アナスタシアさんはバカワイイ。   作:バナハロ

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解決編
純粋な子は基本的にわがまま。


 試験が終わった。俺の結果は相変わらず平均並み。まぁ、悪い点数では無いため、甘んじて良しとしよう。

 で、年末ということでそろそろ部屋の掃除をしなければならない。

 え? その前に重要なイベントがあるって? 知らないなぁ。そんなイベント。俺には全然関係ない。

 そもそも、ありゃカップル専用のイベントだろ。北山の阿呆めがかなりはしゃいでたのを覚えてる。

 まぁ、別に俺はリア充に嫉妬なんてするほど愚かでは無い。はしゃぎたければはしゃげば良いさ。むしろクリスマスの意味も知らない愚かなパリピどもを見下してやるとしよう。

 そんな事を考えながら終業式を終えて学校を出た。クソスマスは明後日だが、そんなんは無視して年末の予定を立てなければならない。

 何せ、今年は両親は帰ってこれないらしいから、部屋の掃除とか全部俺一人でやらなければならない。

 それと、お爺ちゃんとお婆ちゃんと従兄弟達に年賀状書いて、年越しそば作って、おせち料理も作って、初詣に行って……そんなもんかな。大忙しだ。

 何より、店が閉店始める前に全部買わなきゃだからな。

 

「おせちの準備から始めるか……」

 

 一番手間だし。さて、頑張るか。

 気合いを入れて昇降口から出ると「ハルカ!」と名前を呼ぶ声がした。

 何故か嫌な予感がしてしまい、そっちに目を向けた時にはアーニャさんが飛びついて来ていた。

 だから抱きついて来るなっつーの、外国人かお前は。

 仕方なく受け止めながら、また校門から離れた。お願いだから学校の前でそれはやめてってば。

 

「……どうしたの今日は」

「ハルカに会いたかったんです」

 

 相変わらず男心を惑わすのが上手いわ。詐欺師になれるよあなた。

 

「……あそう。でも俺しばらく忙しいよ」

「なんで、ですか……?」

「正月の準備。おせち作んないといけないから」

 

 正月も一人だからこそ、盛大にやって寂しさを消したい。

 

「……早いですね?」

「まぁ、大掃除とかあるから。今年は親帰ってこないし一人でやらなきゃいけないんだよね」

「いえそうではなく……何か大切なイベントがありませんか?」

「知らないです」

「いえ、あの……クから始まる……」

「知らないです」

「最後がスで終わる……」

「知らないです」

 

 すると、アーニャさんは少し寂しそうな顔をした。いや、正確に言えば寂しい人を見る目だ。

 

「……ハルカはクリスマス知らないですか?」

「知ってるけどよ……」

「で、でしたら、私と一緒に遊びに行きませんか?」

「は? あ、遊びにって?」

「みくに、日本ではクリスマスは大切な人と一緒に過ごすものだと聞きましたので」

「……」

 

 それ、俺のこと大切って言っちゃってるんだけど、分かってるの? いや、どうせ君のことだし分かってないだろうけど。

 ……でも、なんかいつもと違って顔赤くしてるんだよな……。もしかして体調でも悪いのか?

 

「まぁ、予定は空いてるけど……」

 

 年末の二日間は何もしたく無いし、イブとクリスマスはとにかく動きたいから組んでた予定だし、予定が出来たのならずらせば良いだけだ。

 

「な、なら、遊びに行きましょう!」

「でも、そっちは予定ないの? クリスマスならアイドルの仕事とかあるんじゃ……」

「大丈夫です。私はクリスマス当日は特にありません。 収録は終わりましたし、生放送で出る番組の予定もありませんから」

 

 なるほど。収録だったか。

 しかし、予想外にもクリスマスに予定が出来たな。別に嬉しくなんか無いけど。少し舞い上がってなんか無いけど。

 

