アナスタシアさんはバカワイイ。   作:バナハロ

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面倒を見るというのは何も甘やかせば良いわけではない。

 俺の部屋に到着し、とりあえず手洗いうがいを済ませた。そろそろインフルエンザの季節だからな。予防はしっかりしないと。

 買い物袋を床に置くと、物珍しそうに辺りを見回すアーニャさんが目に入った。

 

「どうしたの?」

「……ここが、ハルカのお部屋ですか?」

「そうだよ」

「ミナミのお部屋とそっくりです……」

「そりゃ同じマンションですから。家具の配置以外は大分似てるでしょ」

「アー……なるほど」

「もし暇ならゲームしてて良いよ」

「分かりました」

 

 そう言って、アーニャさんはテレビの下の6○に手を伸ばした。ゲームのチョイスがえらく古いな……。ていうか、使い方分かるの?

 

「ハルカ、これどうやりますか?」

 

 分からないんかい。

 

「6○で良いの? 最新機種あるけど」

「はい。これが幕○志士がやってたゲームですよね?」

 

 あ、なるほど。そういうことか。

 とりあえず、セッティングだけ済ませて、コントローラを手渡した。マ○オ百面相が始まり、それだけでアーニャさんのテンションが上がってるのを横目で見ながら、カセットの箱から説明書を取り出した。

 

「これ読みながらやって。それでも分からなかったらまた呼んでくれて良いよ」

「ハイ」

 

 それだけ言ってアーニャさんは説明書を読み始めた。日本語は……大丈夫かな? まぁ、読めなかったら中間試験どころの騒ぎではないし大丈夫だとは思うが。

 その間に冷蔵庫に買って来たものをしまって米を炊いで、餃子のタネを作り始めた。ひき肉やらニラやら何やらをグッチャグッチャと混ぜる中、アーニャさんは夢中でマ○オを進める。

 タネの仕込みを終えて、あとは皮で包んで焼くだけ、というところでアーニャさんが声をかけて来た。

 

「ハルカ」

「どうした?」

「坂本反転改革横チャンはどうやりますか?」

 

 あー……坂反か。

 

「あれはそういうコマンドがあるんじゃなくて、マリオの動きを利用して坂本が独自に作ったテクニックですよ」

「そうですか?」

「そう。だから俺も分からん。探すなら動画見ながらやった方が良いかも。パソコン使いたかったら使って良いから」

「ハイ♪」

 

 ……楽しそうだな。まぁ、あのゲーム普通に面白いからな。そういや、今年はオデッセイも出るんだっけ。絶対やるわ。

 うちのパソコンを起動し、アーニャさんは動画を見ながらコントローラを動かす。ああして研究しながらゲームやれる辺り、あの人はゲーマーの素質があるな……。

 餃子を全て包み終え、焼き始めた。あとは音が変わるまで待機するだけだ。

 ふとアーニャさんの方を見ると、ソファーの前に座り、ゴロゴロしながらゲームをしていた。よく異性の部屋でそんなゴロゴロできるな……。

 しばらく待ってると、フライパンの中の音が変わって来た。焼き上がったのを確認し、皿に盛り付けた。

 あとは白米と牛乳とサラダを用意して机に運んだ。

 

「出来たよ」

「あっ、はい!」

 

 パァっと顔を明るくして、アーニャさんは走って席に着いた。

 

「わっ、美味しそうですね」

「あ、待って。醤油持ってくるから」

 

 箸をつけようとしたアーニャさんを手で制すると、ぐうっと可愛らしい音が聞こえた。

 頬を赤らめて俯いてるアーニャさんが見えた。

 

「ーっ……」

「先食べてても良いですよ」

「……スティェスニャーユスィ」

 

 あ、今のは分かったわ。多分、恥ずかしいって言ってる。

 小皿と醤油を持ってアーニャさんの分を渡し、今度こそ手をつけようとするアーニャさんに聞いた。

 

「あ、ラー油はいる?」

「いえ、大丈夫です」

「じゃあお酢は?」

「いえ、それも……」

 

 再びぐうっと音がなる。顔を真っ赤にしたアーニャさんは、今度は少し大きな声で言った。

 

