とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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「あ! ハチくーん!!」

 

 俺の目の前にはとんでもなくクオリティーの高い美麗な世界が広がっていた。

 というか、これはいったいなんなんだ? ゲーム? マジでゲームなのか?

 いや、マジかよ。

 目を凝らせば、遠くの山麓に積もる雪までキラキラ光っているように見えるし、パッと見で林に見えるその場所には、確かに一本一本の形の違う木が描かれていて、その集合体で林になっているし。

 もしこれが本当にゲームであるとしたら、作った奴はいったい何を考えてここまで作り込んだのか。まさにこの世界を作った奴は本物の変態でまちがいない。頑張りすぎだ。

 普通ゲームならこんなに作り込まないでテクスチャ貼って終わりだろうに、いったいなんでこんな細かく設定してんだよ。

 俺は足元の土に触れてみたが、そこを掘ることは流石に出来なかったが、落ちている小石は拾えたし、生えている草も触れることが出来た。

 うーん。いや、まじでこれはとんでもねえな。これが本当にゲームなのか。

 

 つい先ほど、奉仕部の部室でのやりとりの中で、雪ノ下の奴が急に、では、ゲームをやってみましょうと言い出したものだから、流石の俺も即反対した。

 聞いた話ではあるが、そのゲームでは既に4000人もの人が死んでいるらしい。

 10000分の4000の死。

 プレイヤ―の40%が死ぬゲームなんて誰がやりたいものか。当然そんな危険なところに俺だけでなく俺の知り合いや彼女を連れていきたいなどとは到底思えなかった。

 だが、平然と雪ノ下は言ったのだ。

『それでも現在キリトさん達はそのゲームをプレイしている。ならば当然安全対策は万全なのでしょう』

 と。

 まあ、言いたいことは分かるのだが、現実問題として人が死んだゲームに行きたくはない。特に精神衛生上。

 だが、キリト君は言った。

 すでにその『SAO(ソードアート・オンライン)』は無くなっているし、多くの人を死に追いやったフルダイブマシン、ナーヴ・ギアも使用は禁止されている、と。現状キリト君達がプレイしているゲームは『ALO(アルヴヘイム・オンライン)』はSAOのシステムを流用はしていても別物だし、フルダイブマシンも今は安全な『アミュスフィア』という低出力の機材に変更されているから、生身へのダメージはないと。

 そもそも何言っているんだこいつ、言っている内容はさっぱりわからん。 中二病拗らせすぎか? とツッコミしかなかったが、要は今は安全だからゲームをプレイしても大丈夫ですよということらしい。

 難しい用語多用するとちょっと頭良く見えるよね、やりすぎると痛いだけだけど。

 などと、ちょっと本気でキリト君の頭を心配し始めていたところで彼が、『エギルのバンに五人分のアミュスフィアがあるから、それでダイブしてみよう』などと、言い始めてしまったので、俺達は顔を見合わせてから、じゃ、じゃあしかたないなと、彼らのバンへと向かったのだった。

 路駐していた車は大きなもので、前に二人掛け、二列目、三列目にはそれぞれ三人並んで座れるタイプのもので、車幅もあるのでかなりゆったり座れる感じ。その二列目の奥には、さきほど俺をハチくん呼ばわりしたアスナさんが、ゴーグルタイプのメガネのような物をかけて静かに寝息を立てていた。

 寝ているのか? とも思ったが、どうやらフルダイブしてのゲーム中のようだな。

 キリト君にエギルと呼ばれたその禿げの男性は、ギルバートいうらしいのだが、彼らは二人してアスナさんが装着しているのと同様のゴーグルを何かの機械に取り付けると、それからそれを俺達へと手渡してきた。そして車に乗り込んだわけだが、一番最後部に俺、結衣、雪ノ下の順に座り、二列目にアスナさんとキリト君、で助手席に材木座が座ってギルバートさんに何やら話しかけられてめちゃくちゃ怖がっていたという感じ。

 別に無理して呼んだわけじゃねえんだからそこで大人しくしていろよ、と思いつつ、俺達は初めてその世界へと足を踏み入れることになったというわけだ。

 

「ねえ、ハチくんってば!!」

「ふあっ!?」

 急になにやら柔らかい感触に抱きしめられ、思わずそっちへと顔を向けてみれば、そこに居たのは青い髪の綺麗な女性……だが、なにやらその顔立ちなどが、あのアスナさんに似ているような気がした。

「ええと、あの、あ、アスナさんですか?」

「そうよ、そう。私よハチくん。ははっ! このアバターであったの初めてだけど、分かってくれるなんて超うれしい!! やっぱり私たちが愛し合っているからだよね」

 いや、単にあんたのそのキャラの顔がリアルの顔に似ていたってだけだから。愛し合ってなんかないから。まじこええよ。猟奇だよ。

 アスナさんは浮かれた様子でまじまじと俺の身体を舐めるように見る。そしてまた抱き着きながら言った。

「お願いした通りスプリガンにしてくれたんだね!! 嬉しい本当に!! やっぱり『黒の剣士』はこうでなくっちゃ!!」

 黒の剣士? いったいなんのこっちゃ?

