とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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続編の投稿ではありません。
諸事情により、この回の話を二話に分割しました。


トゥルーバッドエンド(後編)

「いやあ、お疲れお疲れ! さすがだね君は。ここまで自分を曲げないで走り切った人はあんまりいないよ、うん本当にすごい!!」

「は? え?」

 俺の前には長い青髪の綺麗な女が立っている。 

 そして俺に向かって拍手を送っているのだ。ここはどこだ? こいつは誰だ? 俺は……どうなったんだ?

 頭がぼやあっとしたままで思考がまだまとまっていなかったが俺はとにかく目の前の女に状況を聞くことにした。

「あんたは誰だ?」

「はーい、いいよ、なんでも答えてあげるね! 君は最高に私を楽しませてくれたからね、これはご褒美みたいなものだよ!」

 いったいなんだこいつは。まるで雪ノ下陽乃みたいに話しやがって。そう思いつつ見つめていたら奴が口を開いた。

「私は『転生の神』の一人だよ。ぶっちゃけていえば、未練を残して死んでいった人たちを救済する女神ってとこかな? あ、ラノベで私みたいな青髪で超頭のおかしい駄女神がいるみたいだけど、そいつとは別だからね? 別に転生特典で一緒についていってあげたりしないから」

「はあ」

 転生の神? なんだそりゃ。それじゃあまるっきり異世界転生もののファンタジーじゃねえか。死んだわけでもあるまいし……

 そう考えた瞬間に悪寒が走っておれは慌てて顔を上げた。すると青髪の女神が言った。

「ご明察ぅ。君は死んじゃったのだよ残念ながら。でも君は私のところにこれて本当に良かったよ? もしもう一つ向こうの役所に行っていたら超不愛想なメガネのおっさんに査定されて、異世界で過去の偉人たちと殺し合いさせられていたかもだし、この川の上流の大きな役所だったら、金棒担いで地獄の獄卒と閻魔大王様を足蹴にしている冷徹な鬼に小突きまわされて、一瞬で地獄行決定だったもの。ほんと、君はラッキーだよ」

「ちょ、ちょっとまて。つまり俺は本当に死んで……」

「うん、死んだよ。あ、その顔は信じてないな? じゃあ、これね」

 そう言いつつその青髪女神は小さな手鏡を俺の前へと差し出した。

「これは閻魔大王様が持っている浄玻璃鏡の量販品なんだよ。まあ、あんなに凄い性能はないけどね、今の君の身体くらいなら映せるよ、ほら」

 と言われみてみれば、そこは間違いなく俺の家、俺の机。

 その黒くなったパソコンのモニターの前にキーボードを押しつぶすようにして俺の巨体が突っ伏していた。完全に脱力しているし、一見寝ているようではあるが……

「君は一人暮らしなんだね? 仕事もしていないのに親から仕送りもらって一人暮らしなんてリッチだねえ。でもそれが仇になっちゃったかも。心不全で死んでから死後三日だけど、電話はかかってくるけど誰もこの部屋に来ていないからまだ発見してもらえないんだね。電話はそうか、どうせいつも無視してるから、今回も無視してるだけだろうってご両親も心配はしていないってことなんだね。便りがないのは良い便りってね!! 昔の人は良いこと言ったよね! でも大丈夫。そろそろ腐って匂い出るから、きっと誰かが気づいてくれるよ」

「ちょっと待てなんだそりゃ? し、死後三日? 死後三日も経っちゃったのか? そしたらもう俺は生き返れないじゃないかっ!」

「はあ? 何を言っているの? 死んだらもう終わりでしょ? 生き返られるわけないじゃない。だーかーら私がいるのよ。君を転生させるためにね!! だから良かったでしょ?」

「良かったって何がだよ。俺は死んじまったんだぞ? なんで喜ばなきゃいけないんだよ」

「だから生き返らせてあげたじゃない。新しい身体も用意してあげてさ。今回は超優良物件だったんだよ? 優木悠斗君。彼は足も速いし人気もそこそこだったけど、なぜか将来に悲観しちゃってね、毎日死にたい死にたい言っていたから貰うことにしてあげたの。あそこは君の大好きな世界だし、憑依先はイケメンの高校生。それなのに君ってば、たったの3日で追い出されちゃうんだもの。あはっ! 死を決めて消滅を待っていた魂に生きる活力を与えちゃうなんて、君ってば実は凄腕のカウンセラーとか? あはははははははは」

