ゼロの使い魔~真心~   作:へドラ2

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本当にお待たせしました。続きです。皆さん、お久しぶりです…仕事忙しすぎぃぃぃっ!書く時間なーーーーい!


何とか書きました。読んでって下さい。(早く赤青隕石登場させてぇ…)                                    


ゼロの使い魔~真心~第46話

 トリステイン城内の執務室、そこでアンリエッタはひたすら書類仕事に追われていた。今までそれらを担当していた役人達の殆どがマグマ星人達の策略によって暗殺され、後任が誰も決まっていない為だ。

「はぁ…」

 アンリエッタは物憂げにため息をつく。ルイズ達に任せた任務はどうなっただろう?あの優しく暖かい目をした使い魔の少年はちゃんとルイズを守ってくれているだろうか?どうしても気になり、その事ばかり考えてしまう。

「(ワルド子爵がついているとはいえ…)…心配だわ…」

 その時、ノックと同時にマザリーニ枢機卿が入室してくる。どうやら、また新たな書類のようだ。アンリエッタは露骨に嫌な顔をする。

「…姫様、そのように露骨に表情に出されますと…その…私も気が滅入ります」

 マザリーニ枢機卿は気まずそうにアンリエッタに書類を渡す。受け取ったアンリエッタは表情を一転、とても、と・て・も素敵な笑顔を作る。

「…で?後任の大臣他役職は決まったのかしら?」

 アンリエッタのあからさまな態度。マザリーニ枢機卿は思わず視線を逸らす。

「…いえ、その…まだ…」

 アンリエッタはマザリーニ枢機卿に飛び掛かると、背中にまたがり両手で首を拘束。全力で背骨を折りにかかる。

「いつまでかかるんですか!もう一週間ですよ!一週間!いつまで人事が決められないのですか!」

 マザリーニ枢機卿は必死に逃れようともがくが、逃れられず仕方なくそのまま答える。

「申し訳ありません!姫様!残っている有能な人材となると…ぐほぉっ!」

 マザリーニ枢機卿が泡を吹き始めたので仕方なくアンリエッタはマザリーニ枢機卿から降り、自分の椅子に座る。

「で?私の出した条件をもった方はいらっしゃいましたか?」

 アンリエッタの苛立ちと怒りの感情が渦巻く一言。普段のアンリエッタならあり得ないが、今のアンリエッタは膨大すぎる仕事量で爆発寸前だった。

「はい、とにかく実務能力の高い者ですね。リッシュモン殿やモット殿、ご存命の貴族の中で実務能力が高いのはこの二人です。ですが…」

「他は…いないと?」

 マザリーニ枢機卿曰く、貴族の子息たちは多いがどれも経験の無い者達ばかりで、いきなり国政は任せられない。かと言ってリッシュモンやモットは既に割り振られた職務があり、これ以上の兼任は出来ないという事だ。

「(まぁ…リッシュモンに要職の兼任をこれ以上させる訳にはいけませんからね…)あぁ、そういえば…」

 アンリエッタは幾つかの書類の中から、モットが作成した書類を取り出す。

「この各有力貴族達の不正会計、横領の証拠書類、これを作成したのはモット伯爵だったわね?」

 マザリーニ枢機卿は「そうです」と答える。

「全ての証拠を集めているのよね…何故かしら?」

 マザリーニ枢機卿は思わず首をかしげる。

「何故…と申されますと?」

 アンリエッタは訝し気な顔をする。

「少なくとも私の知るモット伯爵はこのような人物では無いわ。こんなふうに真面目に仕事をするなんて(只のエロ親父がっ)…しかも、自身の横領金を全額返金してきたわ」

 マザリーニ枢機卿はアンリエッタが呟いた罵声は聞かなかった事にし、良い事ではないですか、とアンリエッタに問いかける。

「まぁ、これで自身の罰則を免除して欲しいという事なのでは?その為に他の貴族たちの情報を売り渡しているのでしょう」

 アンリエッタはふむ、と考え込む。

「…この報告書が正しければ、即座に他の貴族達からの返金を指示しなければ。それだけで国庫は大分潤います。町の復興費の工面は何とかなりそうね…その為にも」

 アンリエッタは鋭くマザリーニ枢機卿を睨みつける。

「業務の効率化が必要です!貴族でも平民でも身分は問いません!早く有能な人材を探してらっしゃい!」

 マザリーニ枢機卿を追い出すと、アンリエッタは再び書類の山に向き直る。

(はぁ…ウェールズさま…あなたに会いたい…)

 

 

 

 

 

 

 

