れる。瞬間、『エア・ハンマー』が一度に三方向から放たれ床をえぐり取る。

「流石はガンダールヴ…今のを躱すか」

 いつの間にか立ち上がり、まるで三発同時に放ったと錯覚させる程の速度で攻撃してきたワルド。才人はデルフリンガーを構え直す。

「流石は魔法衛士隊隊長、それが本気ですか?」

「まさか」

 そう言うとワルドの杖に魔力が集まっていき、風の刃を作り出す。

「『エア・ニードル』…風の使い手が使えば『ブレイド』をはるかに超える威力を持つ僕の隠し玉だよ」

 言い終わるまでにワルドは踏み込み、その風の刃を才人の心臓目掛け突き出してくる。才人は全力で避けるが間に合わず、肩に突き刺さる。「閃光」の名に恥じぬ速度に才人は感嘆する。

「流石っ!…です…ねぇ!」

 才人は床を蹴り砕き舞い上がる粉塵で姿を隠す。しかし、ワルドは「無駄だ」と見せつけるように風を起こし、粉塵を吹き飛ばす。

「なにっ!?」

 ここで誤算が一つ。才人は粉塵に紛れはしたが、その場からは動いていなかった。肩から刃を抜いて、その場に留まっていたのだ。フルスイングで放たれたデルフリンガーの一撃がワルドの脇腹を直撃する。

「ごはぁっ!」

 ワルドは吹き飛ばされる。そう思ったルイズだが、突然ワルドの姿がかき消える。その瞬間才人は足のばねだけで跳躍、自身の後ろに現れたワルドに蹴りを叩き込む。

「グホっ!」

 今度は直撃したのかワルドは柱に叩きつけられる。

「ぐほっ!…そう言えば君は一度見ていたね…」

 ワルドは『風の偏在』を使い入れ替わっていたのだ。しかし、手ごたえで見抜いた才人はバド星人の時の事を思い出し、後ろに跳んだのだ。才人はワルドを睨みつけると、デルフリンガーの切っ先を向ける。

「子爵!一つ教えろ!なぜ裏切った!?なぜ王子を!?」

 ワルドは黙り込むが、悲し気な表情を浮かべる。

「ガンダールヴ、知った所で君には何も出来ないさ。…どうしても知りたいなら僕を倒せ!」

 それを聞き、才人は決意を込めた目で答える。

「やってやるさ!『風の偏在』も見切ったからな!」

 ワルドは小声で詠唱し、杖を振り上げる。

「なら、これはどうかな?」

 突然ワルドの周りの風が勢いを増し、集まっていく。それは四つに集まり、動き出す。

「…へっ、ヤバいだろ…」

 才人はデルフリンガーを握る手に自然と力が入る。目の前に現れたのは本体を合わせて合計五人のワルド。今のワルドに出来る全力の布陣だった。

「行くよ!」

 走る閃光。才人は全ての剣戟をいなそうとする。しかし、最後の一太刀をかわし切れず脇腹をかすめてしまう。

「ぐっ!」

 才人は一体に肉薄し全力の横なぎでその首を殴打する。しかし、それは霧散してしまう。外れだ。その隙に四方を囲まれた才人はワルドの杖に輝く雷を目にする。

「くらえぇ!」

 ワルドの杖から放たれた『ライトニング・クラウド』。普通の人間なら掠っただけで命を落とすような魔法が四方向から放たれる。二発はデルフリンガーが吸い込むが、吸い込み切れなかった二発が才人の体を打ち貫き、焼き焦がす。

「がぁぁ!」

 才人は思わず膝をつく。その才人にワルドが二人飛び掛かるが、その刃は床を貫くだけに終わってしまう。一瞬で体を宙に浮かべ、上から二人のワルドを攻撃、首を斬り飛ばし霧散させる。

「やるな!だがその程度かガンダールヴ!それではルイズを守れないぞ!」

 ワルドは杖を構えて才人に狙いを合わせる。

「僕の覚悟の重さを身を持って知れ!」

 才人に迫る剣戟。才人はデルフリンガーを下投げに投げ、最後の分身の胸に突き立て倒す。それを見て驚いたのはワルドだ。武器を捨てた事に戸惑いながらも、今がチャンスだと飛び掛かる。

