アナスタシアさんはバカワイイ。   作:バナハロ

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久々に会うといつもより長く一緒にいたくなる。

 修学旅行が終わり、5日ぶりの東京の空気を吸った。一言で言えば疲れたし、二言で言えば疲れた疲れた。いや、意味わからんわ。なんつーかもう、そんなレベルのことか考えられないほど疲れた。

 同じ班の多田さんは逸れるし、雨の中、北ナントカくんと探し回ってたら2日目は風邪ひいたし、結局自力であいつ帰って来てたし、なんかもう散々だわ……。

 まぁ、それでも楽しくなかったわけではないけどね。アーニャさんとは連絡取ってたし。

 ま、明日は振替休日だし、土日挟んだから2日も休みがある。しばらくはのんびり出来るし、その間に疲れを取るとしよう。

 そんな事を考えながら最寄駅の改札を出た。大きな欠伸を浮かべながら歩いてると「ハルカ!」と名前を呼ばれて振り返った。

 すると、ガバッとアーニャさんが両手を広げて飛び込んで来て、思わず躱してしまった。俺の真ん前を素通りし、顔面を電柱にぶつかるアーニャさん。

 

「久し振り、アーニャさん」

「……なんで避けるんですか」

「ごめん、受け止められそうになかったから」

 

 両手塞がってるし。

 しかし、アーニャさんは不満げなようで俺を涙目で睨んで来た。まぁ、電柱に顔面ぶつけりゃ、そりゃ不機嫌にもなるか。

 

「悪かったよ。うちで飯ご馳走するから怒るな」

「本当ですか⁉︎」

「本当だよ。それと、お土産も渡したいし」

「ありがとうございます」

 

 単純な子は機嫌直すのも早いから助かる。騙してる気がして少し申し訳ないが。

 

「てか、俺の方について来ちゃって良いのか?」

「ハイ。私、ハルカのお迎えに来てこのあたりにいましたから」

 

 ……お迎えなんてなんか申し訳ないです。というか、なんで迎えに来てんだよ……。俺達は住処別だろうが。

 二人でうちのマンションに歩いてると、アーニャさんがスーツケースを引きずっている俺の手を握った。

 

「どした?」

「一緒に持ちたいです」

「や、いいよ別に。なんか歩きにくいし」

「いえ、持ちます。ハルカ、疲れてますよね?」

「や、気にしなくて良いから」

「……一緒に持ちたいです」

「……」

 

 なんだよそれ……意味あんのかよそれ。なんか俺と手を繋ぎたいって言われてる気分なんだが……。

 

「何、どうしたの?」

「……ハルカは、寂しくなかったですか?」

「藪から如意棒だな。何がよ?」

「……その、私と一緒じゃなくて」

 

 ……あー、つまりそういうことか。や、正直言ってスマホで連絡とってたし寂しくはなかったが……。

 でも、そんな捨てられそうな子犬みたいな目で見られると……。

 

「……寂しかったです」

「一緒ですね♪」

 

 ……うん、まぁもうそれでいいや。アーニャさんが楽しそうにしてくれてるならそれで良いさ。

 

「どうでしたか? 沖縄は」

「……L○NEで話さなかった?」

「聞きましたけど……でも、ハルカの口からも聞きたいです」

「あそう……」

 

 と言っても、楽しさよりも大変さの方が大きかったんだよなぁ……。

 

「……一日目は割と普通だったよ。ひめゆりの塔で出店でアイス食ったりしてた」

「ひめゆり……?」

「まぁ、現地に行くことがあったらそのとき教えてあげる」

 

 正直、俺はあの場所に行ったからって特に何も感じなかったけどな。戦争の重みだの何だの言ってたが、だったらそんな場所で笑顔の記念写真撮るなよ。

 

「で、2日目だったかな……」

「班員の方が迷子になって雨の中、探し回ったんですよね? 大変でしたね……」

「俺の口から聞きたいんじゃなかったのかよ……」

 

 なんで先読みして言っちゃうのかな。

 

