ベムラーの事件から一週間、才人はルイズの服の洗濯を終えて部屋へ戻る途中、考え事をしていた。ベムラー以降これといった事件は起きていない。しかしウルトラの父が言っていた侵入者がベムラーだけとは考えられない。ロングビルの花壇に立ち寄り考え事をしようと考えていると…
「あれ?ロングビルさん何してるんですか?」
「あら?才人君」
ロングビルがコスモスを切っていた。切ってからすぐに『固定化』をかけ花束にしてまとめていく。
「綺麗に咲きましたね、コスモス」
「ええ!もう彼女に送れるわ」
「次何育てるんですか?」
「次っ…!?」
ロングビルは才人との談笑の中で言われた何気ない一言が深く胸に突き刺さる。次…自分に次は…
「ごめんなさい…次は育てられないの…」
ロングビルは今までに聞いたことの無いような暗い声で呟く。才人はまた聞いてはいけない事を聞いてしまったと思ったが、聞かずにはいられなかった。
「育てられないって…」
「私…この仕事、もうすぐ辞めるの…」
「えぇ!?」
才人はロングビルの言葉に驚く。その様子を見てロングビルは慌てて説明を付け加える。
「ちっ違うのよ?そういう契約だったのよ!?」
「あっ…そうだったんですね!」
二人の間に気まずい雰囲気が流れる。先に切り出したのは才人だった。
「そっそう言えば俺まだ部屋の掃除終わってなかったんだ!失礼しますね!」
「そっそうね、ミス・ヴァリエールは気にしそうだものね!?」
才人が行ってしまうとロングビルはその場にへたり込んでしまう。自分はどうしてしまったんだと自問自答する。
(どうしちまったんだ…こんなはずじゃなかった、元はただ探りを入れるために潜り込んだだけなのに!)
ロングビルの脳裏にあの少女が浮かぶ。そして何故自分がこんな事をしているか、何の為にしているのかを思い出す。
(あたしはやんにゃきゃならないんだ。絶対に!)
しかしロングビルの胸には何かモヤモヤした感情が残ってしまった。
ルイズは悩んでいた。近々行われる使い魔の品評会で才人に何をさせるのか。
「剣技なんかどうかしら?それとも何か特技あるのかしら?」
そうしていると才人が戻ってくる。その表情は少し沈んでいるように見える。
「どうしたの?なんかあった?」
「嫌…特に」
「…そう、それよりもあんた何か特技ある?」
才人は突然の質問に疑問符が上がる。
「特技?」
「そうっ、今度使い魔の品評会があるのよ!そこで使い魔に仕込んだ芸を披露するの!あんた何かできないの!?」
「何かねぇ…!」
才人は何か思いついたのかノートパソコンを広げ音声ファイルを開き、音を流す。才人のお気に入りの曲だ。
「俺さ前に少し友達とバンドの真似事してさ、ちょっとだけギターできるんだ。ルイズピアノとかできる?一緒に演奏とか…」
ルイズは聞いていなかった。ノートパソコンから出る音声に興味津々である。
「何よ何よ何よこれ!すごいどんな魔法?」
才人はルイズにノートパソコンをまともに見せた事が無かった事を思い出す。
「前も言ったろ科学だよ科学、ほらこんなのもあるんだぜ」
才人は自慢のウルトラ兄弟達の写真データを見せてみる。案の定ルイズは喰いつく。
「ええぇ!ウルトラマンってこんなにいるの!?」
「あぁ、俺のいた世界は怪獣が多くてな、ウルトラマン達が助けてくれてたんだよ」
ルイズは暫く魅入っていたが目的を思い出すと「ごほんっ」と咳払いをする。
「ま、まあとにかくその歌で行きましょう。ピアノなら小さい頃習ってたわ。ピアノは学院のを借りられるわ。ギターは…ちょっと無理かしら?」
「じゃあ無理か…」
才人がそう言うとルイズは「待って」と即答する。
「借りられないなら新しく買うわよ!」
随分思い切りが良いなと才人は思う。しかしすぐに見当がついた。今日は一週間ぶりの虚無の曜日、先週は怪獣騒ぎでなにも出来なかった。先週の分も合わせて楽しむつもりだろう。
町はベムラーの被害を受けて酷い有様だったが、それ以外のエリアは比較的いつも通りだった。荷物持ちに従事した一日だったがギターは買ってもらえた。
その様子を見ていたキュルケがもっと高いギターをプレゼントしようと部屋に乗り込んできたのは別の話。
深夜、ロングビルは自室で最終確認を行っていた。
(実行は品評会の日、時間は…よし完璧…しかし、まさか王女様が来たがるなんて…全く、嬉しい誤算さね)
王女が来ればそっちに警備を割かなければならなくなる。
(とっても都合がいいじゃないか、これで皆こっちのもんさ…セクハラに耐えて調べた甲斐があるよ!)
ロングビルは完璧な計画にほくそ笑む。しかしその瞬間胸に針が刺さったような痛みが走り、才人の顔が浮かんでくる。
(考えるな!やめろ!考えちゃだめだ!私には、あの子たちがいるだろ!)
