「単刀直入に聞くけど、君は何故昨日あそこにいたんだ?」
「俺も家で寝ていたと思ったらあの場所にいました。原因はわかりません。不可抗力ですゆるして」
「…腑に落ちないがどうやら本当のことらしいね。そうだな、君自身について聞いたら何かわかるかな。ユジ君はどこの出身の人?」
「わかりません」
「手持ちのポケモンは?」
「
「トレーナー歴は?」
「俺の感覚では2日目ですね。……そんな目で見ないでくださいよ。大真面目に答えてこれなんだから!」
次の日。
寝坊したらどうしようと思っていたがそんな事はなく、人々が動き出す時間帯と時を同じくして目が覚めた。額の傷は熱を帯びているが腫れも薄く、ずきずきとした痛みももうない。想定よりもいい朝だった。
そのあとは朝ご飯をご馳走になった。しかも美味しい。味の濃い漬物が白米に合って箸の進むこと進むこと。おかわりしたかったが、そんなこと言える立場ではないので断念。また食べたい。後でレポートに書いておこう。
さて、そして今現在はマツバ
昨日はいろんな出来事に出会って混乱していたり、疲れていたり、眠かったりと、頭がうまく回っていなかったのかもしれない。
でなけりゃ怪我を手当てしてくれた恩人を心の中で呼び捨てにはしない。事情があって警戒されているといってもだ。普段の俺ならしないことだ。敬意を持ってマツバさんと呼ぶこととする。
先程から行われている質問、その内容は昨日何のために普通入れない場所に侵入していたか、それから俺自身の事に重点が置かれている。
本来俺自身の事ならトレーナーカードでも見ればわかる事なのだろう。しかしカードの人物と俺自身とは見た目は同じでも中身が違うのだ。迂闊なことを言えば余計に自分の立場を悪くするだけ。
そこで俺は正直に答えていくことにした。創作物の中の人々のように違和感を持たせないような
正直に答えていくだけとなった俺の精神は比較的リラックスしている。恐らく責任者として状況を把握しなければならないであろうマツバさんには悪いが、俺にもわからないことはわからないのだ。ごめんなさい。
質問に答えるだけの簡単な作業だった。しかし次の質問だけは俺にも新たな問題を残した。
「わかったわかった。…じゃあ君の年齢は?」
「ええっと…18です」
「え?」
「え?」
ええ? どう見ても俺は18歳だろ? なぜ疑問符がつく。どこにでもいそうな凡庸な顔かもしれないが、童顔に見えるとか老け顔だとか言われたことはないので、顔は年相応に見えるはずだ。更に相手も日本人(だと思う)なので、外国でいう、アジア系は子供に見える現象も無いと見ていい。
体も運動は積極的にしていないため薄く貧相な肉付きだとしても、ガリガリに痩せ細ってもないし太ってもいない。間違っても中学生には見えない。年上に見えるならば微妙なラインだが………。
どういうことだろう? 何に対してのえ? だってんだ。
「だって君、どう多く見繕っても10歳前後だろう」
「…はあっ!?」
昨日の混乱が蘇ってくる。急いで確認できる範囲で自分の体を見回す。足元、腕、胸、指先。言われるまで気づかなかった違和感が這い上がってくる。急いで朝も使ったはずの洗面所まで走り鏡を覗いた。ドタドタと煩いだろうが今の俺に気にする余裕はない。
鏡には確かに幼い顔立ちで、10歳になるかならないかほどの背丈の少年が写っていた。
昨日から続く未知への不安からか、それとも元からか。男にしては長めの黒髪から若白髪が確認できる。ざんばらに切られた前髪から覗く目には誰が見てもわかる隈ができていた。
先程まで思い描いていた自身とあまりにかけ離れていたことにショックを覚える。
「な……………ッ……!?」
驚いて目を開くと鏡の少年も目を見開く。間違いなく俺自身の身体だった。なんてこった。
俺はあと何回心臓に悪いサプライズを受けねばならないのだろうか。もう帰りたい。しかし帰りたくても実家への帰り道など無いことを思い出す。
この後俺はマツバさんが声をかけても反応を返さず、鏡の前で立ち尽くしていたらしい。
暫くしてから硬直した身体から解放される。俺はその場でしゃがみこんだ。
この体は元の俺ではない。ゴースを捕まえた時に他のボールを確認したがポケモンが入ったボールはなかった。同行者もいない旅。文字通り独り身だったこの体の元の人間は今どこに?
