とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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マスター……

 一斉に襲い掛かってきた俺のそっくりさん連中に、陽乃さんやら、クラインさんやらの集団。

 彼らは手にした様々な武器を振り上げ、まずは一番近くにいたキリトくんへと襲い掛かった。が彼はすぐに空中へと飛び上がり、前方へと飛び出した。

「アスナっ!!」

 目指しているのは泥の中心で埋まってしまっているアスナさんなのだろうが、即座にそれを追いかけた泥八幡は数人しかいない。どうやら、飛べる奴と飛べない奴がいるようではあるが、当然のごとくキリト君は辿り着くことは出来なかった。

 突然キリト君の右足が“消し”飛んだのだ。

 目を凝らしてみれば、一人の泥八幡が手に長大な武器……あれはなんだ? 対戦車ライフル? そんな最早ファンタジー関係なしの武器を手で構えてその銃口から煙を立ち上らせていた。

 まさかあれ撃ったのかよ……

「う……が……」

 悲鳴を上げつつ失速し墜落を始めるキリト君。そこに泥八幡達が群がるように待ち構えていたのだが……

「パパ」

「お兄ちゃん!!」

「キリトっ!!」

 そんな声を掛けながら落下するキリト君を抱き止めたリーファさんとクラインさん達。彼らはキリト君を抱えたままで真っすぐ一番遠くにいた俺達の元へと向かっていた。

 俺達の傍には、すでにリズベットさんやシリカさん達が来ていて、襲い掛かってきている泥の自分達と戦っている。

「なにこいつら、超強い。武器の性能も段違いだし」

「リズさん!! 助けてください! あ、ピナ、無理しちゃだめっ!」

「ぴいいいいっ!!」

 シリカさんのドラゴンが口を大きく開け、そこから炎を吐き出した。

 それに焼かれた泥たちの一部が後退するも、背後から無傷のそいつらがザッザッザッと余裕の笑みをその頬に貼りつけたまま歩みよってくる。

 これはまさにゾンビ映画さながらのホラーだ、。

 向かってくるその殆どが俺だし。

 いやいやいや何を俺は自分のことゾンビ扱いしてんだよ、ちげーよ腐ってねえよ、ただちょこっと人よりも人間観察とかで使いすぎているから目が発酵していそうってだけだよ……やっぱ腐ってるじゃねえか。

 もういいや。

 そうではなくて、ゾンビ映画とかなら知能がないから直線的な動きばかりで逃げようがあったりもするのだけど、ことこいつらに関しては逃げようがないのだ。

 しゃべってもいるし、意思もあるしな。

 でもだからって話し合いをしたいとは考えていなそうだ。

 とにかく俺達へと襲い掛かろうとする、いや、先ほどのユイちゃんの話だと、俺達を取り込もうとしているのか……

 そう考えゾッとした俺の近くに、キリト君を連れたクラインさんやリーファさんが降り立った。

 キリト君はぐったりはしているが、意識はあるようで、唇を噛んだままアスナさんを見つめていた。

「銃を持ってるやつがいやがる。なんでこのALOに近代兵器を持ち込みやがるんだよ、ったく、めちゃくちゃだぜ。八幡さん達は岩陰とかに隠れた方がいい。ジッとしていたら狙撃されるだろうからな」

 そう言いつつ、クラインさんが日本刀のような武器を抜いて前へ出た。

 それと、何か魔法のような物をつかったリーファさんがキリト君を見ていた。

 彼の足は既に復元している。

「お兄ちゃん、これで足はもう大丈夫だよ」

「ありがとう、スグ……」

 にこりと微笑み合った兄妹の二人。彼らもまた剣を引き抜いて前へと出た。そして襲いくる泥八幡達へと切り込んでいった。

「ねえヒッキー、あたし達何もできないのかな」

 そう俺の隣で結衣が声を漏らすも、そんなことを言われてもって話でしかない。

「そもそも俺達はこのゲームをやったことがない。戦う以前に、武器をどう入手すれば良いかもわからんし、持ったところで玄人のキリト君達が苦戦しているような相手だ。勝負になるはずがない」

「うん……そう……だよね……」

 消沈して項垂れる由比ヶ浜。

 気持ちは分かる。なんとかしたいって思いは俺にだってある。

 だけどな、なんとかしたいからってだけで、何も出来ないくせに飛び込むのはただの自己満足でしかない。

 そんなことをして、傷つかなくてもよかったはずの人にまで不幸を押し付けることにでもなれば、それはただの害悪だ。

 それと……もし先ほどのユイちゃんの話が正しいのならば、あの泥の自分に浸食されれば、自我を失うことにもなる。アスナさんのようにな。

 あんな操り人形になった結衣や雪ノ下を見たくなんかない……

 だけど、何もできないこのイライラをいったいどうすれば……

 くっそ。

「だいたい分かったわ」

「え?」

「は?」

 突然俺の隣でそんな声がして結衣と二人で見て見れば、そこでは雪ノ下が何やら空間に画面を表示させて、指で

ページを送りながら何かを読んでいた。

 そしてブツブツと何かを呟きつつ、その手に銀色の長剣を出現させた。

「フライトエンジンは背中で方向指示を意識することでもコントロールできるようね。そこだけは不安なのだけれど、すぐに慣れるでしょ」

「お、おい、雪ノ下……どうする気だ?」

 そう聞いた俺に彼女はにこりと微笑んだ。

「決まっているでしょう? 私も戦うことにするわ。だってこのまま何も出来ないで蹂躙されるなんて最低の気分だもの。あの気持ち悪い比企谷君たちに」

 こいつ、なんでこんな時まで俺のことディスりますかね。

「っていうか、お前だってこのゲームやったことねえだろうが。それでどうやって戦うっていうんだよ」

「プレイ方法の説明書は全部読んで頭に入れたわ。それにもう何度も『見た』わ。この目で、実際の激しい戦いを」

 そう不敵に笑う雪ノ下が言っているのは、先ほどまでのキリト君達の戦いのことだろう。

 あれは木刀ではあったけど、完全な殺し合いだった。

 あれを見たから大丈夫? 出来るって?

