私はふと、何を考えたのか空を見上げる。
気が付けば、夕方になっていた。
前を見ると、幼い私と魔理沙が組手をしていた。
幼い私は魔理沙の攻撃を避けながら空手の様な格闘術を打ち込み、魔理沙はそれを避けながら箒を棒の代わりにして棒術の様な攻撃を打ち込んでいる。
両者共に、長い攻防が続く。
そこで私は理解した。
──嗚呼、夢の続きか……
再び空を見上げると、雲が夕日にさらされ茜色に輝いている。
雲は流れ、形を変え、ちぎれは繋がりを繰り返す。
ただ日常の夕日、しかしそれが綺麗で幻想的だった。
──これが、全て創られた世界。
そう思うと寒気がしてくる。
この博麗神社も幻想的な景色も。もしかすると、今の私の思考さえも誰かによって創られたもの。
ポツリ。一滴のしずくが瞳から流れ落ちる。そのしずくが地面を濡らし、大地に染みていく。
この涙さえも、この命さえも、全てが創られたもの。
誰かにとったらゴミでしかなく、価値もないもの。
どんどん瞳からしずくが──涙が溢れてくる。
心なしか、空がどんどん近づいている気がする。否、確実に近づいている。
私の瞳から涙が流れるたび、空は近づき、私を包み込もうとする。
──何故か、気持ちいい。このまま包み込まれたい。
私の体が薄れていく。存在でさえも消える様に。
そして、私の体が空に包み込まれ、完全に消えて──
ドパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
瞬間、辺り一帯に今までにない大きな音が響き渡る。
私は驚き、そちらの方に意識が向いてしまう。それにより、空がどんどん遠のき、私から色が戻る。
音がした方を見ると、幼い私が魔理沙の顔を殴り、魔理沙が幼い私の頭に箒を打ち付けていた。つまり相討ちだ。
そして、二人は同時に崩れ落ち、地面に横になる。
新品の様だった幼い私の巫女装束は泥だらけに汚れ、魔理沙も同様に服を汚していた。
沈黙。音に一瞬警戒した私は、何事もないことに肩を落とす。
「なあ、霊夢」
一番始めに沈黙を破ったのは魔理沙だった。
「何かしら?」
幼い私は答える。その顔にはもう寂しさはなく、うっすらと笑顔が浮かんでいた。
「神様が世界を創って、人間を創った。て言うのは本当なのかな?」
「さぁ?」
幼い私はその疑問に素っ気なく返す。だって、自分自身もわからないのだから。
「もしも、世界が神様によって創られたもので、今の私達の思いでさえも創られたものだったらどうするの?」
幼い私は魔理沙に向かって質問する。
その質問に私の体はピクリと跳ね、聞き耳をたててしまう。だってそうだ、先ほどまで私が考えていた事と全く同じ事を質問したのだから。
「そうだな〜」
魔理沙は一瞬悩む素振りをすると、うん、と頷き、夕日に手を伸ばしながら言う。
「私ならまず、その神にお礼をいうぜ。私達を生まれさしてくれてありがとな! て。そしてその後神様が私たちに害意があるなら一発殴ってから言ってやるぜ、お前の好きな様にはならねえぜ! 私達の思いは、私達の自由だ! てな」
──嗚呼。
「そして私達を消そうとしてきても、私だけは抵抗してやる。最後の最後まで抵抗してやる! 最後に笑うのは私だと信じてな」
──簡単な事だった。
「もしも、それで負けたら?」
幼い私は魔理沙に向かって質問する。
「“もしも”なんて言葉はない、負けないと信じて戦うんだよ。」
幼い私は微笑みながら、横目で魔理沙の顔を見る。そして再び夕日を見ながら、魔理沙と同じ様に手を伸ばす。
「もし、魔理沙がそうするなら私も手伝う。最後に笑うのは二人だと信じて」
「ほんとか!?」
「うん」
そして、夕日の空の下、二人で笑い合う。
これは、幼い私の記憶。忘れていた記憶。
──私達は、最後の最後まで抵抗する。そう約束したのよ。
そして私は、幼い私の様に笑う。
──こうして心から笑ったのはいつぶりかしら?
私の体が浮く。大地を離れ、遠ざかっていく空を追いかけるように。空を追い詰めるように。
そして、その奥にいる神様を引きずり出すように。
私の心は、もう無色ではない。
その時の私の色は、世界に色濃く残っていた。