ゼロの使い魔~真心~   作:へドラ2

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本当にお久しぶりです。お待たせしました。続きです。そして、今回も長いです。詰め込みすぎました…まずは前回書き忘れた所から。



デルフリンガー
 まさかの変身アイテムになった剣。素人状態の才人がいきなりコスモプラックを作り出して変身するのは変かな?と思い、現在の立ち位置に。原作動揺色々設定を考えているが、まだまだ先の話。戦闘面でアドバイスを出す時に一番重宝し、不自然じゃないと思っている。また、才人とデルフリンガーだけで会話出来て、話を進行できて便利。と、私が勝手に思っている。


ゼロの使い魔~真心~第49話

 アニエスから魔法学院に賊が侵入したという一報を受け、モット邸から飛び出し一時間、ミシェルは学院近くの街道に到着、同じく学院へ向かう銃士隊本隊と合流していた。

「状況は!?」

 馬で並走するセニカに話を聞くと、賊は生徒達を人質をとり立てこもっているとの事。一刻も早い事態の収束が迫られる状況、急がねばならない。

「おいっ!?ミシェル!あれは何だ!?」

 学院が見えてくるという所まで来たところで、アニエスが驚きの声を上げる。ミシェルがアニエスの隣に馬を寄せると、学院の外壁越しに肝を抜かれる光景が待っていた。

「あっ、あれは?!」

 学院の敷地内を暴れ回る見た事も無い不気味で、巨大な生命体。それだけでも十分驚きなのに、直ぐ後に信じられない程大きな『サモン・サーヴァント』のゲートが発生。更に巨大な奇怪な生物が姿を現す。

「宇宙大怪獣アストロモンス!」

 

 

 

 

 

 

 オスマンはとうとう耄碌したかな?と自問自答する。人よりも遥かに長く生きて来た自身の人生の中で一度も見た事も無い巨大な『サモン・サーヴァント』のゲート。そこから出て来たのは何だ?ドラゴン、ワイバーン…そんなものでは足元にも及ばない程巨大で、今しがた焼け死んだはずのギトーが膨れ上がり誕生した異形、それよりも更に大きい体。

「無駄に長生きしても得る事は無いと思っておったが…これは…」

 オスマンは今しがたその巨大な魔獣を呼び出した少女を、異形達の足の間から視界に収める。

「良いものを見せてもらったよ、ミス・ツェルプストー」

 オスマンはどっこいしょと他の教師たちに身を任す。老骨に鞭打ちすぎたようだ。全身を疲れに支配される。オスマンは他の教師達と一緒に事の成り行きを見守る事にする。

(わし達に出来るのは…見守ることのみ…行きなさい…やりなさい。ミス・ツェルプストー。君の思うままに…)

 オスマンが独白するのと、二匹の巨体が吠えるのは同時だった。

 

 

 

 

「グギャァァァァッ!」

「ギシャァァァァッ!」

 

 

 

 

 『チグリス』とエボリュウの戦いが始まった。互いに突撃し、ぶつかり合う巨体。衝撃波は学院を揺るがし、見ている者を恐怖ですくませる。パワーで遥かに勝るチグリスは何の苦も無くエボリュウを吹き飛ばし、学院の外壁に叩きつける。

「ギシャァッ!?」

 あっさり吹き飛ばされたことに戸惑うエボリュウだが、立ち上がる前に追撃の鞭を浴びせられる。自身も鞭を伸ばし対抗しようとするが、あまりにも強靭なチグリスの鞭の前に容易く弾かれてしまう。

「ギャァァァァッ!」

 叩きつけられる度にエボリュウの体を打ち砕き、叩き潰し、破壊していくチグリスの鞭。エボリュウはその巨体を転がし逃れると、両手の鞭を一房にまとめ上げ、チグリスの鞭と同じ太さにする。

