アナスタシアさんはバカワイイ。   作:バナハロ

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事務所では(3)

 風邪が治ったアナスタシアは3日ぶりの事務所の寮に帰って来た。なんだかんだ、さらに一日風邪が長引き、3日もお世話になってしまった。

 でも、その三日間の間、遥は一度も嫌な顔をしなかった。アナスタシア自身、迷惑をかけた自覚はあったので、その事が嬉しくて、思い出すだけでもニヤニヤしてしまう。夜中に目が覚めたとき、こっそり寝顔を写メって待受にしてるのは秘密だ。

 そんなことを考えながら寮の扉を開けた直後だった。

 

「アーニャちゃあああああああん!」

 

 突然、前川みくが飛びついて来た。盛大に後ろに押し倒され、一緒に尻餅をついた。

 

「み、ミク……? どうしました?」

「どうしました? じゃないニャ! 三日間も家空けてどこで何してたニャ⁉︎」

「あ、すみません。実は……」

「美波チャンの部屋で風邪引いていたんでしょ⁉︎ 知ってるよ!」

「え? じゃあなんで聞いたですか?」

 

 美波のマンション、という風に言われたのは引っかかったが、おそらく美波がそういう風に伝えたのだろう。男の子の部屋で三日間泊まってましたなんて言えるはずがない。

 アーニャ自身は正直あまりその理由がよくわからないのだが、美波に「とにかく内密に」と念を押されたのを思い出した。

 

「まったく、心配したニャ……」

「すみません。でも、楽しかったですよ?」

「何で風邪ひいてて楽しかったの……?」

「え? あ、え、えっと……ミナミがいろんなお話ししてくれましたから」

「……なんか怪しいニャ。何隠してない?」

「か、隠してないですよ?」

 

 ジト目のみくと目を逸らすアナスタシア。このままでは追求されてしまうと思ったアナスタシアは荷物を持ってさっさと自分の部屋に逃げることにした。

 

「そ、それより、ゆっくりしたいのでまた今度お話ししますねっ」

「待つにゃ」

 

 まぁ、みくがそれを許すわけがないが。肩をしっかりと掴まれ、動きを完全に封じられた。肩に手を置かれるだけで動きを封じられる辺り、猫の野生の力の強さを感じた。

 

「……何か誤魔化そうとしてない?」

「し、してませんよ?」

「風邪って、どういう風に看病してもらったの?」

「へっ? え、えっと……」

 

 唐突に聞かれ、思い出そうと顎に手を当てた。

 

「そんなに特別なことはないですよ? うどん作ってくれて、冷えピタ貼ってくれて……」

「体拭いてもらったりは?」

「っ、そ、そこまでは出来ません!」

「美波チャンに看病してもらったんでしょ?」

「へっ? あ、そ、そうでした! 体も拭いてもらいました!」

「……」

 

 ジト目のみくと大量の汗を流すアナスタシア。どう考えても苦しい。そんなアナスタシアに構わず、みくは質問を続けた。

 

「そういえば、パジャマとかはどうしてたにゃ?」

「えっ? えーっと、ミナミのを借りていました」

「下着は?」

「え? えーっと……」

 

 ミナミが持って来てくれました、と答えようとしたアナスタシアの口が止まった。その直前、ついうっかりハルカにスリーサイズをバラしてしまった事を思い出してしまったからだ。

 唐突に顔を真っ赤にしたアナスタシアに何があったのか知らないが、好機と見たみくは問い詰めた。

 

「下着は美波チャンが寮まで取りに来ただけニャ! そこになんで顔を赤くする要素があるの⁉︎ 絶対何か隠してるニャ!」

「か、隠していません!」

「ご、強情ニャ……!」

 

 頑なに拒むアナスタシア。最初は美波に言われたからだが、なんか徐々に自分でも恥ずかしくなって来た。考えてみれば、裸を見られたりスリーサイズを知られたりと結構、恥ずかしい思いをしていた。

 何とか何を言われても反論しないと、と色々考えてると、みくが面倒になったのか、投げやりな質問をした。

 

「むー、もしかして男?」

「っ」

「にゃーんて、美波チャンじゃあるまいし、アーニャちゃんに限ってそんな……」

「っ……」

「……え、男……?」

 

 逃げるように走り出すアナスタシア。だが、まぁそう言う時は大抵、何かしらミスが起こるものだ。

 盛大に足をもつれさせてすっ転んだアナスタシアのポケットから、スマホが落ちた。

 

「……何やってるニャ」

「あ、ダメっ……!」

 

