嘘の仮面   作:妖魔夜行@

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 ここではお久しぶりですね。文字通り蛇足編です。


蛇足編
〇話


 春の優しい日差しが店内に包む中、ある男女が向かい合って座っていた。

 影山想と今井リサである。

 

「そう言えば、ずっと気になってた事があるんだよね」

「なになに?いきなりどうしたの想さん?」

 

 影山が隣でシェイクを飲んでいるリサに話しかける。リサは興味を示し飲んでいたシェイクをテーブルに置いて彼の方へ向き直った。

 

 何故影山とリサが一緒にいるかというと、今日は彼女に誘われて街へ繰り出していたのだ。世間一般で言うデートというものである。

 彼的にはまだ高校生の少女とデートに行く、というのは犯罪臭が凄いから断ろうと思ったのだがその時リサの隣にいた友希那の圧力が凄かったので泣く泣く了承した。

 

「いや、ね。僕の意識が覚めた日があるでしょ?こころの病院でさ。その時にどうやって僕を起こさせたのか分からなくてさ」

「あー…」

 

 その時のことを思い出したのかリサは苦い表情をして天井を見上げてた。

 

 あの時、彼は扉を選ぶはずだった。仮面と一緒に生きる道を選ぼうとしたのだ。肝心の仮面の自分には断られてしまったが…。

 

 そして、影山が仮面の自分と話していると突然、空間が壊れていった。すると仮面の自分は急に焦り始めて死の方の扉に入れと言い、影山は背中を押された。

 

 つまり影山想はあの時、死んだのだ。いや死ぬはずだったのだ。

 

 だが、何故か生き返った。

 

 あの空間にいる時はまだ生きていたらしい、なので空間が壊れたのは影山の身体に何かしらの危険が迫っていたというサインだったのかもしれないと彼は推測していた。

 

 しかし、冷静に思考を働かせていた彼はリサが発した言葉を聞いてあっさりと停止してしまった。

 

「えっとね…その、想さんが寝ていた時にね。こころの黒服さんの1人が想さんの心臓を止めたの」

「………えっ」

 

  衝撃の事実を聞いて、影山は固まった。そして彼女が頭でもぶつけてしまったのではないかと心配した。

 

「大丈夫リサ?変なものでも食べたんじゃないのか?それとも豆腐の角にでもぶつかった?」

「いや食べてないしぶつけてもないから……」

 

 割とガチ目に心配されたことに気づいたリサは苦笑を浮かべて話を続けた。

 

「えっと…怒らないで聞いてね?あの時の想さんはとっても不安定な状態だったらしくて、あのままじゃ本当に死んじゃう所だったんだって」

「…うん」

 

 だろうな、と影山は納得する。それは分かっているのだ。気になるのはそのあとの話――

 

「それで、一度心臓を止めたあとに電気ショックで意識を起こさせるっていう方法が一番可能性があるって黒服の人が言ってね?」

「うん?」

 

 話の雲行きが怪しくなってきたのを感じ取り、彼は首を傾げる。

 

「それじゃあ、なに?僕の心臓って一度止まったってこと?」

「うん…遅かれ早かれあのままじゃ想さんは死んじゃうから、少しでも可能性が高い方の蘇生を試みようって、黒服さんが言ったんだ」

「それで僕は一回死んだんだ…なるほどね。ようやく納得いった」

 

 あの世界がいきなり崩れた理由、何故死側の扉に行かされたのか。

 世界が崩れたのは心臓が止まったことで影山の身体が死へ近づいてしまったから、死の方の扉へ向かわされたのは完全に死ななければ電気ショックによる治療がトドメを刺すことになってしまうから。

 

「敵わないなぁ…本当に僕だったのかよ」

 

 元は自分のはずなのに(自分)より頭が回るなんて、自分より(自分)のことを理解しているなんて、今はもうなくなった嘗ての自分に尊敬する影山は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「まったく…なんで自分に嫉妬しなきゃいけないんだよ」

「?なんか言った想さん?」

「……いーや、何も。さて、リサ。そろそろ出ようか」

「え!待って待って!アタシまだ飲み終わってないんだけど!」

 

 影山は既にコーヒーを飲み終わっており、あとはリサがシェイクを飲み終わるのを待つだけだ。

 リサは慌ててストローに口をつけ、シェイクを飲み始める。

 

「あはは、そんなに慌てなくていーよ」

「ぷはぁ。どうせ残り少なかったから別にいいよ!出よっ、想さん♪」

「はいはい。そんな急かさないでよ。待ってたの僕なんだからさ」

 

 影山が席を立つとリサに手を引かれてカウンターに連れていかれる。困った顔で笑う彼と愛嬌したたる彼女の笑顔は、まるで付き合いたての恋人同士のようだった。

 

 代金を支払ってカフェを出た2人は街をぶらぶら歩きながらこれからどうするかを話し合った。

 

「想さん、これからどうする?アタシは午前中に見たいところ全部回れたからさ、想さんが行きたいところに行こっ♪」

「行きたいところねぇ。うーん、そうだなぁ………あ、そうだ」

 

リサに聞かれ顎に手を添えて思考する影山。少し考えると、先程のカフェでの会話を思い出して閃いた。

 

「リサ」

「なになに?」

 

 ウキウキ、ルンルンといった様子のリサ。どうやら一日中彼と一緒にデート出来るのが嬉しいようだ。尻尾が振られている幻覚まで見える。

 

「こころの家、行こう」

「…………ん?」

 