 銃士隊副隊長ミシェルは、馬を走らせ一路モット邸に向かっていた。勿論エレキングのリムも一緒である。ミシェルの頭の上にちょこんと乗っている。入り口の所までやって来ると男性の使用人が出迎え、中に通される。

「しばらくお待ちください」

 そう言って男性の使用人が行ってから五分後、モットがやって来る。…何故かコソコソして。

「何をしているんだ?」

 モットは誤魔化すように笑う。

「はははっ…まあ色々あってね。で、ご用件は?」

 ミシェルは鞄から幾つかの書類を取り出すと、モットに手渡していく。

「これが今の段階でわかる限りの証拠品だ」

 それは細かい金額が不透明な決算報告書や、額に差異が有る納税表など、貴族達の不正な金の流れの証拠の数々だった。

「ありがとう、ピット星人。これでかなりの貴族たちの不正が明らかになった。これらを取り戻せれば大分この国の財政は潤うだろう」

 今、ミシェルとモットはこのトリステインの財政を立て直す為に必死になって動いていた。というのにも理由がある。バド星人と融合する前におこしていた不正をモットが確認していると、色々な不正の記録が溢れ出してきたのだ。ベムラーやマグマ星人の攻撃によって出た被害の復興財源が無くて困っているというのに、貴族達は呑気に私腹を肥やしていた。その状況を解消するためにモットはミシェルに協力を仰ぎ、二人で不正を暴いていたのだ。

「あぁ、ようやくか…」

 ミシェルは少し疲れたようにため息をつく。このために暫く働きづめだったのだ。ひと段落して疲れが出たのだろう。その時、モットは「そう言えば」とミシェルに問いかける。

「『レコン・キスタ』は何か動きはあったのかい?」

 ミシェルは首を横に振る。

「いや、アルビオンで大規模な攻勢に出るという伝達が来て以降何もないんだ」

 ミシェルは元はレコン・キスタのスパイだった人間。ピット星人と融合した今はその立場を利用し、二重スパイをしているのだ。勿論、こちらもモットと協力して行っている。

「ばれたということは?」

 モットは心配そうに聞いてくるが、ミシェルはいや、と首を振る。

「無いな。暫く本部からの連絡も無いし、リッシュモンとの接触も無い。ばれたという事は無いよ」

 モットとミシェルにとってこれは喜ばしい事であり、同時にもどかしい事でもあった。ばれていない事は良い事だが、リッシュモンに近づけなければ有益な情報も、リッシュモンの不正の証拠もつかめないからだ。

「という事は、こちらは進展なしか…」

「「はぁ…」」

 二人が同時にため息をついた時、突然どたどたと廊下を駆け回る音がする。ミシェルは何事かと目を丸くするが、モットは突然慌てふためく。

「ああぁっマズイ!」

 モットは慌てて鏡の中に逃げ込もうとする。しかしドアが勢いよく開き、アイが飛び込んでくる。

「いたー!見つけましたよご主人様!」

 そう言うとアイはモットの服の襟首を捕まえる。離すよう訴えるモットに引きずって行こうとするアイ。状況が飲み込めないミシェルは、とりあえず興奮するアイを落ち着かせる。

「まあまあまあ、どうしたんですか?伯爵が何か?」

 アイはミシェルの方を向くと、目を細めミシェルの全身をくまなく見始める。

「なっ何かな?」

「貴方、ご主人様の愛人か何か?」

 ミシェルはアイの冷たい声に思わず震える。ミシェルはアイが少し怖くなり慌てて否定する。

「違う違う違うっ!愛人なもんか!」

 アイはそれを聞いくと途端に笑顔を作り、深々とお辞儀する。

「これは失礼しました。ご主人様は今からお食事なので申し訳ありませんがお引き取りを…」

 その時、モットが慌てて口を挟む。

「待てアイッ!私はもう食べた、食べたぞっ!」

 アイは笑顔でモットの頬をモニモニと揉みしだきながら、強い口調で語りかける。

「まだ半分ですよ!」

 モットは必死にもがく。

「平民の食事二日分だぞ!一食でそんなに食べられるか!」

「前のご主人様は食べていました!」

「今の私には無理だ!」

「食べなければやせ細ってしまいます!」

 ミシェルは苦笑いするしかなかった。やせ細る?モットが?むしろその方がいいだろう。…とは口が裂けても言えないだろう。アイの目線が怖い。しかし、そこでミシェルはふと気が付く。