「はぁぁ!」

 しかし、その刃が才人に届く前、放たれた才人の拳がワルドの体をくの字に曲げ吹き飛ばす。ワルドは柱にめり込みドサッと落下してくる。

「ぐおぉ…」

 ワルドは腹部を抑えながら気合で立ち上がり杖を構える。ボロボロになりながらも、その目には力強い光が宿っていた。

「僕は…まだ…動けるぞ!」

 息も絶え絶えのワルドは『ライトニング・クラウド』を連続で放ち才人をけん制する。才人はバク転、側転を繰り返し何とかデルフリンガーを手に取る。

「相棒!何で斬らねぇ!」

 デルフリンガーに怒鳴られるが、才人は『ライトニング・クラウド』を避けながら軽く小突く。

「その気だったら最初から拳で殴りゃしねーよ!!」

 その時、突如降り注ぐ雷の量が増加する。どうやらワルドは再び『風の偏在』を使い、分身。攻撃の勢いを強めてきたのだ。

「うおぉぉぉ!」

 雄たけび。ワルドは凄まじい気迫で『ライトニング・クラウド』を放ってくる。それは束ねられ、まるで巨大な龍のようにうねり才人に襲い来る。才人は全力でデルフリンガーを回転させ雷を吸い込んでいく。が、吸いきれなかった雷が才人の左腕、右腕、右足を焼き焦がす。

「ぐあぁっ!」

 才人は痛みで動きが鈍り、防御が手薄になってしまった。しかしワルドの『ライトニング・クラウド』は留まる事を知らない。デルフリンガーが吸い込み切れなかった分が才人の体を打ち貫き、血液を煮えたぎらせ、全身を焼き焦がす。

「…ぁ…」

 崩れ落ちる才人。しかしワルドの『ライトニング・クラウド』も打ち止めのようで、疲労からその場に膝をつき息を荒げる。勝利を確信し顔を上げるワルドだが、その目には信じられないものが写った。

「…ぉ…ぉぉ…」

 何と才人が立ち上がったのだ。

「なぜ、そこまで…そこまでするんだーーー!」

 ワルドは才人の執念におののくが、『エア・ニードル』を五人のワルドで構える。

「うわぁぁぁ!」

 駆けだすワルド達。才人もデルフリンガーを構え、迎え撃つ為に意識を研ぎ澄ませる。一呼吸すると才人も全力で駆けだしていた。

「「うおぉぉぉ!」」

 二人の唸り声が重なる。才人はボロボロの体を動かすために感情を昂らせ、気合でデルフリンガーを振るう。

 

 

 

 

 それに呼応するかのようにルーンが輝きを増していく。

 

 

 

 

 ワルド達が繰り出す、五つの斬撃。「当たる!」そう確信したワルドの思惑は外れる。

 

ガキキンッ!

 

 なんと全ての斬撃が急激に加速した才人に防がれたのだ。

 

ドドドドッ!

 

 しかも防がれたと同時に四つの斬撃がワルドの体を打ち据える。ワルドは何故防がれたのかを考える暇も無く膝をつき、杖を手からこぼした。

「ぅ…ぅぅ…」

 ワルドは礼拝堂の椅子に寄りかかりながら立ち上がるが、その膝は震え、立っているのもやっとのようだ。才人はデルフリンガーを床に突き刺して立ち上がり、問いかける。

「ワルド子爵…なぜあなたが…こんな…」

 ワルドは俯いているが、椅子を掴む手が強く握られるのを才人は見逃さなかった。

「…ぁぁぁあああっ!」

 ワルドは椅子を持ち上げると才人目掛け振り下ろす。それは才人の頭頂部に直撃する。しかし、才人は「それがどうした」とでも言うようにワルドに歩み寄り、全力でのけぞる。

「何があんたをそこまでさせるんだ!」

 振り下ろされる頭突き。叩きつけられたそれはワルドの額を引き裂かれる。飛び散る鮮血、しかしワルドは踏みとどまり、吠える。

「ルイズの為だ!」

 振りぬかれる拳。それは才人の頬に突き刺さる。鋼鉄をも砕くような一撃。だが才人も負けじと踏みとどまり、拳を振り返す。

「何がルイズの為だ!」

 ルイズは訳が分からない。自分の為?裏切って反徒に味方し、ウェールズを暗殺する事が?ルイズが疑問に思う中、尚も二人の拳の押収は続く。

「僕は母の異変の真相を知るために!聖地を目指すためにレコン・キスタ軍に参加した!」

 ワルドの母…見ていられなくなったワルドの父がその手にかけた。と本人が言っていた事を思い出す。確かに目指す場所はレコン・キスタと同じだ。しかし何故?…魔法衛士隊隊長の地位を持つ彼が?ルイズは疑問しか浮かない。

