とあるHACHIMANがあの世界に行った   作:はチまン

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折本かおりは謝る

 店内の八幡は折本かおりに声を掛けられて明らかに嫌そうな顔で反応していた。

 折本はといえば、立ったままで何かを可笑しそうに話しかけているのだが、となりにいる仲町千佳はスマホを取り出して完全にガン無視を決め込んでいるし。

 こいつ……いったいなんだその反応は!? お前結局はイケメン狙いでしかないのかよ!! だから葉山みたいな屑に騙されちまうんだよ!! あーあ、俺、『八仲』も結構好きだったんだけど、こんな反応するならもう二度と応援はしねえ。

 というか、お前はもう粛清対象だ!! 今度俺の小説で嬲ってやるからな!!

「じゃあ、いこっか」

「え?」

 突然そう宣言した陽乃さんが先に立って店内に入っていってしまった。それを俺も慌てて追いかけた。

「へー。いっがーい。頭良かったんだー! あ、でもそういえば比企谷のテストの点とか全然知らないや。比企谷、全然人と話してなかったもんね」

 店内には超お気楽な感じでケラケラ笑っている大声が響いていて、その声の主は当然折本かおり。

 八幡はそれを言われて滅茶苦茶渋い顔になっていた。

 そんなシーンへ唐突に現れるのはこの人だ。

「比企谷くーん。待った―?」

「は?」

 突然超フレンドリーに八幡へと近づいた陽乃さん。彼女は折本たちを無視して本を開いたままで呆気に取られている八幡へと近づくと、完全に身体を密着させて隣の席に座った。

 八幡は超驚いた感じなのだが、何も言えないままに顔を真っ赤にしているし。

「い、いや、待つどころか、そもそも約束すらしていませんが」

「いやだなあ比企谷くーん。この後デートしようって約束したじゃなーい。そ・れ・と・も……そうやって焦らすプレイとか?」

「は? へあ?」

 八幡はすりすりと身体を触ってくる陽乃さんにいよいよ顔が真っ赤だ。

 これはあれだ。八幡もまんざらじゃないって感じだろう。それに陽乃さんもここまでするということはあれか? 結構本気で八幡を獲得しに行っている感じ? というか、そうに違いない。俺はそれを理解し安堵すると同時に、ならばこの後の展開のサポートに移らねばと、静かに彼らに近づいた。

 折本達は、突然現れた陽乃さんの奇行に目を奪われていたが、たまたま視線を泳がせた八幡と目があった瞬間にぽそりと声を出した。

「彼女さん?」

「いや……」

「そう? めっちゃ仲良さそうに見えるけど?」

「い、いや、ただからかわれてるだけだ」

「ええー! こんなに比企谷君のこと好きなのに、ひっどーい」

「いやいやいや明らかに異常ですから、普通の人そんなことしませんから」

「仲良いじゃん、やっぱり彼女なんでしょ? ふはっ! ひ、比企谷に彼女とか、マジウケるんだけど……ぁ……」

 急に吹き出してしまった折本だが、爆笑しかけたところで見上げていた陽乃さんの目を見て凍り付いてしまった。そして小声で……

「あ……ご、ごめんなさい」

 そうすぐに謝ったのだ。

 すげえ、陽乃さんすげえっ!! 一睨みであの傲慢JKを封殺してしまった。やっぱ正ヒロインは違う。八幡に相応しいのはやっぱりこの人だ。この人さえいれば、あのくそムカつく自分勝手な女どもは、みんな何も言えなくなるに違いない、そうに決まっている。俺はこの時そう確信した。

 そうワクワクしながら見守っていたそこで今度は陽乃さんが聞いた。

「もしかして、比企谷くんのお友達?」

 そう聞かれた八幡がぽそりと答える。

「中学の同級生です」

「お、折本かおりです」

「ふーん。あ、わたしは雪ノ下陽乃ね。見ての通り、比企谷君の彼女なの」

 そうにこりと微笑みつつその腕に抱き着く陽乃さん。俺はその姿に静かに歓喜していた。すると、彼女がふっと俺へと視線を寄越したのだ。それに気が付いて、俺は一歩前へでた。

