とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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挑発

「よお、あんたが〈ハチ〉かよ? こりゃ驚いた、本当にいたとはな」

「ああ?」

 突然そんなことを言われて振り向けばそこには赤い衣装に鉢巻き姿の背の高い男がいた。何気なくそいつの目を見たわけだが、何故か俺と目が合って仰けぞって逃げているのだが。

「おい……おいおい睨んでんじゃねえよ」

「いや、別に睨んでないっすけど」

「そ、そうか……? ふう、殺されちまうかと思ったぜ。いきなり目を細めながらにやりとか笑うんじゃねえよ、怖えから」

 そいつは何やら安堵したように胸を押さえているし。え? なにその不敵なツラ? それ滅茶苦茶怖いんですけど!! あ、俺の顔だったのか。

 その男は頭を掻いた後にニカっと笑った。

「俺はクラインってんだ。まあ、キリトのマブダチだな」

「もう何を言ってんのよクライン。友達は友達だけど、その前に仲間でしょな・か・ま!」

 そう横から入ってきたのはピンクの髪の毛に桃色の衣装の女。さっき雪ノ下達にアスナさんが飛び掛かろうとした時に止めに入った人だ。

「私はリズベットね、宜しく」

「お、おお……」

 いきなり顔を近づけてきた彼女にドギマギしていると、今度は脇から袖を何かに引かれてそっちを見て見れば、そこにいたのは小さな、とかげ?

「ひえっ!! な、なんだ?」

「ピャッ!」

 跳び退こうとした俺にその小さなトカゲが口を開いて、何かされるのかと思って慌てていたら、そのトカゲを一人の青い衣装の女の子が抱きかかえた。

「やめなさいピナ! 急に飛びついたらびっくりしちゃうでしょ? あ、私はシリカです。この子はピナ。ペットドラゴンです」

「お、おお……え、えーと」

 急に言われたので、今度はその子と反対に顔を向けてみれば、そこには緑色の衣装を着た金髪の女の子がふわふわと浮かんでいて……というか、俺の目線の高さに、その……きょ、きょ、きょ……が!! 乳トン先生――――!!

 おいおい、こいつもかよ! なんというか、この世界の連中恵まれすぎだろう。少しは雪ノ下に……いえなんでもないです。

 急に悪寒が走ったので思考を停止したのだが、そこにその緑の女の声が。

「私はリーファ。ええと、リアルだとキリト君の妹です」

 え? キリトくんお兄ちゃんだったの?

 なんだよ、そうか、お兄ちゃんだったら話は別だ。これからはキリト君のことはお兄ちゃん同士として、赤の他人から知り合いに昇格させてあげよう。うん、お兄ちゃんマジリスペクト。

 適当にそんなことを考えていて感じたのは、連中の俺を射抜くような視線が超痛い。

 や、やめろよ、そんなに見んじゃねえよ。

 急に俺の周りに集まったこの連中を見回しつつ、これはあれだな、自己紹介だなと、ぼっちにとってはめちゃくちゃハードな試練に俺は突如挑むことになった。

 すう……はあぁぁぁ……すぅぅぅ……

 と深呼吸をしてから一言!!

「お、お、おお……俺は比企……ひっきゃ八幡で……す」

 噛んだ……死にたい。

 目の前の連中の頭にクエスチョンマークが浮かび上がるのを幻視しつつ、俺はそいつらから離れようとしたわけだが、一歩下がった俺の傍にその4人がずずい近づいてきた。

「よお、あんたがアスナさんに何かしたのか?」

「もしそうなら、もう許してあげてよ。キリトの落ち込んだ顔もう見ていられなくて」

「キリトさんもアスナさんも本当に頑張って生還したんです。どうか助けてあげてください」

「お兄ちゃんこのままじゃあんまりにも可哀そうだよ。だからどうかもう解放してください」

「え? は?」

 いきなりそんなことを言われて迫られても、俺にはなにも言えやしないっての。

 そもそもマジで初対面なんだよ、俺は、アスナさんに!!

