翌日、試験が終わった。最終日の科目は古典と数ⅱ。古典はハナから捨てていたので、埋まったところと言えば昨日、するつもりのなかった勉強によって現代語訳をマスターしたのでそこだけ。逆に数ⅱは多分80点は固い。
それより早めに帰らないと。今日は俺には珍しく約束がある。そう思ってると、ちょうどスマホにL○NEが届いた。
アーニャ『試験終わりました』
アーニャ『どこに行けば良いですか?』
そう、アナスタシアさんとBlu-rayを見る約束をした。まぁ、細かいことは何も決めてないんだけどな。
とりあえず、集合場所だけでも決めておかなければならない。
白石遥『とりあえずこの前のサイゼで』
アーニャ『分かりました』
まぁ、これが一番分かりやすいよな。お互いに知ってる場所は少ないし、流石に俺のマンションはまずいだろう。
それだけ言ってサイゼに向かった。うちの学校からファミレスまではすぐだ。ちょうど中間点にあるし。
よって、さっさと到着して席を案内してもらった。アナスタシアさんはまだ来てないっぽいし。
先にドリンクバーだけ注文して、スマホをいじり始めた。今思ったけど、ウ○ビッチくらいようつべにありそうなもんだよな……。あ、ほらあった。
しかし、まさか出会ってから毎日、女の子と顔を合わせることになるなんてな……。ホントに唐突だわ。俺なんか良い事したかな、神様。
しばらくスマホゲームをやってると、向かいの席にアナスタシアさんが座った。
「アー……お待たせしました、ハルカ」
「……あ、来た。どうも。まずは飯にしましょうか」
「ハイ」
「すみませんね、2日連続でサイゼになっちゃって」
「いえ、私サイゼ大好きですよ?」
……何故だろう、アナスタシアさんの場合は気を使った、というよりも本当にサイゼが好きなだけな気がする。
お互い、注文して待機した。
「で、どうします?」
「何がですか?」
「や、どこで見るかって」
「……ハルカの家ではないのですか?」
……この子は本当に何を言いだすんだ。
「お、俺の家?」
「は、はい」
「何で」
「だって、Blu-ray……ですよね?」
あ、そういう……って、ダメだろ流石に。天然にもほどがあるぞオイ……。というか貞操観念ってものがないのか?
「……あの、アナスタシアさん」
「? 何ですか?」
「ロシアだとどうだか知りませんが、日本だと簡単に男の部屋に入らない方が良いですよ。何されるかわかりませんから」
「へ? でも……私は何度も入ってますが……」
……この子、もしかして男の友達多いのか? まぁ、だとしてもアナスタシアさん一人で男の部屋に行くのは百パー新田さんが止めるだろうから、多分新田さんも一緒になんだろうけど。
「ま、まぁ……とにかく、簡単に男の部屋に来ちゃダメですから」
「……そ、そうですか……」
ショボンと肩を落とすアナスタシアさん。……いや、これに関しては俺何も悪くねーよな……?
でも、アナスタシアさんほど純粋な人だと俺が単純にアナスタシアさんを部屋に上げたくないだけみたいに考えてしまいそうな……。
何にしても、早めに場所の提案をしておかないと。と思って、とりあえず思い浮かんだ場所を提案した、
「ま、まぁ、とりあえずアレだ。ネカフェでも行きますか? ネカフェなら見れると思いますよ」
「ね、かふぇ……? ……あ、寝るカフェですか?」
「ネットカフェな? そこなら見れると思いますよ」
「ではそこに行きましょう!」
想像通り、一発で表情はころっと変わり、アナスタシアさんは楽しそうな顔になった。この子、大丈夫かな、チョロ過ぎて逆に心配になってきたんだけど……。
まぁ、変に気負わないでくれたのは助かるけどね。それに、そういうところが可愛くもある。
早速楽しみになってきているアナスタシアさんをぼんやり見てると「あれ?」とふと思う事があった。
……男女でネットカフェってさ……あまり変わってなくね? 結局、一つ屋根の下で男女で二人きりじゃん……。しかも、狭いからヤケにくっ付く事に……。
「……あの、アナスタシアさん?」
「なんですかっ?」
いつのまにか来ていた料理を食べて、口の周りにソースをつけてるアナスタシアさんが楽しそうにこっちを見た。
……言えない、こんな顔されたらやっぱやめます? なんて言えるかっつんだよ……。
「や、なんでもないです。口の周り拭いて下さい」
