12月23日、天皇誕生日。日本国民なら、クリスマスよりもこちらを祝うべきな気もする日である。
まぁ、そうは言ったが俺だって別に天皇の誕生日を祝うつもりなんてない。冬休みに入った今、学生は無敵なので一人でのんびりしようと思った次第だ。
とりあえず部屋でゴロゴロしてるとスマホが震えた。
前川みく『アーニャちゃんとクリスマスデートするんだって?<(・∀・)>ニャ』
……その顔文字ウゼェな……。
白石遥『別にデートじゃないから。アーニャさん相手にその手の勘違いは死活問題だから』
前川みく『……まだ何も気付いてないんだ』
白石遥『何が?』
前川みく『何でもない』
……あれ、なんだろ。なんか今すごい呆れられたような……。まぁ良いか。
白石遥『で、なんか用?』
前川みく『いや、クリスマスデートなんだから何かしらプラン用意してないのかなって』
いやだからデートじゃねーっつーの……。ちょっと休日に二人ででかけてくるだけだから。
前川みく『せっかくクリスマスなんだし、何かプレゼントくらいしてあげたら?』
ふむ、そういうものなのか? 確かに、アーニャさんってまだサンタとか信じてそうだし、そういうのもありなのかもしれないが……。
白石遥『でも俺、サンタのコスプレとかやだよ』
前川みく『なんでそういう発想になるニャ、気持ち悪い』
前川みく『普通に何かプレゼントしてあげれば良いでしょ』
白石遥『え、今気持ち悪いって言った?』
ちょっ、辛辣じゃないですかねそれ。
前川みく『いや、サンタ服姿の遥チャンが気持ち悪いだけニャ』
白石遥『説明するんじゃねーよ……』
前川みく『とにかく、何かプレゼントしてあげたら、アーニャちゃんも喜ぶと思うにゃ』
うーむ……なるほどな。まぁ、妹でありペットみたいな子だから、プレゼントあげても良いかもしれない。
白石遥『じゃあちょっと考えてみるわ』
前川みく『一人で大丈夫?』
前川みく『もしアレならみくが付き合うにゃ』
ふむ、確かに。女の子へのプレゼントとか考えた事もないしな……。
白石遥『今からで良いか?』
前川みく『良いよ。ちょうどみくも暇だったにゃ』
よっしゃ。ほんとは北山辺りに頼めれば良かったんだけどな。どうせ「俺は彼女とデートだから!」とか自慢げに言ってくるんだろうなぁ、何となくだけどあいつ尻に敷かれてそうな癖に。腹立たしい。
白石遥『じゃ、一時間後に駅前で』
前川みく『了解にゃ』
そんなわけで家を出た。
×××
駅前に到着した時し、しばらくスマホゲーをやりながら待機してると後ろからツンツンと肩を突かれた。
「?」
振り返ると、前川さんと多田さんが立っていた。つーかなんで多田さんもいんの?
「どうも」
「良かったね、李衣菜チャンも手伝ってくれるみたいにゃ」
「いや、みくちゃん。半強制的に連れて来たくせに何言ってんの?」
え、わさわざ半強制的に連れて来たの? 俺のためにすみませんね……。
「なんか悪いな。今日、うちで晩飯食ってくか?」
「「そういうのはアーニャちゃんにやれ」」
え、何そのシンクロ率。スターダストドラゴンなの?