 落としたスマホを拾おうとしたみくを止めようとしたが遅かった。みくはスマホを手に取った。パッと画面がついて見知らぬ男子学生の寝顔が映った。

 顔を真っ赤にして涙を浮かべ、手を伸ばしかけているアナスタシアに、みくは微笑みながら聞いた。

 

「アーニャちゃん、これは?」

「……」

 

 白状の時間となった。

 とりあえず近くの椅子に座って飲み物を買って一から説明すると、みくは遠い目をしながら呟くようにあった。

 

「……そっか。アーニャちゃんにも彼氏出来るんだ……」

「彼氏ではありませんけど……?」

「まぁ、何でも良いけど。それより、なんで隠したニャ?」

「ミナミに隠した方が良いと言われたからです」

「美波チャン……。、まあ、隠した方が良いとはみくも思うけど……」

「何故ですか?」

「からかわれるからじゃないかな。みんな、やはり女の子だから、そういう異性との浮いた話は気になるニャ」

 

 そう言われたが、アナスタシアとしてはあまりピンと来なかった。鷺沢文香の相手の男の子の時も、美波の相手の男の子の時も、特に追求したりはしなかった。

 

「みくも気になりますか?」

「そりゃあ、まぁね。みくだってそういう話は興味あるニャ。特に……」

 

 何となくアナスタシアが聞いた問いに、みくはニヤリと夜神月の如く邪悪に微笑んだ。

 

「やり手のアーニャちゃんが好きになる男の子のことなんて、気にならないわけがないニャ」

「ハルカのことですか?」

「ほう、ハルカっていうんだ」

 

 ニヤニヤしながら尋問するみくに対し、アナスタシアは頬を赤らめながら答えた。

 

「ダー……恥ずかしいです、ハルカのこと話すの」

「なんで? やましいことがあるニャ?」

「っ、あ、ありません! やましい事なんて!」

「誰にも言わないから正直に言うニャ」

「な、ないです! 裸なんて見られてないです!」

「待った、そこ詳しく」

 

 すごい真剣な目に切り替わったみくに問い詰められ、ビクッと肩を震わせるアナスタシア。

 

「裸? え、見られたの?」

「み、見られてな」

「正直に言わないと寮のみんなにバラすよ」

「……か、体を拭いてる時に……が、学校から帰ってきたハルカに見られました……」

「……」

 

 頬を赤らめるアナスタシアと、額に手を当てて左右に首を振るみく。

 

「……アーニャちゃん、そういうところはアイドルなんだから……ちゃんとしないと……」

「あうう……は、恥ずかしかったです……」

 

 しょぼんと肩を落とすアナスタシア。みくも少し悪いと思ったのか、声音と話題を変えた。

 

「で、その遥って子はどんな子なの?」

「変な人ですよ?」

「は? へ、変……?」

「変です。私に色んなこと教えてくれますが、ミナミが信用するなって……」

「そ、そうなんだ……。な、なんだか良い子なのか分からないなぁ……」

「で、でも……私の事を三日間ずっと嫌な顔せずに看病してくれました!」

「そりゃ、アーニャちゃんみたいな可愛いアイドルを家に泊められるならどんな男の子だって嫌な顔しないと思うニャ」

「え? そ、そうですか……?」

「うん。むしろ、よく襲われなかったなって思うよ」

「襲う……?」

「ん、えっちなことって意味」

「っ⁉︎」

 

 ボフンっと音を立てて顔を真っ赤にするアナスタシア。で、自分の体を抱き始めたので、みくはまた目を鋭くした。

 

「……え、何かしたの?」

「し、してない……はず……」

「もしかしたら、寝てる間に何かって事は?」

「……」

 

 不安そうな顔になったが、アナスタシアはブンブンと顔を横に振った。

 

「さ、されてないです! ハルカはそんなことしません!」

「でも、裸見られたんでしょ?」

「……だ、大丈夫です!」

「……処女膜ある?」

「……」

 

 そんなはずはない、そうアナスタシアは遥に信頼を寄せていたが、やはり不安になってしまうのは仕方ないのかもしれない。

 

「……確認するニャ?」

「……します」

「……大丈夫、何があってもみくはアーニャちゃんの味方ニャ」

「大丈夫なはずです……。ハルカは、そんな事は……」

 

 そう言って、学生服のスカートを捲し上げ、みくが脚を開いたアナスタシアの前にしゃがんだ。どうやら、一緒に確認してくれるようだ。

 しかし、二人は忘れていた。そこは寮のロビーである事を。女子しか住んでいないとはいえ、プライベート空間ではないことに変わりはない。二人揃ってかなりテンパっていた。

 そして、そう言う場合は誰かに目撃されるものだ。

 