「ハイ!」
紙ナプキンを渡すが、それでも明るい返事が返ってきた。
なんでいつもいつでもどんな時も楽しそうなんだよ……。キラキラした笑顔が俺にはやけに眩しく感じる。
「……はぁ」
「どうしました? ハルカ。食べないですか?」
「食べないわけないですよ」
「……あっ、そ、そうですか……」
「や、いちいち凹まないで。別に皮肉じゃないから」
ああもうっ……なんだよこの子可愛いけど面倒臭いなオイ……。というか、俺もこれから男女でネカフェに行くことになって少しカリカリしてるのかもしれない。自分で墓穴を掘った事がどうにも情けなくて。
はぁ……なんか今日は疲れそうだな……。試験終わりに疲れるとかどうなってんだよ世の中。や、だから俺の所為だってば。
いや、何にしてもとりあえずアナスタシアさんにネカフェがどんなとこか教える必要があるな。このままだと純粋な女の子をラブホに騙して連れ込もうとしてるみたいで何だか気が引ける。いや、やましい事を考えてるわけではないが。
「あー……アナスタシアさん?」
「なんですか?」
「一応言うけど……ネカフェって個室なんですよ。パソコンが置いてある感じの」
「? そうなんですか?」
「で、まぁ、その……なんだ。それなりに狭いんで、身体がくっ付く事になるかもしれないんですが……大丈夫ですか?」
「……何がですか?」
「馬鹿なんですか?」
「ば、バカ⁉︎ なんでですか⁉︎」
……むしろ真剣に考えてた俺の方がバカみたいに思えてきたわ。そうだよね、アナスタシアさんだもんね。
「……何でもねーよ。それより、さっさと食ってさっさと行きましょう」
「むぅ……はぐらかされました……」
だってバカだもん。やけ食いをするようにミラノ風ドリアを速攻で完食した。
×××
サイゼを出て、ネカフェの前に来た。ウキウキしてるアナスタシアさんが入ろうとしたので、その肩を掴んで引き止めた。
「待った」
「? なんですか? ハルカ」
「その前に忠告があります」
「ちゅーこく?」
……全然意味違くても、アナスタシアさんが「ちゅー」って言うとすごい可愛いのな。思わずときめきかけた。
「ぶっちゃけ、ネカフェっていうのは超居心地良いです」
「……そうなんですか?」
「漫画にネットに飲み物、場所によってはダーツやシャワーとかまであります。しかも大体、24時間やってるからそこで暮らしてる奴もいるレベルで」
というか、俺も今年の夏休みに泊まった事ある。ここに住みたいと思ったことすらあるわ。
「だからこそ、その……早い話がダメ人間を作りやすいのがネカフェなので、飲まれないように気をつけて下さいってことです」
「わ、分かりました……!」
「まぁ、案の定夏休みにダメになりかけて会員証まで作った俺に言われたくないと思いますけどね」
「じゃあ、ハルカはダメ人間なんですか?」
「面と向かって言うなよ……」
……天然の前で自虐すると勢いのまま叩かれそうで怖いわ。
「大丈夫です! 私はダメにはなりませんから!」
「だと良いですけどね……。ま、行きましょうか」
「ハイ!」
ネカフェに入った。テキトーに受付みたいなのを済ませて、指定された部屋に向かった。
その途中、物珍しそうにアナスタシアさんは辺りを見回した。
「わぁ……本がたくさん、ですね……」
「漫画が多いですけどね。何か読みたいのあったら持って行ったらどうですか?」
「……イエ、あまり漫画は……」
「まぁ、無理にとは言いませんが……。あ、そこの自販の飲み物全部タダですから、持って行った方が良いですよ」
「タダですか⁉︎」
「はい。その代わり、長く居れば居る程料金は上がりますからね。料金に飲み物代が含まれてるわけです」
「ダー……つまり、たくさん飲んだ方がお得って事ですね!」
「そういう事ですけど……それでトイレ行きたくなって動画見る時間減っても知りませんよ」
「そ、そうですね……」
む、そう考えるとうまく出来てるなこのシステム。飲み過ぎるとトイレの罠で漫画やネットの時間が減るとか、ちゃんと飲み過ぎ防止のシステムが出来てやがる。
お目当の飲み物を手に入れて部屋に入った。思いの他広いな。広いっつっても二人分だが。詰めれば三人座れる車の後部座席くらいの幅だ。
「……ここ、ですか?」
「そうですよ」