 俺の姿はこのゲームを始めるときに選択する種族のうちのひとつ、『スプリガン』とかいう妖精の身体になっている。たしか、悪戯好きの~~とか、そんなニュアンスの説明書きがあったような気がするが、要はゲームのアバターだ。顔とかは一応元の俺に近くなるように選択したつもりだが、流石に『濁っていて腐った目』は無かったから、なんというか結構キラキラしているせいで、違和感が半端ない。やっぱりもっとクールで鋭い感じの方が……だから俺の目は腐ってねえから。

 とにかくだ、このアスナさんの浮かれた感じが超怖い。目は俺を見ているのだが、どことなく焦点が定まっておらず、テンションが妙に高いままに俺へと纏わりついてきているこの状況は、なにか芝居じみていて、その心境を察することがまったくできない。

 そう考察し背筋に嫌な汗が流れるも、ここで突き放してはせっかく来た意味も何もないと、俺は何も言わずにグッと耐えた。

 さて、どう対応するべきか。このままされるべきで本当に良いのかどうか。

 そう思案していた時だった。

「ヒ、ヒッキー……?」

「比企谷君……と、アスナさんでいいのかしら?」

「お、お前ら……」

 そこに居たのは黄色っぽい服を着た二人の女性のアバター。

 言葉遣いとその表情の見た目からして結衣と雪ノ下の様だが、なんというか、決定的に違う部分が存在していた。

「お前ら、なんで耳と尻尾がついてんだよ」

 そう、結衣と雪ノ下の頭には大きな猫耳……というか犬? 狐? みたいな耳が生えていて、その背後からは長い尻尾が伸びているのだ。で、先ほどから顔は真剣な様子なのだが、雪ノ下のやつはずっと結衣のその耳や尻尾を触り続けていて、ときおり結衣が『ひゃうっ!!』などと声を出しているし。なにそれ、神経通ってるの?

「あ、えーとね、ゆ、ゆきのんが、ひゃんっ!! うう……、ゆきのんがどうしてもこのアバターが良いって、だから」

「そんなことはないわ。私は由比ヶ浜さんと同じ種族にしておいた方が何かと便利なのではないかしらと言っただけなのだけれど」

 あーはいはい、他の種族を選ばせてもらえなかっただけなんですね、由比ヶ浜さんは。そんなふにふにさすりさしりしながら言っても何の説得力もねえよ、雪ノ下。マジ『ねこのした』さんだな。

 結衣はもはや完全に雪ノ下の玩具状態、これはもうなんの役にも立たねえな。

 と、そんな二人のもとに、一番の問題人物が歩み寄った。

「あなたたち……『ユキノシタサン』と『ユイガハマサン』ね? なんであなたたちが私の愛しいハチくんと仲良さそうにしているのかしら? あなたたちのせいでハチくんは心に深い傷を負ったのよ。だからハチくんはあなたたちを拒絶しているの!! なんでそれが分からないの? 『シニナサイ』よ!! 死んでいなくなってわたしたちのまえから。さあ、はやく。わたしとはちくんのじゃまをしないで!!」

 一気にそうまくしたてるアスナさんのその様子は、まるで幽鬼そのもの。感情の発露としての言葉ではなく、まるでただその文言を羅列しているだけのようにさえ聞こえてくる。

 だからなのか、かなりひどいことを言われているというのに、結衣も雪ノ下もどことなく冷静に彼女を見つめ続けていた。まあ、結衣は少し泣きそうになっていたが。

「アスナ……すこし落ち着きなよ」

「放してよリズベット!! わたしはこの二人をゆるせないの!! わたしのハチくんにひどいことしたんだよ!! しんでほしいの!!」

 彼女を抑えようと近づいてきたうちの一人の女の子がそう声をかけるも、アスナさんは微笑みまで浮かべながらそう叫び続けた。

 うわぁ、これ、完全にガチでやばいやつじゃねえかよ。

 目の焦点はあっていないし、叫んでいるときはまるで錆着いたロボットの様にギクシャクしてしまっているし。

 素人目に見ても、間違いなく精神が崩壊しているって分かる症状だ。

 普通じゃあない。

 キリト君はこの子のことを本気で好きだったわけだよな? それなのにこんなに壊れてしまっていてはもう普通に会話することも出来ないわけか。

 いや、俺を好きだとか、そんなことまで言い出してしまうくらいだ。いったいキリト君はどれだけ傷ついていることか。

 初めてのVR体験の感動を味わう間もなく、いきなりこんな修羅場に遭遇してしまって、本当になにがなにやらだったのだけど、ひとりだけまったく空気を読んでいない奴がここにいた。

「みてみてはっちまーん。我、剣豪将軍なだけに鎧着てみたの。長剣もあるし、職業は気持ち的に、〈ナイト〉やってまーす! ふむん!」

 おおう、別の意味で浮かれまくってやがる。

 アスナさんと同じような青髪のなぜか超イケメンの鎧を着たアバターに扮した材木座が、やはり俺にだけ語り掛けてきていた。

 その材木座の姿に遅れてやってきたキリト君がめちゃくちゃ目を丸くしていたのは、どうでもいい話。

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