嘘の仮面   作:妖魔夜行@

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ある方々のツイキャスにてこの小説を話題に出してもらいました。ええ、めちゃくちゃ嬉しかったです。お世辞でもめちゃくちゃ嬉しかったです。少し褒められただけで調子に乗ります。ええ、書き上げましたとも。
これで分かったでしょう?私はとても単純なのです。

ちなみにこの話は前回の話の続きではありません。ご了承ください、ではどうぞ。


✕話

 春が過ぎ夏に入ろうとする半ば、いわゆる梅雨の時期というやつは厄介であって――

 湿気で髪はぺちゃんこになるわ、洗濯物は乾かないわ、バイト終わりに寄ったコンビニで傘を取られて帰れないわ。

 

『いや最後のは梅雨関係ないだろ』

 

 頭の中で声が響く、自分の声と瓜二つの男の声が。その声にいつもの調子で返す。

 

 関係あるさ、だって雨が多いこの時期でなければ傘を必要とする人も少ない。よって梅雨が悪い。うん、梅雨のせいだよこれは。

 

|俺(お前)《お前》の傘をパクった奴が悪いに決まってんだろダアホ』

 

 もう一人の自分(・・・・・・・)は随分辛辣だ。苦笑をうかべる。

 

 そう、先程から脳内に直接語りかけているこいつはもう1人の僕。仮面の人格と言えばいいのだろうか?別に闇のパズルなんか完成させてないけど、いつの間にやら生まれてしまったのだ。

 

 だが僕が仮面の人格(こいつ)のことを認識したのもついこの間の話で、しかもその日のうちにこいつは消えそうになった。

 話すと長くなるので省略させてもらうが……色々あって1人で消えようとしたこいつを無理やり僕の心の中に残すことに成功したのだ。それからは特に喧嘩することも無く、大人しく過ごしている。

 

 それにしても、自分の声で罵倒されるというのはなんとも変な感じだ。多分慣れることは無いだろう。

 

『誰かさんが|仮面(おれ)《おれ》のことを連れてきやがったからな。たくっ……あの時仮面(おれ)は消えるつもりだったのによ、仮面(おれ)の決意返せコノヤロウ』

 

 ごめん、ごめんってば。でも君がいなくなったら僕は悲しくなるしさ。それに君と一緒に過ごしている今、僕は楽しいよ?

 

『……ああそうかい』

 

 返事をするまでの数秒のラグ、これは彼が僕のあまりのアホさに呆れている時か、照れている時にしか起こらない。よってそれから導き出される答えはただ一つ。

 

 おっ、その反応……もしかして照れてる?照れてるの?

 

『あああ!!うるっせぇ!ニヤついてんじゃねーよ!気持ち悪い!!』

 

 怒声が頭の中で響く。思っていた反応と違い、思わず聞き返してしまう。

 

 きもっ、気持ち悪い!?ちょっと待て!気持ち悪いは酷くないか!?

 

『夜のコンビニで雨の中、男が1人で雨を見ながらニヤついてるんだぞ?気持ち悪いだろ』

 

 ぐうの音も出ない正論だった。というかニヤついていたのか、全然気づかなかった。

 モニュモニュと頬っぺを円状に撫でくり回す。

 

「……何してんの?」

「ん?ゲッ…美竹」

 

 不機嫌そうなトーンで話しかけてきたのは美竹蘭。お菓子か飲み物か買ったのか手にはコンビニのレジ袋が握られており、もう片方の手にはビニール傘があった。

 思わず出てしまった言葉を聞いた美竹は僕に睨みを聞かせてきた。

 

『防御力が下がりそうだな』

 

 うるさいよ。

 

 そんなアホな会話をしていると美竹の眉間のシワが深くなる。

 

「ゲッ、ってなに。私がコンビニで買い物してたらダメなの?」

「いやいや、ほら、ね?美竹にはまだ苦手意識があるからさ」

「…ド直球だね」

「…正直悪かったって思ってる」

『バカだな(お前)

 

 うるさいよ。というか最近なんか辛辣じゃない?

 

『気のせいだろ』

 

 嘘だ、絶対うそだ。

 

 美竹はため息をついて入口付近から1歩横に移動して近づいてきた。

 

「ねえ、何で帰らないの?」

「傘盗られちゃってさ」

「ふーん。なら買いなよ、ここコンビニだよ?」

「なんか損して負けた気分になるから嫌なんだよね」

 

 面倒くさっ、と小声で言う美竹。聞こえてるからな。

 

『おい、ちょっと代われ』

 

 急になんだ、どうかしたの?