初体験だからか警戒してるように見えた。アナスタシアさんも警戒する事あるんだかーと思ったが、その直後に「入らないんですか?」と俺に聞いてきたので単純に前に立ってる俺が先に座るものだと思っていただけらしい。
レディーファーストなんていう概念は俺の中では存在しないので、先に入って席に座ることにした。
ふぅ、これならくっ付く事は回避され……。
「パソコン、近いですね。目が悪くなりそうです……」
「待って、近いのはお前の方だから」
「はい?」
……なんでこれだけスペースあってそんな近くに座るの。
「あの、もう少し距離感考えない? これだけ広いんだし……何より俺と君は異性よ?」
「……そ、そうですね……。近すぎ、ましたね……」
だからいちいちショボンとするなって……。
「や、俺は構わないけど他の男にそれやったら変な勘違いさせちゃうから……」
「アー……勘違い、ですか?」
「そうですよ。あまりくっ付くと『あれ? この子俺に気があるんじゃね?』と思わせてしまいますから」
「気がある?」
難しい日本語使ってすみませんね。
「俺のこと好きなんじゃないかって思わせるって事です」
「私、ハルカの事好きですよ?」
「っ……」
落ち着け、俺。この子は日本語に不慣れなだけだ。
「……LOVEの方でか?」
「アー……スミマセン、お気持ちは嬉しいんですが……」
「おい待て、なんで俺が振られたみたいになってんだ。違うから、他の男がそう思うかもって事だよ」
疲れる、この子と話すのは本当に疲れる……。
まぁ、なんかもうどうでも良いや。さっさとウ○ビッチ見よう。
とりあえず普通に座ってパソコンをつけた。
「じゃ、見ましょうか」
「ハイ」
そう言って、鑑賞会を始めた。
ウ○ビッチは一話につき3〜4分程度のもので、見るのに時間はかからない。超強い奴が意地悪な看守をフルボッコにする爽快なアニメだ。
まぁ、普通に面白い。というか強過ぎだろ赤い方。ギロチン効かないとか化け物か?
「どうですか? 面白くないですかっ?」
「あー……うん、まぁ」
でも意外だな。アナスタシアさんがこういうの好きなんて。何も考えずに見れるからか? ……いや、子供っぽいからだよな。ポケモンだって冷静に考えたら人間に電撃かましてるからな。
「まぁ、楽しいですね、見てて。爽快というかなんというか……」
「ですよねっ?」
「ただ、それだけの力持ってる奴をどうやって捕まえたのか不思議ですが」
「……あっ、確かにっ」
この子は疑うことを知らないのか?
「まぁ、そこは触れちゃいけないとこだと思うんで、とりあえず見ましょうか続き」
「そ、そうですねっ。次は2期です」
「ちなみに何期まであるんですかこれ」
「5期です」
……長いな。大体、1シーズン30〜40分あるから、どう足掻いても二時間以上かかる。
「……今日は3期までにしましょう」
「どうしてですか?」
「金掛かるからですよ。続きは……ようつべにあったら見ておきますから」
「分かりました」
そう言って、ウ○ビッチの続きを見始めた。まぁ、この様子なら変な事は起きそうにないよな……。エロ同人とかだとネカフェでエッチとか定番だが、そんなもん現実では起きまい。
そうホッとした時だ。飲み物を飲もうとしたアナスタシアさんが手元から紙コップを落としてしまった。
「あっ……」
お腹の辺りからスカートまで制服に広がる飲み物。お陰で真っ白な制服は黄ばんでしまっていた。
「うー……零してしまいました……」
「何やってんですか……」
「スミマセン……」
しゃーない、とりあえずポケットからハンカチを差し出した。
「とりあえず拭いてください」
「スパスィーバ、ハルカ……」
とりあえず足元に転がったカップを拾おうと机の下に潜り込んだ。
こういう時のためにハンカチを複数枚持ってるので、それで床を拭いた。これはまた派手に零したな……。
コップを机の上に置いてから再び床を拭いてると、硬い何かに手がぶつかった。
……なんだこれ……あ、アナスタシアさんのローファーか。……ん? ローファー? って事は……。
特に何も考えることもなく、ほんの何気なしに顔を上げると、スカートの中からアナスタシアさんの純白のパンツが目に入った。
「ッ⁉︎」
慌てて引っ込もうとしたら頭を机にぶつけた。あまりの痛みにその場で蹲る俺。
「は、ハルカ⁉︎ 今、すごい音が……!」
ーっ、ま、マズイ!
