とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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比企谷八幡は彼女の頭を撫でる?

 『ぼっち』などと言ったところで人との繋がりを完全に消せるわけもなく、日々生活をしていれば新たな出会い、新たな関係の構築がなされるわけで、その無遠慮な振る舞いは否応なくこの俺にも振りかかってくるのは当然のことだ。

 そのことについて、この俺がとやかく言うつもりなど毛頭ない。

 実際に俺であっても日々新たな人間関係を更新しているわけであり、その先にあって『恋人』という存在を手に入れるに至ったのだから。

 

 だというのに……

 

「ハチくん! 私を見てよ!」

「は……い……?」

 放課後……早めに部活を切り上げて、学校の正門を出ようとしていた俺の腕に、一人の女子が腕を絡めつつ抱き着いてきた。

 その女子は漸くできた俺の彼女……頭にお団子を結った明るい茶髪の由比ヶ浜……ではない!!

 そこにいたのは、長い茶髪の一部を編んで、結んで、上げてある(この複雑怪奇な髪型はいったいなんだ?)、同い年くらいの他校の女子。

 だれだこいつ?

 というか、離れたい、逃げたいのに両腕でひっしと掴まれているために、まったく逃れることが出来ない! 

 できなかったから、瞬間、俺はあんなぼっちについての考察などを頭の中で垂れ流したのだ!! 

 素数を数えるがごとくに!!

「あ、あんたは誰だ?」

 そう尋ねるも、自分の頬を俺の腕へと擦り付けてくるばかりでろくな反応をかえしてもくれない見知らぬ女。

 だから、俺も何もせず、なるべく彼女から遠のこうと、伸ばせるだけ首を伸ばして距離をとってみたりした。

 べらぼーって叫んでみようかしら?

 いや、ホントになんなんだこの人は。

「ふふふー、うふふー、ねえハチくん、あの時みたいに私の頭撫でてよー、ふふ」

 いったいなんの冗談ですか、おねいさん。

 あの時もなにも俺はあんたのことなんか知らねえよ。っていうか、頭撫でるとか、そんなのお兄ちゃんスキル出しちゃった時の、小町ちゃん専用ご褒美だっつーの。そもそも結衣だってまだちゃんと撫でたことないし、キモがられる自信がありすぎる! 

 だというのに、この女は……

 そいつはニコニコ笑顔を俺に向けて甘えるように言った。

「はやく~~~~」

「えー、はい」

 で、彼女の頭へと手を伸ばしかけたその時、その触る寸前にハッと気が付いて俺はその手を引っ込めた。

「いやいやいや、なんで俺が赤の他人のあんたの頭を撫でなきゃならないんですか。というか本当にあんた誰?」

 危ない危ない、危うく何となくで頭を撫でてしまうところだった。

 本当になんなんだこの人は。

 俺はこんな女本当に知らないし、甘えられるいわれもないし、そもそも俺は『ハチくん』なんて呼ばれたことは今までの八幡人生史上一度もない。

 何、俺、忠犬ハチ公とか、ミツバチなんとかとか、ハッチぼっちステ〇ションとかなの? ぼっちなだけに!!

 いや、もうそんなことはどうでもいい。

 抱き着かれているこのシチュエーションを本当になんとかしなくては、まずい! まずすぎる。

 何がまずいって、この人滅茶苦茶美人なのだ。はっきり言って、10人いたら10人ともが可愛いと評するであろう容姿をしていて、しかもかなり発育も宜しくて……というか、めっちゃ当たっているし!!

 これ、由比ヶ浜ほどではないが、かなり裕福なモノをお持ちでいらっしゃる。

 だからまずいのだ。

 こんなシーンを人に見られた日には、男どもには妬み嫉みの反感を確実に喰らうし、女どもには超気持ち悪い! 汚らわしいと罵詈雑言を浴びせられるに決まっている!

 俺の人生マジ終了!! 

 くっ!! ここまでボッチ街道で我が道を無事に進んで来れたのに、こんな訳の分からない女のせいで、この状況に追い込まれちまった。

 俺は!!

 俺は静かにひっそりとしていたいんだよ!!