「ルイズは無関係だろうが!」

 才人の拳が眉間にめり込み、血が飛び散る。しかし、ワルドは倒れない。

「レコン・キスタの勢いは増すばかりだ!今のバラバラになった国々では立ち向かえない!」

 ワルドの拳が才人の肩の傷口を打ち、それを広げる。

「だからって!」

 才人は激痛なぞお構いなしに拳を振るう。

「それだけじゃない!」

 同時に放たれ、同時に交差する拳。二人は血を吐きながら、たたらを踏んで後ずさる。

「…グハッ…ルイズは、ルイズは…僕の父の…グフッ…死の理由を、覚えているかい?」

 ルイズは血みどろの戦いに怯えながらも、ワルドの問いかけに答える。

「えっ…えぇ…確か昔、戦で…」

 ワルドは口元の血を拭う。

「…そう…ランスの戦で…戦死したんだ…だがそれは事実とは…違う…」

 ルイズは訳が分からず困惑する。才人は身構えながらも、ワルドの話に聞き入っていた。

 

 

 

「僕の父は…ルイズ…君の父上に…殺されたんだ!」

 

 

 

 衝撃の一言に才人は耳を疑う。ルイズは膝をつき力なく崩れ落ちる。

「え?…ウソよ…ワルドさま?…ウソですよね?…空気の読めない、質の悪いウソですよね?…お願いです…お願いです!ウソって言って!ウソって言って下さい!」

 ワルドは首を横に振る。

「君には…もっと落ち着いた時に…打ち明けるつもりだったんだ」

 それからワルドは自身に起きた過去の出来事を話してくれた。父の死後、従軍してからラ・ヴァリエール邸を訪ねた時の事を。

「酔っぱらった君の父上が部屋で呟いていたよ。次はワルドの息子の手柄をもらおうかな、と。婚約の話があれば繋ぎ止めておけるともね。僕たちの婚約は僕の一族を利用するための口実でしかなかったんだ」

 ルイズは言い知れない感情に支配され、震える。確かに、その戦いでルイズの父は多大な戦果を上げ勲章を得たと自慢げに話していた。母や二人の姉もとても喜んでいた事を今でも思い出す。

(そんな…お父様が…ウソよ…)

 ルイズは自身が今まで信じていた父の姿が崩れる音を聞いた。しかし、ならば尚更疑問が浮かぶ。何故ワルドは自分を助けようなどと?

「…ルイズ、僕は君が好きだ。あの小さな池で出会った頃から…君の優しさ、純真さが好きになった。年の差だ何だと言われようが、この気持ちは揺るがない。例え、仇の娘でも」

 ルイズは強く胸をうたれる。ワルドは仇の娘である自分をなお愛してくれているのだ。

「このままではルイズ、君も父上に利用されるかもしれない。そう考えただけで…僕は怖くなった。助けなきゃいけないって思ったんだ」

 ルイズは驚愕した。ワルドは愛の為に国を裏切り、ウェールズを殺そうというのだ。今日結婚を焦っていたのは何としてでも自分を連れて行く為だったのだろう。

「だから…レコン・キスタに?」

 ワルドは無言で頷く。才人は拳を握る腕から力が抜けていく。戦う気持ちに迷いが生まれたのだ。

「ガンダールヴ!」

 才人は突然の問いかけに思わず身構える。

「君はルイズを守り切れるか!?」

「守る…」

 才人は即答できなかった。ルイズを、レコン・キスタから…父親から守り切れるのか?…ウルトラマンコスモスではない。人間、平賀才人は守り切れるのか?