考えれば考えるほど思考の渦に飲み込まれていく。このままではいけない。自力で立ち上がれなくなる。焦燥が募っても負の思考は加速したまま止まらない。どうしようもなくなりかけて────────
───────────────べろん。
舐められた。誰に? ゴースにだ。
予想だにしなかった刺激を受けて意識が浮上する。ゆっくりと右を向いて見えるのは昨日より慌てた様子のゴースだった。慌てたと言うより狼狽えたという表現が正しい気がする。あっちへオロオロこっちへオロオロ。見てるこちらが目を回しそうなほど動き回っていた。
一貫しているのは、目線がずっとこちらにあっていること。時折慮るように頭を俺に押し付けたりもした。舌で舐めたのもその行動のうちのようだ。
有り体に言って、ゴースは俺を励ましていた。
ゴースの行動に理解が及ぶと、急に思考がクリアになっていく気がした。
今俺が悩んでいることはすぐに解決することか?
────否。
解決の糸口は1つでもあるか?
────否。探さなければならない。この広大な世界で。
昨夜に考えていたことを改めて認識できた。俺がやらねばならないこと、やりたいこと。
まず、この世界で生きる術を身につける。そして自分がここに来たルーツをさがす。
最後に1つ。
プレイヤーならやり込みの度合いなんて関係なく思うだろうこと。
「ここがポケモンの世界だと
なあ、ゴース!」
俺がポケモントレーナー
俺達は最高の笑顔で冒険の門出にたった。
「マツバさん、さっきは取り乱してすみません」
ひとまず最初にマツバさんに謝った。どう考えても迷惑かけたからね、こんなクソガキに構う羽目になってこの人も高々損な役回りだね。
「いや、構わないよ。どうやら君にとってとても大事なことだったんだろう?」
「…はい。そう言ってもらえると助かります」
なんだぐう聖か。
「そういえば君のことについてなんだけど、話を聞く限りは特殊な記憶喪失みたいだね」
「記憶喪失…俺自身あまり自覚がないけど確かにそうでしょうね」
多分今朝の質問で自分のこと…基本的なパーソナルデータすら答えられなかったことと、昨日の証言が曖昧だったからそう言った結論に辿り着いたのだろう。
俺にとっても都合がいい。実際なんでここにいるかとか全然わからないし、ここでの生活もわからない。強ち間違いでもないだろう。
「そこで、どうだろう。
「!?」
そりゃあ大助かりだ。だが…
「…何故そこまでやってくれるんですか? 本来なら俺はただの不審者でしょう」
「そうだな…まず、君は年齢的には駆け出しトレーナーだろう。スクールが近くにあればそっちに預けたかもしれない。幸いここはポケモンとトレーナーが切磋琢磨するジムだ。君にとって学べることは多いはずだ。これが1つ」
「1つってことはまだあるんですね」
「ああ。2つ目は僕のためさ」
うん? マツバさんのため? どういうことだ。不審者をなかったことにするつもりかな?
「話が長くなってしまうから手短に。
僕はホウオウというポケモンを追い求めている。そして君はホウオウが降り立つ塔の近くに居た。だからもう少し調べることにした」
……記憶がおぼろげだが、エンジュのジムリーダーがホウオウに固執していたようなセリフがあった気がする。選ばれたとか選ばれなかったとか。
「俺が手がかりになるかもしれないから?」
「そういうことになる」
マツバさんは首肯する。彼にとっては大事なことなのだろう。一応双方にメリットがある。昨日から貰ってばかりだったからこれ以上厄介になりたくない。決して手遅れではない。
でもそうか、俺とホウオウに関係性があるかはわからないが、何処かのポケモンが俺をここに連れてきた可能性もあるのか。神隠しみたいな感じで。
「後は君のゴースを見て、君自身が信用出来ると踏んだ」
「ゴースを?」
「君のゴースは昨日捕まえたと言ったね。その割には君にとても懐いているだろう」
「まあ、少なくとも険悪ではないですね」
マツバさんによると、昨日今日で出会ったポケモンとの間である程度の信用は結べるが、急に家族のようにはならない。当たり前のことだ。
それに対して、ゴースが故意のいたずらをするわけでもなくトレーナーを心配するそぶりを見せたことはたいへん珍しいケースらしい。
「君はいいポケモントレーナーになれるだろう。僕が保証しよう」
先程までのマツバさんが纏っていた真剣で何処か危うい雰囲気はいつのまにかなくなり、人を導くジムリーダーとしての言葉を満足そうに俺に伝える。真っ直ぐな眩しい意思を感じて思い耽る。彼が言うならきっと間違いない。
「…俺、ポケモントレーナーになりたいんです。マツバさんが保証してくれるなら、自信が持てます。
これから暫く、よろしくお願いします」
不安なんてほんの少しで、未来への期待感やワクワクで俺の心はいっぱいだった。
1話でも似たようなことは言ってますが、主人公はここでやりたいことをはっきり定めました。
やるべきことは未だ見えず。