 

『いいから、代われ』

 

 あお前、そんな無理やり――

 

 

「ふう」

 

 久しぶりの表だな。

 

「よお、久しぶりだな。蘭」

「あんた……ああ、裏の方の…」

 

 仮面(おれ)だと認識すると蘭の表情が柔和になる。なんというか、この子も仮面(おれ)と一緒でわかりやすい奴だ。まあ仮面(おれ)が青葉をフッたことを引きずってんだろうが。

 

「珍しいね、あんたが表に出てくるの」

「まあな。仮面(おれ)が出ようとすると(こいつ)が煩いからな。けど今回は無理やり出てきた、お前に頼み事があるんだ」

「頼み事?あんたが……?」

 

 仮面(おれ)が言った言葉を反芻して怪訝そうな表情をする。そりゃそうか。

 

「なぁに、難しい事じゃねえよ。ただ仮面(おれ)を傘に入れて家まで連れてってくれればいいんだ」

「……あたしの家に?」

「アホ、(こいつ)の家だ。(こいつ)の」

 

 蘭は体を抱きしめて1歩仮面(おれ)から離れる。半目で睨んでやるとクスッと笑って「冗談だよ」と言ってきた。こういうところを見ると蘭も穏やかになってきたよなぁ、としみじみ思う。親か仮面(おれ)は。

 仮面(おれ)の中からずぅっと見てきたからか、たまに保護者面する時があるんだよな。

 

「分かった。ほら、入りなよ」

 

 蘭が傘を開いてこちらを招くので、立ち上がって傘の中に入る。隣に立つと蘭の方からふわりと女子特有の甘い香りが鼻に抜ける。

 

「ほら、貸せよ」

「え?」

「傘。仮面(おれ)が持った方がいいだろ」

「あ、ありがと……」

 

 仮面(おれ)の言葉を聞いておずおずと傘の持ち手を渡してくる。蘭の手が離れきってないのに持ち手を握るのも変なので、柄の部分を掴んでから持ち手に持ち変える。

 

 こいつは普段表の(こいつ)と話す時はツンツンしてんのに仮面(おれ)と話す時は妙にしおらしくなる。理由は分かってるが。

 

「おい蘭」

「なに?」

仮面(おれ)に惚れたなら諦めろ」

 

 アスファルトを打つ雨の音が大きくなる。どうやら本格的に降ってきたみたいだ。

 ふと蘭が足を止める。今、傘を刺しているのは仮面(おれ)であって、蘭は傘から置き去りにされている状態だ。雨足は強く、今も蘭の身体を濡らしている。このままでは風邪を引いてしまう。

 

「おい」

 

 1歩、近づけばすぐ傘の範囲に入る。

 

「――んでそんな――の……」

「あ?」

 

 俯いているので表情は分からない。それにボソボソと話すから雨音にかき消されて所々聞こえない。

 

「おい、なんだ―――」

「なんでそんなこと言うの」

 

 震えた声で、蘭は確かにそう言った。顔は俯いたままだが、微かに嗚咽する音も聞こえる。

 悪いが仮面(おれ)は咄嗟にハンカチを渡せるほど優しくなければ慰めの言葉を話すほど器用でもない。

 

 ただひたすらド直球で言うだけだ。

 

「いいか?仮面(おれ)はあくまで(こいつ)の裏人格だ。要はおまけなんだ」

 

 あの時消えなかっただけで、いつ消えるか分からない。そんな不安定な存在が仮面(おれ)だ。これは表にも話していない。

 

 黙り続ける蘭に、容赦なく言葉を吐き続ける。

 

「こうして仮面(おれ)がわざわざ出てきたのも、分かるな?これは忠告でも警告でもない。そういう運命なんだよ、受け入れろ(・・・・・)

「嫌」

「嫌…ってお前なあ」

「いや、やだ。ぜったいやだ…!」

 

 顔を上げて、キッと涙を浮かべた目で睨みつけてくる。普段の強気な姿からは想像もつかない、まるで駄々っ子だ。

 

「あたしが、誰を好きになろうが、あたしの勝手じゃん!」

「相手を選べっつってんだよ。仮面(おれ)(こいつ)の仮面でしかない。お前は青葉を悲しませたいのか?裏切るのか?」

「っ!モカは、関係ないじゃん……!」

「そんな震え声で言われても説得力ないんだよ、ばーか」

 

 このままここで話し続けていても埒が明かない。それどころか蘭と(こいつ)の身体が冷えてしまう。

 

「おい、蘭。帰るぞ」

「やだ」

「あのなぁ…いい加減分かれ。聞き分けの聞かない子供(ガキ)じゃないだろ?」

 