「もうっ、意地悪しないでくださいっ!」

「ははっ、ごめんごめん。さ、食べるか」

「もうっ……ハルカ、たまに意地悪です」

 

 拗ねたアーニャさんも可愛い。

 で、二人でようやく餃子を食べ始めた。一つ目を醤油につけてアーニャさんは齧ると、とても幸せそうな表情を見せてくれた。

 

「ん〜……フクースナ、美味しいです!」

「そうか、良かった」

 

 言いながら俺も一つ食べた。うん、確かに美味く出来てる。

 

「ハルカって料理も出来たんですねっ!」

「まぁ、長い間一人暮らししてるとどうしてもな。アーニャさんは出来るの?」

「ダー……そうですね。ボルシチなら得意です」

「へぇ、じゃあ次はアーニャさんのボルシチを食べさせてもらおうかな」

「はい♪ 楽しみにしててください」

「ああ。楽しみにしてる」

 

 そっか、ボルシチ得意なんだ。所で、気になったことがある。

 

「俺、ボルシチ食べたことないんだけど」

「そうなんですか⁉︎」

「うん。美味いの?」

「美味しいですよ。元々はウクライナの伝統料理で、近世以後、ベラルーシ、ポーランド、モルドバ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ロシアにも普及しました」

「そっか。でも普通はボルシチの歴史よりもどんな料理かを紹介しない?」

「ダー……そ、そうですね……。えっと……赤の煮込みスープです」

「うん、今度作ってくれる時を楽しみに待つわ」

 

 じゃないと上手く伝わらなさそう。

 そんな話をしてるうちに餃子を食べ終えた。割と多めに作ったのに二人でペロリと食べちまったな……。というか、アーニャさんはアーニャさんでそれなりに食べる方なのかもしれない。

 

「ふー……お腹いっぱいです」

「どうする? もう少しゲームやって行くか?」

「ハイ。もう少しでクリアできそうなんです」

 

 そう言って、テレビの画面を見るアーニャさん。まぁ、上の階には新田さんが住んでるし、いざとなったら申し訳ないがアーニャさんを引き取ってもらえば良いだろう。

 ゲームを再開するアーニャさんを横目で見ながら、俺は洗い物だけ済ませて隣に座った。

 

「あ、ハルカ。見て下さい、これ!」

「ん?」

「坂本反転!」

「……おお、すごいな」

 

 え、マジで見つけたの? すげぇなこの子……。

 

「はい。ほら、見てくださいっ。走って後ろに飛んで、最後に飛び込みを入れれば……」

「お、おお……」

 

 本当にすごい。ゲームの才能あるだろ……。これ山手線の渋谷よりも全然上手いんじゃねーのか?

 

「ていうか今何やってんの?」

「緑の悪魔です」

「や、そういうゲームじゃないからこれ」

「すごいです。とても難しいです」

 

 まぁそうだろうな。あいつらクリアするのに何時間もかけてたらしいし。

 

「ふふ、見てて下さいねっ。私、すぐにクリアしますから」

「おお。見てるよ」

 

 そう言って、楽しそうなアーニャさんの隣でテレビの画面を眺めた。せっかく楽しそうにしてるし、コーヒーでもいれてやるか。

 

 ×××

 

 一時間後、アーニャさんは俺の肩の上で寝息を立てていた。

 うん、まぁ知ってたわ。そんな気はしてた。食べて遊んで寝るとか小学生のバイオリズムそのままだな。

 ま、そういう自体のためにちゃんと対策は考えてある。

 

「……アーニャさん、ちょっと失礼しますね」

「んみゅ……」

 

 可愛い寝息だな……と、思いながら背中に乗せた。

 ……っ、やばいな。思ったより胸あるわこの子。少し背中に柔らかい感触が……。

 って、バカ。変なこと考えるな。こんな純粋な子を汚れた目で見るとか心が汚れきったバカのやる事だ。

 予定通り、アーニャさんを背負って上の階に上がった。

 

「……唐突で申し訳ないけど……」

 

 インターホンを鳴らし、しばらく待機。だが、返事はない。あれ? おかしいな。誰もいないのか?