「グギャァァァァッ!」

「ギシャァァァァッ!」

 互いに放った鞭の一撃…一瞬互角に見えたが、それは瞬く瞬間に終わる。痛々しい引きちぎれる音と共に、エボリュウが苦痛の咆哮を上げる。轟音を上げ、倒れ込むエボリュウ。

「いいわよチグリスッ!そのままやっちゃえ!」

 チグリスの戦闘力に喜び飛び跳ねるキュルケ。側で見ていたマチルダは衝撃の光景に腰を抜かしていた。

「…こっ…これが、チグリスフラワーの正体…?」

 その時、エボリュウがこちらに視線を向けたことにマチルダは気が付く。その瞬間、エボリュウの右腕に一本残った鞭が二人に迫る。

「「うわぁっ!?」」

 一瞬で巻き付くエボリュウの鞭。凄まじい勢いで引き寄せられ、エボリュウの手の中に納まる。

「グギャァ?!」

 人質のようにチグリスに二人を見せつけるエボリュウ。ギトーの意識が少なからず残っている分、頭も回るようだ。先ほどまでの攻勢とは一転、チグリスは攻撃できなくなる。

「グルルルル…」

 攻撃に移れず唸るチグリス。それを見てエボリュウは嘲るように笑い、左腕から電撃を放ちチグリスを攻撃する。

「グギャァァッ!?」

「ギシャァァァァッ!」

 腹部に電撃を受け、その場にうずくまるチグリス。立ち上がろうとすると、エボリュウの左足に蹴り飛ばされ、踏みつけられる。

「チグリスッ!あたしに構わずに攻撃してっ!」

 叫ぶキュルケ。チグリスはイヤイヤ、と首を振ってキュルケに訴えかける。しかし、キュルケは大声で叫ぶ。

「お願いっ!戦ってチグリスっ!あなたまで失いたくないっ!」

 キュルケは涙を流してチグリスに訴えかける。キュルケはフレイムを殺されている。これ以上目の前で自分を想ってくれている者を奪われるのは我慢ならなかった。その時、キュルケの肩に優しく手が置かれる。

「安心しなツェルプストー、今出してやるっ!」

「え…?ろっ、ロングビルっ!?」

 いつの間にかマチルダはエボリュウの鞭から抜け出し、『ブレイド』で鞭を切り裂きキュルケを助け出そうとしていた。

「どうやってっ!?」

「なーに、肩外せば楽勝さねっ!」

 キュルケは想像しただけで身震いする。しかし、流石は元盗賊『土くれのフーケ』。どんな危機的状況も乗り越えてしまう。

「もう…少し…だぁぁっ!」

 肉を引き裂く音と共に、キュルケを絞めつけていた鞭が切り裂かれる。宙に投げ出された二人は『フライ』でその場から離れようとした。…ところである事に気が付く。

「「魔力切れっ!?」」

 キュルケは『フレイム・ボール』連打、マチルダは今の全力の『ブレイド』で魔力が底をついてしまったのだ。このままでは地面に激突する。

(せめてツェルプストーだけでもっ!)

 マチルダはキュルケの頭を抱えると、自身の背中を下にし、目を閉じて迫る衝撃に備える。

「…?」

 しかし、軽い衝撃だけで落下による痛みは襲ってこない。マチルダは恐る恐る目を開けると、地面から微かに浮いている事が分かった。腰の下から伝わるのは丸い感触。

「…?…ッ!リムちゃん!?」

 二人を受け止めていたのはミシェルが慌てて投げ込んだリムだった。二人をそっと下ろしたリムは「ピキィ!」と誇らしげに小さい胸をはると、ふんぞり返っている。いつの間にか銃士隊が学院の敷地内に突入していたようだ。キュルケは足蹴にされているチグリスに向け叫ぶ。

「私たちは大丈夫っ!思いっ切りやりなさいっ!」

 チグリスはそれを聞くと同時、踏みつけてきていたエボリュウを背中で跳ね飛ばす。エボリュウは背中から叩きつけられるが直ぐに立ち上がり、両腕を振り上げチグリスに殴りかかる。が、それは容易くチグリスの鞭で受け止められる。

