デート当日、駅前でアナスタシアが待ち合わせ場所と同じ場所にみくと李衣菜と美波は集まった。三人ともそれぞれ、サングラス、帽子、マスクをして来ている。
理由、それはたった一つだ。アナスタシア、遥のデートの尾行である。こんな面白そうな事、尾けない理由がなかった。
「……美波チャン、遊歩チャンは?」
「……期末試験、英語18点だったから監禁してる」
「……あ、あはは……私も、勉強しなって忠告したんだけどなー……」
そんな会話をしながら、アナスタシアの様子を見る。絶対に……少なくともアナスタシアは早く来てると踏んで、三人とも30分前に来たのだが、それよりもアナスタシアは早く来ていた。
どこまで楽しみにしてたんだ、と呆れながらも、もう一人の方が来ないのが少し気になった。普通、待ち惚けるのは男の方だ。
まぁ、遅れてるものは仕方ないし、みくが会話を切り出した。
「そういえば、アーニャちゃん今日は告白するんだよね?」
「ああ、らしいね」
相槌を返したのは李衣菜だ。それを聞いて、美波は少し残念そうにため息をついた。
「はぁ……これでアーニャちゃんも彼氏持ちかぁ……」
「うーん……どうですかね、それ」
「へ?」
李衣菜が何となく返した言葉に、キョトンと美波が首を捻った。
「ど、どういうこと?」
「だって、私はイマイチ、白石の考えが読めないんですよ。だから、アーニャちゃんにどんな感情を抱いてるのか分からないんですよね」
「……へっ?」
「北山くらい分かりやすければ良かったんだけど……」
「じ、じゃあ……アーニャちゃんが振られる可能性は……」
「あるかもしれないですね」
それを聞いて、美波の顔色はサァーッと青くなった。もし、振られてアナスタシアが泣いてしまったら、遊歩以外の男にアイアンクローをかましてしまうかもしれない。
「……が、頑張ってね、アーニャちゃん!」
「今更、何を言ってるにゃ?」
みくがジト目でそんなツッコミを入れた時だ。アナスタシアが何やら一点を見つめ始めた。三人揃ってそっちに目を向けると、ジャンプを読むふりしてアナスタシアを見つめるストーカーがいた。
「……何してるにゃあの子」
「白石くん、もしかしてこの前、アーニャちゃんを怒らせちゃったこと、まだ恐れてるんじゃ……」
「あー、白石ってキモ小さそうだもんね」
なんで話してるあいだに、アナスタシアは堂々とコンビニへ。「あ、行っちゃうんだ」なんて思ってる三人の気など知るはずもなく、何か話すと遥を連れてコンビニを出た。
駅に向かっていったので、三人とも無言で頷きあうと後を追った。
×××
到着したのはデ○ズニー。二人がチケットを購入して入園する中、美波が三人分のチケットを購入していた。
「えっと、学生三枚」
「わーい! 美波チャンの奢り? 優しー!」
「えっ」
「やったね、みくちゃん! ラッキーだね!」
「ふ、二人とも、冗談だよね?」
「そういえば、北山をクラスに馴染ませるのに尽力したよね私達!」
「そうにゃ! 家でお化け屋敷に付き合わされたり!」
「わ、分かったよ……。はぁ……」
仕方なく了承した。ハイタッチしてる二人を連れて入園。ちゃんと見失わないようにアナスタシアを目で追っていた。というか、美波なら例え早朝の山手線の中でもアナスタシアと遊歩のことは見つけられる。
「えーっと、アーニャちゃんは……」
「あっちだよ、みくちゃん」
「なんで分かるの……? この人混みで一発で……」
「ほら、追うよ」
「美波さん、スマホのカメラしまって……」
三人で、イチャイチャしてるとしか思えない二人の後を追うが、その途中でみくが足を止めた。
