嘘の仮面   作:妖魔夜行@

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どうも、イベントに集中しすぎて執筆が進まなかった妖魔夜行です。私は無事モカちゃんとひまりちゃんと巴とつぐみを迎えることが出来ました。皆さんはどうですか?
いやーそれにしても1週間以上あいだを開けちゃってすみません。その分文字数多いので許してください。

「遅くなったの私の責任だ……だが私は謝らない」
「これも全部乾巧って奴の仕業なんだ!」

あ、6話では今回限りのオリキャラが何名か出ます。そして最後が第三者視点だったかな?そんな感じで書いてます。

ー追記ー
そう言えば日間ランキングに何度か載らせて貰いました!ありがとうございます!載ってるだけでも驚くのに10位とか7位とかの時はもう画面に向かってツッコミを入れてました。そして家族に変な目で見られました。

ではどうぞ。


6話

僕は、一般的に『そこそこ』田舎と呼ばれる地域で産まれた。

 

僕が産まれた地域は狭いので、必然的に幼馴染や友達との関係が深くなる。

 

保育園から小学校、中学校、高校と全部一緒だった奴もいた。

 

いつからだったかな、他人の嘘が分かるようになったのは……。

 

 

 

 

「なあ想ー今日俺ん家でゲームしようぜ!」

 

「うん!いいよー!」

 

小学生の頃、あの頃はまだ素直に話せていた。

近所に住む同い歳の日向(ひなた)と一緒によく遊んでいた。

 

「あれ?あいつ何してんだ?」

 

日向がいきなりそんなことを言うので僕が視線を辿って見てみると、そこには体がデカい男子とその取り巻きにカチューシャを取られた幼馴染の女の子がいた。

 

「また剛士(つよし)だ!毎日毎日、どんだけ静奈(しずな)のこと嫌いなんだよ。おい想!先生に言ってこよーぜ!」

 

「うーん?」

 

その時の僕は日向の言ってることに肯定出来なかった。何故なら僕の目には剛士が幼馴染に敵意や悪意を持っていじめてるように見えなかったからだ。

 

「どうしたんだよ想?お、おい!何でそっち行くんだよ?」

 

「ねえ剛士くん」

 

「ああ?なんだよ想。俺たちは今遊んでんだから邪魔すんなよ」

 

「……?何で?変な事言うなー剛士くんったら。静奈の事が好きだからいじめてるんでしょ?」

 

「なっ!?そっ、そんな訳ねーだろ!!」

 

「あーやっぱりそうだったんだ。剛士、静奈のこと好きだからいじめてたんだー!」

 

取り巻きの1人にもそう言われ、剛士は顔が真っ赤になる。

 

「ちっ、ちっげーし!!想も嘘つくなよ!」

 

そう反論して来た剛士に僕は首を傾げた。

 

「?嘘ついてるのは剛士くんの方じゃん」

 

ハッキリと、しかし力強く、僕はそう言った。

それを見て信憑性が増したのか、取り巻き達も、日向も静奈も、納得の表情を浮かべている。

剛士はそれを見て怒りを顔に出し、拳を振り上げる。

 

「うるせー!!」

 

ガッ、と殴られた時に鳴った鈍い音が響く。目がチカチカして、恐らく殴られた箇所であろう額は、ズキズキと傷んだ。

 

「そ、想!?大丈夫か!?おい剛士!!」

 

「ちょっと剛士くん!いくらなんでも殴るなんて酷いよ!」

 

一拍遅れて日向と静奈が駆け寄ってくる。痛む額を我慢して顔を上げて剛士を見てみると、2人に責められて悔しそうに顔を歪ませていた。

 

それから騒ぎに気付いた先生が駆けつけて剛士を叱り、僕に謝らせてその場は終わりとなったが、当時の僕は何故殴られたのか理解できなかった。嘘をついてるから、間違っているから正しい事を教えただけなのに、何で自分は殴られたのかと。

 

その頃からだろう、他人の嘘に執着するようになったのは。

 

 

中学校に上がった頃は、意味の無い嘘をつく相手にイラつきを覚えるようになっていた。

 

「んだと!?テメェもういっぺん言ってみろ!!」

 

「だから嘘つくなっつってんだよ。お前が静奈に告白してフラれたのは僕のせいじゃなくて、ただ単にお前が恋愛対象として見られてなかったからなんだよ。そんな事、お前自身も分かってんのに何で僕が静奈を困らしてるから付き合えないとか嘘つくんだよ」

 

「ぐぅっ……」

 

中学校時代、学年一のイケメンの木杉(きすぎ)に静奈が告白された。だが静奈はその告白を断ったらしい。「自分なんかより素晴らしい人が貴方にはいる」と、言って。

すると木杉は自分がフラれたと言う事実がプライドを刺激したのか、幼馴染で静奈に1番近い立ち位置にいる僕を貶めようとしてきた。そうする事で自分がフラれたと言う事実を僕のせいでフラれたと言う虚実にすり替えようとしたのだ。