「ギシャ?!」

「グギャァッ!」

 チグリスはエボリュウの右腕を抑え込むと後ろに回り込み、左腕の鎌を振り下ろしエボリュウの右腕を切り落とす。エボリュウは激痛に吠えながらその場に崩れ落ちると、辺りを見渡して学院の教師達に目をつける。正確にはそこに捕らわれている二人のメイジに。

「ギシャァァァァッ!」

 エボリュウは決死の力で飛び出すと、マチルダが作り出したゴーレムの腕に捕らわれている二人をゴーレムの腕を吹き飛ばしてかっさらう。

「ギシャァァァァッ!」

 エボリュウは二人を全力で握りつぶす。突然の狂行。あまりの凄惨さに学院の教師や、銃士隊の一部面々は目を覆うが、オスマンは何かに気が付いたのかキュルケに叫びかける。

「いかんっ!急ぎ奴らに止めを刺すのじゃミス・ツェルプストーッ!」

 キュルケはオスマンの叫びに反応できず、チグリスへの指示が出せない。その時、握りつぶされたはずの二人のメイジの体が膨らみ始め、エボリュウの腕から零れ落ちる。着地したそれは、一瞬で膨張し巨大化する。

 

 

 

 

 

 

「「ギシャァァァァッ!?」」

 

 

 

 

 

『異形進化怪獣・エボリュウ』

 

 

 

 

 

 

(あの男達が持っていた筒が割れると、あのような魔獣に変わるのか!?)

 オスマンは二人のメイジが握りつぶされる直前、確かに見た。ギトーが変化した魔獣が二人のメイジを握りつぶす時、的確に二人の懐にあった筒を壊していたのを。しかし、重要なのは目の前の状況だ。

「魔獣が二匹っ!?」

 新たに現れた二匹のエボリュウは最初は戸惑っていたが、チグリスを見つけると途端に襲い掛かる。チグリスは突然の事に反応できずのしかかられ、鞭の殴打を受ける。

「グギャァァァァッ!」

 苦痛の咆哮を上げるチグリス、キュルケは大声でチグリスに指示を出す。

「鞭で足払いを掛けてっ!そしたら直ぐに反撃よっ!」

 チグリスは指示通りに鞭を振るい、二匹のエボリュウを転ばせる。チグリスは立ち上がると怒りをこめて二匹のエボリュウを睨みつける。チグリスは咆哮を上げると、口元から赤い光を吹き出す。

「グギャァァァァッ!」

 チグリスは口を大きく開けるとそこから凄まじい勢いで一万度の火炎放射を吐き出す。エボリュウの一匹は逃れようと身をねじるが、もう一匹は逃れる事が出来ず直撃する。

「ギシャァァ………」

 エボリュウの全身に引火。エボリュウはもがき苦しむが、その場で力なく倒れ込み炎の中で燃え尽き、崩れる。チグリスは立ち上がろうとするもう一匹のエボリュウに向き直ると、腹部のチグリスフラワーをエボリュウに向ける。チグリスは力むと足を踏み込み、腹部から霧状の溶解液を噴射する。

「ギシャァァッ!?」

 体表を溶かされ、ダメージによろめき膝をつくエボリュウ。それを見たチグリスは腰を落とすと、全速力で突進。自身の角をエボリュウの腹部に突き刺す。エボリュウが凄まじい悲鳴を上げる中、チグリスの角が激しく発光する。

「グギャァァァァッ!」

 チグリスはエボリュウの体内で角からの破壊光線を連続で発射、その体を内側から破砕しようとする。エボリュウは必死にもがくがチグリスの鞭で拘束され見動きとれない。遂にエボリュウは力尽き、内側から爆発、跡形も無く吹き飛んだ。しかし、そこでチグリスは体力が尽きたのか、その場に膝をつき息を荒くする。それを見たギトーが変化したエボリュウの口角が上がった。ようにマチルダは見えた。

「あいつ、笑ってる…?」

 エボリュウは左腕を振りかぶると、キュルケ達に向け電撃を放つ。チグリスは慌ててキュルケ達の前に立ちふさがり自身の体を盾にする。チグリスは苦痛の咆哮を上げるが、エボリュウは不気味な笑い声を上げる。その声を聞いて、キュルケは歯噛みする。