その様子に、李衣菜と美波もつられて足を止める。李衣菜が小首を傾げて質問した。
「どうしたの?」
「……いや、今更だけど……クリスマスなのに女の子だけで何してるんだろうと思って……」
「……」
言われて、李衣菜も両手で顔を覆った。
「……確かに。せめて女子だけ、ってならないように北山が欲しかった……。初めて、あの人を欲しいと思ってしまった……」
二人して肩を落としてると、隣から美波がやんわりした口調で口を挟んだ。
「ま、まぁまぁ……二人とも可愛いんだし、彼氏出来るって。最近はうちの事務所、そういう子増えてるんだから……」
「けっ……その波に乗った奴の言い分なんか信用できるかいっ。なぁ、みくちゃんやい?」
「そうやい、あたぼうめ」
一体、何キャラなんだ、と思ってしまうような大根役者っぷりに、美波は苦笑いを浮かべるしかなかった。
が、そんな小芝居をしてる二人を眺めてると「あっ、でも」と美波が思い出したように言った。
「李衣菜ちゃんは、最近、仲良い男の子がいるんでしょ?」
「……へっ?」
「んっ?」
李衣菜は固まり、みくはジト目で李衣菜を睨む。
「……どういうことにゃ? 李衣菜チャン」
「な、なんで、それを……」
「へ? 遊歩くんから聞いたからだけど……」
冷や汗を流す李衣菜とジト目のみく。美波もニコニコしてはいるが、完全に「聴きたいな♪」と楽しそうな笑顔だ。
逃げられないと悟った李衣菜は「誉れ堅き雪花の壁」と「今は遥か理想の城」を展開し、どんな宝具にも耐えられるように防御を固めようとした。
「違うからね⁉︎」
「「何が?」」
「そういうんじゃないから! あいつは……!」
「へー、あいつとか言っちゃう仲なんだ」
「もしかして、みく達に隠れて結構遊んでる?」
ただし、NPもCTも足りなかった。穴だらけの盾で、恋バナ大好きな女学生の一斉掃射に耐えられるはずもない。
全て洗いざらい話す覚悟をした時だ。アナスタシアと遥の二人がアトラクションに向かってるのが見えた。
「あ、ふ、二人とも行っちゃったよ!」
「……仕方ないわね」
「尋問は後回しにゃ」
三人であわてて後を追った。まず到着したのはスター○アーズ。
冷静に考えれば、クリスマスとはいえ、二人を尾行していれば三人でアトラクションにも乗れるのだ。つまり、デ○ズニーを楽しむことが出来る。このストー……尾行は決して悪いものではない。
みくも李衣菜も同じ事を思ったようで、ふたりでさっさと列に並ぼうとした。
「待って、二人とも!」
が、その二人を美波が止める。きょとんと首を傾げて後ろの美波を見た。
「……何?」
「どうかしました?」
「二人とも忘れてない? 今日は2人のデートの観察に来たんだよ?」
「だから後をつけて乗るにゃ」
「でも、私達の方が後から乗るんだよ? つまり、あの二人が先にアトラクションから降りる。その後、誰が後を追うの?」
説明を聞いて、アホであってもバカではない二人は徐々に冷や汗を流していった。嫌な予感が頭を過る。
その予想通りのことを美波は笑顔で言った。
「どちらか一人、出口付近で2人に気付かれないように見張っててくれる?」
「狡いにゃ! 美波チャンは⁉︎」
「そ、そうですよ! なんで私達だけ!」
予想通りだったからか、二人の反撃は速い。しかし、その直後、美波の表情は、普段、彼氏にアイアンクローをする時の笑顔に切り替わった。
「……二人とも、誰のお金でここで遊べてると思ってるの?」
「……」
「……」
それを言われてしまえば、二人とも黙り込むしかない。共同戦線は早くも解消され、お互いに横目で睨み合う。
ーーーここから先は、真正面からのインファイトだ!
