とあるHACHIMANがあの世界に行った 作:はチまン
あの時はただ怖かった……
まるで暗闇に取り残されてしまったかのような絶望感に包まれて、もう何も考えることはできなかった。
ほんの少しだけ……
ただの興味本位で始めただけの、気まぐれの冒険……
それだけだったはずなのに、あの突如現れた存在によって奈落へと突き落とされた。
『これはゲームであっても、遊びではない』
あの時、あの存在が突き付けた私たちの現実を示唆する言葉。
けれど、それを聞かされても、無力な私にはどうすることもできなかったのだから。
それから数週間、私は震える身体を抱いてただ助けられることを待ち続けた。
人づてに聞いた話では、先へと進もうとした多くの人たちが消えてしまったとのこと。
でも、それを聞いても、あの宿屋に引きこもった私達には恐怖を募らせる要因にしかならなかった。
なにもせず、ただジッと待つ。
でも、そうしていても時間は過ぎていき、今こうしている自分は変わらぬ日常を送っているように感じられても、現実の身体はどんどん衰弱していくはず。
それを理解していても、多くの人は立ち上がることすら出来なかった。
ただ、ゆっくりと……
ただ、静かに……
すべてが腐っていく……
私は確かにそれを感じていた。
だから……
私は立った。
現実を取り戻すためには戦わなければならない世界なのだから。
それが例えあの人の思惑のうち、踊らされているだけなのだとしても、助かるためには勝たなくては。
いいえ、違う。
多分あの時の私は生きている実感を求めていただけだ。
ただ恐怖に震えて待つだけの人生なんて真っ平だったから。
戦って戦って戦って……
ただ死を待つだけの恐怖を、死を賭した戦いに身を投じることによって私は解消し続けた。
戦って勝つことで少しずつ強くなれる。強くなって更に戦う。
その繰り返し。
でも、それは自分自身をすり減らしていく行為でもあった。
それとゲームのことを良く知らない私には限界があったから。
いつか誰かに頼らなくてはならない時がきっとくる。
でも、頼ってそしてその人が死んでしまったとしたら……
それを思うと胸が苦しく、死ぬのならば自分一人のままの方が良いと、何度も何度も心変わりを繰り返した。
そのようなある日に私は彼と出会った。
私と同じソロプレイヤーであり、あまりしゃべらない寡黙な存在。
でも、私とは違ってこのゲームのことにも詳しくて、そしてなにより強かった。
彼との出会いによって私は新たな道を切り開くことができた。
今まで一人では戦うことができなかったレイド戦での振る舞い方や、強力なソードスキルの会得方法……パーティプレイの重要性。
なにより、彼は私の心の支えになってくれた。
絶え間ない戦いの日々の中で確かに衝突もしたけれど、私にとっては確かにかけがえの無い日々だった。
二人で解決した圏内殺人事件や、気分転換のつもりの二人パーティでのボス攻略、そして、仲間の裏切りからの彼の救出。
彼の死を予感したあの時、私は心から願った。
どうか、この人だけは私から奪わないで……と。
そして私は彼を愛するようになった。
彼もまた私を愛おしく思うようになってくれた。
私にはそれが堪らなく嬉しかった。
そしてあの運命の日。
私と彼は命を賭けてあの戦いを終らせた。
結局二人して死んでしまったかと思ったあの時、私達は確かにお互いきつくきつく抱き合い、その存在を確かめ合った。
そうしながら崩壊していくあの世界を見ながら心からの想いを贈ったのだもの。
愛しています……
私は彼を愛しています……と。
そう……
彼、『比企谷八幡』を……
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