「よ、よぉ比企谷。こんなところで……奇遇だな」

「あん?」

 そう怪訝な眼差しを俺へと向けてきた八幡に、一瞬たじろぐも俺はそのまま笑顔で言った。

「お、おまえ……なんだよお前、こんな美人の彼女いたのかよ。教えろよ、ずりぃな」

 直接話したことなんか当然、ない。だが、俺はお前のことは誰よりも”知っている”んだ。俺はお前が被ってきた数々の不幸からお前を助け出したいんだ。お前は由比ヶ浜や雪ノ下や、訳の分からないその他大勢から迫害されるいわれは一切ないんだ。

 お前はもっと優遇されなければだめなんだ。

 お前はもっと甘やかされていいんだ。

 オマエハモット・・・・・・

 そうして見つめた八幡の目は、まっすぐに俺の目を睨んでいた。まるで俺の全てを見通そうとでもしているかのような目で。

 や、やめろよ、そんな目で見るなよ。俺はただお前の幸せをねがってこうしているだけなんだぞ。

 まあ、いいさ。今は確かにファーストコンタクトだし、元来ボッチのお前が俺を警戒するのは当たり前なんだ。だから俺は気にしない。

 いつかきっとお前が俺に感謝することは明白なんだから!

 俺は再び笑顔で今度は折本や仲町を見た。

 すると、彼女たちは驚いたような感じで俺を見ていた。

「あ、えと、ひょっとして総武高の優木君? ほら千佳、優木くんだよ優木くん」

 とか、折本がそんな感じで声をかけているんだが一体何の話だ? 優木と言えば、それは俺のことだよな。だけどなんでそれで折本がこんなに騒ぎだすんだ? この優木ってやつはいったいだれなんだ。

 そうクエスチョンマークいっぱいのままで様子を見ていれば、顔を真っ赤にした仲町千佳が俺の方をちらちらと見だした。だが、何もしゃべらない。

 それを見て業を煮やしたのか折本が言ったのだ。

「あ、この子総武の陸上部の優木くんに憧れていたんですよ。まさか比企谷の友達だったなんてマジびっくりなんだけど」

 は? 陸上部? 優木が?

 はて、そんな奴まじでいたか? 

 俺はもう何が何やら混乱の極致だったが、仲町が熱い視線を送ってくるのを感じて、彼女があまりにも緊張している様子になにかが身体の奥底からあふれ出してくるのを感じていた。なんといえばいいのかわからないが、こんな感覚を今まで味わったことはない。満足感というか充足感というか、全身の力がみなぎるようなその感覚に俺は戸惑いつつにやけるのを止められなかった。

 その様子を見ていたその場のもう一人の女性が声を出した。

「へえ? 君ってそんなに有名な子だったんだ。隼人とどっちが有名なの? ねえ、あなたたちは知ってる?」

「え? 隼人……って、葉山君ですか? え? うそ、千佳!! 葉山君も紹介してもらえるかもよ!」

「も、もうかおりってば! ゆ、優木くんがいるのに、言わないでよ、そういうこと!!」

 仲町さんはもう耳まで茹で上がってしまったかのように真っ赤になっているし。

 まあ話の感じ、この仲町さんはかなりミーハーなようだな。有名な俺や葉山のことが気になり過ぎているってことだろう。まあ、いいんじゃないかそういうのも。誰かが気になる理由なんてほんのささいなきっかけからなんて、よくあることだろう。見た感じ、この子はあのむかつく葉山を俺の上には見ていないようだしな。

 陽乃さんは八幡へのアタックを始めたし、葉山よりも下に見られなかったこともあって、俺は最高に良い気分だた。

「……ふーん、おもしろそ」

 唐突にそんなことを言ったのは陽乃さんだ。

 彼女はカバンからスマホを取り出すと、それに触れてから手をあげた。

「はーい、お姉さんが紹介しちゃうぞ!」

「「は?」」

 俺と八幡の声が完璧に被った。

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