「てか、なんでアーニャさんなの。あの人別にうちに住んでるわけじゃないんだけど」
「そういうことじゃないにゃ」
「そうだよ、と言うかそんなことしたらまたアーニャちゃんと喧嘩になるし」
「え、喧嘩したの?」
「「なんでもない」」
なんで隠すの……。女の子の内緒話ほどムカつくものないよな……。
とりあえず、三人で出掛けた。これから行くのはおそらく駅前のデパート。店も売ってるものも種類が豊富だしちょうど良いものだろう。
「駅前で良いのか?」
「うん。結構あそこなんでもあるからね」
やはりか。俺の予測は正確過ぎて怖いぜ。
自分でもよく分からないポイントで喜んでると、多田さんが隣から聞いて来た。
「で、何買おうとか考えてんの?」
「いや全然。何買えば良いのかも分からないし」
「やっぱりにゃ……。別に遥チャンがアーニャちゃんにあげたいもの選べば良いにゃ」
「……昔のゲーム、とか? でもそういうのは秋葉じゃないと」
「うん、そういうの以外で」
だよね、知ってた。しかし、そうなると難しくなってくるんだけど……。
いや、大体わかるよ? アレでしょ、服とかアクセサリーを欲しがるんでしょ? でもね、俺にその辺は疎いんですよ。自分の服ならともかく、女友達がいなかった俺は女性物のファッションとか分からない。
「はぁ、なんか怖くなって来たな……」
「何が?」
「や、喜んでもらえんのかな……。もし迷惑そうな顔されたら……」
「それはないから大丈夫」
「うん、遥チャンのあげたものならなんでも喜んでくれるにゃ」
「じゃあ……椎茸でも?」
「そんなもんもらってどうするにゃ……」
「真面目に考える気ある?」
「ごめん、今のは冗談」
でもアーニャさんなら喜びそうだな。あの子、アホだし。
「でも何あげても喜んでもらえるってのが一番逆に困るんだよな……。尚更悩むっつーの」
「うわ、遥チャンにも意外とまともな感性あったんだ」
「意外だよね」
「お前ら人を傷つけてそんなに楽しいか?」
俺相手になら何を言っても良いわけじゃないんだからな? ホント、JKってアイドルであっても口が悪いから困る。アーニャさんはマジで希少な人種なんだなぁ……。
「アーニャさんってさ、なんであんな天使なんだろうな……」
「おっ、何々? アーニャちゃんに興味出たの?」
「ああ、あんな悪意のカケラもない人、そうはいないでしょ……」
「そういう感じね……」
あんな人が彼女だったらなぁ……。実際、何度勘違いしそうになったことか。その度に理性が本能とインファイトしてた。
つーかさ、アーニャさんって誰かと付き合えるの? アレだけの態度取ってたら、仮にアーニャさんが人を好きになっても相手は「どうせ勘違い」って警戒しちゃうと思うんだけど。
……アーニャさんも可哀想になぁ。あの人あたりの良さで恋愛出来そうにないとか。
「……そういや、アーニャさんって好きな人とかいないの?」
「着いたよ、駅前」
無視されてしまった。駅の中に入り、近くの服屋とかを見て回る。
楽しそうにきゃっきゃうふふする多田さんと前川さんの後ろを黙ってついていった。
……服とか買うならアーニャさんのスリーサイズを知らなければならないわけで。
そういえば、アーニャさんのスリーサイズ知ってるわ。前に暴露されたっけか。まあ、そんなこと二人の前で口が裂けても言えないんですが。
とにかく、俺は俺で探すしかなさそうだ。なんか二人とも自分達の買い物に夢中だし。
さて、アーニャさんには何を買うべきか……。スリーサイズを知ってることを言えない以上、服は無理だ。そうなるとアクセサリーとかだが……アーニャさんって私服だと結構アクセサリーつけてるから、むしろ俺如きのセンスで喜んでもらえるのかな。
「ちょっと、白石。何やってんの?」
後ろから多田さんに声をかけられた。
「や、プレゼント選びを……」
「私達が手伝うから。勝手にフラフラ出歩かないで。子供じゃないんだから」