「あいつっ!分かっててやってるのねっ!」

 チグリスが体力を消耗し、キュルケ達を庇わなければならない状況を作り出したエボリュウは勝利を確信したかのように全力でチグリスを攻撃する。チグリスの肉の焼きただれる匂いがその場に広がる。このままでは…誰もが諦め掛けた時、ミシェルが叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていろっ!今助けるっ!頼むぞ、リムっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ミシェルに呼びかけられたリムは両手をぴっ!と真っすぐ上げる。その途端、チグリスを傷つけていたエボリュウの電撃がねじ曲がり全てリムに吸い寄せられ、直撃する。

「「あぁっ!」」

 キュルケとマチルダが叫ぶが、ミシェルは「ふふんっ」と得意そうな顔をすると、心配そうにしている面々にウインクして見せる。

「ふふっ!うちのリムなら心配ありませんよ!」

 言われて見ると、リムに降り注いでいた電撃はリムを傷つける事は無く、その全てが吸い込まれていく。エボリュウは驚くが、邪魔なリムを吹き飛ばそうとその左腕から放たれる電撃の威力を大きく上げる。

「ギシャァァァァッ!」

 数倍の太さに膨れ上がる電撃。しかしそれすらリムは余裕で吸い込んでしまう。

「ピキィ♪」

 電撃を吸い込んでいくにつれて膨れ上がるリムの腹部。明らかに余裕なリムを見たエボリュウは効果が無いと気が付いたのか、慌てて電撃を放つのを止める。

「ギシャァァァァッ!?」

 …エボリュウは電撃を放つ事を止めたはずだ。しかし止まらない。いや、正確には止められないのだ。踏ん張っても、腕を振り回しても、電撃を止められない。

「ピキィィィィッ!」

 なんとリムはエボリュウの電撃を伝い、その体内の電気エネルギーに干渉。無理に引き出させその全てを吸い尽くしてしまおうとしていたのだ。エボリュウは後ろを向き逃げ出そうとするが、左腕だけはリムの方を向いたまま電撃を放ち続ける。自身の体から力が吸いだされる事にもがき苦しむエボリュウ。しかし、抵抗虚しくリムにエネルギーを全て吸い取られてしまう。

「ピキュッ!」

 普段にも増して丸く膨れ上がったリムはげっぷを一つすると、その場にゴロンと仰向けに転がる。…膨らみすぎて手足が地面に届かず起き上がれないが。

「ギシャァ…ァァ………」

 消え入りそうな鳴き声を上げたエボリュウの体はゆっくりと光りに包まれ、光の粒子となり天に昇り消滅してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 学院の敷地内にて。全ての電気エネルギーを吸い取られ、本来の人間の姿に戻ったギトーは銃士隊に取り押さえられていた。しかしオスマン他、その場にいた面々は驚きを隠せなかった。ギトーが怪物になり、それから元に戻れた事に。

(電気エネルギーが底をつくと人間に戻るのか…?)

 ミシェルがギトーを縄で縛りあげながら考えていると、突然ギトーの体が震え始める。

「ふっ、ふふふ…ふははははははっ!」

 突然笑い出したギトーに驚く面々。しかし、いち早く反応したアニエスがギトーの左腕の関節をきめて頭を地面に押し付ける。

「貴様ッ!何が可笑しいっ!」

 ギトーは地面に頭を押さえつけられながら、キュルケやマチルダを見て狂ったように笑い続ける。

「ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!ふははははははっ!ふははははははっ!ふふははははははっ!」

 その時、ギトーの胸元からぽろりと何かが落ちる。ミシェルが何かと気になり拾ってみると、どうやら丸められた手紙のようだ。見覚えがあったミシェルは最初思い出せないが、三拍おいて思い出す。

(これはレコンキスタの指令書っ!)

