とあるHACHIMANがあの世界に行った 作:はチまン
目の前に立っていたのは間違いなく比企谷八幡だった。そしてその隣に居るのは茶髪のチャラ男、戸部か。
そして向こうへと急ぎ足で去っていくのは海老名さんなのだろう。
俺には確かにそれが分かった。
ということはだ、手前の茂みにいる二人の女は、雪ノ下とくそガハマの二人だろう。あれおかしいな、ガハマの髪の毛はピンク色じゃねえのか? 確かにお団子を結っているようだが、そうか! ここは現実だからあんなピンクの髪にはならないってことなんだな。なんだよ、原作通りにもっと頑張れよ、ガハマちゃーん、くく。
と、そんなことを思っている間に右側に隠れていた葉山グループの連中が次々に戸部の元へと進んでいく。
それから葉山が何かを八幡に話しているシーンを見て胃の腑が疼くのを感じてしまった。
てめえはいったい八幡に何を言ってやがるんだよ?
ああ? あれか? 『こんな結果になってざまあ』とかそんなこと言ってるんだろどうせ。お前は後で絶対生かして置かねえぞ、お前のせいで全部こんな酷いことになってるんだからな。
おっと、そうだ、この後八幡はこっちへ来るんだっけ……
俺は慌てて小径の壁沿いに身を寄せて、連中から見えない位置に移動した。
雪ノ下とガハマは俺のすぐそば、八幡ももう目と鼻の先だ。
二人は小径の中央に拡がる様にして八幡を迎える。八幡はポケットに手を入れたままゆっくりと近づいてきた。
そして口を開いたのは雪ノ下だ。
「……あなたのやり方、嫌いだわ」
おお、本当に言いやがった、このテンプレセリフ。お前な、そのセリフ言われてどれだけ傷つくか分かってんのか? じゃあてめえはいったい何をした? 何を言った? ああ?
お前は言ったんじゃねえのか!? あなたに全部任せるって。それなのになんだその言い草は、私の方が傷ついたのよアピールなのかよ? 本当に頭の中腐ってるな、常識なさすぎるんだよ、お前は!!
胸に手を当てて、さも苦しいとでも言うかのようなあざといアピールをする雪ノ下は、そのまま視線を逸らしたまま言った。
「うまく説明ができなくて、もどかしいのだけれど……。あなたのそのやり方、とても嫌い」
「ゆきのん……」
まじうざい。
雪ノ下のセリフに只でなくても気分が悪いのに、そこに由比ヶ浜が心配そうな顔で見つめているし。
本当に、こいつは人の神経を逆なですることにかけては天才的だな。
言われた八幡はといえば、苦虫をかみつぶしたような顔で地面に視線を落としていた。いや、だからなんで八幡がそんな顔になるんだよ? 全然悪くないじゃないかよ、悪いのは全部こいつらだ。
「……先に戻るわ」
雪ノ下が胸を抑えたままでその場を立ち去った。
これも原作通り……なのか?
残されたのはガハマと八幡の二人。
いや、これはまじでムカつくシチュエーションだ。
ここで八幡はガハマからさらなる追い打ちの言葉を投げられて、もっと傷つくことになるんだ。
くそっ、なんとかしてやりたいが、でもいったいどうやって?