「〜♪」

 

 鼻歌を歌いながら廊下を神崎蘭子が歩いていた。ロビーに差し掛かり、アナスタシアが座っているのが見えた。3日ぶりにその姿を見たので、挨拶しようとした時だ。

 

「……ありますか?」

「……もう少しスカート上げてくれないと……」

「は、はい……」

「アーニャちゃん、毛もちゃんと整えてるんだ……」

「い、良いから早く確認して下さい……!」

「ーッ⁉︎」

 

 みくがアナスタシアのスカートの中に頭を突っ込んでるのが見えて、慌てて壁際に隠れた。

 目の前が一体どういうことなのか、何が起こっているのか分からず、とりあえず深呼吸した。

 もしかしたら見間違いだったのかもしれない。というか、むしろ見間違いだ。そうに決まっている。この世に同性愛者なんてものが実在するはずがない。いても世界○天ニュースとかで見たのは男性の場合だけだ。

 そう思い、決心して目をこすって、再びロビーを覗いた。

 

「アーニャちゃん、ある! あったニャ!」

「! ほ、本当ですか⁉︎」

 

 何が⁉︎ と蘭子は思ったが、見られてるなんて思いもしていない二人は盛大にホッと一息ついた。

 

「ふぅ……良かったです……」

「良かったね、アーニャちゃん」

「ハイ♪」

 

 話の内容はよく聞こえなかったが、何故か良かったようだ。尚更、蘭子は気になったが、二人はソファーを立った。

 

「とりあえず、続きは部屋で良いかニャ?」

「はい」

 

 続きは部屋で、と言う言葉を残してアナスタシアの部屋に向かった二人を見て、蘭子は確信した。あの二人は部屋でナニかをするつもりだ。ナニとは言わないがナニかをするつもりだ。

 

「は、はわわわわ……! す、すごいこと知っちゃった……!」

 

 顔を真っ赤にしてテンパる蘭子。彼氏がいるアイドルが増えて来ているのは知っていたが、まさか彼女を作るアイドルが出て来るとは思わなかった。

 一人でどうしたものか、人に打ち明けてしまうか、やはり知られたくないだろうから胸に留めておこうか悩んでると、後ろから声を掛けられた。

 

「やぁ、蘭子。今日もpso2をやるかい?」

「っ、あ、飛鳥ちゃん!」

「ど、どうしたんだい?」

「実は今、面白……すごいことが……!」

 

 気が付いたら速攻でバラしてた。この日からしばらく、346事務所では「みくアーニャ」という変な噂が流れ始めた。

 

 ×××

 

 みくが部屋に戻ってから、アナスタシアはシャワーを浴び終えてベッドで寝転がっていた。

 そういえば、何故みくに遥の事を話すのが恥ずかしかったのか、それがわからなかった。や、スリーサイズや裸を見られた件はそりゃ恥ずかしいことだが、そこを除いて話せば良かっただけの話のはずだ。

 それほどまでにテンパっていたとは自分でも思えない。テンパっていたのはみんなが通るロビーで平気でスカートをたくし上げた時だけだ。

 

「……ウー」

 

 羞恥が二重になり、顔を赤らめたまま足をパタパタさせるアナスタシア。なんだか、考えれば考えるほど頭の中が真っ白になっていった。

 ゴロゴロしながら、スマホの画面をつけ、遥の寝顔を見た。

 

「……」

 

 さっき、みくに膜があるのを確認してもらった時の事を思い出した。もし、もし万が一……あの時に膜がなかったとしたら。自分は遥に知らない間に何かされていたと言うことなのか、妄想すると、じわっとパンツが湿って来るのがわかった。

 

「……って、だ、ダメです! ハルカで、そんなエッチなこと……!」

 

 遥は自分の事をいやらしい目で見ていなかった。なのに、自分は遥でいやらしいことをするのか、と頭をブンブンと振った。

 ……というか、逆に襲われなかったということは自分に女性としての魅力はないのか、と少し不安になった。

 

「……」

 

 何となく気になったので、3日ぶりに着た自分のパジャマを捲り、胸を見た。

 ……裸まで見られたのに、襲われなかったどころか襲おうともされなかったのが少しショックだった。や、襲われたいわけでもないが。

 なんだかもう自分の考えがなかなかまとまらず、頭の中がぐちゃぐちゃになって来た。

 

「……眠いです」

 

 もう何も考えたくなかったので、さっさと眠って忘れるのことにした。

 

 ×××

 

 翌日から「みくアーニャ」の噂を否定するのが大変で本当に忘れることができたアナスタシアだった。

 

 

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