とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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HACHIMANズ

「アスナッ!!」

 

 キリト君の悲鳴のようなその叫びを最後に俺達はその黒いドロドロに一気に押し流された。

 まるで間欠泉の様に噴き上がる続ける黒いドロドロは、その殆どが真上に向かって逆さの瀑布の如き勢いで遥か上方の〈空〉へと落ち続け、空全体を黒一色で塗りつぶしていく。

 そしてそのまま黒色に変わると同時にハニカム柄が現れて周囲一面全てで警戒の文字が。

 光も次第と失われていき、周囲が黒く、淀んだような景色に変わったところで、漸く俺達はどろどろの中から身体を起すことができた。

「これは……どうなってんだ? おい、結衣! 雪ノ下! どこだ?」

 そう慌てて背後を見て見れば、ドロドロに浸かったままで抱き合っている二人の姿が。

「こ、ここだよ、ヒッキー」

「おう、ちょっと待て、今引っ張り上げる」

 そう言って、結衣の手を引っ張れば、もう全身がドロに塗れて真っ黒だ。

 丁度、田んぼの田植えの時に転んでしまったかのような見た目だが、やはりこれはただの泥ではないのか、起き上がり流れ落ちるともう何もなかったかのように汚れていない素肌が。

「すげえな、これは洗濯機いらねえな」

 これは泥が普通じゃないのか、俺達の服が高性能なのか、これテレビショッピングで披露したらおばちゃんたちがおおっ! ってなるやつで間違いないな。しつこい汚れに~~

「バカなことを言っていないで、ちゃんと警戒しなさい」

「あっはい」

 雪ノ下さんに普通に怒られてしまったので周りへと視線を向けてみる。

 先ほどまで、アスナさんの身体から噴き出していたどろどろの勢いはだいぶ弱まっているようで、轟音を響かせた泥の噴射の光景はすでにない。

 だが、辺りはもうどろに塗れて、綺麗だった風景のその殆どが黒で塗りつぶされてしまっていた。

 では、そのアスナさんやキリト君はどこに……

 と思って顔を巡らせてみれば、こんもりと盛り上がった5mくらいの泥の山の上に、アスナさんの上半身らしき姿が、両手と胴の腰から下を泥にめり込ませて固定されたまま眠ってでもいるのか、長い青い髪を垂らして項垂れてしまっている。

 先ほどの様にその口などから泥は出てきていない。でも、彼女がめり込んでいるその泥は確かにまだ溢れてきているらしく、溶けたチョコレートが波打つように、彼女を中心に拡がり続けていた。

「アスナっ!!」

 そう声がして俺はアスナさんのいる山から視線を右の方へ動かした。

 そこには泥の上を高速で駆けるキリト君の姿。彼はアスナさんへと一気に近づこうとしていた。 

 でも……

「パパッ気をつけて!! なにかいます!!」

 そんなユイちゃんの声が聞こえたかと思うと、キリト君のすぐ前方にいくつもの黒い塊が盛り上がった。

 そして、それはやがて人の形になって……

「ジャマをするなぁあああっ!!」

 そう吠えつつキリト君はその黒い塊に切りかかった。

 が!

「あー、めんどくせえ」

「マジうぜえ」

「なんで俺がこんなことしなくちゃならねえんだよ」

「かえりてえ」

 キリト君が切り込んだその塊り達……そいつらがそんなことを言いながら彼の一撃を……受けなかった。

 人の形をなしたその塊りは、それぞれの手に金や黒の剣を召喚でもしているのか、急に出現させて、それでもってキリト君の剣を打ち返した。

 って、こいつらまさか……

「こ、これは……〈エクスキャリバー〉に……〈エリュシデータ〉なのか……? くっ!」

 そう言いつつキリト君は身を翻して構えを取った。 

 その光景に俺は唖然となった。

 いや、俺だけではない、俺の隣にいる雪ノ下も結衣も俺と同様に唖然となって開いた口がふさがっていなかった。

 でもそれは仕方ないことなのだ。だって、俺だって同じ感想だもの。

 なぜならそこにいたのは、その身体のほとんどがまだ泥状のままだけど、紛れもなく『俺』の姿だったのだから。

 

 いや、まるっきり俺と同じであったわけではない。

 その顔は確かに俺のようではあるが、何かスッキリと整っていてどことなく理知的な感じもするイケメンなのだ。というか、猫背はどうした! なんでそんなに剣を持つ立ち姿がサマになってんだよ。俺いままでコスプレした時に試しで布団たたきを剣みたいに構えてみたりしたことはあったけど、あれを母ちゃんに見られてマジで死にたくなったからそれ以来やってねえはずなんだけどなぁ。

 それと、その頭の上でひょこひょこ動いている寝ぐせはいったいなんのつもりだ?

 人前にカッコつけて出てくるなら、せめて寝ぐせくらいは直せよな。なんでちょっと俺カッコいいだろみたいキメ顔してんだよ、まじでキメぇ。

 あと、あの端っこのやつ、なんで眼鏡? 俺眼鏡かけるほど視力低くねえよ。むしろめちゃくちゃ良いまである。

 くっそ、みればみるほどになんなんだこいつらは。

 どうして全員微妙に俺に似ているんだよ、俺への当てつけか? ほんと、中二病拗らせていたときの古傷にマジダイレクトアタックされてる気分だ。頼むから、せめてその俺イケてるやつ風の話し方マジ止めて! お願い、しゃべらずに静かにしていて!