 チラリとアスナさんの方を見れば、今はキリト君と何かを話しているのだが、何度も俺の方に顔を向けて微笑んできているし。いや、そんなに数秒おきにこっちを見なくても、まったく状況は変わっていないから。

 はあ、さて何が何やらだよ本当に。

「申し訳ないのだけれど、彼も私達もここに来ることも、アスナさんと会うのも初めての経験よ。何かを彼女にしたわけではないわ」

「で、でもよぅ……」

 すっと近づいてきた雪ノ下がそう言い放ち、それを聞いたみんなが絶句する中で、クラインとか名乗った男がまだ何かを言おうとしていた。

 だが、雪ノ下はそれを手で制した。

「ただ、何もしないとは言っていないわ。比企谷君?」

「あ? なんだよ」

 急に雪ノ下に呼ばれ返事をすると、奴は俺へとにこりと微笑んだ。

「では早速検証してみましょうか?」

「は?」

 急に何の前触れもなしに。この世界で猫になったゆきのん、略してねこのんが、由比ヶ浜の尻尾をさすりながらそんな宣言をした。っていうか、結衣の奴も完全に猫みたいに雪ノ下になついて気持ちよさそうにごろごろ始めているし。お前らは、ボスとそのペットか!

「いったい何をいきなり言い始めてるんだよ、雪ノ下。そもそもお前このゲームをやったことねえだろうが。知らねえくせに何を検証しようとしてんだよ」

 そう聞いてみれば、雪ノ下は冷めた笑いを浮かべて俺を見た。

「そんなの決まっているじゃない。戦うのよ、アスナさんと」

「は? はいっ!?」

 何を言ってるんだこいつは。いやいや、いったい何を言い出すんだよこいつは!

 そもそもゲームをやったことないよねって、今確認したばかりなんだが。

「お、お前な……初見でいきなり戦えるわけねえだろうが。チュートリアルもまだなんだぞ? しかもここはほれ、これだ。身体動かさなきゃならねえんだぞ? コントローラーでAボタン、Bボタンで戦うわけじゃねえんだから無理にきまってるだろ、やめとけやめとけ」

 そう何も理解していないであろう、テレビゲームなんて庶民の遊びに触れたこともないであろうお嬢様へ、諭してやったわけだが。

「何を勘違いしているのかしら? 戦うのは当然貴方に決まっているでしょう?」

「はぁあああっ!? む、無理に決まってんだろうが、それこそ!」

「あら? モンバンというゲームは得意なのでしょう? あれも剣とか弓で戦うゲームだと由比ヶ浜さんから聞いているわ。なら問題ないでしょう。このゲームも剣や弓や斧やハンマーなどで戦うということだもの」

「モンハンな!! だから、何言っちゃってんのって話だよ、お前。そもそもコントローラーないんだって話したよね」

「ぐだぐだ言わずにすぐに準備をしなさい。それともあなたは男のくせに自分は何もせずに女にその役をやらせるつもりなのかしら?」

「今どきは男のくせには十分セクハラなんですけどね、関係ないですかそうですか。はあ……」

 そもそも戦う相手のアスナさん女なんですけどね。当然ボコられるのは俺ですけど。

 俺は冷たく微笑んでいる俺達のボス、雪ノ下をチラリと見ながらキリト君達の前へと近づいた。

 すぐにアスナさんが喜びを隠しもせずに俺の腕へと抱き着いてくるのだが、俺はそれを極力身体から遠ざけるようにして話した。

「そういうわけなんで、俺アスナさんと戦ってみることになったから」

 そう言ってみたのだが、キリト君はなにやら頬を引くつかせて冷や汗を垂らした。

 え? なにその反応?

「それはちょっと……いくらなんでも無茶じゃないか……な? アスナはSAO時代に最上位ギルド〈KoB〉の副団長で、〈閃光〉の二つ名を持つ最速の剣士だった。いくらALOがレベル無しガチスキル制だとしても、試すどころか向き合うことすら……」

 は? なにそれ、SAO最上位ギルドの副団長で最速? つまり超強いの? この抱き着き人形娘。

 んなもん、試すも何もお話にもならならないだろ。

 そう思って冷や汗を掻いていると、アスナさんが言った。

「え? でも反応速度ならハチくんの方が上だったでしょ? それに特殊ソードスキルの〈運命歪曲〉と〈無限錬成〉があったじゃない。あれでヒースクリフも余裕で倒したんだし」

 え? なにその中二病チックなスキル、マジで恥ずかしすぎるんですけど。

 運命歪曲って、あのどんなことがあっても結果刺さることになっていました的な槍のことだよね? ね?