 と、本気で泣きそうになっていたところに、とどめを刺されたわけだけどな、こいつに。

「あーーーーーー!! ひ、ヒッキー――――!! な、なんで他の女の子と抱きあってるの……」

 そこに立っていたのは俺の彼女こと、結衣。結衣はわなわな震えながら、腕に女をぶら下げたままの俺を見て目を潤ませ始めていた。

「由比ヶ浜!! 違っ!!」

「なんで……なんでそんなこと……」

 そう言いかけた時だった。

「あなたが由比ヶ浜さんなの? あなた、私のハチくんに何をしたか分かっているの?」

「え? え?」

 涙を流しかけていた結衣に向かって、突然俺の手を放したその女が腕を組んだままでそう吠えた。

 俺からは後ろ姿しか見えないが、明らかに彼女は激昂していた。

「あなたが修学旅行の時にハチくんにしたことは本当に最低なことなのよ。あなたに全部任せるわと言ったのに、彼が嘘の告白をしたことが嫌だったからというだけで、人の気持ち、もっと考えてよなんて、よくそんなことがいえたわね。私は貴女を心から軽蔑するわ」

 結衣はそれを茫然と聞きながら、真剣に彼女の顔をまじまじとのぞき込んでいた。流していた涙はとっくに消えているし。どうやら目の前のこの女がどうしてあのことを知っているのかを考えているようだ。

 それは俺も同じで、俺も思い出そうとするのだが、まったくこの女の正体がわからない。

 もっとも可能性が高いのは、葉山たちのグループの関係だろうということ。

 あの中の誰かの友達なのかもしれない。

 だが、ならどうして俺に馴れ馴れしくしたんだ? 陽乃さんがらみか? あの人もたまに無遠慮にボディタッチしまくってくることがあるが、今回のこの女はあれに輪をかけて酷いのだ。まるで恋人にするような振る舞いで……

 そう思った時、この女は結衣に言い放った。

「私は結城明日奈。見ての通りこの最高にかっこいい素敵なハチくんと永遠の愛を誓い合った、彼の『奥さん』よ。もう彼に近づかないで、この泥棒猫」

「「ええっーーーー!?」」

 俺と結衣がほぼ同時に絶叫したがこれは当然だ。

 結衣は直後高速で俺へと首をまわして懇願するような瞳を向けてくるも、俺はそれに高速で首を振って否定することしかできない。

 いや、おかしすぎるだろういくらなんでも。知り合いでも、友達でも、恋人でもなくて、なんで『奥さん』?

 俺いったいいつ婚姻届けなんて書いたんだよ!! っていうか、まだ17だから結婚できねえだろうが!!

 もう本当に訳が分からなくなったその時だった。

「アスナ……」

「キリトくん? ほら、ハチくんにやっと会えたよ。あなたも会いたかったよね、親友だものね」

「ああ、そうだな……」

 そこに立っていたのは黒の革ジャンに身を包んだ小柄な少年……に見えるが、俺よりも明らかに年下だよな。っていうかなに? 親友? 

 あれ? 何もしていないのに、ボッチの俺に奥さんと親友が出来ちゃってるんだが、わーい。

 その目つきの鋭い黒い服の彼がまっすぐに俺へと近づいてくる。そして、そっと俺の耳元に顔を寄せてくると小声で言った。

『悪い……今は話を合わせてくれ』

「ん? あ、お、おお」

 適当に相槌を入れて彼を見てみれば、アスナと呼んだ彼女を向きながら言った。

「アスナ……今は先にALOにログインする方が先だっただろ? ほら、アミュスフィアをエギルの車に用意してあるから、そこでログインしなよ」

「えー、私は愛しいハチくんともっと一緒にいたいよ」

「ハチ……は、今アカウントを失効しているからログインできないんだ。ほら、向こうでリーファ達が待っているだろ? 早く行って、ハチに会えたことを伝えてやれよ」

「そうだね……うん、わかった。じゃあハチくん、また後でね。あ、アバターはスプリガンにしてよね、やっぱり隠者(ハーミット)な君には黒が最高に似合うと思うから。じゃあね」

 そう意味不明なことを言ったアスナさんは、小走りに駆けていき、学校脇に路駐してあったシルバーのバンの後部座席に入った。

 そのバンの運転席を見れば、大柄で禿げあがった頭のいかつい外国人風の男が窓越しに俺を睨んでいた。

 いや、あれマフィアのボスかなんかだろう? 

 や、やめろよ、リアルにこええよ。まだ死にたくなんかねえよ、俺は。

 気が付けば俺のすぐわきに結衣が歩み寄ってきていた。というか、不安げに俺を見上げていた。

 いや、そんな顔されたってな、今の俺に言えることなんかねえよ、何もわからねえんだから。

「本当にすまない。こんなことに巻き込んでしまって……」

 突然そんなことを言ったのはキリトくんだ。

 彼は申し訳なさそうに俺と結衣の顔を見た。

 すると、今度は結衣が言った。

「あ、あの……これはどういうことなんですか? あの人はいったい……」

 そう言いかけて不安げに俺を見てくるのだが、俺はもう首を横に振るしかなかった。

 すると、目の前のキリトくんが大きくため息を吐いてから、口を開いた。

「俺の名前は桐ケ谷和人。彼女は……結城明日奈は、俺と将来を誓い合った最愛の女性なんだ」

「「ええええっ!?」」

 この日二度目の絶叫を俺と結衣はハモったのだった。

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