俺は今どういう立場なのかまったく分からない。だからここで何かしようにもどうしていいのやら。
俺が八幡の友達なら間違いなくすぐに助けるのに。
そんなことを悶々と考えているうちに、ガハマが言った。
「あ、あたしたちも、戻ろっか」
「……そうだな」
八幡が先に立って歩き、一歩遅れてガハマが。
俺は二人に気づかれないように隠れつつゆっくり近づいた。すると、小声で明るい感じのガハマの声が。こいつ、こんなつらい状況でなんでそんな嬉しそうなんだよ。
「いやー、あの作戦はダメだったねー。確かに驚いたし、姫菜もタイミング逃しちゃってたけどさ」
「だな」
「けど、うん。結構びっくりだった。一瞬本気かと思っちゃったもん」
「んなわけないだろ」
「だよね。あはは……」
そしてガハマが止まる。止まって八幡の服の裾を掴んでいた。
「でも……でもさ。……こういうの、もう、なしね」
ガハマの奴は笑いながら話す。八幡はバカにされたようなその雰囲気のままで気まずそうに視線を合わせないままで口を開いた。
「あれが一番効率良かった、それだけだろ」
「効率とか、そういうことじゃないよ」
「解決を望まない奴もいる。現状維持がいいって奴も当然いて、みんなに都合よくはできないだろ。なら、妥協できるポイントを探すしかない」
静まり返った竹林の只中で、そう言った八幡にガハマが声を少し大きくして言った。
「とべっちも振られてないし、隼人くんとか男子もなんか仲良さげで。姫菜も気にしなくて済んで……、これで、また明日からいつも通り。変わらないで済むのかもしんない……けど、けどさ……」
ガハマは一度力が抜けて八幡の袖を離したかに見えた。が、次の瞬間ぐっと更に強く袖を引っ張って、キツイ語調であのセリフを言った。
「人の気持ち、もっと考えてよ……」
袖を引かれながら茫然と見下ろしている八幡を目の当たりにして、俺は沸々と怒りがこみあげてくるのを感じていた。
「……なんで、いろいろなことがわかるのに、それがわかんないの?」
ぐいぐいと乱暴に八幡の袖をひっぱりながら、喚くように叫ぶガハマは、最後にぽそっと捨て台詞を吐いた。
「ああいうの、やだ」
そして、手を離し、トポトポと歩み去っていく。
八幡は……ただ、黙って天を仰いでいた。
本当に……
本当になんなんだあのくそアマは!! 八幡がこんなに打ちひしがれているのに自分のことばかり押し付けるように言いやがって!! お前みたいな自分勝手な女が八幡と釣り合う分けねえだろうが。八幡にはもっと優しくて理解される恋人が必要なんだよ!!
くそっ! まじでむかついてきた。このままあの女を帰していいのか? あいつこの後、雪ノ下と二人で八幡を拒絶するんだぞ?
たしか、修学旅行が終わって部室に行くと、八幡抜きで二人が部室内でひそひそ話合ったりしてるんだよな。『あんなやりかた、見損なったわ』とか、『ヒッキーって、人の気持ち考えられない最低男』とか、『任せるとは言ったけれど、あのやり方を容認したわけではないわ』とかな。
そもそもお前らが任せたんじゃねえか。
八幡には一切責任はない。それなのに、二人でこそこそとそんなことを話して、それを聞いた八幡がどう思うかなんて微塵も想像していないよな!
本当に雪ノ下とガハマは屑だ。やっぱりあいつらと一緒にいたら八幡は不幸になる。
だから、俺がなんとかしてやらねえとな……
俺は覚悟を決めて、空を見上げている八幡へと迫った。
そして近づいて一瞬目があって、そのまま無言で彼へと念じた。
”心配するな、俺がお前を助けてやる”と。
そして脇をすり抜けた俺は、先ほどゆっくり歩みさったガハマを追いかけて……
ちょうど竹林の小径の終わりの辺りで両手で顔を抑えていたガハマに追いついて、そのまま思いっきり背中にタックルした。
「きゃ……」
ガハマの奴は簡単に足をも連れさせて道脇の植え込みへと倒れこんだ。そして驚いた顔で俺を見上げてきた。
本当にこのアマは自分のしていること……これからすることを何も分かっていない。
お前こそ最低最悪の女なんだよ。
だから俺は教えてやった。
怯えた風を装って俺を見上げてくるそのお団子頭に。
「頭に乗ってんじゃねえよ、くそガハマ。お前みたいな屑が八幡と釣り合うわけねえんだよ」
「え……」
俺はそのまま奴を放置して大股でその場から離れた。
最高の気分だった。あのクソガハマに言ってやった。言ってやったんだよ俺は!! お前は屑だってな、くはは。いやあ、最高だぜこの世界。これで俺はくそムカつくあいつらに目にモノ見せてやるよ!!
学習指導要項で禁止されているのに八幡を強制入部させた平塚。
自分の価値観を押し付けて罵倒しまくる無礼な女、雪ノ下。
そして、一年も事故の謝罪をしない非常識で頭のおかしい女、由比ヶ浜。
この三人だけは絶対許さねえ。
俺はこの時、そう固く決意した。