うちに来たアーニャさんは、部屋で早速ゲームを始めた。クリスマスの予定を決めるんじゃないんか、と思ったが、なんか不機嫌なのでそっとしておくことにした。
晩飯まではまだ早いので、とりあえずクッキーを焼いてアーニャさんの前の机に置いておいた。
「ど、どうぞ……」
「わっ、クッキーですか? ありがとうございます」
「あ、機嫌直ったんだ。良かった」
「へっ? ……あっ、ぜ、全然直ってないです! ぷいっ」
……何をそんな必死に怒ってるんだ? 別にそこまで言わないでも良いのに……。というか、ぷいって口で言っちゃう辺り可愛いな……。
「ねぇ、アーニャさん。なんで怒ってんの?」
「……ふんっ」
むしろ怒るべきは俺の方だと思うんだが……。アイス顔面に叩きつけられて怒られない奴なんかいないぞオイ……。
しかし、これからクリスマスの予定を決めるどころの騒ぎじゃなくなって来たな……。
「……あと、紅茶」
「……ありがとうございます」
……面倒臭い子だなぁ。まぁ、アーニャさんが気まぐれなのは今に始まったことじゃないし、別に何とも思わないが。
「はぁ……どうしたものか……」
とりあえず、アーニャさんが座ってるソファーの後ろの椅子に座った。
紅茶を飲みながらテレビの画面を眺め、アーニャさんはテレビの大画面で山手線の動画を見ていた。
相変わらず、渋谷の方はヘタクソで無闇にモンスターに突っ込んでフルボッコにされてキャンプに帰っていた。
その様子を見てると、アーニャさんがチラチラ俺を見てるのに気付いた。
……心底、面倒臭い子だな。怒ってるのに構って欲しいのか?
仕方なく、アーニャさんの隣に座ると、アーニャさんは頬を膨らませたまま俺の手の上に手を重ねた。
「……ハルカ」
「な、何……?」
「ハルカは、私のことどう思ってますか?」
「相変わらず藪から棒だな……」
情緒がもう……。この人、なんというか……本当頭の中どうなってんだろうな。おそらく迷宮のクロスロードだろう。
「どうも何も、友達でしょ。俺の唯一の」
「……唯一の、えへへ」
にへらっと微笑むアーニャさん可愛い。が、すぐにハッとして俺を問い詰める様に聞いてきた。
「……う、嘘です! だって、それなのに……いつもいつも私を子供扱いして……」
「え、いやそうでも……」
「だって、さ、先程の……か、間接キス……の時も、何も意識しないで……」
……いや、バッキバキに意識してましたが。してなきゃ事前に忠告とかするかよ。
「……ハルカは、アーニャが女の子には、見えませんか……?」
「……」
うーん……どうしよう、面倒臭いなこの子ほんと。俺は今まで「この子に俺は男に見えてないんじゃ」と数え切れないほど思ったんだが。
さて、どう返事したものか。なんて返事してもアーニャさんは納得しそうにないぞ。
「……あー、アーニャさん」
「何ですか」
「俺はアーニャさんのことを意識してなかったときなんかないよ」
「じゃあなんで表情が変わらないんですかっ?」
「……え、変わってない?」
「いつもぬぼーっとした表情のままです」
ぬぼーっとしてるんだ俺……。なんか少し傷ついたんだけど。
「……あのな、表情は変わってないかもしれないけど、女の子にあんなに近づかれて何も感じない奴なんかいないからな?」
「……でも、ハルカは……」
「いや本当に。あの、アイドルだから言うまでもないと思うけど、アーニャさんって……その、かなり可愛いからね?」
「えうっ⁉︎」
唐突のカミングアウトにアーニャさんは一気に顔を真っ赤にした。本当はこういうチャラいこと言いたくなかったが、こうでも言わないとこの子納得しそうにないんだもん。
「だから、アーニャさんを意識しないことなんてあり得ないから、安心しろ」
「……あうぅ……」
ぷしゅーっと頭から湯気を出すアーニャさん。……自分で言ってて思ったけど、何を安心しろってんだよ。
はぁ、なんか疲れてきた。つーか、そもそも俺とアーニャさんは何のためにこにいるんだよ……。
「それよりも、さっさとクリスマスの予定をだな……」
「えへへ、ハルカ〜」
……今度は猫みたいに俺にスリ付いて来たぞ……。どういう子なんだよこの子ほんとに。
「……アーニャさん」
「なんですか?」
「あの、クリスマスの予定は……」
「もう少しこのままが良いです……♪」
……誰かー。助けてー。本能が……俺の中の本能が全力で「この子は俺の事が好きだ」と叫んでるー。
理性が必死に「それはない」「勘違いするな」「自惚れるな」と応戦してるが遠くへ行け遠くへ行けと歌ってる。どうしようもないほど熱烈に。
あーもう、俺が女の子にモテるわけないんだから頼むから本能は黙ってろ。ましてや相手はアーニャさんだ、相手がどんな男だろうと……いや、それはそれで腹立たしいな。
「ハルカ? どうしました?」
……純粋な目で聞いてくるアーニャさんがむかつくかわいい。すごいパワーワードを生み出してしまったが、ムカつくもんは仕方ない。
「別に」
「……怒ってます?」