「「最初はグー! じゃんっ、けんっ……!」」
みくが待機班となった。
×××
「納得いかないにゃ!」
「いやー楽しかったね、李衣菜ちゃん」
「はい!」
「なんでみくが待機班なの⁉︎ 班、というかみく一人だったし!」
「宇宙旅行に行った先でトラブルなんて、結構面白い趣旨だったね」
「そうですね。本当にトラブルかと思いましたもん」
「しかも結局、二人と同じ順番だったなんて尚更、狡いにゃ!」
「でも、せっかくだからスパイに選ばれたかったけど……」
「仕方ありませんよ、スパイはランダムですから」
「聞いてよ話!」
そこまで言われて、ようやく二人は顔を上げた。しかし、その表情は怪訝そうなものだ。
「……何?」
「そっちがなんなの⁉︎ 何その顔⁉︎」
李衣菜の冷たい目に尚更、みくは腹を立てた。本当に猫っぽく「フシャー!」と威嚇しそうなものである。
「置いていかれたみくの愚痴を聞いてくれても良くない⁉︎」
「いや、でも負けたみくちゃんが悪いよね?」
「うん、そんな風に怒られても……」
「うう……二人とも冷たいにゃ……。李衣菜ちゃん、来年夏休みの宿題終わらなくても絶対手伝ってあげないから」
「ええ⁉︎ い、いきなりそれは卑怯じゃない⁉︎」
「知らないもん」
「ちょっと待って。みくちゃん、李衣菜ちゃんより歳下じゃなかった?」
「「そうだけど?」」
……それで手伝ってもらえるんだ、と呆れた反面、遊歩はそんな風にならないように厳しくしよう、と強い意志を持った。
そうこうしてるうちに、チュリオスの列に二人が並んだ。それを物陰からこっそりと見張る三人。どうやら、アナスタシアに遥が奢ってあげる流れのようだ。
「……おお〜」
「優しいとこあるじゃん」
「それ」
そんな勝手な評価をしながら、近くのベンチでのんびりを二人を眺める。
「……それにしても、寒くなりましたね」
李衣菜が自分の身体をさすりながらそんなことを呟いた。
「そうね。真冬だものね」
「今日は雪が降るらしいにゃ」
「へ〜……じゃあ、ホワイトクリスマスだ」
「そうなると良いね」
「……美波さん、本当に北山と良かったの?」
「良いの。あの子、しばらく外出禁止」
「あ、あはは……」
割と冷たい反応に、李衣菜が乾いた笑いを浮かべたが、それにみくがジト目で言い返した。
「李衣菜チャン、人のこと笑ってる場合? どうだったの? 期末試験」
「あー……まぁ、いつも通りかな」
「何、李衣菜ちゃんも成績良くないんだ?」
「そうなんだよ。美波チャンも一度見てあげて欲しいにゃ」
「ちょっ、みくちゃん。そういうこと言うと……」
「分かった。三学期の期末が楽しみだね、李衣菜ちゃん?」
「ほらこうなる……」
「良い薬にゃ」
そんな事を話してる時だ。列に並んでるアナスタシアの鼻を、遥がかんであげてるのが見えた。
それを見て、美波もみくも李衣菜も半眼になる。
「……えっ、何してんの? あの二人……」
「お母さん?」
「いや、どっちかというとお兄ちゃんだよね……」
「でもさ、普通外でああいうことすると……」
3人がそんな懸念を抱いた時だ。
「お客様、さっさとして下さい」
店員の冷たい声が三人のもとにも響いた。顔を赤くしながらチュリオスを買って次のアトラクションに向かう二人を目で追いかけながら、美波が小さく呟いた。
「……ホラ見たことか」
三人もチュリオスを購入してから二人の後を追った。
次のアトラクションはス○ラッシュマウンテン。再び、みくと李衣菜が拳を引いた。
「「じゃん、けんっ……!」」
李衣菜が待機班になった。
二人の後を追いながら、美波とみくが二人で列に並ぶ。その間、前方の二人を眺めながら、二人でアトラクションを見上げる。
「……うわあ、面白そうにゃ」
「あれ? 乗ったことないの?」
「みくはどちらかというと、ユニバの方が多く行ってたから」
「あー、そっか。大阪出身だもんね」
「美波チャンは?」
「私もあまりないかな。去年、少し来てたくらい」
「広島だっけ?」
「うん」