その感情に負けないように腕に爪を突き立てる。そうしてもう一つの自分の顔を作り出す。
(私はフーケ、『土くれのフーケ』なんだっ!)
数日後学院の生徒や教員がこぞって校門に整列していた。急遽見学に来ることが決まった王女を迎えるためである。生徒達は王女が来ることに興奮を抑えられないが、唯一才人は冷めた目で見ていた。
(なんでこんな物の見学にお姫様が…普通復興の方が大切だろうに…)
そうこうしている間に王女が到着する。才人は生徒達の隙間から覗いて見覚えのある顔に少し驚く。
(確か…ベムラーから守ったあの子!お姫様だったのか…)
そんな才人をよそにお出迎えは終わった。しかし、ここからがアンリエッタの一番の目的だった。学長室に入ると王女、オスマンの二人だけで話が始まる。
「今日無理言ってきたのは他でもありません、ウルトラマンの事です」
オスマンはとぼけたように答える。
「はて?なんですかな?」
「先日王宮を襲った悪魔のような怪物を倒した巨人の事です。調べましたよ?一度この学院にも表れているようですね」
オスマンはここが限界と腹をくくる。
「実は一度現れております。確かに部下からの報告もありましたが…その時間僅か一分三十秒程。我々としても現実とは受け止められず報告を保留していた次第でございます」
「王宮の時は二分三十秒でしたね、確かに信じがたい出来事でしたが紛れもない現実です…ところで「ウルトラマン」という名前は誰が?」
「いえ、ミス・ヴァリエールの使い魔として召喚された平民の少年がその同族を見たことがあり、そこでの名称を踏襲したのです」
「ミス・ヴァリエール…!?」
その夜アンリエッタはミス・ヴァリエールを訪ねてきた。旧知の友との久しぶりの再会に喜びがこみ上げてくる。
「ルイズ~!」
思わず抱き着いてしまった。その様子をぽかんとした様子で見ている少年がいた。彼が例の使い魔だろう。ルイズとの談笑もよそに少年に向き直る。
「貴方にも会いに来たんですよ」
「え?」
特に変わった様子は何もない。しかしその瞳に既視感を覚える。
(どこかで見たことがあるような、暖かい目…)
アンリエッタは気になる事が多かったが、再開の感動の方が多く少ない時間とは言え楽しい時間を過ごす事にした。
翌日ついに品評会が始まるタバサのシルフィードの出番が終わりついに才人とルイズの順番になる。
「お~い!ゼロのルイズ!何するんだ?!」
「ストリップでもするかぁ~?」
汚いヤジがルイズ達に浴びせられるが才人が背中のデルフに手をかけると皆押し黙る。ルイズは咳ばらいをしてピアノの前に座り才人がギターを持ち直す。
「えっと…ルイズの使い魔の才人です。今日は私の住んでた地方での歌を紹介します。じゃあ聞いてください」
ルイズはピアノの伴奏を始める。それと同時に才人も曲名を発表する。
『君にできるなにか』
ルイズのゆったりとした伴奏に才人のギターが合わさり、落ち着いた雰囲気の曲が流れ始めた。
フーケは宝物子の外壁の傍に待機していた。品評会で大騒ぎしている間にいただく算段である。
「よし、次だね、予定通り。覚悟、決めるよ…!」
そんな時だった。才人の歌声が聞こえてくる。優しい伴奏と共に心に訴え、聞いてる相手を励ます、そんな歌詞。
「これは…!」
それは覚悟を決めたフーケの心をかき乱す。
『夢をおいかけて…すべてが…』『愛は…その答えさえ…』
才人の歌はフーケの心に突き刺さる。夢、自分に夢は有っただろうか…。そう言えば一つだけあった。自身がこうなる前、領地を修める立場にあった時、領地を一面自分の好きな花畑にするというのがあった。いくらあの子達の為とはいえ、夢を追っていた自分は今の自分をどう思うか…。
「あたしもそんな時期があったっけ、夢、愛か…やっぱりダメだ。『土くれのフーケ』としたことが、こんな簡単にほだされるなんて…」
胸の感情…才人に対しての後ろめたさが大きくなり、体に力が入らなくなる。足が震え立っていられずその場に座り込んでしまう。涙が溢れ、それ以上感情を抑えきれなくなる。
(ごめん…皆…あたし、もう才人を裏切れない…才人と、才人と光の道を共に歩きたい!)
「それでいいのか?」
突然聞こえる下卑た声。フーケは慌てて周りを見回すが誰もいない。だが、声は聞こえてくる。
「お前の心には闇が巣食ってる、醜い復讐の感情…素晴らしいっ!貴様が捨てる気ならそれを俺様が使わせてもらおう!」
突如としてフーケの周りに黒い靄が現れその体に吸い込まれていく。フーケは声にならない叫びを上げながらのたうち回る。
次にフーケが立ち上がった時、それは本来のフーケとは違う「別の何か」になっていた。
「ハハハハハッ!ギャハハハッ!」
次回に続きます。