「おや?リム?」

 先ほどまでミシェルの頭の上に乗っていたリムが見当たらない。周りを見渡すと、窓の冊子に登り伝書鳩とにらめっこをしていた。

「ピキィィィ……ピキ?」

 ミシェルは飛び掛かるタイミングを見計らっていたリムの腹を抱きかかえると、頭の上にちょこんとのせる。

「ハイハイ、後で遊んであげるから待っててね。この子は私に用があるみたいだ」

 伝書鳩はミシェル達銃士隊がモット邸との連絡ように使用する伝書鳩だった。ミシェルは伝書鳩の足から手紙を取り外すと椅子に座り、リムを膝にのせて読み始める。

「何の連絡かな…?……なっ!?」

 ミシェルは内容に驚き思わず立ち上がる。…突然ミシェルが立ち上がった為、膝に乗っていたリムはころんと転げ落ち、「ピキっ!?」と顔面から落ちていた…。

「おい大変だ!魔法学院へ急ぐぞモット!」

 ミシェルはリムの首根っこを掴むと、出口へ向かって駆けだす。モットは事情が呑み込めないが、ミシェルの急変にただならぬ物を感じ駆けだそうとする。

「何処へ行くんですか!まずは食べてください!」

「もがが!?」

 アイに捕まったモットは口に料理を詰め込まれる。アイにガッチリ拘束され、モットはミシェルを追う事が出来ず苦し紛れにテレパシーを送る。

(すまない!すぐに追う!すぐに追うから…後で事情を説明してくれ!)

 ミシェルはテレパシーで急ぐように伝えた。…苦笑いを隠しながら。

 

 

 

 

 

さかのぼる事一日前、トリステイン魔法学院にて。その敷地の片隅にある、マチルダが様々な花を育てている花壇、そこに赤髪の美女、キュルケはいた。その傍らにはメイド服の女性、シエスタもいる。

「さっ!今日もお花にお水をあげましょう!ミス・ツェルプストー!」

 キュルケはシエスタに肩を抱かれながら、花に水をあげていた。以前まで毛布に身を隠して部屋から一歩も出られなかったキュルケだが、少しずつ変化が見られていた。

「ふふ…今日も元気ね、シエスタ」

 恐怖体験から失っていた笑顔を時折見せるようになったのだ。そして、今の服装は学院指定の学生服である。何かに身を隠す事が無くても人と接する事が出来るようになったのだ。今でも一人で部屋の外に出る事は難しく、男性と接する事も出来ないが、確実に良い方向へ向かっている証拠だった。

「しかし、もうこんなにチグリスフラワーが大きくなっているなんて思わなかったわ」

 キュルケの髪と同じ美しい赤色の花は、花壇の中、他の花々を押しのけん勢いで咲き乱れている。その花弁の大きさも花々の中では一番大きい。

「ミス・ツェルプストーが毎日お世話を欠かさないからですよ!…でも、もうそんなになるんですね。ミスヴァリエールが…才人さんが旅立ってから…」

 キュルケは空を見上げるシエスタの横顔を静かに見つめる。まだ一週間程しか経っていないのに、シエスタの横顔はまるで何か月も会っていないような寂しさを感じさせた。

「…彼の事…好きなの?」

「はい」

 即答だった。シエスタの迷いのない答え、キュルケは羨ましかった。自分は才人の事をダーリンなどと呼びながら、本当に好きだったのだろうか?自分が問われたら即答出来ただろうか?…いや、出来ないだろう。

(サイトは私の為に必死になってくれた…サイトは私を外に連れ出してくれた…サイトは私を優しさで包み込んでくれた…)

 キュルケは惚れっぽかった。自分では抑えられない程、どうしても。そんな自分が、この真っすぐな気持ちの女性の前で才人の名を口にする資格は無い。そう思い、今も『彼』としか聞けなかった。

「…それにしても、この土って不思議ね?どんな仕組みなのかしら?」

「さあ?実は私も詳しくは知らないんですよ」

 キュルケは疑問にモヤモヤしていたが、水を浴びて嬉しそうに揺れるチグリスフラワーを見るとそんな疑問はすぐに忘れてしまった。

「ふふっ!チグリスフラワーって植物って言うより、まるで動物みたいですね?」

 シエスタの愉快そうな笑いに、キュルケはふと今日までの事を思い出す。そういえば水をあげた時、よく動いていたような…?キュルケが考えていたその時、今のキュルケが一番聞きたくない音が聞こえてくる。男性の声だ。

 

 

 

 

「おやぁ?こんな所でサボりとは、感心しないねぇ。ミス・ツェルプストー?」

 

 

 

 