「あら、大分気分が悪いようね比企谷君。あれはやはりあなたの分身ということで良いのかしら?」

「んなわけねえだろ、俺はあんなに気持ち悪くはねえ」

「そう? かなり顔が整っているようだし、一見ハンサムに見えるのだけれど……あなたの首もあれに()げ換えてもらえば良いのではないかしら」

「そうやって人の遺伝子否定するのやめて貰えますかね」

「もう、二人とも、そんなこと言ってる場合じゃないよ。ほら、見て!! みてよ!!」

 そう結衣に言われて、改めてキリト君の方を見れば、そこでは新たな黒い人形がにょきにょきと生えまくっていた。その数、数十体。

「あー、だりい」

「まじむかつく」

 かっこつけてでもいるのか、いちいちそんなことを言いつつ現れ出てくる、俺のそっくりさん(イケメン補正)。

 やめて!! 俺の顔でそんなセリフ言わないで!! それカッコよくないから、寒いから、俺そんなこと言わないから!!

 身体のその殆どが泥のままの俺のそっくりさんズ!!

 無数のそいつらが同じような剣を構えて、キリト君をみているのだが、これはいくらなんでも多勢に無勢すぎる。

 そもそもあのとんでもないキリト君の攻撃を、この泥八幡は簡単にしのいだのだ、しかも涼しい顔で! お、思い出すだけで鳥肌が、いちいちかっこつけんな頼むから。

 で、でだ、そんなチートな八幡ズだけではないかったのだ。

 その周囲には、どこかで見たことあるような人型も新たに浮かび上がっていた。

「あ、あれは……姉さん?」

「陽乃さん?」

 そう、雪ノ下の姉の姿がそこに現れていた、ドロに塗れていただけだけど。

 その胸元を大きくはだけさせた恥ずかし衣装で、両手にナイフ……確かククリナイフとかいうアサシンが持っているようなナイフを手にしている。

 と、それだけではなかった。さらに新しく出てきた泥の人形はそれぞれ、クラインさんやリズベットさん、リーファさんなど……俺だけでなく、キリト君の仲間さんの姿もどことなく違う雰囲気のままに出てきて、最終的には……

「ゆきのんあれ!」

「ええ……あれは……私達ね」

 そう、二人が凝視した先には、いくつものお団子頭と黒髪の泥人形が。

 それらは間違いなく結衣と雪ノ下だった。

 泥の結衣たちはどことなく目の焦点が合っておらず、まるで気でも触れてしまったかのようなその様子は、先ほどまでの操られていたアスナさんに酷似していた。

 これは本当にどういうことなんだよ。

 もはや俺達の周囲はその泥の俺達によって埋め尽くされてしまっているのだ。

 そして、最初に現れた八幡ズの一人が声を出した。

「キリト……俺らともだちだろ? 何を歯向かおうとしてんだよ」

「くっ」

 キリト君へそんなことを言いつつ見下す様の……俺。だからやめて! 超やめて!!

 キリト君は姿勢を低くしながら泥の俺を睨んでいる。

 これは飛び掛かるつもりなのだろうか? 

 だが、どう考えてもこれはもう“詰んで”いる。

 多勢に無勢の話どころではない。キリト君の攻撃を簡単にいなした俺だけでも数十体、それ以外にも結衣たちやクラインさん達も含めれば、その数倍を超す泥人形がここに存在しているのだ。

 もう負けは確定している。

 そのような状態で息を飲むキリト君が見ているのはただひとつ。

 泥の発生源ともなっているアスナさんの姿だけだ。

 何もしゃべらずただ見上げるだけのキリト君。彼に泥八幡が言った。

「いくら友達でも、“俺の”アスナを狙うなんて許せねえぜ。キリト、お前もさっさと“元”に戻れよ」

 そうニヤリと笑った時だった。

「パパっ!! 後ろです!!」

「!?」

 その声に反応したキリト君が一気に跳躍して身を翻した。 

 その瞬間に、彼が立っていたところの周囲から泥が遅い掛かり、その場に泥だまりを作る。

 どうやら、キリト君を泥で飲み込もうとしたようだが……そこで俺はそれを見た。 

 襲い掛かった泥……それは他の泥人形と同じようににょきにょきと盛り上がって人形を取る。そしてそれは小柄な少年の姿へと変わった。

 黒いコートを羽織ったようなアバターのその姿……紛れもなくキリト君だった。

 その泥キリトは飛び上がり浮遊しているキリト君を見てにんまりと笑った。

「逃げるなよ、せっかく元通りにしてやろうとしているんだから」

 そう言いつつ、彼が抜き放った剣は、先ほど泥八幡が抜いた金色の剣と同じものだった。

 あれ、相当強そうな武器だけど、なんでこんなに何本もあるんだよ?

 とにかく今が絶対絶命だとだけ理解し、息を飲んだその時、ユイちゃんが叫んだ。

「みなさん気を付けてください!! この人たちは“改変プログラム”の塊です。この人たちに取り付かれたら、さっきのママみたいになっちゃいます!!」

「なんだって!」

「そんな」

 クラインさん達が少し離れたところで絶望的な声を漏らしていた。

 マジで……

 最悪だ。

「いう事聞かねえなら、力づくだ、キリト」

 泥八幡ズとその他大勢が俺達へと一斉に襲い掛かってきた。




沢山のご感想ありがとうございました。
これからもきちんとご返信いたしますね。
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