 平然としている雪ノ下を見つつ、冷や汗が出るような感じを味わっていたのだけど、次の瞬間にはそれが杞憂だったことを思い知らされた。

「では行ってくるわね」

 そう言って少しだけ宙に浮かび上がった雪ノ下が右手に剣を構えて高速で泥八幡の一体に向かって直進した。

 って、それ『ホバー走法』かよ!? そんなことも出来るのか!!

 駆けるでも飛ぶでもなく、高速の水平移動。だけど、どう考えてもキリト君達が押されるほどの相手……雪ノ下が相手出来るわけが……

「はああああああああっ!!」

 掛け声と共に雪ノ下が一閃。泥八幡は横を向いていたとはいえ、確実に雪ノ下を捉えていて、近づく瞬間に高速でその剣で斜めに雪ノ下を薙いだ……はずなのだが、彼女はそれを潜り躱しながらその八幡を切り裂いた。

「ぎゃああああっ、って俺じゃないな」

 思わずそんな悲鳴を上げてしまったのだが仕方ない。

 だって雪ノ下の奴、勢いのままにその泥八幡の股関節から切り上げてそのまま両断してしまったのだもの。止めて!! マジでトラウマだよ、その映像!!

 俺と同じように絶叫したその泥八幡は身体を保てなくなってそのまま崩れる。

 と、雪ノ下は次なる相手、その先で剣を構えていた陽乃さんを標的に据えた。

「姉さん……」

 さすがに躊躇するかと思い、俺は心配していたのだが。

「たまには姉さんを圧倒するのも悪くはないわね」

 っておい。

 何の躊躇もなくその斬撃の全てを躱して、逆に陽乃さんを切り刻んで泥に戻してしまった。で、その後、俺、雪ノ下、俺、由比ヶ浜、俺と、なんだか俺を切るのが中休み的になっているのがほのかに不満だが、雪ノ下の奴は一太刀も浴びないままに、自分や結衣の泥人形も遠慮なく切り捨ててまわる。辺りには泥人形が持っていた武器だけが散乱し、泥の池が広がった。

 躊躇なさすぎだろ。

 いや、マジで凄い。凄すぎる。

 それで最近になるまですっかり忘れていたのだけど、そういえば雪ノ下って一度体験すれば何でもマスタークラスになれるマスターアジアさんだった。

 確か三日くらい死ぬ気で練習してからのことだとばかり思っていたのだが、そもそもこいつマスターできる時点でマジで天才だったか。

「おいおいおい! なんだよ彼女!! 雪ノ下さんめちゃくちゃ強いじゃねえか!!」

 そう泥八幡の剣を押し返したクラインさんが雪ノ下を見ながら驚嘆している。

 それは彼だけではないらしく、チラ見したリズベットさんやリーファさんも目を見開いてしまっている。

「すごい……まるでキリトさんとかアスナさんが戦ってるみたい……ううん、それ以上。二人の良いところだけ合わせて戦っている感じ」

 そんなことをシリカさんが言っているのだが、俺はそんな良いところだけではないことをすでに知っている。

「おい雪ノ下。ちょっと飛ばし過ぎじゃねえか?」

 そうこいつはガンガン行くのは良いが、体力的な部分が最弱なので、あっという間にポンコツになる。

 トップアスリートクラスの身体能力を持ちながらも、高校の体育の授業ですら満足に貫徹できない残念さんなのだ。

 そう思って言ってみたのだが。

「今はまったく問題ないわね。身体を使っているわけではないので、このままずっと戦っていられそうだわ」

 さいですか。

 なんだよ、だったらマジで最強じゃねえか!

 体力問題を克服してしまって、しかもお手本にしているのがキリト君とアスナさんのバトルスタイルで、さっきの話だと、アスナさんが最上位クラスということだったから、これはもうキリト君でも敵わないレベルなのでは?

 いや、もう本当にやばいだろう、今の雪ノ下。

 だって全ての攻撃を避けての、一撃必殺の急所抉りだもの。

 まさに蝶のように舞い、蜂の様に刺すを地で行ってやがる。

 そのうち戦いながら、『当たらなければどうということはない!』とか言っちゃいそうだし。

 雪ノ下の圧倒的な蹂躙に勇気を得たのか、キリト君もクラインさんもみんな盛り返して泥八幡たちを少しづつ押し返し始めた。

「これはもう、大丈夫なんじゃねえか?」

 と、思わず呟いてしまったのが、運の尽き。

 死亡フラグってマジであるんだなと、実感してしまった俺が見ていたのは、地面からふたたびにょきにょき生え始めた泥八幡たちの姿。

 せっかく雪ノ下が片付けたはずのあのメガネの俺とか、ライフルみたいなものを持っていた俺とか、ほとんど俺なのだが、そいつらがまたニヤニヤしながら立ち上がったのだ。

 これにはさすがの雪ノ下もげっそりした表情に変わってしまっているし。

「きゃああああっ!」

「シリカっ!」

 一瞬足を止めてしまったシリカさんに、泥シリカ3人が襲い掛かり一緒に泥に沈んだ。

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