「良いことを教えてやろう!」

 飛び出すワルド。才人は一瞬反応が遅れ、その一撃を腹部に受け吹き飛ばされる。

「ラ・ロシェールの町を襲った鋼鉄の化け物!あれもレコン・キスタの兵器だ!」

「何だって!?」

 才人は飛び上がりワルドに飛び蹴りを浴びせる。

「あんなものを相手に戦って勝てるはずが無いだろう!奴らにつくのが得策という物だ!」

 ワルドは顎を蹴られるが踏みとどまり、先ほどのお返しとばかりに頭突きを繰り出す。才人は顔面にもろに受けるが、膝をつかずに俯く。

(あんな化け物をこの世界の技術で作り出すのは絶対に無理だ…この世界に長くいた訳じゃねぇが、それくらいわかるぜ…)

「守るさ!」

 才人はワルドに肉迫。みぞおちに一撃を叩き込む。

「ぐうっ!戯言を!何が出来る!」

 才人とワルドは手四っつで組み合う。

「一人じゃ無理だ!でもワルド子爵、あんたと一緒なら守り切れるはずだ!」

「今更僕に君たちの所に戻れと!?僕の覚悟をバカにするな!何としてでもルイズを連れて行く!」

 二人は同時に額を叩きつけ合う。互いに血を流すが、意にかえさない。

「うぬぼれるな!ガンダールヴ!人間の力なんてたかが知れているんだ!たとえ君がどれだけ強くてもだ!あの化け物を作り出すような奴らからルイズを守れるのか!」

 才人は昨日の夜の出来事を思い出す。ルイズの手を握れなかった自分…ウルトラマンコスモスとしての自分。だが、ワルドはどうだ?自らの愛を貫くために己の全てを捨て、今、只愛の為に修羅の道を選び自分と拳を交えている。

 

 

 

 

 才人は心の中で呟く。「皆さんごめんなさい」…と。

 

 

 

 

「諦めるな!お前がレコン・キスタからも!ルイズの父親からも!逃げ出すってんなら俺が戦う!」

 迷いのない一撃、それはワルドの胸板を強く打ち付ける。

「グボォ…僕が逃げただと!?」

 才人のみぞおちに突き刺さる今までで一番強い一撃。才人はよろめき倒れそうになるが、床を踏み砕いて足を突き刺し体を支える。

「そうだ!お前はルイズを安全な所に隠そうとしただけだ!一人では戦えないから逃げようとしてるだけだ!」

 ワルドは侮辱に怒り狂う。乱雑に放たれる拳、才人はそれを受け流し掌底を叩き込む。

「お前の惚れた相手は誰だ!?お前が守ろうとしてるのは只守られてるだけの女か!?違うだろ!お前が愛しているのはルイズだ!」

 ワルドはついに膝をつく。

「誰よりも気高く優しいルイズだ!只守られてるような珠じゃない!隣に立って一緒に歩んでくれる女だ!」

 才人は全力で叫ぶ。

「お前は一人じゃない!俺だって、ルイズだっているんだ!頼れよ!一緒に戦わせてくれよ!仲間だろうが!」

 ワルドは涙が流れてきた事に気が付く。痛みからでも、悔しさからでも無い。こんな自分を、未だに仲間と言ってくれる暖かい存在にだ。目の前にいる才人の拳がワルドの顔面目掛け放たれる。ワルドは戦う力は殆ど残っていなかったが、拳を返さない訳にはいかない気持ちになる。

「「うおぉぉぉ!」」

 互いの顔面に突き刺さるが、崩れ落ちたのはワルドだけだった。才人はワルドに優しく語りかける。

「俺にも…守らせてくれよ…ルイズを…今まで散々応援してきてやったじゃねぇか…最後までやらせろよ…?」

 才人は床に突き刺さったデルフリンガーを引き抜く。

(いいんだな?相棒…)

「俺なら…どんな化け物が相手だってルイズを守れる。…ホントは人間同士の争いごとには首突っ込んじゃいけないんだぜ?俺。でも、あの化け物どもを倒すためなら、ルイズを守るためなら…俺は戦う」

 

 

 

 

 

 才人の体が淡い光に包まれていき、収まる時には全く別の姿に変わっていた。ワルドも、ルイズも、息を飲むしかなかった。

 

 

 

 

「俺はウルトラマンコスモス、君たちを守る為に戦わせて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 




続きます。…キャラ改編が激しいです。ルイズの父親、急に出て来て屑野郎になってます。まあ最初からこの予定だったんですけど。

これも賛否両論激しいですがご容赦をお願いします。



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