とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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雪ノ下陽乃はとてもかわいい

 奉仕部の部室で平塚のバカに遭遇してしまったがために、俺はその後の話を聞くことが出来なくなってしまった。 

 流石にあのままあそこに留まり姿を見られようものなら、奴らに顔が広く知れてしまい、復讐を行うことが困難になると予想されたからだ。だからこれは戦略的撤退、未来への一手の他ならず次の機会への布石とすべきなのだ。

 ともかくだ、いったいなんでこんなことになる? 俺はテンプレの正論で確実に平塚を降した筈だった。だが、まさかあんな返しがこようとは。

 校長のことも言っていたしな、これはこの学校自体がすでに汚職が蔓延していて腐りきっていたということだろう。そこまでになっていたとは予想外過ぎだ。こんなの何を準備したって間に合うわけないじゃないか。

 まあいい。

 このままにしておけば確実に八幡は苦しむことになるんだ。

 いろはが現れたということは、生徒会長選挙があるわけだな。

 確かあれは……

 あれ? 生徒会長選挙ってどんな話だったっけ? 

 ええと、いろはが奉仕部に来るだろ? で、生徒会長になりたくないって頼んで…… で、代わりに八幡が生徒会長になるんだっけ、他のヒロインと一緒に? いやいや、雪ノ下が生徒会長になって奉仕部で生徒会に……いやあれはムカつく展開だから記憶から消したんだった。 

 いや、待てよ? このあとクリスマスイベの話の時に、いろはが八幡に接近するんだったよな確か。それで留美ちゃん再登場で八留になるからやっぱり生徒会長はいろは……で?、……あれ? おかしい、ストーリーがまとまらないぞ。

 修学旅行で奉仕部崩壊は決定だけど、その後の展開は結構多いんだよな。

 でも、今回俺がいるルートはいったいどれなんだ? 

 希望としては副会長を追い出しての巨乳な書記ちゃんとのラブラブ生徒会が良いのだけど、クリスマスイベで八留に繋がるいろは生徒会長もありなんだよな。

 だが、本当にどのルートなんだ? まさか雪ノ下、葉山生徒会長ルートとかだったら、俺はまじでぶちきれるぞ!

 俺がどう行動するかまじで保証できないからな。

 さて、どんなルートに進むのかは暫く様子を見るしかない。なるようにしかならないからな。その時はその時で、怒りに任せて復讐を達してしまってもいいかもしれない。

 いずれ全員地獄送りで、八幡には幸せになってもらうんだからな。

 

 暫く思案してから、俺はいったん教室へ戻って荷物をとり、再び奉仕部の部室を目指した。

 もう場所は覚えたからな、とにかく今後の展開だけは確認しなければ。

 そう思っていた時だった。

「比企谷」

 急にあのムカつく平塚の声が廊下の向こうから聞こえて、慌てて壁沿いに身を潜めて覗き込んでみれば、そこには平塚と八幡の姿が。そしてふたりで俺の居る柱の脇を通って階段を降り始めた。

「聞くだけむだなのだろうぁ……何かあったのかね?」

「何も」

 ゆっくり降りていく二人を俺は静かに追いかける。平塚が苦笑しているのを見てかなりイラッとしていたのだが。

「そうか、まぁいい。素直に答えるような奴だとは思っていないさ」

 そのまま廊下を二人は並んで無言で歩いていた。そしてまた平塚だ。

「君は優しいからなぁ……。救われた人間だって少なくはない」

「いや、そういうことは……」

「先ほどの評価の通りだよ」

「……それは過大評価ですよ」

 は? なんの『評価』だ? 平塚の奴、また偉そうに八幡に何かレッテルでも貼りやがったのか? まったくこいつは公私混同しまくりの自分勝手野郎だ。 教師風情が生徒の尊厳を踏みにじってんじゃねえよ!!

「私はこう見えて結構えこひいきをするんだ」

「それ教師としてどうなんですか」

「褒めて伸ばす方針でね」

 嘘をつけ!! てめえが居なければ八幡はこんなに不幸にはなっていないんだよ、ばーか。

「とてもそうは思えませんけどね……」

 そら見ろ! 八幡だってちゃんとわかってんじゃねえか、お前みたいな奴の言葉は……

「もちろん、その分叱りもするからな」

 そう言ってから平塚は八幡とは逆方向、職員室の方へと向きを変えて歩き始めた。

 そしてすれ違い様に言った。

「君のやり方では、本当に助けたい誰かにあったとき、助けることができないよ」

 そんな知ったようなことを言い、平塚は遠ざかる。

 八幡はその場にただ、立ったままでいた。

 

 

 

 

 その後俺は八幡を見守ることにした。

 明らかに情緒不安定、明らかに挙動不審。

 そんな状態の八幡に何かあってからでは遅すぎる。

 あの馬鹿どものせいで八幡は本当に酷い目に遭っている。自分の言いたいことを言いまくり、人の気持ちをまったく考えていないバカ女どもと、傍若無人で人を自分の道具にしかおもっていない平塚。

 こいつらに復讐する前に八幡に何かあったら元も子もない。

 だから俺は八幡を追いかけた。自転車で。

 八幡は花見川沿いの並木道をはしりつつ千葉方面へと向かっていた。

 つまりこれはあのイベントのタイミングか?

 千葉の○スタードーナッツで折本と遭遇するあれだ。

 確かあれで折本が昔の行為を反省して、雪ノ下とガハマの前で八幡に告白してからの『ざまあ』がテンプレだったはずだ。

 となれば、その後押しを俺がしなければな……くくく。

 だが、待てよ?

 海老名さんのときも、平塚のときもそうだが、俺にとって予想外の事態が起こって思っていたのと違う展開になってきてしまっている。

 つまり折本に会うにしてもだ、彼女は簡単には八幡に靡かないと考えた方がいいかもしれない。

 そうだな、あまりにも俺にとっては当たり前すぎるから気にもしなかったが、やはりカップリング強度はきつめに設定しておいた方がいいかもしれないな。

 出会って即カップルではなくて、出会っていくつかの困難を乗り越えてからのカップリングと。

 となれば、ファーストコンタクトでは最悪で、二度目三度目で良くなっていく感じ……、ああ、★★さんと☆☆さんの作品がそれだった。折本にバカにされたところで同席の陽乃さんが彼女を叱りつける展開……あれで一度シュンとなった折本が心を入れ替えて、八幡にお詫びにいくんだったな、確か。で、最終的にハーレムだったかな?

 まあいいさ、そんなのはどうでも。八幡が幸せになればそれでいいんだから。

 千葉駅そばの繁華街に入った八幡は本を購入してから映画館のポスターを見たりしていた。あれ? 今日が映画デートの日だったっけ? 一人だし違うよな。

 だが、結局は入らずに向かいのドーナッツショップへ。

 おお! やっぱりそこか、予想通りのイベントだ。

 だけど不思議だな? このドーナッツショップ、確かもう閉店しちゃってるって話だったはず。そんなことを&&さんが教えてくれたんだけど、あれ嘘だったのか? &&の奴め!!

 八幡に続いて店内に入る……と、その時だった。

「君さあ……比企谷君のことつけてるでしょ。ねえ、なんで?」

「へ?」

 背後から声を掛けられ振り向いたそこには、確かこの店内にいるはずだったこのイベのもう一人のヒロイン、雪ノ下陽乃が居て、俺の手を微笑みながらぎゅっと握っていた。


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