 呆れていると蘭が身体を押し付けてくる。自分の顔を(こいつ)の胸元に埋めている。

 

「というか、お前買い物帰りだったんじゃないのか?その袋を見るに青葉達とお泊まり会とやらでもしてたんだろ?」

「…………」

「ほら、雨も強くなってきたし風も出てきた。(こいつ)の家まで寄らなくていいけらお前の家に帰ろうぜ、な?」

 

 仮面(おれ)の言葉で思い出したのかグスリと鼻を鳴らして離れる。しかし代わりに袖を掴んで離さない。このまま仮面(おれ)も連れていくつもりなのだろうか。チラっと蘭の顔を除く。

 

 あーあー泣き腫らして目元も鼻も赤くなってら。これは家に帰った時に問い詰められるやつだな。

 

 ため息をついて数秒考える。しっかり考えてから蘭の肩に手を回して抱き寄せた。

 

「…………え?」

「今日だけの特別だ。いいか、変な期待は持つなよ」

「…なら優しくしないでよ」

「そんな顔で言われても説得力ねえんだよ」

 

 仮面(おれ)の言葉に顔をムスッとさせるが、直ぐに穏やかになる。なんだかんだ仮面(おれ)も表に毒されているみたいだ。

 

 道中歩きながらこれでもかと言う程、念押ししておいたが恐らく蘭は聞いていないだろう。いや、正確には聞き流していただろう。

 

 蘭を家まで送り届けたので傘を返そうとしたのだが、風邪を引かれても困るので借りていって良いとのこと。その代わり条件としてちゃんと仮面(おれ)が返しに行かなければならないらしい。

 

『終わった?』

 

 ん?ああ、いたのか(お前)

 

『いたよ!?この体僕の体だからね!?』

 

 本当にからかいがいがあるやつだ。仮面(おれ)のベースとは思えないくらいに。

 思わず笑いが零れてしまいそれを聞いた(お前)がまた騒ぐ。ああ、本当に―――

 

 なあ、オレ(・・)

 

『なにさ』

 

 表のムスッと返事をする顔が浮かぶ。少しからかいすぎたか、苦笑しながら謝り、言葉を続ける。

 

 ―――オレ(・・)は今が楽しいか?

 

『?変な事聞くね。当たり前だろう』

 

 オレ(・・)は一秒も間を開けずに答えた。考える時間もなく。

 ホント、お前って奴は―――

 

「バカだな」

『いきなり何を聞いてきたかと思ったらバカと罵る……おかしいな、キミってそんなキャラだったっけ?』

 

 くつくつと笑いがこぼれる。すると刺していた傘を透過して光に照らされた。

 

「おっ」

 

 上を見上げるといつの間にやら雨は止んでおり、雲が晴れ、月が出ていた。

 

「満月か」

『綺麗だね』

 

 ああ、とっても。

 

「綺麗だ」

 

 

「さてら〜ん」

 

 あの人に送って貰い、家に戻った私は今、物凄く追い詰められていた。

 

「なーんでこんなに遅くなったのかー」

「キリキリ吐いてもらうよー!」

 

 モカとひまりがジリジリと迫ってくる。モカに関しては手をワキワキとさせている。待って、何するつもりなの?

 

「べ、別に雨が凄かったから、ちょっと遅れただけで」

「そう言えばさっき風も吹いてたもんな」

「うん。蘭ちゃんのお部屋の窓が揺れてひまりちゃんがビクッ!ってなったよね」

「ちょ、つぐ〜!それは言わない約束でしょー!」

 

 いい感じに巴とつぐみが援護してくれている。ひまりも今のつぐの言葉で意識が逸れてる、これなら……!

 

「逃がさないよ〜?」

「ひゃっ」

 

 後ろから声が聞こえ、同時にがっしりと私の肩を掴まれる。油の切れたブリキのようにゆっくりと振り向くとそこには、笑顔なのに笑っていないモカがいた。

 

「なーんか蘭の体の至る所から影山さんが付けている香水の匂いがするんだよね〜」

「き、き、ききのせいじゃない?」

「ら〜ん」

 

「なんで嘘つくの?」

 

 この時のモカの顔を私は一生忘れないだろう。

 

 数日後にこの出来事をあの人に話して慰めてもらったのは割愛。




これはもしあの時仮面の手を取っていたらって話です。蛇足編は後日談やifの話を書いてます。ちなみに本編で蘭ちゃんが仮面の影山くんを好きになっていた描写は『禁則事項』です。
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