左腕を自分で引きちぎったエボリュウはたたらを踏んで尻もちをつく。コスモスは慌ててルイズとウェールズの前に滑り込み、庇うように立ちふさがる。
「グ…ゥゥゥ…」
エボリュウは苦痛で苦しんでおり、腕を抑えているが、ルイズとウェールズを睨むと立ち上がり再びその巨体で迫りくる。コスモスは右腕を絡め取ると、その場に組み伏せる。
「デアァッ!(ワルドッ!)」
コスモスは何度もテレパシーで呼びかけ、エボリュウの中で戦っているワルドの意識を呼び起こそうとする。しかし、エボリュウに変化は見られない。
「ギシャァァァッ!」
咆哮、エボリュウは全身から電気エネルギーを放出させコスモスを攻撃、振りほどこうとする。しかし、コスモスは離そうとはしなかった。
(ここで負けてたまるか!)
コスモスは電撃の痛みに耐えつつ、手のひらから常に浄化エネルギーを放射。エボリュウに注ぎ続ける。
「ギシャァァ!」
エボリュウは右腕から触手を出すとコスモスの首に巻き付け攻撃してくる。コスモスは首を絞め上げられながらも、振りほどこうとはせずにひたすらテレパシーで呼びかけ、浄化エネルギーを送り続ける。
「グゥ…ァァ…ァッ!」
コスモスが苦痛の声を漏らした時、耐えかねたルイズがエボリュウに向かって叫ぶ。
「ワルドさま!もう止めてっ!本当のあなたは、そんな!…そんな怪物には負けない、強い人のはずよ!」
エボリュウはルイズの声が聞こえたのか、一瞬だけ触手を絞める力を弱める。が、直ぐに触手がまた激しくコスモスの首を絞めつける。
(ぐあぁ!…くそぉ…)
コスモスは拘束を解きエボリュウを立たせると、左手でその体を押さえつけながら、右の拳を握りしめる。
(ワルド…目を…覚ませぇ!)
コスモスは浄化エネルギーを握りしめた拳をエボリュウの顔面に叩きつける。瞬間、コスモスの脳裏に映像が流れ込んでくる。
…セ…
コスモスの脳裏に写り込んだのは必死に何かを訴えてくるワルドだった。しかし、何を言っているのかコスモスは聞き取る事が出来ない。
(くそっ!もっとだ!もっと話してくれ!ワルド!)
コスモスはエボリュウを押し倒すと顔面に頭突きを入れる。コスモスはより密着しワルドからのメッセージを聞き取ろうとしたのだ。
…コ…ロセ……コ…ロ…シテ…クレ…
ワルドが必死にコスモスに訴えていたのは自分を殺してくれというものだった。このままではルイズの命を奪うかもしれないという不安な感情も同時に伝わってくる。
(ふざけんな…)
コスモスは怒りで震えた。ワルドをここまで苦しめ、死を望ませる原因を作ったレコン・キスタに。そのワルドを救えないでいる自分自身に。そして…
「デアァァァァッ!(諦めんなぁぁぁぁっ!)」
全てを諦めようとしているワルドに。
(俺たちは一緒に戦うんだろう!?一緒にルイズを守るんだろう!?何より!お前、ルイズが好きなんだろう!?こんな…こんな事で諦めてんじゃねぇぇぇっ!)
コスモスは頭突きを何度もエボリュウに叩きつけると、その巨体を両手で持ち上げる。
「ダアァッ!」
コスモスはエボリュウを全力で投げ飛ばし、地面に叩きつける。エボリュウは体を強く打ち付け、ダメージのせいで動けないでいた。
(諦めて、たまるかぁぁっ!)
コスモスは両手を胸の前まで持ってくるとその間に浄化エネルギーを溜めていく。それはどんどん密度を高め、零れた光の粒子がルイズ達を照らす。
「ギシャァ…」
エボリュウは未だに立ち上がれないでいた。このチャンスは逃せない、とコスモスは全力でエネルギーを蓄積させていく。その時、ふと脳裏に今までのワルドとの思い出が蘇ってくる。
学院で再会し、一緒に旅だった時。
ワルドが母と再会した時、多くの悲しみを生んだイフェメラの時。
ラ・ロシェールで黒ローブの女性から助けてもらった時。
謎の空間でベル星人と戦った時。
派手なプロレス技を教えて、空賊達と一緒に戦った時。
結婚式を行うと伝え、皆で舞い上がっていた時。
互いの死力を尽くして戦い、分かり合えた時。
コスモスは足を開き、力強く踏みしめる。集めたエネルギーを右腕に固定、エボリュウに向ける。その時、コスモスの中にいたデルフリンガーはある事に気が付く。
(…?こりゃあ…へっ、相棒…やったな。自分の力で…想いの力で、技を昇華させやがった!)