「そういえば、そのあとに風邪を引いたと聞きましたが……大丈夫でしたか?」

「平気だよ。1日で治したから」

 

 それに、L○NEでアーニャさんが相手をしてくれたから暇ではなかったからな。そういう意味ではアーニャさんには感謝しないといけない。

 

「ま、次の日の夜に多田さんが悪いと思ったのか、わざわざさーたーあんだぎー買って来てくれて、それ北ナントカと一緒に食べたんだよね」

「アー……その多田さんというのが……」

「そう。うちのクラスの女子」

 

 言うと、アーニャさんの俺の手を握る手がキュッと強くなった。

 

「? どうした?」

「いえ、別に。女の子だったんですね」

「そうだよ。や、アイドルにこんなこと言うのもアレだけど超可愛い子」

 

 ロックロックとうるせぇけどな。それに北ナントカと仲良いんだよね。あれ付き合ってんのかな。どーでもいいが。

 

「……」

「……」

 

 あれ、なんか急に静かになったな。どうしたのこの子?

 

「アーニャさん?」

「ハルカ、その子と仲良しになったら、私と遊ばなくなりますか……?」

「は?」

「……」

 

 何急に……。あ、もしかしてアーニャさんって男友達とか少ないのか? アイドルだから学校に友達作りにくいだろうし、事務所では女友達しかいないだろうし……。

 

「大丈夫、俺と仲良くなる奴なんていないから」

「……私は、仲良しではないですか?」

「……アーニャさんは別」

 

 ……その目やめて。そういうの弱いの俺。俺の中で理屈を立てる割りに、結局理屈の外からやって来る感情という奴には弱いんです。

 しかし、そう答えたとしても俺の弱い展開になるわけで。嬉しくなっちゃったアーニャさんは、手繋ぎから腕組みに移行した。君はお願いだから性別を考えて下さいね。胸当たってますからね。

 そんな考えが顔に出ていたのか、唐突にハッとしたアーニャさんは俺の腕から離れて、顔を赤らめて両手をスリスリしながら俺から目を逸らした。

 

「っ、す、すみません……」

「? どうしたの?」

「い、いえ……」

 

 なに、どうしたのこの子。急に恥ずかしがって……。腕組みくらいで照れるようなタマじゃないだろ。あ、もしかして……。

 

「うんこか?」

「グニェーフ……怒りますよ、ハルカ」

「こ、ごめんなさい……」

 

 今、半ギレだった……? アーニャさん、キレるとあんな顔するんだ……。クールな顔なだけあってメチャクチャ怖かった……。

 

「まったく……ハルカは本当にハルカですね……」

 

 そう言いながらも、ちゃっかり俺のスーツケースを持ってない方の手を握るアーニャさん。さっきは照れてたくせに何なの? 情緒不安定なの?

 

「ほら、早く帰りましょう」

 

 俺の手を引いて、アーニャさんは走り始めた。仕方なく俺も早足であとを追った。

 マンションに到着し、エレベーターで俺の部屋に入った。中に入ってソファーにダイブしようとするアーニャさんの首根っこを掴み、洗面所に引きずった。

 

「手洗いうがいを忘れるな。インフルの季節なんだけど」

「ダー……す、すみません……」

 

 謝りながら手洗いうがいを済ませ、俺は料理の準備を始めた。今日は本当はカップ麺にするつもりだったが……まぁ良いか。

 さて、何作るかな。というより、冷蔵庫になんか入ってたかな……。扉をあけて野菜室と冷凍庫を覗いた。

 

「……」

 

 ……まずいな、何もない。冷蔵庫とかほとんど空なんだけど……。卵しかねぇな……。

 しゃーない、オムレツで良いか。そう決めて、オムレツを作り始めた。

 しばらくフライパンを振ってる間、アーニャさんはゲーム機の電源を(勝手に)入れてゲームをしていた。どーでもいいが、なんであの子レトロゲームばっかやるんだろう。……や、幕○志士見たからだろうけど……。

 

「……楽しそうで良いよな」

 

