アナスタシアさんはバカワイイ。   作:バナハロ

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不協和音編
喧嘩(1)


 10月31日。ハロウィンの日。仕事が終わったアナスタシアは楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いていた。

 今日は遥の部屋で着替えてフランケンシュタインになって美波を脅かし、今週の土曜日は遥と温泉プールに行く約束をした。楽しみな事が続けば、そりゃ気分も良くなるだろう。

 特にプールの方は水着を新調し、何を思ったのかバスタオルや体を拭くタオルも新調した。初めての家族旅行前でウキウキしすぎて空回りしてるお父さんそのものである。

 とにかく、色々楽しみ過ぎて今にもスキップしそうな足取りで鼻歌を歌いながら歩いていた。

 

「〜♪」

 

 遥のマンションに到着し、遥の部屋の部屋番号を押した。もう暗記してしまった。

 

『はい?』

 

 スピーカーから遥の声が飛んで来て、アナスタシアは元気よく答えた。

 

「来ました」

『あ、うん。了解。今開けるから待ってて』

 

 自動ドアが開き、マンションに入った。エレベーターに乗り、遥の部屋の階に上がった。

 部屋の前に移動し、インターホンを鳴らすと玄関の鍵が開いた。

 

「ハルカ、来ました」

「ああ、いらっしゃい。衣装の準備は出来てるよ」

「ありがとうございます」

 

 挨拶しながら部屋に入り、二人は部屋の中に入った。机の上にはネジや傷の描かれたシールが置いてあり、カーテンのレールには衣装のかけられたハンガーが下がっている。

 が、不思議なのは床にスーツケースと着替えが散らばっていたことだ。どこかに出掛けるのかな、と思ったものの、明日も明後日も平日のはずだ。

 もしかしたら、遥も温泉プールが楽しみで早くも準備してしまってるのかもしれない。だとしたら嬉しいなーなんて考えながら、着替えのために寝室を借りた。

 改めて見ると、自分がこんな男装をするなんてどう考えても変だ。しかし、だからこそ美波は驚いてくれそう、なんて思いながら、着替えを完了した。

 あとは机の上の小道具を顔に貼るだけだ。部屋を出て居間に戻った。

 

「どうですか? ハルカ」

「え、なんで似合ってんの?」

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます」

「いやいや、男装してるんだよそれ」

「あ、そ、そうでした……。でも、嬉しいです」

 

 ニコニコ微笑んでるアナスタシアだったので、もうなんでもいいやと遥は小さくため息をついた。

 で、続いて頭のネジの耳当てを手にとって、長さを調整してこめかみの辺りに留めた。

 

「ハルカ、シール貼って下さい」

「はいはい」

 

 机のシールを手にとって、アナスタシアの頬と額に貼っつけた。

 

「……どうですか?」

「うん、思ったより可愛いフランケンになっちゃったわ。これフランケンっつーよりも、大人の飲み会に参加してた子がジュースと酒を間違えて帰り道に工場に突っ込んで事故りました、みたいな」

「……?」

「似合ってるってことだよ」

「……あ、ありがとうございます……?」

 

 よく分からない褒め言葉にピンと来ていないアナスタシアだったが、とりあえずお礼を言っておいた。

 ふと時計を見ると20時30分。美波が普段帰宅する時刻はあと15分ほどある。フランケンアナスタシアはソファーに座って、スーツケースに服やら何やらを詰めている遥に声を掛けた。

 

「遥、そういえば今週は温泉プールですね。私、新しい水着買いました」

「あー……それなんだけどさ、アーニャさん」

「? なんですか?」

 

 申し訳なさそうに口を挟む遥。珍しく歯切れの悪い様子に、キョトンと首を傾げるアナスタシアに、気まずそうに言った。

 

「その……悪い。修学旅行と被ってて……一週間延期とかしてもらっても良い?」

「……えっ?」

「や、ホントごめん」

「じゃあ、その準備って……」

「ああ。明日からの修学旅行の準備」

 

 すると、アナスタシアはぷくーっと頬を膨らませた。涙目で睨まれ、思わず遥は怯んでしまった。

 

「……あの、アーニャさん?」

「私、とても楽しみにしてました」

「……え? そ、そう?」

「なのに……延期なんて……!」

「や、だからごめんって……」

 

 遥の所為ではないのはアナスタシアにもわかっていた。だが、楽しみにしていたからこそ、感情が爆発してしまうこともある。特に純粋な人なら尚更だ。

 今週の休みに行けなくなってしまった事をしり、アナスタシアはつい怒鳴ってしまった。

 

「……うう〜……! ハルカのバカ!」

「え、俺それなりに成績良いけど」

「失礼します!」

「え、ちょっ……あ、アーニャさん⁉︎」

 

 怒ったアナスタシアは部屋を出て行った。

 玄関を勢いよく開けると、ちょうど階段から上がって来る美波の姿が目に入った。

 

「ふぅ……疲れた。ハロウィンだからってお菓子用意し過ぎたかしら……」

「ミナミ、ミナミー!」

「ん? アーニャちゃんの声……え?」

「ミナミー!」

 

 フランケンアナスタシアは美波に飛び付いた。ガッツリ変装し、頭にネジの突き刺さった銀髪の女の子が正面から飛びついて来て、美波は動けなくなった。

 

「ミナミ、聞いてください! ハルカがっ……! ……ミナミ?」

「……」

 

