とあるHACHIMANがあの世界に行った 作:はチまン
その日の放課後、俺は奉仕部の部室へと向かおうとした。八幡があの女どもに嫌味を言われるのを防ぐためだったのだが、確か奉仕部の部室は特別棟? とかにあったはずで、だが、その特別棟は広くどこがその部屋だか俺には分からなかった。
仕方がないので1階の隅の部屋から順々に巡り確認をして歩くも、どこにも奉仕部などとは書かれていない。
そういえば、奉仕部の部室はただの空き教室で、あのアホのガハマがシールを貼っていた……
そう思ってもう一度表札を見上げてみれば、三階の階段そばの教室のそれに、ポップなシールがずらりと貼られていた。
ここか……
そう思って近づいてみれば、中から話し声が……
「……来たのね」
「ああ、まぁな」
くっそ、なんだもう八幡来ちまってるじゃねえか。ということはもうあの二人の陰険な会話を聞いてしまった後か……。なんだよ、間に合わなかった。
そう、俺は今日、何が何でもこの件だけは防ぎたかったんだ。
『人の気持ちを理解できないあなたなど必要ないわ』
『ヒッキーサイテー、マジムカつく。タヒねばいいのに』
とか、そんなことを言われたから八幡は心を乱してしまったんだ。くそ、なんで間に合わなかったんだよ、俺。スマン、八幡。
俺はジッとその場で耳をそばだてることしかできなくなって、一人八幡に謝罪しながら聞いていた。
すると、今度はガハマの声が。
「あ、そういえば結構みんな普通だったね。その、えっと……みんな……」
ガハマの声はどんどん小さくなっていく。それを聞きながら俺は憤慨した。
お前が言うんじゃねえよ!! と。
そもそも原因はお前じゃねえか! お前が戸部の依頼を受けなければこんなことにはなっていないんだよ!!
「……そうだな、見てる限りじゃなんともなさそうだったな」
「……そう、なら、良いのだけれど」
「いやー、結構ひやひやしてたんだけど、あたしが心配することじゃなかったなーみたいな。みんな、全然、……普通で」
ガハマは一瞬息を詰まらせた感じに。
「……何考えてるのかよくわからなくなっちゃった」
俺にはお前が何を考えているのかが一番理解できないがな。八幡を振り回すだけ振り回しておいて、こうなってしまえばもう他人事か? お前は自分の責任を何もわかっちゃいない。お前がまずすべきことは、今すぐに這いつくばって八幡に土下座することだ。それこそ犬のようにな!! だが、それでも俺は許さないが!!
「……もともと。何を考えているかなんて私たちにはわからないわ」
今度は雪ノ下だ。お前もお前だ、もっとはっきりしろよ!! なんでお前も他人ごとなんだよ!!
「お互いを知っていたとしても、理解できるかはまた別の問題だもの」
そんな訳の分からないことをいう雪ノ下に八幡の声。
「……そうだな。ま、あんまり気にしすぎてもアレだ。俺たちも普通にしてやるのが一番なんじゃねえの」
傷ついているはずなのに普段となんら変わらない感じでそう答える八幡。こんなクソ女どものためにお前なんでそこまでフォローしてやるんだよ!! お前優しすぎるだろ。
「あたしたちも普通に……、うん」
「普通、ね。……そう、それがあなたにとっての普通なのね」
「……ああ」
「……変わらないと、そう言うのね」
雪ノ下がなにやら語気を強めて言い始めた。これは八幡に向かって言っているのか? 何をてめえは!!
「あなたは……、その……」
雪ノ下がそう何かを言おうとした時だった。
「何をしているんだね、君は」
「は?」
突然ポンと肩を叩かれて振り返れば、そこには白衣姿で俺を見下ろしている平塚の姿。
「な、な、」
俺は思いがけず目の前に現れた平塚の姿に息を呑んだ。
まさかこの俺が背後を取られるとは、いくら中の様子が気になっていたからといって、よりによって一番最悪な暴力教師に不意をつかれるとは。
だが、こんなことで狼狽える俺ではない。こいつは明確に法律違反をしているんだ。正義は俺にある。
「せ、先生! 教育指導要《項》って知っていますか!?」
「??? いったい何の話だね? 教育指導要《領》なら知っているが?」
「え? い、いやそれはどうでもいいんです! 知っているなら分るでしょう? あなたは……」
そう続けようとしてその背後を見て驚愕した。
なんとそこには二人の女子生徒の姿が。
一人は城廻、確か生徒会長だ。それとその隣にいる小柄な女子は、あ、こいつは一色いろはか。なるほど確かに可愛い……じゃなくて、なんで急に現れるんだよ。きょ、今日があの奉仕部に依頼に来る日だったのか? くそっ! これは予定外だ。まさかここでこいつらと対面する羽目になるとは!
俺は一度深呼吸をして自分を落ち着かせた。
とにかく俺はこの教師を地獄へ叩き落とさなければならない。正義は俺にあるんだ! 俺の正義の鉄槌を受けて消沈したこいつの姿を見て、城廻たちもこの女の駄目さ加減を思い知るだろう。
そしてその後に八幡がどれだけこの暴力教師から被害を受けていたかを知れば、全ての過去の八幡の行為が清算されてきっと惚れるに違いない。いや、それしかないだろう。※※さんの作品とか○○さんの作品はそうだった。
ならば、衆人環視は殆どない状況だが、ここで平塚に制裁するべきだ!!
俺はそう思い極め、平塚へと言った。
「せ、先生が比企谷に暴力を振るっているところを、お、僕は見ました。あ、あれは法律に違反する行為です!!」
よし、よっし! 言ってやった! 言ってやったぞ! この馬鹿教師! てめえのしたことがどれだけ人を傷つけたのか思い知るが良い! お前こそ最低最悪の屑だってことを思い知れ!!
「あーそういうことか。この前校長にも言われたよ、『君が生徒想いなのはわかるがくれぐれも【学校教育法第11条】に反する行いだけはしないでくれ』と皮肉たっぷりにな。君が言いたいことはそういうことだろう? 心配かけてすまなかった。まったく私もまだまだだな、生徒にまで指摘されてしまうとは」
「は? え?」
な、何を言ってるんだ? え? 学校教育……? な、なに?
こいつはいったい何を言っているんだ? 校長から言われた? のに、なんでまだ教師やってるんだよ! こんな展開俺は知らないぞ!
「それで、君はここで何をしているんだ?」
「あ」
再びそう尋ねられ絶句。だが、なんと言っていいのかわからない。だから思わず普通に答えてしまった。
「だ、だから俺はここに用があって」
「そうか。なら我々は待たせてもらうから君が先に入りたまえ」
「え?」
そう言われ顔を上げてみれば、俺を見つめてくる平塚と城廻といろはの物珍しそうな顔。いろはは目が合った瞬間ににこりと微笑んで、や、やっぱり可愛かった。
ではなくて、俺は慌てて言った。
「い、いえ、俺はまた今度でいいです。で、では」
「そうか? なら私たちが先に入らせてもらうからな」
そう言ってがらがらっと戸を開けた平塚が平然と部屋内へと入っていった。
俺は言ってしまった手前、階段へと向かっていたのだが、ふと振り向いたそこでは、城廻といろはがぺこりと俺へとお辞儀していた。