「でも遊びにって何処に?」

「そうですね……。それはこれから決めましょう!」

「え、クリスマス三日後なんだけど。てか、今日はどうすんの?」

「ハルカのお部屋にお邪魔します!」

「うん、それもう決定事項なのね。や、別に良いけど」

 

 ……しゃーない、買い物はまた今度だな。まぁ、後一週間くらいあるしなんとかなるだろ。

 

「でも、俺とで良いのか?」

「? 何がですか?」

「クリスマス。誰か好きな人とかと一緒じゃないのか?」

 

 自分で言って、何故か自分でイラついてしまったが、一応聞いておいた。友達なんだし、その辺の気遣いは必要だろう。

 しかし、そんな俺の気遣いが嫌だったのか、アーニャさんはむすっとした顔になった。

 

「……そんなのいません」

「え、アーニャさんモテそうなのに?」

 

 で、勘違いさせた男を悪気もなく振りそうなのに?

 

「いません!」

「そんな怒らんでも……」

「ハルカはおバカなんですか?」

「急に⁉︎」

 

 アーニャさんの口から出るとは思えない言葉が飛んできた。この人も悪口とか言うんだな……。

 

「いいから、早く帰りましょう、ハルカ」

「お、おう。え? 俺の部屋なんだけど……」

 

 もう我が物顔だな……や、まぁ良いんだけどね?

 

「あの、怒ってる?」

「怒ってません」

「や、でも……」

「怒ってません」

 

 ……怒ってるでしょ。本当に真顔の時と違って表情豊かだなぁ。怒ってる時に頬を膨らませる高校生って今時いるの?

 まぁ、でもこれからうちに来た時も怒ってると気まずいし、とりあえず機嫌だけでも直しておくか。

 

「アーニャさん」

「……なんですか」

「アイス食べる?」

「……食べ物で釣ろうって言ったってそうはいきませんっ」

「じゃあ食べないの?」

「……いただきます」

 

 そんなわけで、サー○ィワンへ。トリプルを購入して店を出た頃には、アーニャさんの怒りはどこへ行ったのかってレベルでとてもご機嫌になっていた。

 なんか、単純過ぎて逆に心配になってきたな……。大丈夫? 知らない人にお菓子もらってもついて行っちゃダメだよ?

 

「んー、美味しいです。冬のアイスも良いですね」

「そいつは良かった」

「ハルカは買わなくて良かったですか?」

 

 これから正月の準備で金かかるのに買えるかよ。クリスマスにアーニャさんと出かける金も取っておかないといけないし。

 

「俺はいいの。お腹空いてないし」

「……でも、私だけ食べてるのは……」

 

 ……驚いたな、アーニャさんにそんな気遣いが出来るなんて……。でも、それならよく分からない理由で怒らないで下さいね。

 

「とにかく気にしなくて良いから」

「むぅ……ハイ」

 

 唐突に顔の前にアイスを突き出して来た。アイスにはアーニャさんの歯型が付いていて少しドキッとしたが、何とかそれを顔に出さないようにして聞いた。

 

「……何?」

「一緒に食べましょう?」

「話聞いてた? それとも言語を脳内に読み込む力がないの?」

「ハルカは私のアイス、食べたくないですか?」

「……」

 

 その聞き方は卑怯じゃないですかね……。そういうわけじゃ無いんだけど……。

 

「や、でも……その、何? アーニャさんが口つけたものでしょ?」

「……汚いですか?」

「そういうんじゃなくて……その、だから……」

 

 ……言うの恥ずかしいなー。ったく、なんで高校生にもなってこんなことで照れなきゃいけねーんだよ……。せめて彼女とは言わずとも、仲の良い女の子の友達がいたことある経験さえあればな……。

 まぁ、今そんな事嘆いても仕方ない。とりあえず、理由を説明しないと。

 

「……間接キスに、なっちゃうから……」

「……」

 