 笑みがビシッと固まり、尻尾は直立不動となった。

 

 

「女の子と一緒にデートしてる時に他の女の子の名前出すのはマナー違反だよ〜☆」

「ゴメン、謝るからその真顔で明るい声だして喋るのやめて。怖いよ」

 

 器用なことするなぁ全く。「どうどう」とリサに謝りながら宥める。

 

 僕がこころの家に行きたいと言ったのは当時の状況をもっと詳しく聞くためと、お礼を言うためだ。こころの家がわざわざ病院を建てて僕を助けてくれたことについてはお礼を言ったけど、リサから聞いた処置に対しては言ってないからね。

 

 携帯を取り出して電話帳の履歴から選び電話をかける。3回コールが鳴ると溌剌とした声が電話口から聞こえてきた。

 

『あら想。貴方からかけてくるなんて珍しいわね!一体どうしたの?』

「やあこころ。ちょっとこころの家に行きたくてさ、今から行ってもいいかな?」

『…本当に珍しいわね、明日は雪でも降るんじゃないかしら?』

 

 電話の向こうで彼女が首を傾げている姿が安易に想像出来る。それがどこかおかしくて、くすりと笑いが零れてしまった。

 

『あら、なにか面白いことでもあったの?』

「いや、別に、ないよ。それじゃ今から行くね」

『ええ。あ、もし良かったら迎えを寄越すけど?』

「うーん…じゃあお願いしようかな。場所は―――」

 

 それからこころに僕達が今いる場所を伝え、数分間待つことになった。

 その間リサの機嫌を取っていると、横から聞き覚えのある声がかけられる。そちらを向けば、日菜が笑みを浮かべてこちらに手を振っている姿が見えた。格好から察するに、レッスン帰りなのだろう。

 

「リサちーに想さん、やっほー!」

「やっほ〜日菜。日菜はレッスン帰り?」

「そうだよー。2人はこんな所でどうしたの?誰か待ってるの?」

「ああ。弦巻家の車をね、っと噂をすれば来たみたいだね」

 

 黒塗りの高そうな車が僕達の前に止められる。するとドアがひとりでに開いた。乗れということなのだろう。

 乗り込んでみると運転席に弦巻家の黒服さんがいて、後部座席にはこころが座っていた。

 

「待たせちゃったかしら?」

「そんなことないよ。むしろ早すぎるくらいだ」

「そう?それなら良かったわ。あら!リサと日菜も一緒だったのね!」

 

 リサは兎も角、日菜はいつの間に乗っていたのか。ちゃっかりとリサの隣を陣取って座席に着いていた。

 

「やっほー♪こころ」

「あたしはさっき2人に会ったんだけどねー。デート中だったのかなー?」

 

 ニヤニヤと僕の方を向きながら聞いてくる日菜。揶揄うつもりなのだろうが、今更そんなことで慌てるような歳でもないし、女性になれてない訳でもない。

 

「そうだね。午前中は2人でショッピングしてたよ。ね、リサ?」

「うん。色々見れて楽しかったよー♪」

「む〜、何その反応。つまんないのー」

 

 やっぱり揶揄うつもりだったのか。後で覚えておきなよ日菜。お姉さんに報告しとくからね。

 思えばあの日から日菜には色々と遊ばれてきた。こころで少しばかり仕返しをさせてもらおうか…。

 

「そう言えばリサ、次のRoseliaのバンド練習っていつかな?」

「え?うーんと、確か明日のお昼からだったはずだけど。それがどうしたの?」

「いや、さ。ちょっと見学させて貰いたくてさ。最近ギターに興味がでてきたから学びたいんだよね」

 

 ピクッ、と日菜の耳が動いた。釣れたかな?

 このまま話を続けようかと思ったがこころが会話に入ってきたので中断する。

 

「想ってギター弾けるのね!初耳だわ!」

「いやまだ齧った程度だから」

「じゃああたしが教えて上げようか?」

 

 持参していたのか、ペットボトル飲料に口をつけていた日菜が反応した。

 

 指導に託けて色々とからかってくることは目に見えている。だが僕は敢えてそこを指摘せずに別の言い訳を使う。

 

「いやぁ、お姉さんに教えてもらうから別にいいよ。ちょうど聞いて欲しいこともあったしね」

「おねーちゃんに聞いて欲しいこと?」

「ああ。最近僕が困っていること…とかね」

 

 あ、流石に気づいたっぽい。日菜はギギギと油が切れたロボットみたいに首を此方に向ける。その顔は冷や汗がダラダラと流れていて、普段の彼女からはとても想像がつかない表情になっていた。

 

 僕らが打ち解けた日から僕と氷川姉妹との距離は縮まった。少し前まで毛嫌いされていたのに今では片や苦労仲間、片や悪友、と言った関係になっている。どちらが紗夜で、どちらが日菜なのかは、言わなくても分かるだろう。

 

「す、少し聞きたいんだけど……何について話すの?」

「そうだな…誰かさんが紗夜の買い置きしてたポテトを盗み食いしたこととかかな?」

 

 おそらく今僕は意地の悪い笑みを浮かべているのだろう。日菜の口角は引きつっており、どんどん涙目になってきている。どうやら天下の天才少女も姉のお説教には敵わないらしい。

 

「さて日菜?なにか僕に言うことがあるんじゃないかな?」

「う、うぅ〜…ゴメンなさい……」

 

 しょんぼりと肩を落として日菜は謝ってきた。それを見て和やかな笑いが零れる。

 

 こころの家は、もう少しで着きそうだ。

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