 ミシェルが広げてみると、それは今回の学院占拠についての指令書だった。よく見ると宛名がミシェルになっている。これは本来ミシェルに届けられるはずのものだったのだろう。

(そうか…今まで送られてきた指令書は一度ギトーの所を通って来ていたのか)

 この指令書の内容をギトーが実行していた事。これらからミシェルはある事実に行きつく。

(今まで指令書が届かなかったのはギトーの所で止まっていたから…そしてその任務をギトーが実行。恐らく本来は唯の仲介役でしかなかったギトー自身を本部に売り込む為…)

 本来ならあの怪物になる何らかの『物』も自身に送られるはずだった…そう考えただけでミシェルは身震いする。今回はギトーの欲望に助けられたな、と思わずにはいられなかった。

「ふははははははははははははっ!ふははははははっふはっ!ふははははははっ!ふははははははっ!ふははははははっ!ふははははははははははははっ!ふははははははっ!ふふへほへはははひひひはははっ!」

 ミシェルが考えている間もギトーは笑い続けている。流石のアニエスも気味が悪いのか苦い顔をしている。

(どうしたんだこいつは…?………っ!?)

 その時、ギトーの頭を押さえるアニエスの右腕に、突如ぬるりとした感触が伝わってくる。アニエスはついに耐えられなくなりギトーから跳びのく。…その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ギトーの頭がドロドロに崩れ出したのは。

 

 

 

 

 

 

 突然の異常事態にその場にいた面々に衝撃が走る。アニエスはより一層気味が悪くなり慌ててグローブを脱ぎ捨てる。それを見たセニカはアニエスに何かあったのかと心配になり、アニエスに駆け寄る。

「大丈夫ですか隊長っ!」

 アニエスとセニカは、手のひらを見て何も起きていない事に安堵し一息つく。その間にギトーは笑い続けながらドロドロと溶けていき、ついには骨も崩れ原型を留めない程になってしまう。キュルケは慌ててチグリスに向けて叫ぶ。

「チグリスッ!全部燃やしてしまって!」

 それを聞いたチグリスは威力を加減した火炎放射を『ギトーだったドロドロ』に放つ。火炎放射はドロドロに引火し完全に燃え尽きてしまった。

「これで…終わった…」

 キュルケは一言呟き自身の肩を抱くと、とても頼もしく巨大な新しい使い魔に寄りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 今回の事件の当事者全員は、燃え盛る炎から目が離せなかった。僅か半日に満たない時間で起きた衝撃の出来事の数々、彼等はこの日の事を忘れられないだろう。現に、今この場にいる者達全員ギトーの笑い声が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、ミシェル達銃士隊はギトーの部屋を捜索していた。レコンキスタについて何か有益な情報が無いかを探すためだ。その間、キュルケはマチルダの花壇の前にいた。キュルケはチグリスの鞭に乗ると持ち上げてもらい、チグリスの口に自身の唇を押し当てる。正式な使い魔契約の儀式だ。

「これからよろしくね。チグリス♪」

「グギャッ♪」

 その様子をギトーの部屋の窓から見ていたミシェルは、今になっても目の前の現実が信じられなかった。

「あの凶暴なアストロモンスが人間になつくなんて…」

 そこにセニカがやって来る。ベッドの下から見つけたレコンキスタからの指令書を抱えて。

「すいません副長、お願いします」

 見つけられた指令書は古い物から新しい物まで様々だった。古い情報から新しい情報まで。細かい確認は戻ってからにして、今は簡単な確認にしようと指令書を流し見ていると、今日が結構日の作戦の通達所を見つける。

「ふん…ニューカッスルに攻め込む。アルビオンか…ん?」

 その時ふと思い出す。先ほどマチルダから聞いた話だが、今才人達は何処に行っているのだっただろうか?マチルダ曰く、一週間ほど前に朝早くに魔法衛士隊隊長ワルド子爵と共に出発したらしい。