 まぁ、アーニャさんはそんなので顔を赤らめるような子では……と、思ったら、顔を赤らめていた。それもリンゴかよってレベルで真っ赤に。

 しかし、そんな真っ赤な顔でもアーニャさんはハッキリと俺を見て言った。

 

「……分かっています。でも、食べませんか?」

「えっ……わ、分かってるの?」

「ハイ。私、ハルカにアイス食べさせてあげたいです」

「……」

 

 ……あれ、これ本当にこの子俺のこと意識してないんだよな……? なんだかその定義が怪しくなってきたが……。

 いや、落ち着け。目の前の女の子はアーニャさんだ。今まで何回俺は惑わされてきた? 男を一泊誘った理由が枕投げの女の子だぞ?

 アーニャさんはアーニャさん……天性の狙撃手、それこそロックオン・ストラトスや赤井秀一、東春秋以上に百発百中のキャバ嬢の才を待つ女の子……よし、落ち着いた。

 

「じゃあ、一口」

「あの、アイスは三種類重なってるので……三回……」

「……」

 

 アーニャさんはアーニャさん……天性の狙撃手、それこそゴルゴ13や次元大介、一発屋以上に百発百中のキャバ嬢の才を待つ女の子……。

 

「よし、落ち着いた」

「? 何がですか?」

「なんでもない」

 

 君には言っても分からないよ。遠い目をしながらそんなことを思い、アーニャさんが差し出しているアイスを見た。

 ……でも、なんか緊張するな。ていうか、なんで俺だけ緊張しなきゃいけねーんだ? いや、アーニャさんも何となく緊張はしてるっぽいけど……でも……。

 

「……あー、クソッ」

「どうしました? ハル……」

「あむっ」

 

 勢い任せに噛り付いた。ムカつくぜ、なんかもう色々と。こっちの気も知らないでこの女は本当によう……!

 

「美味しいですか?」

 

 味なんて分かるかよ! とツッコミを入れたかったが、流石にそれを抑える理性は残ってた。

 なんとか深呼吸して心拍数を抑えて、小さく控えめに頷いた。

 ……が、何となくイラついてたので意地悪してみたくなってしまった。

 

「美味かったよ」

「本当ですか?」

「ああ」

「ふふ、良かったです♪」

 

 とても嬉しそうにアイスに口を運ぶアーニャさんの動きが途中で止まるようなタイミングで声を掛けた。

 

「でも大丈夫?」

「何がですか?」

「俺が口つけたもんに、今度はアーニャさんが口つけるわけだけど」

「……」

 

 開いた口が塞がらない、そしてアイスを持った手も動かなかった。

 ただ、アイスを食べようとする直前でアーニャさんは顔を真っ赤にして固まっていた。

 

「……」

「おい、アイス溶けるぞ。食べないの?」

「っ……〜〜〜ッ!」

「ふぉぐっ⁉︎」

 

 唐突に口の中にアイスを突っ込んできた。いや、正確に言えば口の周りに、だ。鼻の穴にも見事に入り、むせながらも慌ててアイスをキャッチした。

 

「てめっ、何しやがんだ⁉︎ アイス落とすとこだっただろうが!」

「ハルカのバカ!」

「相変わらずキレるときは藪から棒な発言ばかりだな!」

「い、いいから早くハルカの家に行きます!」

「あ、それでも来るんだな!」

 

 ったく、この子はワガママばっかだな……。まさか、少しからかっただけでこんなんなるとは……。

 プンスカと怒ったアーニャさんを連れて、とりあえず部屋に向かった。

 あーあ……なんつーか、結局怒らせたままになっちまったなー、なんて思ってると、アーニャさんは俺の手元からアイスを奪った。

 

「えっ、何?」

「……これは私のアイスです」

「……」

 

 ……人の顔に叩きつけてきたくせによ……。

 半ば呆れながら、前を歩くアーニャさんの後に続いた。

 

 


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