とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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ユイの作戦

 ついさきほどまで俺がいた場所では、木刀を光らせながらキリトくんとアスナさんの二人がまさしく乱舞していた。

 とにかく速い速すぎる!! 

 さっきすぐ目の前で見ていてもその動きを追う事さえ困難だったのだが、少し離れた今の位置でさえ、二人の動きを正確に捉えることがまるで出来ない。

 いったいこれはなんの冗談なんだか……

 俺もう少しであの勢いで殴られ続けるところだったのか。

「雪乃さん達にお願いしたのはこの私なんです。すいません」

 戦々恐々としていた俺の気分を感じ取ったりでもしたのか、宙に飛び上がったチョウチョのようなユイちゃんが俺の傍まできてぺこりと頭を下げた。

「い、いや、別にだいじょうぶだ」

 小さな女の子が謝っているんだ。ここはお兄さんとしては毅然と振る舞うべきだろう。

 ん? というか、AIだったっけ? つまりロボットか? 電影少女? はアイちゃんか。

 長い黒髪はまるで雪ノ下の様だが、その下の顔は柔和でおっとりした感じで気の弱そうな印象を漂わせていた。

 そんなユイちゃんが言った。

「ママのアバター基礎データは今、何か得体の知れないプログラムによって浸食されてしまっています。初めはただのシステムのバグかとも思ったのですが、ママの記憶自体が書き換えられてしまっているみたいで……でも、ママの思考アルゴリズムを確認してみると、時おりママ自身の思考の波形も現れていて、どうやら今は、ママのなかにママと別の意識が同居している様なんです。ですから……!」

 何を言っているんだ、この娘ちゃんは。

 キリト君もそうだったが、話している内容が難しすぎてまったく理解出来ない。親子なだけにそっくりだな、おいてけぼり感がマジ半端ない。

 だが、なんとなく解るのは、この子はこの起こっている事態について、その原因のようなものを察しているらしいということ。ならば……

「続けて」

 その俺の反応に、なにやら訝しい目付きで見つめてくる雪ノ下さん。

 いえ、この続けてはテンプレみたいなもので、とくに何か考えての行動ではありませんので……

「はい、続けます」

 おっとユイちゃんが早速反応してくれた。ふ、ふう……ホッとした。 

「ママの中のママの意識を覚醒させたいんです。そうすればきっと、今ママを操っている気持ち悪いプログラムを追い出すことができますから。覚醒させるためにはより極限状態に近い状態まで追い込んで、死を覚悟するほどの状況が必要だったのですけど、ママと対等以上に戦えるのはパパだけです。でもパパは凄く優しいのでママには絶体に剣を向けられなかったんです、だから……」

「オーケーなるほど完全に理解した。キリト君をひっぱりだすためにアスナさんを焚き付ける必要があったわけだな。で俺はその餌のようなものだったと」

「ごめんなさい。でもパパは絶対に助けに来るって分かっていましたから」

 すげえ信頼だなキリト君。実際に助けにきたし、今でも戦っているしな。

 ユイちゃんを見れば、そんなキリト君に視線を向けて安心しきった顔になっているし。

 そこへ難しい顔の雪ノ下が口を挟んできた。

「私はよく解ってはいないのだけれど、アスナさんが覚醒したとしても、そのプログラムが再び彼女の内に戻ってしまったとしたら意味がないのではないかしら」

 そう言った彼女に、ユイちゃんだ。

「そこは多分大丈夫です。一度ママから剥がしさえできたら、後は私がそのプログラムを徹底的に壊しますから。私こう見えて結構いろいろできちゃうんですよ」

 えっへんと胸を反らしたユイちゃんに、多分そういうことなんだろうなと、俺は納得することにした。

 雪ノ下も結衣も同様の感想なのか、微笑みあっているし。

 ならもう問題ないか。

 遠目に見れば、そこではキリト君が素早いアスナさんに対してひたすらに攻撃を避けられているようにも見える。

 でも、木刀が振るわれるたびに、大したことは無いのだろうが、真っ赤な鮮血のようなエフェクトが煌めいていて、アスナさんは止むことのない雨のようなキリト君の猛攻で確かに手傷を負っていた。

 これはキリト君優勢か? そう思えるほどにアスナさんは逃げの一手になってきていた。

 どんどん動きが速くなるキリト君の隣……

 それに合わせて、身体が残像を残すほどの速度で動き続けていたアスナさんの背後に、ついにその〈(もや)〉がうっすらと現れた。

 

 

 

 

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