怒られちゃったよ……。ていうか手伝うってこと忘れてたわけじゃなかったのか。
前川さんと合流して店の中を出歩いた。こういう服屋は何となく苦手なんだけどな……。なんかオシャレすぎて肩身が狭い感じがする。
「あの……この店じゃなきゃダメなの?」
「この店に用はないにゃ。あそこのエスカレーターに乗れば近道なだけにゃ」
あー、そういうね? でもそれならわざわざ周りの商品に目移りする必要ないんじゃないんですかね……。
まぁ、女子の買い物が長いのはよく知ってるから別に気にしちゃいないが。
上の階に上がるだけで一時間経過したが、何とか移動出来た。上にはアクセサリーみたいな小物が売ってる店がいくつかの場所に設置されている。
「……なるほど、ここか」
「うん。ここなら学生のお小遣いでも買えるものがあると思うよ」
ふむ、こっちの予算についても考えてくれてたのか。それはかなり助かる。
まぁ、どっかに仕事で出掛けてる親からお金もらってるし、金がないわけじゃないんだけどな。
「で、何買うの?」
「んー、やっぱ実用性を重視したいんだよな。ピアスとかあげても学校じゃ付けられんし」
「なるほどね。そうなると……マフラーとか手袋かな? 真冬だし」
「ストールとか?」
「そうそう」
「ネックウォーマーとか?」
「そういう感じ。分かってるじゃん」
「ホッカイロとか!」
「なんで最後に大きくストライクゾーンを外すの」
ホッカイロは違うのか……。今の部分から相違点を探すと、デザインに差があるかないか、そして消耗品であるかないかだろう。
「あと、みくとしてはネックウォーマーは賛成できないにゃ。あんま女の子で使ってる人は見てないから」
「あー確かに。となると、マフラーか手袋かストールだけど……」
「……あ、ニット帽もあるにゃ」
「バッカお前アホ猫アーニャさんの美しい銀髪を見えなくしてどうすんだ」
とんでもないことを抜かしやがったのでそう言って返すと、割と言い過ぎたと思ったのに二人は意外なものを見る目で俺を見た。
「え、何?」
「いや、遥チャンってアーニャちゃんのこと意識してたんだ」
「うん、外見のことだけとは言え今、アーニャちゃんのこと褒めてたよね」
「え、そりゃ褒めるよ。アイドルだから当たり前だけど可愛いし」
え、なんだと思ってるの俺のこと? ホモじゃないからな俺。
「や、そういうんじゃなくて。なんていうか……アーニャちゃんのために怒ったんだなって思って」
「や、怒った内容は正直どうかと思ったけど」
「……えっ?」
そういや俺、今怒ったのか。あんな下らないことで。いや正直、冗談半分だったんだけど……てことは、半分は本気だったと……?
あれ、なんかそう思うと唐突に恥ずかしくなって来たような……。表情に出ていたのか、俺の顔が熱くなるのと共に多田さんと前川さんがニヤリと微笑んだ。
「何々? もしかして、アーニャちゃんのこと好きなの?」
「自覚したのかにゃ?」
「ち、違うから! なんでそうなんの⁉︎」
「そりゃだって、白石が怒ったんだからね?」
「全く怒るタイプに見えない遥チャンがね?」
「い、いやホントそういうんじゃないから! 大体、それだけでそうはならないでしょ。俺はただ単に、あの美しい銀髪が封印されるのがどうにも……」
「ほらぁ、アーニャちゃんのこと大好きじゃん」
「少なくとも外見はもはや自分のものになってるにゃ」
反撃の手立てを失っている。いやそんなつもりはほんとにないんだけどな……。
大体、アーニャさんという真っ白な人間を恋愛なんていうカレーうどんの汁で汚すわけにはいかない。恋仲になったらいずれあんな事やこんな事するわけなんだから。
「はぁ……とにかく違うから」
「ふーん……ま、何でも良いけど。それなら、やっぱ白石が選びなよ」
「そうそう。みく達はあくまで付き添いにするにゃ」
そう言われてもな……まぁ、この二人が俺の反論なんか聞くはずもない。
周りの店を見回りながら、アーニャさんへのクリスマスプレゼントを購入した。