「っ、だ、大丈夫です! それより靴も濡れてしまってるので一度脱いで正座で足を閉じて待機してて下さい!」
「正座で⁉︎ なんでですか⁉︎」
「間違っても体育座りやあぐらはやめるように!」
「わ、分かりました……?」
なんとか従ってもらった。よし、今見た事は忘れよう。じゃないとマジで死ぬ。というかファンに殺される。
ようやく拭き終えて「ふーっ」と肩を揉みながら机の下から出た。
「大丈夫ですか? アナスタシアさん」
パンツ見たのバレてないよね? っていうのを兼ねて聞くと、パンツを見られた女の子とは思えない笑顔で答えた。
「ハイ。出来ればシャワー浴びたいですけど……大丈夫です」
良かった、バカで。後は考えさせなければ問題ないな。
「シャワー浴びたいならありますよ。ここ」
「……あ、そうでした」
「どうします? 浴びるなら俺待ってますよ」
「……じゃあ、浴びます。すみません」
「いえ、気にしないで下さい。じゃあ、行きましょうか」
そう言って二人で一度個室を出た。とりあえず、前言撤回しよう、変な事が起きないように、俺がちゃんと気を付けなければ。それと、現状のことも周りにバレてはならない。俺の命が危うい。
……一応、アナスタシアさんにお願いしておこう。
「……あの、アナスタシアさん」
「なんですか?」
「シャワーの事は誰にも言わないでもらって良いですか……?」
「分かりました♪」
その笑顔、不安だ……。
×××
3期まで鑑賞し、ネカフェを出た。大体、2時間だったので料金はそこまで高くなかった。
伸びをしながら、相当楽しかったのかアナスタシアさんは相変わらずの笑みを浮かべて言った。
「ん〜……楽しかったですねっ」
「そーですね」
時間はまだ4時過ぎ。だが、アナスタシアさんはこの後からレッスンがあるらしい。
「事務所って何処にあるんですか?」
「アー……えっと、隣の駅です」
「じゃ、駅前まで送りますよ」
「ありがとうございます」
そう言って、二人で駅の方に歩いた。まぁ、歩いて5分程度なんだけどな。
しかし、本当にアナスタシアさんってすごいな……。多分、何度も見てるだろうに、なんであんな新鮮に楽しめるの?
「あっ!」
突然、横から驚いたような声が上がり、俺も内心驚いた。良かった、表に出なくて。
「……何? どうした?」
「……いえ、ハルカの言ってた……ば、バグ発志士? 見てないですね……」
「ああ……幕○志士ね」
あながちそれも間違ってないが。
「まぁ、別に強制はしてないんで見なくても良いですよ」
「いえ、私もタメ口をマスターしたいので」
「や、そんな無理に覚えなくても……」
「とにかく、帰ったら私も見ます」
「まぁ、見るなら止めませんが……」
なんか、ここで止めておかないとまずい気がしてきた。……や、でもアナスタシアさんもう止まりそうにないし……。
悩んでるうちに駅に到着してしまった。
「ハルカ、また今度」
「あ、はい。レッスン頑張って下さいね」
「ハイ♪」
相変わらず楽しそうなオーラを出しながら、アナスタシアさんはホームに降りる階段へと消えていった。
……そういえば、明日以降は遊ぶ約束とかしてないし、もしかしたらこれで最後かもしれないのか……。あれ、なんだろ。なんか切ない。頑張って下さいって俺今言ったのに、今から帰るのが気だるいというか何となく嫌だというか……何この感じ。
……なんか、よく分からない感情に襲われてるな……。まぁ良いか。とりあえず帰ろう。幕○ラジオでも見てよう。