溢れて、零れていた光の粒子が凝縮、完全な光の光球に変わる。そこからゆっくりと、光の帯が伸びていく。それはゆっくりと、しかし確実にエボリュウの体に吸い込まれていき、その体を優しく包み込んでいく。ルイズは最初、コスモスがワルドを殺そうと光線を放ったと恐々としたが、今はその光景に見惚れていた。
「…暖かい…優しい光…」
コスモスは自身のカラータイマーが警告音を鳴らし始めても、なお光を放ち続ける。諦めない、絶対にワルドを助けたい。その気持ちがこの技を生み出した。
『ルナエキストラクト』!
光に包まれたエボリュウの額から「何か」が浮かび上がってくる。それはコスモスの『ルナエキストラクト』の光を伝い、コスモスの手の中にゆっくりと納まる。
「デアァ!」
コスモスは跳び上がると、ルイズの側に着地ふわり、と着地する。ルイズが駆け寄ると、目の前にエボリュウから浮かび上がった「何か」を優しく下ろす。ルイズはそれを見て思わず笑みをこぼす。
「ワルドさま!」
それはエボリュウと完全に融合していたはずのワルドだった。ワルドが自分で引きちぎった左腕は修復されていなかったが…そこにはエボリュウに取り込まれる前の人間の姿をしたワルドがいた。コスモスはエボリュウを浄化するより、ワルドを分離させる事で救い出したのだ。
「ありがとうコスモスッ!」
ルイズの笑顔の礼を聞くと、コスモスはエボリュウに向き直る。エボリュウを包んでいた光が消えると、エボリュウは何事もなかったかのように咆哮を上げる。
「ギシャァァァァッ!」
触手を振り回し迫るエボリュウ。しかし、その中にワルドはいない。そこにいるのは生命に寄生する凶悪な生物のみだ。コスモスはもう手加減する理由が無い。コスモスはその左腕のブレスレットに手をそえる。
『ウルトラムチ』!
コスモスはブレスレットを鞭に変え、エボリュウの右足を絡めとる。突然の事に驚き、暴れ出すエボリュウだが、いとも簡単に足を引っ張られその場に転倒する。
(今だ相棒!)
(ああ!)
コスモスは右腕を天に掲げると、赤い光が溢れ出す。それはコスモスを瞬く間に包み込み、『ウルトラマンコスモス・コロナモード』に変える。
ピコン!ピコン!ピコン!
(相棒っ!残り時間は多くないぞ!)
(ああ、急ぐぞ!)
コスモスは起き上がろうとしていたエボリュウに掴みかかると、片手で持ち上げる。そのままニューカッスル城の城壁に向けて投げ飛ばす。
「デアアァッ!」
全力で投げ飛ばされたエボリュウは城壁に突き刺さり、城壁を崩壊させる。崩れた瓦礫の下敷きになったエボリュウは、片手でふらつきながら立ち上がる。コスモスはエボリュウに向け、両腕を突き出す。
「デアアアァ!(細胞をひとつ残らず焼き尽くしてやるっ!)」
この時、デルフリンガーはある事に気が付く。コスモスが…才人がデルフリンガーの助けを借りる事無く、自分の力で新たな技を生み出そうとしている事に。
(…相棒、成長したな…全力でやんな!)
コスモスは、自身がイメージできる中で一番力強く、力を発揮できるポーズを思い描く。それは今まで憧れ、夢見て来た戦士たちが得意とする技の構え。
(行くぜっ!)
コスモスは両腕に宇宙エネルギーを限界ギリギリまで溜めると、右腕を直立、左腕を添えてL字を作る。それは…その技は、今のコスモスの最強の必殺光線っ!
『ネイバスター光線』!