 で、なに? 無限錬成って、ひょっとして剣とか出し続けちゃうの? なにもないところから?

 わーお、そのスキル剣じゃなくてラーメンとかパンとか出せば一生食事に困らない、というか、それを売って商売すれば元手ただで一財産築けちゃうじゃない。

 あ、ここ仮想世界か。ビットコインとかなら稼げるか?

 などと下らないことを妄想していたのだが、キリト君を見てみれば困惑した顔で首をかしげていた。

 だから近寄って小声で聞いてみれば……

「いや、反応速度がアスナ以上だったのは俺のことなんだ……多分。だからそれは元の記憶がベースなんだろうけど、さっき話していたソードスキルのことは何のことかまったくわからない」

 ほーん。つまり、今のアスナさんは、もともとのキリトくんとの記憶にプラスして、新しい記憶も入れられている……そのキリト君の役の所を俺に置き換えさせられている。そんな感じなのか……

「さあ、では初めて頂戴」

「は?」

 唐突に雪ノ下がそう言ったので顔をあげてみれば、その手に木刀を二本持っていた。

 それはいったいなんなんだと思ってみていれば、雪ノ下は言った。

「これはダメージ係数のほとんどない訓練用の木の棒だそうよ。これならば1000回くらい攻撃を受けなければ死なないということのようね」

 逆にいえば、1000回攻撃されるまで逃げられないということでもあるんだけどね。

「いや、やっぱりやめよう。こんなのおかしいまちがいっている」

「あら、ここまで来てやめてしまおうなんて本当に臆病なのね比企谷君。それで本当にアスナさんの旦那様なの? おへそでお茶が湧くわね」

 いきなり何を言いだしているんだこいつは!! 頼むから逃がしてくれよ!! 死にたくねえよ痛いのいやだよ!! と半ば泣きそうになりつつ、叫びそうになったときのことだった。

「さっきから黙って聞いてれば、私の大事なハチくんに酷いことばかり言って! やっぱりユキノシタサンは最低なクズ女ね、いますぐコロシテヤルわ!!」

 そう言いつつアスナさんが飛びかかろうとしたのだが、そこで雪ノ下。

「あら? 初心者の私を殺すなんて簡単なのだし、いつでも余裕でしょ? そもそも私が言っているのはそこの貧相で弱そうな比企谷くんのことよ。あなたの大事な大事な愛するハチくんは、どうみても弱くてどうしようもない役立たずの屑にしか見えないわ。本当にその死のゲームをクリアしたのかしらね。まあ、貴女自身が、腕試しするまでもなく弱いということを認めているということでしょう。ほらそんな虫けらみたいに貧弱な男、もうどうでもいいからさっさと連れてゆきなさいな。なにもしなくて良いわ、面倒だから」

 ちょっ!! ゆ、雪ノ下!! いったい何を焚き付けてやがる。

 あ、アスナさん顔真っ赤になって今にも爆発しちまいそうだぞ? うわわ、髪の毛が逆立ち始めてるし、いったいどこの怒ったナウ〇カさん!!

 涼しい微笑みを浮かべる雪ノ下と、烈火のごとき仁王のような顔になっているアスナさん。

 で、その二人にぶら下がっている格好の結衣と俺。うう、シュールだ。

「いいわ!! 見ていなさい!! ハチくんがどれだけ凄くてかっこいいかを、その目に焼き付けなさい!! さあ、ハチくん、今日は遠慮はいらないわ!! 私を殺す気で来て!! さあっ!!」

 と言いつつ、俺の手に木刀を放り投げてくるアスナさん。

 彼女は突如、まるでフェンシングでもするかのようなポーズを決めると俺へと殺気剥き出して構えた。

 そのまま、ヒュウウウウンと何かの音が響きだして、木刀が少し光って見える気がするのだが!!

 

 え? ほんと、なんでこうなった。

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