 キュルケは男性の声を聞き、思わずシエスタの後ろに隠れる。喋りかけて来たのは魔法学院教師のギトーだ。教師というのはどの世界でもあだ名という物をつけられるが、このギトーにつけられたあだ名は『不気味』である。相手を小ばかにする表現、物静かという事もあるが、一番の理由は一部の女性を気持ち悪い目で見るからだ。

「そうやってサボっているから頭に栄養が行かない、無駄な贅肉ばかりつくんだよ」

 …今キュルケの胸元に送られている『視線』がそれである。キュルケは胸元を手で隠すと、よりギトーから距離をとる。

「ふんっ!まぁいいさ。ミス・ツェルプストーはそこまでの女でしかない」

 この発言に怒りを覚えたのはキュルケではなく、シエスタだ。ギトーの教育者としてあるまじき発言に食って掛かる。

「ミスタ・ギトーッ!貴方それでも教育者ですか!ミス・ツェルプストーの気持ちを考えてください!それに彼女は今休学中です、非難を受けるいわれはありません!」

 ギトーはシエスタのもの言いが頭にきたのか、射殺すように睨みつけると杖を握る手に力を入れる。

「下賤な平民の使用人ごときが…っ!…いいだろう。貴様がどれ程下賤でいやしく、矮小な存在か、その身に刻み込んでやるっ!」

 ギトーは杖を振りかぶり、『ウインド・ブレイク』をシエスタに向け放つ。それは寸分の狂いも無くシエスタの体を打ち据え、全身の骨を粉砕する。

 

 

 

 …はずだった。

 

 

 

 突然、シエスタの前に巨大な土くれが現れ、『ウインド・ブレイク』の身代わりになる。ギトーは突然邪魔をして来た相手は何処かと見渡すが、振り向こうとしたギトーの首筋に『ブレイド』が突きつけられる。

「ミスタ・ギトー?このままさらし首にでもなりますか?下賤な者どもと同じように」

 『ブレイド』を首に突きつけ、今にもギトーの首を跳ね飛ばそうとしているのは、シエスタとキュルケの様子を時折見守っていたマチルダだ。

「おやおや、ミス・ロングビル。冗談ですよ冗談、杖を下ろしてください」

 ギトーは笑ってマチルダに話しかけるが、マチルダは杖を下ろさない。むしろその視線を鋭くする。

「私には、通用しませんよ?」

 ギトーはここにきて初めて表情に焦りを見せる。「分かりました、もうしませんよ」と言うと、そそくさとマチルダから離れる。

「そうそう、言い忘れていましたよ。そこの使用人」

 シエスタは指を指されると、警戒して睨み返す。

「あなたにも一つだけ、誇れる物がありましたよ。その肥え蓄えられた肉体ですかね?はっはっはっ!」

 ギトーは捨て台詞を吐くと、振り向いて去っていった。ギトーの姿が見えなくなると、シエスタは全身の力が抜けその場に崩れ落ちる。

「怖かった~…助かりました!ミス・ロングビル!」

 マチルダは二人に駆け寄ると優しく抱きしめる。

「二人とも大丈夫かい?間に合って良かった」

 キュルケはシエスタの後ろに隠れた時から耳を塞ぎ、目をつぶって震えていた。抱きしめて来たマチルダに言われるまでギトーが去った事にも気が付かなかったのだ。

(私、やっぱりダメだ。もう男を信じられない…)

 マチルダは二人を慰めながら、ギトーの様子に一人違和感を抱いていた。

(おかしい…確かにギトーは自身の才能を鼻にかけてる奴だったし、自分より弱いものを平気でいたぶるような奴だったが…わざわざミス・ツェルプストーの所に来て、騒ぎを起こしてまで何を?)

 キュルケがこの状態になった時は何も行動を起こさなかったのに。何故今頃?ギトーはマチルダがフーケ時代に調べていた情報の中にも不審な情報はない人物。しかし、マチルダの不安は増すばかり。

(何も起きなければいいが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの女ども、許せない。魔法の中で最強の属性、風を操るこの私を侮辱して…大体、あの赤毛の女は以前からそうだったのだ。この私を敬う気持ちを一つも持ち合わせていない。今日が最後のチャンスと、時間をくれてやったのに。そうすれば愛人くらいにはしてやったのだが…。

 まあいい、私をバカにした女ども。貴様ら全員をひざまずかせ、孕ませ、屈服させてやる…ふはっ!…明日が楽しみだ…ハハッ!ハハハハハッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続きます。本当にお待たせして申し訳ない。年末忙しくて。なるべく時間を見つけて書くので今後とも気長にお持ちください。

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