「怒ってないよ。いいからクリスマスの予定決めよう」
「むー……」
クリスマスか……。どこが良いかな。まぁ、アーニャさんが行きたいとこで良いが……こういうのは男が決めるもんらしいしいし、俺が決めた方が良いだろう。
「何処行くか。やっぱ、クリスマスだったらイルミネーションとか見に行きたい?」
「いえ、別に」
「え、じゃあ……デ○ズニーとか?」
「アーニャ、ウ○ビッチ派です」
随分、用途の狭い派閥だな……。
「ていうか、怒ってる?」
「怒ってません」
……なんか、今日バイオリズムが合わないな。いや、大体いつも噛み合ってないけど。
「はぁ……また怒ってる?」
「……ハルカが怒ってる事を認めるなら怒ってません」
「……謎かけ?」
「違います」
……はぁ、なんだか疲れてきた……。
「……あのな、俺は別に怒ってないから……」
「怒ってました。さっきは」
「や、怒ったっていうか少しイラっとしただけだから」
「っ……つまりアーニャは、ハルカを怒らせてしまいましたか……?」
「や、だから怒ったわけじゃ……」
いや、もうどっちでも良いや、もう。というかこの際だ。過去のアーニャさんの心臓ドキドキ時間全部言おうかな。
「アーニャさんさ、男の人と仲良くしたことある?」
「ハルカとユウホとプロデューサーです」
あるんかい。ユウホってのは……うん、多分名前が同じなだけだろう。そして、そのユウホって奴は万が一にも見かける事があったらボッコボコにする。
しかし、あるなら分かるだろ。
「あのね? アーニャさんの異性との距離の詰め方は……こう、完全に男を落としに掛かってるんだよね」
「落としに……?」
「ようは、男に自分を好きにさせようとしてるってこと。あ、もちろん恋愛的な意味で」
「ええっ⁉︎ あ、アーニャ……そんなつもりは……」
「アーニャさんの場合は、女の子相手にする態度を平気で男にやってんの。そのユウホって男の人もアーニャさんに対する態度、変じゃなかったか?」
「そういえば、確かに……」
ほら、思い当たる節がある。
「男ってのはそれだけ単純でアホなんだよ。だから、あまりベタベタくっつくと男に『あれ、こいつ俺のこと好きなんじゃね?』って勘違いさせちゃうから」
「えっ……じゃあユウホも……」
「もしかしたらそうかもよ?」
「うう……でも、ユウホには彼女が……」
いやなんでちょっとショック受けてんの? もしかしてユウホって人の事好きなのか?
そして彼女いるって話、ユウホ違いだよね? 偶然だよね?
「え、ユウホって人のこと好きなの?」
「好きで……あ、いえ、恋愛的な意味ではなく好きですよ?」
「……ふーん、そう」
……なんだろ、恋愛的な意味でなくても、そのユウホとやらに殺意が芽生える。何この気持ち。なんでこんな理不尽な感情が出てきてんだ俺……。
「……とにかく、俺には良いけどあまり他の男にそういう……なんつーのかな。男心をくすぐる態度取るのはやめときなよ」
「……そ、そう言われましても……」
まぁ、分かんないよな。でも俺から教えるのはなんか付き合ってもないのに束縛きつい彼氏みたいになりそうで怖い。
「分からなかったら前川さんとか新田さんに聞けばわかると思うよ」
「ハルカは教えてくれないですか?」
「俺と普通の男は好みが異なるらしいから」
それらしいっぽいことを言って誤魔化しました。幸い、アーニャさんの中ですら俺は変人らしいし、信憑性はある。
「……わかりました」
「で、アーニャさん。クリスマスはどうする?」
ようやく話を戻した。
「そうですね……ハルカと一緒ならどこでも良いですよ?」
「じゃあ自宅」
「……ハルカ、怒りますよ」
「冗談だよ。じゃあちょっと調べてみるか」
パソコンを開いて、クリスマスのイベントやってる場所を探し始めた。
こうしてみると、逆に何処もクリスマスのイベントやってるんだよなぁ……。水族館然り動物園然りス○イツリー然り遊園地然り。
……んー、何つーか……アレだよね。どこ行っても同じっぽい……。
あとは俺がどんなアーニャさんが見たいか、か……。水族館に行けばイルカショーではしゃぐアーニャさんが見れそうだけど、水が跳ねて濡れて風邪引く未来が見える。アーニャさんが水族館に行きたがらない理由がないし。
続いて動物園だが……動物と戯れるアーニャさんはいかにも見てみたいが、そもそもアーニャさんが動物みたいなもんだ。
ス○イツリー、高所恐怖症、リア充ホイホイ、パス。
遊園地か……遊園地は良いかもしれない。リア充は多いが、楽しむアーニャさんも怖がるアーニャさんも全部見れそうだ。
「よし、遊園地にするか」
「遊園地ですか?」
「ああ。デ○ズニーで良いか?」
「分かりました♪」
よし、決まりだな。あとは当日のプランだが……その辺は俺が考えるとしよう。デ○ズニーなんか初めて行くから調べながらになるが……あ、彼女いる北山とかに相談してみるか。
「よし、じゃあ飯にしよう」
「はい♪ ……ふふっ、今から楽しみです」
鼻歌を歌い始めるアーニャさんを眺めながら、晩飯を作り始めた。