 爆笑している女に心底いらいらしつつ俺は怒りをこめて言った。

「ならわかった。次はどんな奴でも我慢するからもう一度転生させてくれ」

 それを聞いた女神はおかしそうに笑った。

「そんなのもうダメに決まってるじゃなーい。何を言っているの」

「は?」

 一瞬何を言われたかわからなかったが、すぐにその意味を察して俺は詰め寄った。

「た、頼む、も、もういちどだけ」

「だーかーらーダメだってば、チャンスは一度きり。この後君が行くのは三途の川の向こう側、閻魔庁だよ」

「え、えんまって、閻魔大王……地獄の……い、いやだ、いやだいやだそんなとこ行きたくない!!」

「ほらほらまだ地獄に行くって決まったわけじゃないってばぁ。あのね? 閻魔大王様は鬼じゃないのよ、あの鬼には頭が上がらないけど、くふふ」

 女神は何やらツボに入ったらしく口を抑えてしまった。

「ああ、ごめんごめん。えとなんだっけ? そうそう、閻魔大王様は鬼じゃなくて正義の王なのよ。それでね、あなたの人生の全てを見て裁定を下してくれるわけ。地獄に行くも天国に行くも閻魔大王様次第なのよ? あ、人間に生まれ戻るのもある意味地獄の沙汰だからね、閻魔大王様がひょっとしたらあなたを人間にしてくれるかもしれないわよ?」

「ま、まじか? お、俺は本当に人間になれるのか?」

「うんうん、可能性でいえばね。でも閻魔大王様は嘘をつく人が大嫌いなのよ。だからどんなに査定が良くても嘘をついた途端に灼熱地獄行とか結構余裕であるの。だから油断はできないわよ?」

「そ、そうか。う、嘘をつかなきゃいいんだな。うん、よし、俺は嘘はつかない」

「うんうん、素直で宜しい。あ、でももうひとつあるんだった。あのね、閻魔大王様は人を虐げる人が大嫌いなのよねぇ、そういう人の場合は通常裁判じゃなくて……」

 彼女は微笑みつつ、右手の親指と人差し指で開いたり閉じたりして見せた。

「くぎ抜きを使うのよ」

「く、くぎ抜きってなんだ?」

「あ、そっか今の若い子は知らないか? そうね、今風に言えば……ペンチ? みたいな? ほら、聞いたことあるでしょ? 嘘をついたら閻魔様に舌を抜かれるって。あの道具よ」

「そ、それがなんなんだよ? 要は嘘をつかなきゃいいんだろ?」

「ふっふっふーん。ちがうんだなぁそれが。あ、君って小説書くんだったよね? 小説ってさ、何もしゃべらないキャラにしゃべらせたり動かしたりして物語を動かすじゃない? 要は人形劇みたいなものだよね? なにもしゃべれない存在をしゃべらせて命を与えるんだもの!!」

「あ、ああ、そ、それがどうしたんだよ。なんでいきなり話を変えたんだよ」

 女神は更に可笑しそうに微笑んだ。

「全然話は変わってはいないんだけどねえ。でね? 閻魔様ってそういう不埒な人とは口も聞きたくないの。その人が生前どんなことをしてきたのかは『浄玻璃鏡』で生まれてから死ぬまでの全部が見えてるからね、聞くまでもなく分かっているのよ。でも閻魔大王様のお仕事って裁判じゃない? だからきちんと手順を踏んで本人に罪を認めさせて、それで地獄へ送るのよ、つまり~~」

 女神はいよいよおかしいとばかりにケラケラと笑い出した。

「口も聞きたくない人は先に舌を抜いちゃうのよ! それで、『お前はこれこれこういう罪を犯したな、さらにこういう罪を犯したな、二言はないな? あるなら返事をしろ。よし無いようだな!!』って、ぷくく……舌がないから当然喋れないものねえ、あーはははははは。もう閻魔大王様本当にお茶目なんだものぉ……あはははははは」

 この女神は本当に陽乃のように笑い続けていた。

 そしてその綺麗な瞳を細めてぽそりと言った。

 

「君だって何もしゃべれないキャラクター達を弄くりまわしてレイプしまくった物語を書いていたでしょ? それと同じことをされるだけよ。うふふ」

 

 その透き通った声に全身が泡立った。

「ちょ、まって……」

 それ以上言葉が出なかった。

 俺の足がずぶずぶとまるで泥に沈むかのように地面へと埋まっていく。そして喋れないままで俺は薄く微笑む青髪の女神を見続けることしかできなかった。

「三途の川が来ちゃったみたいねえ。じゃあ、バイバイ!! 健闘を期待してるね!!」

 その明るい声が、意識ある俺が聞いた最後の声になった。

 

「さてと、ゴミも片付けたし、後は幸せな『物語』でも見るとしましょうかねぇ」

 

 そう言いつつ、青髪の女神は椅子をどこからともなく取り出してそれに座り、小さな手鏡を目の前に持ってきた。そしてそこに映し出されている膝をつく男の子と、それに寄り添う二人の少女の様子を見守った。

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