「次は…と……うん?」

 ミシェルは一つ前の通達所を読んだ時、指令内容に眉をひそめる。

「ウェールズ王子暗殺…?実行は………ッ!?」

 ミシェルはそこに書いてある衝撃の事実に驚愕し、事の全てをアニエスに報告する。

「何だと!?本当かミシェル!」

「間違いありません!このままではサイトとミス・ヴァリエールが危険ですっ!」

 アニエスは予想外の報告にその場で腕組みをして考え込む。

「行きたいのはやまやまだが…しかし、どうやってアルビオンに行く?…今からではとてもじゃないが空でも飛べないと間に合わんぞ?」

 その時、ミシェルの口角が上がる。

「大丈夫です、あてがありますよ。とっても頼りになる子がね…」

 ミシェルは疲れて学院の外壁に寄りかかり、キュルケにじゃれているチグリスの姿を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………と、言う訳でサイト。貴方を迎えに来たってわけ♪」

 ラ・ロシェール遥か上空。才人はキュルケからこれまでの事の顛末を聞かされていた。しかし、才人は半分程度しか内容が入ってこなかった。今自身が置かれている状況を受け止めきれていないからだ。

(…何で俺、『宇宙大怪獣・アストロモンス』の背中に乗っかってるんだ?)

 若干惚けている才人にマチルダとミシェルは心配そうに声を掛ける。

「まぁ…突拍子もないな。こんな事…」

「まっ、まぁ。助かったんだから良かったじゃないか」

 ミシェル、マチルダ、キュルケの三人はギトーの部屋で見つかったレコンキスタからの指令書を見た後、疲れ切っているチグリスに無理をさせてまで才人達を助けに来てくれたのだ。

「いや。急に鞭に巻き付かれて死ぬかと思ったんだけど…」

 才人の呟きを聞き流したキュルケは、空を飛ぶことの出来たチグリスを褒めながら優しく撫でていた。そんなキュルケを見て、「そんな事よりっ!」と叫ぶ人物が。

「キュルケもう何ともないのっ!?平気でいられるのっ!?」

 ルイズはキュルケに怒鳴りつけながらも、心配という感情が顔に滲み出ている。キュルケは一瞬押し黙るが、才人とルイズの肩に手を回すとあっけらかんと笑って見せる。

「アハハハッ!ありがとう二人ともっ!心配してくれて。もう大丈夫よ!」

 そう言うとキュルケは二人の頬に唇を落とす。すっかり元の調子に戻ったキュルケに安堵したルイズは何か言いたそうにしていたが、押し黙ってしまう。才人には直ぐに見当がついた。

(助けに戻って!…って言いたいんだろうな…)

 ワルドはまだニューカッスルで戦っているのだろうか?助けに戻りたいが、キュルケから聞いた話では今のアストロモンスは相当疲弊した状態だ。無理をさせる訳にはいかない。

(ルイズ…)

 才人の心配そうな視線に気づいたルイズは首を振り、ウインクで返事をする。

(『信じてるよ』…か)

 才人が納得した時、遂に限界が訪れたのだろう。ルイズは才人に体を預け、眠り込んでしまう。ルイズが完全に眠ったのを確認したキュルケは唐突に才人の唇を奪う。

「ふぐっ?!」

 本当に唐突な出来事に声も出せないマチルダとミシェル。そんな事お構いなしのキュルケは、才人の唇から離れるとそっと才人に寄りかかる。

「ありがとうサイト。貴方がチグリスとめぐり合わせてくれなかったら…貴方がいなかったら…あたし今頃死んでいたわ…あたしとチグリスを会わせてくれて、…ありがとう…」

 キュルケはそう言うとルイズ同様眠り込んでしまう。激動の一日で疲れが溜まっていたのだろうか。マチルダ達は仕方ないといった表情をすると、そっとしておいてやる事にした。そんな二人の様子をしり目に才人は遠く離れていくアルビオン王国を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「必ず、帰って来いよ…ワルド」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなったっ!状況はどうなっているアニエス隊長!」

「全て終わっていますが?」

 結局、間に合わなかったモットだった。

 

 




続きます。今回で原作二巻のお話はお終いです。次回より、原作三巻のお話に進みます。


…遅くなってごめんなさい。次回はなるべく早いうちに。

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