 バケモノに抱きつかれた美波は普通に気絶しかけた。

 

 ×××

 

 目を覚ました美波は、とりあえずアナスタシアを連れて自分の部屋に入った。

 手洗いうがいを済ませ、二人で椅子に向かい合うように座った。美波の淹れたコーヒーを飲みながら、まずは聞きたいことを聞いた。

 

「で、アーニャちゃん。何なの? その格好」

「へ? ……あ、そうでした。トリックオアトリート!」

「……悪戯よりタチの悪い事して何言ってるの?」

 

 そういえば、目の前の女子大生が気絶しかけた事を思い出し、申し訳なさそうに肩を落とすアナスタシア。

 それを見て、何となく悪い気がしてしまった美波は、一応用意していた「アーニャちゃん♡」と書かれた袋を差し出した。

 

「はい」

「……いいのですか?」

「せっかく用意したからね」

「ありがとうございます」

 

 お菓子をもらい、ようやく話を進めた。

 

「で、どうしたの? 仮装したのにトリックオアトリートも忘れて飛びついて来たくらい動揺してたんでしょ?」

「も、もう……許して下さい……」

「……別に怒ってないから。早く話して」

 

 言われて、アナスタシアは機嫌の悪い美波に対して若干怯えながらも答えた。

 

「……実は、今度の土曜日にハルカと温水プールに行く約束をしまして……。でも、明日から修学旅行で……行けないって……それで、怒ってしまいました……」

 

 怒ってしまいました、ということは仕方ないと理解しているようだ。今になって怒ったことを後悔している、といった所だろう。

 

「で、どうしたいの?」

「……仲直りしたいです」

「てことは、自分の悪かった所もちゃんと分かってるって事ね?」

「……ハイ」

「なら、謝れば良いよ」

「でも……勝手に出て行って、謝りに帰ってくるなんて……」

「大丈夫。ちゃんと許してくれるよ。延期にする、と言ってるとはいえ、元はと言えば彼が修学旅行の日にちを忘れていたのが原因なんだから」

 

 言われて、フランケンアナスタシアは涙目になりながら俯く。その頭を撫でながら、美波は優しく言った。

 

「むしろ、それだけアーニャちゃんが楽しみにしててくれたと思って、彼は少し喜んでるかもよ?」

「……でも、今更顔向けなんて……」

 

 それでも凹んでるアナスタシア。今度は美波は厳し目に励ますことにした。

 

「今更って……むしろ、今じゃないとダメだと思うけど?」

「……へっ?」

「彼、明日から修学旅行なんでしょ? 何日間なのか知らないけど、しばらく会えなくなっちゃうよ?」

「……」

「そういう大事なことはメールじゃなくてちゃんと直接話した方が良いと思うし……学年も学校も違うから、そのまま自然に関係が消滅して温泉プールのイベント自体消滅しちゃうかもよ?」

 

 サァーっと顔色が青くなっていくアナスタシア。で、慌てて立ち上がった。

 

「っ、み、ミナミ! 失礼します!」

「頑張ってね」

 

 あの子が素直な子で良かった、と美波は思いながら、シャワーを浴びに行った。

 出て行ったアナスタシアは、下の階に降りて遥の部屋のインターホンを押した。ハァハァと息を切らしながらも、なんとか呼吸を整えて玄関の前で待ってると、突然扉が開いてドアがおデコに激突した。

 

「痛っ⁉︎」

「あ、ごめっ、大丈夫?」

「だ、だいじょぶです……」

「で、どうしたの? もしかして抹殺? 謝るから勘弁して欲しいんだけど……」

「ち、違います! と、とにかく、ごめんなさい! ですから、ずっとお友達でいてください!」

「あれ、なんだろ。いつのまにか告白して振られたみたいになってる」

「こ、告白……? 何言ってるんですか?」

「何でもない」

 

 ずっと許してもらえるのかドギマギと緊張してるアナスタシアと、緊迫感のカケラもない遥。

 

「で、ですから……! さっきは失礼なこと言ってしまってスミマセン! でも、ハルカとは友達でいたいんです! ですから……」

「ああ、や、別に怒ってないから」

「絶交だけは……今なんて?」

「や、俺が逆の立場でも怒る人の気持ちは分からんでもないし」

「……怒ってない、ですか?」

「むしろ、何とかして謝らないとって思ってたとこだよ」

「……」

 

 ポカンとするアナスタシア。が、やがてホッとしてしまったのかその場でヘナヘナとその場で腰を下ろした。

 

「よ、良かったです……」

「や、そんな大袈裟な……」

「大袈裟なんかじゃないです!」

「それより、今日は帰ってくれないと困るよ。明日俺朝早いから」

「……分かりました」

 

 そう言って、アナスタシアは一度、着替えるために部屋の中に入った。

 部屋の居間に通ずる廊下を歩いてると、遥の手をアナスタシアが握り、キュッと握りしめた。

 

「……ハルカ」

「何?」

「ありがとうございます」

「こっちのセリフだよ。それより、次の温水プールいつにする?」

「次の土曜日でお願いします」

「了解」

 

 そう言って、アナスタシアは着替えを済ませて帰宅した。

 

 




美波の彼氏と同じ高校にしてしまったため、この辺りで修学旅行がないといけなくなってしまいました。なんか触れておかないと不自然かなと思い触れておきました。
修学旅行編はやりません。ぜってー長引くしアーニャ様出ねーし。
以上、言い訳でした。すみませんでした。
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