きゃああああ……と悲鳴が聞こえた。ス○ラッシュマウンテンの下りのレールが降りて来る音だ。
それを見て、みくが「ああ!」と思い出したように声を上げた。
「どっかで見たと思ったら、ジ○ラシックパークの奴に似てる!」
「へっ? こういうのあるの?」
「うん。水の中、急降下して降りて行く奴」
「ふーん……。どんなの?」
「結構怖いんだよ。急降下の直前、ティーレックスが目の前にいて迫力満点の奴にゃ」
「あー……それは怖そうだね」
「美波チャン、ホラーとかダメそうだもんね」
「うるさいよ……」
そうこうしてるうちに、自分達の番になった。偶然にも、アナスタシア達と同じ車両になった。一番先頭の車両の戦闘がアナスタシア、遥組み。一番後ろが自分達だ。
しかし、みくは忘れていた。ジ○ラシックパークと同じということは、急降下して着水時に大惨事になることが明白だ。
そして、それを思い出した時には列車は出発していた。
「ワクワクするね、みくちゃん」
水を被ったことがない美波は純粋にウキウキしている。心苦しかった、これから起こる惨事を想像すると。
しかし、自分が乗りたいと言ったわけではない。もう、なす術もないし、仏のごとく悟りを開くことにした。
「……美波チャン」
「何? ……何、その顔?」
「死ぬときは一緒、だよね?」
「どういうこと⁉︎」
そのまま落下した。
×××
デ○ズニーランドを出て、三人は二人にバレないようにマンションに向かった。
結局、アナスタシアはまだ告白はしていない。いつ告白するのかワクワクしながらあとをつける。
到着したのは、屋上だった。流石に屋上までは上がらない。バレるから。
そのため、壁越しに話を聞くしかない。壁に耳を近づけてると、アナスタシアの声が聞こえてきた。
「は、ハルカは……サンタさんって信じてますか?」
「アーニャさん」
「は、はい?」
「好き、なんだけど……」
何の話? と三人は顔を変えたかと思ったら、驚愕の表情に切り替わった。
「……はい?」
「や、だから好きなんだけど……」
「……ふえ? ええええええええええ⁉︎」
全く同じ反応を心の中で共鳴させた。すごいタイミングで、アナスタシアのセリフをまるで無視してそんなことを伝えたからだ。
しかし、唯一、落ち着いている遥は小さくため息をついた。
「はぁ……やっぱそうなるよね……」
「っ、はっ、ハルカっ……い、一体、何を……?」
本当にそう思う。
「好きなの、アーニャさんが。昨日からずっと、北山とか新田さんとかに言われて考えてたけど」
「えっ? えっ? ……えっ?」
「その純粋過ぎて天然なとこも、ポーカーフェイスかと思ったら簡単に顔を赤くするとこも、楽しい事を見つけると頭がすぐに切り替わるとこも」
「っ、や、やめて下さいハルカ!」
「やめない。俺が今までいくら心臓が爆速で動くような思いをして来たと思ってんだ」
「だ、だからってそんな……!」
「とにかく、俺はアーニャさんが好きだ」
「っ……〜〜〜っ、ぅうう〜……」
あまりの怒涛の畳み掛けに、三人まで心臓をドキドキさせてしまった。
なんであれ、告白は告白だ。アナスタシアは返事をしなければならない。まぁ、三人はその結果を知っているわけだが。
「……アーニャも好きですよ、ハルカ……」
「……え、そうなの?」
「はい……。これでも、気持ちを伝え続けて来たのですが、ハルカが鈍感すぎて気付いてもらえなかったです」
「俺が悪いんですかね……」
「でも、もうその事でイライラすることはないです。……だって、ずっと一緒ですから」
「……」
その後、プレゼントを渡し、キスをした。その様子を眺めながら、三人ともウンウンと頷いた。ようやくくっついたか、みたいな。
とりあえず、これ以上は野暮だ。三人ともクールに立ち去ろうとした時だ。屋上の扉、ガラスになってる部分に文字が書かれていくのが見えた。
『あとで、おぼえてろ』
……遥には全部バレていた。三人とも、後日に遥とアナスタシアに色々買わされる羽目になった。