 そんな呟きを漏らしながら、オムレツを完成させてお皿に盛り付けた。

 

「おーい、出来たぞー」

「はーい」

 

 ゲーム中なのに、すぐに切り上げて料理をすぐに運ぶため、こっちに来て手伝ってくれた。

 オムレツの皿とケチャップとスプーンと飲み物を運び、机に広げた。

 

「アー……美味しそうです」

「どーも」

 

 そんな話をしながら席について飯を食べ始めた。黄色いフワフワホカホカした個体の端っこをスプーンで割いて掬い、口に運んだ。

 

「ふわっ……口の中で消えちゃいました……」

 

 まぁ、そんな感じのオムレツを作ったからな。食欲そんな無いし、飲める感じのオムレツが食べたかったんだ。

 

「おいひいです……」

「そっか、良かった」

 

 うん、美味い美味い。アーニャさんの蕩けた顔が見れて、本当に美味しいです。

 幸せそうな顔をしたアーニャさんに、俺もオムレツを食べながら聞いた。

 

「で、来週の土曜日は空いてんの?」

「ハイ。空いてますよ」

「じゃ、その日で良いな? 温水プール」

「! は、はい! 楽しみにしてますね!」

「ん、おお」

 

 ……水着買わなきゃ。ここ最近、水着なんか全然着てないから、あるのは学校指定の水着だけだ。

 正直、他人にどう思われようと構わないから学校指定のものでも良いが、アーニャさんと出掛けるのに学校指定の水着は何となく恥ずかしい。

 ……まぁ、男の水着なんか選んでも仕方ないし、安くてダサくない奴で良いかな。

 

「ハルカ、楽しみにしててくださいねっ。私、水着新しく買いましたからっ」

 

 ……そっか。わざわざ新しい水着買ってくれたんだ。温泉プールに行くんだから泳ぎもしないのに。

 なんか、この前いけなかったのがなおさら申し訳なくなって来るな……。あんなに怒ったってことは相当楽しみにしてたんだろうし……。

 ……まぁ、終わった話を蒸し返すことも無いか。それよりも当日の予定から埋めるか。

 

「どうする? 当日。何時から行く?」

「そうですね……。午前中から行きたいですけど……」

「調べた感じだけど結構広いからな。男女別の浴場もあるし、男女混合で水着着る浴場があるよ」

 

 温泉プール、というよりもクアハウス的な場所だった。水着で二人で浸かる風呂以外にもエステだの何だのといった施設があり、どちらかと言うと女友達と行くような場所だった。間違っても付き合ってもない男女の行く場所ではない。

 スマホのサイトを見せながら説明すると、アーニャさんはオムレツを食べながら呟いた。

 

「でも、私達は後の方しか行けませんよね……」

「? なんで? 別に別れりゃ良くね?」

「それだと一緒に行く意味ないです」

 

 ……まぁ、そう言われりゃそうだが。アーニャさんなら別々にって言うと思ったが……まぁ、それなら回るべき場所も半分になったと喜ぶべきだろう。

 

「了解。じゃあ、午前中に駅前に集まって午後に向こうで飯食いつつ風呂だな」

「分かりました」

 

 そんな話をしながら食事を終えた。二人ともほぼ同時に食事を終えて、俺は食器を洗って片付けた。

 一方のアーニャさんは、食事を終えてゲームを再開した。食器洗いを終えた俺は、アーニャさんの隣に腰を下ろした。

 

「アーニャさん、明日学校じゃないの? 帰んなくて良いの?」

「平気です。明日は学校休みです」

「え、そうなの?」

「ハイ。開校記念日です。ですから、今日は泊まって行けます」

「……あの、泊まっていくって当たり前みたく言ってるけど、普通は異性の部屋には……」

「ハルカなら大丈夫です」

「……」

 

 ……信用し過ぎだろ。いや、男と見られてないだけか? まぁ、久々に会ったわけだし別に良いか……。

 小さくため息をついて一緒にゲームをしてると、アーニャさんが寝落ちしたので、また歯磨きしてから俺のベッドに寝かせてやった。

 

 


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