「デアアアアァァァァァーーーー!」
コスモスの右腕から放たれた紅蓮のエネルギー波は、寸分違わずエボリュウに直撃。エボリュウの体を瞬く間に駆け巡り木端微塵に粉砕。細胞を一つ残らず燃やし尽くし、爆散させた。
コスモスは才人の姿に戻ると、ワルドの左腕の手当てをしていたルイズとウェールズに駆け寄る。どうやらワルドが意識を取り戻したようで、介抱していた。
「ワルドっ!無事か!?」
才人はワルドを助け起こす。ワルドは一つ伸びをすると、なんとそのまま自分の足で立ち上がったのだ。
「ありがとう、ルイズ、サイト。諦めかけていた僕を助け出してくれて」
ルイズは元気なワルドを見て涙を流しながら抱き着く。
「良かった!一時はどうなる事かと…本当に無事で…無事で…っ!」
ワルドは右腕だけでルイズを抱きしめると、額にキスをする。
「すまないルイズ、また君を苦しめてしまった…僕のせいでどれだけ危険な目に合わせてしまったか…っ!」
才人はいや、と首を振る。
「ワルドはよくやったよ。あんな怪物に飲み込まれて…でも、自分の意識を保ってた」
諦めかけてたのは頂けないけどね!と、才人は悪戯っぽく言う。三人は思わず笑い合う。しかし、完全に蚊帳の外だったウェールズが咳払いをしているのに気付く。
「んっん…悪いが、感動の再会という訳にはいかないようだよ」
ウェールズは杖を構える。ルイズ達は気になりウェールズの視線の先を見ると、信じられない者達がそこまで迫っていた。
「「「レコン・キスタ!?」」」
なんとエボリュウにさんざん痛めつけられ、撤退していたはずのレコン・キスタ軍が戻ってきたのだ。どうやら意地でもウェールズの首をとりたいらしい。
「君たちは速く逃げるんだ!ここは僕が囮にっ!」
ルイズは、「まだ死ぬ気でいるの!?」と抗議の声を上げるが、才人がそれを制する。共に戦うはずだった味方を全員失い、一人死に損ねたウェールズの気持ちを考えるといたたまれなかったからだ。
「速く!君たちの任務はその手紙を持って帰る事だろう!」
その時、ウェールズにワルドが語りかける。
「…死ぬ気か?」
ウェールズは短く呟く。
「ああ」
「ならば少し付き合わせてもらおうかな」
突然、ウェールズの隣にワルドが躍り出て杖を構える。これに才人が驚き声を上げる。
「何やってんだワルド!」
ワルドは振り返らずに静かに答える。
「僕はここで奴らをくい止める」
才人はワルドの肩を掴むが、ワルドは優しくその手を包む。
「勘違いしないでくれ、僕はウェールズ皇太子に最後まで付き合うつもりは無いさ」
ワルドは才人の手を引き、その肩とルイズの肩を抱き寄せると二人に優しく囁く。
「僕は絶対に死なない。必ず生き残る。どんな事になっても」
ワルドは二人を離すと、才人の手をとり固く握手する。
「ありがとうサイト。君のおかげで、僕は最後まで諦めない事の大切さを知る事が出来た。君にならルイズを任せられる、ルイズをどんな危険からも守れるはずだ。頼んだよ?」
ワルドはルイズに向き直ると、小指を立て、ルイズの右手の小指に絡める。
「ルイズ、必ず君を幸せにしにいくよ。約束しよう?いつかの小舟の上の時みたいに」
ルイズは目じりから涙が零れるが、何も言わずに笑顔で頷く。
「「ゆびきりげんまんウソついたらはりせんぼんの~ます♪ゆびきったっ!」」
二人は楽し気に約束を交わす。無邪気で幼かったあの頃のように。
「すんだかい?」
ウェールズに聞かれたワルドは頷き、隣に立つ。
「まさかあなたと肩を並べて戦う時が来るなんて思いませんでしたよ。ウェールズ皇太子」
ウェールズはふっと、鼻で笑う。
「確かに、誰が思うだろうね?…しかし、君が羨ましいよ」
「と、言いますと?」
「愛の為に、必ず生き残ると約束出来て…僕は愛の為に生き残れない愚か者さ」
ワルドはいいえ、と首を振る。
「あなたは愛に生きる男だ。それに、僕だって何の算段も無いわけじゃ無いんですよ?あの怪物に取り込まれていた為か、魔力が回復し、体力も戻ってるんです」
ワルド曰く、左腕以外元気そのものだそうだ。
「僕は全力でいけますよ」
「なら、互いに全力を尽くそう」
才人は二人の会話を聞くと、ルイズを抱きかかえて、背を向ける。
「ワルド!早く帰って来いよ!ルイズの気持ちが完全に俺に向かないうちにな!」
ワルドは背を向けたまま答える。
「当たり前だ!それと、抜け駆けするんじゃないぞ!」
「そんな卑怯な事するかよ!」
ワルドと才人は笑い合うと、互いに全力で駆けだした。一人は戦うために、一人は守るために。
「「生きて会おう!」」
才人はエボリュウが開けた城壁の穴から脱出すると、森の中を全力で駆け抜ける。目指すは森の向こう、アルビオンの港だ。そこで船を奪い、脱出するのが才人の作戦だった。
(くそっ!飛べりゃあなぁ…エネルギーねぇから無理だけどよ…)
才人はコスモスに変身しようにも、エネルギーが足りなくて歯がゆい思いをしていた。そんな気持ちだったからだろう。『それ』の接近に気が付かなかったのは。
「ピキューーーンッ!」
突然響き渡る巨大な生命体の鳴き声。才人は思わず立ち止まり、『それ』を見上げる。
「あっあれは!?『宇宙大怪獣・アストロモンス』!?」
続きません。(え!?)次回より、何でアストロモンスが出て来たの?という話をします。