 もう一度鳴らすが、相変わらず返事はない。……え、嘘だよね。それは困るわ。え、そしたらこの子どうすりゃ良いの? 俺、アーニャさんの家知らないんだけど……。

 動揺しながら何度かボタンを押すが返事はない。

 

「……」

 

 ……あ、ダメだ。これ以上は近所迷惑だ。

 朝、やばいどうしよう……。つーか、なんで夜にいねえんだよ……。アイドルがどこで寝泊まりしてんだよ……。

 

「っ……」

 

 だ、ダメだ。早く戻らないと。とりあえず、部屋にアーニャさん運ばないと目立ち過ぎる。

 一度、部屋に引き返し、ソファーにアーニャさんを寝かせた。これからの打開策を考えるしかないのだが……ダメだ。どうにもならない。うちで泊めるしかないか……。

 しかし、そうなると俺は俺で覚悟しなければならないんだが……。や、覚悟なんてするまでもない。手を出すなよ、俺。

 

「……とりあえず、アーニャさん起きて。歯磨きしないと」

「んー……」

「んー、じゃないの。虫歯になるぞ」

 

 起き上がらない。もう相当眠いんだろう。……仕方ないな。新品の歯ブラシを持ってきて、濡らして歯磨き粉をつけた。

 

「アーニャさん、口開けてー」

「……」

 

 言うと、寝惚けてる所為か素直に口を開けるアーニャさん。その口の中を磨き始めた。

 ……はぁ、これどんなプレイだよ……。しかも、プレイなら俺がやってもらう側だろ普通……。

 というか、アイドルの女の子の口の中を覗き込むってすごいな……。綺麗な歯並びしてるとか、そんな感想は出ず、ただただ現状がすごいとしか思えねぇんだけど。

 

「……」

 

 こうして見ると、どんなに可愛い女の子でも、やっぱ同じ人間なんだなって思うわ。口の中は赤いし、歯磨きしなければ食べカスも残る。

 本当、アイドルと知り合うと知りたくない事知れるな……。

 

「アーニャさん、いーってして」

「ぃ〜……」

 

 口を閉じさせて、歯の表面を磨き始めた。芸能人の歯ってなんでこんなに白いんだろうな……。それに加えて、アーニャさんは髪も肌も白い。なんつーか、真っ白だよなこの人……。人間性が現れてるわ。

 歯の表面も磨き終えて、口をゆすぐ。こればっかりはアーニャさんに立ってもらわなければならない。

 

「アーニャさん、口ゆすぐよ」

「ん〜……」

「ほら、立って」

 

 それでも立ち上がろうとしない。この子、本当に何つーかもう……。

 仕方ないので、肩を貸して洗面所に連れて行き、水を口の中に含ませて無理矢理うがいさせた。

 これでようやく肩の荷が降りる……。流石にシャワーは無理だからな。

 今度はベッドの上に寝かせた。学生服のままで申し訳ないが、脱がせるわけにもいかない。上から毛布をかけてやると寝室を出た。

 さて、俺も寝るとするか。あ、その前にシャワー浴びよう。そう決めて、シャワーを浴び始めた。

 

「……ふぅ」

 

 ……なんか、疲れたな。明日学校休みで良かった。ったく、なんでこんなお母さんみたいなことしてんだ俺は……。

 

「はぁ……」

 

 アーニャさんといると疲れる……。でも、性格も外見も可愛いからっていう理由で一緒にいたいと思っちゃってるんだよなぁ……。なかなかに単純な男だよな、俺も。

 ……まぁ、あんな可愛い子と同じ部屋に泊まってるんだ、ポジティブに考えておこう。

 身体を洗い終えて洗面所を出て、俺はソファーの上に寝転がった。

 

 ×××

 

 翌朝、朝飯を作ってると、アーニャさんが寝室から顔を出した。

 

「おはよ……あれ? どした?」

 

 真っ赤になった頬を膨らませて俺を睨んでいる。なんだろ、なんか怒ってるのか?

 と、思ったのもつかの間。顔を赤くしたアーニャさんが震えた声で言った。

 

「……て、下さい」

「は?」

「……昨日、歯を磨いてくれた事……忘れて下さい……」

「……」

 

 涙目になってそう言うアーニャさんは、それはもう可愛らしかった。

 

 

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