 

「都合のいい解釈とか言う奴じゃ無いぞそれ。その嘘はお前が『自分がフラれたと言う事実』を隠したいから付いた嘘なんだよ。偶発的に、じゃなく意図的に、だ。何でそんなつまんない嘘なんかつくんだよ、静奈にフラれたくらいで人を巻き込むような―」

 

嘘をつくなよ、と続けるつもりだったが強引に中断されてしまう。

 

何故なら先程まで話をしていた相手が僕の顔に向かって拳を奮ってきたからだ。

 

頬を殴りつけられ、思いっきり吹き飛ばされる。

ロッカーにぶつかり、変な声が出る。

 

「いぎっ!?」

 

「さっきからずっと馬鹿にしてきやがって…!!ざけんなよ!!くそっ!クソがっ!!」

 

「がっ!うぐっ!」

 

顔を踏みつけられ、腹を蹴られる。僕は体を丸めて腕で頭と腹を隠して庇うような姿勢になる。しかし、馬乗りになられ顔を交互に殴られ始めた。

 

「キャーーー!!」

 

誰かわからないが女子生徒が悲鳴を上げる。視界が赤く染っているということは血でも出たのだろう。目を床に向けてみると赤い点々がいくつか散らばっていた。

 

それから男子達が怒り狂っている木杉を数人がかりで床に押さえつけ、僕は保健室に連れていかれた。数週間は顔にガーゼや眼帯をして登校するハメになった。

 

その頃からだろう。僕が他人から敬遠され始めて来たのは。

 

 

高校に上がると、もう友達と呼べる者は誰一人いなかった。

 

親友だった日向は部活でやっていたサッカーで全国大会へ出場するという活躍をした。そのおかげで注目を浴びて県外の強豪校へスポーツ推薦された。

東京の全国大会常連の高校へ進学して行った。

 

幼馴染の静奈は僕といる事に苦痛を感じたのか、嫌気が差したのか……学生寮で暮らす女子校…所謂お嬢様学校へ進学した。僕の家からも、僕が通っている高校からもかなり離れているので会うことは滅多に無くなった。

 

幼馴染達と言う味方がいなくなったせいか高校では小学校、中学校の頃僕と同級生だった人達に僕の噂を脚色され学校中にバラまかれ、僕は陰口を叩かれる日々を送った。

嘘を指摘すると殴られたり、蹴られたりするのが当たり前だった。

 

それから僕はどうしたら虐められなくなるか考えた。

 

 

最初はクラスの人気者の観察から始めた。

 

どう挨拶すれば皆が返してくれるのか、

 

どう話せば皆が笑顔になってくれるのか、

 

どう動けば皆が着いてきてくれるのか、

 

様々な事を観察した。

口調、仕草、癖、得意なこと、苦手なこと、友達に話しかける時、食事の仕方、カバンのかけ方、先生との距離感、色々な事を観察した。

 

そうして出来上がったのが僕の初めての『嘘の仮面』だ。

 

僕はターニングポイントである2年のクラス替えの時に仮面を被った。

 

僕の高校は珍しく、1年の頃同じクラスだった人とは次の年、同じクラスにならないと言う校則がある。

僕はここに目をつけた。たとえ違うクラスだったとしても僕の噂は聞いている筈だし、当然僕を見たことのある人もいる。そして僕はその噂は間違いだと言わんばかりの演技をする。

 

そしてその演技は見事クラスメイト全員を騙した。これが1年間観察に費やした結果だ。

 

 

 

それから僕の仮面を被り続けた。毎日、毎日、毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。

 

僕は皆を騙して、自分に嘘をつき続けた。そしてその仮面は高校を卒業するまで誰にも気付かれることは無かった。

 

 

 

 

高校卒業後、僕は上京して東京の大学へと入学した。理由は簡単、地元から離れたかったからだ。あそこには僕のことを知っている人しかいない。

仮面のおかげで学校内の連中の心象は悪くなかったが、噂のせいでそれ以外の人達からは少なからず疎まれている。

 

だから僕は両親を説得して東京まで来た。人間関係をリセットして、ゼロから始めたかったからだ。

 

外国語学部に入ったのは気まぐれだった。色んな言語を話せれば色んな国へ行ける。そうすれば自分が仮面を被らなくても済む国を探せるんじゃないか、そんな感じだった。

 

だが何事にも金は必要だった。両親からの仕送りだけでは家賃や学費を払うだけで精一杯だった。その為、必然的にバイトをしなければならない。

僕はなるべく大学かアパートの近くから通えるバイトが無いか探した。

が、条件に合うバイトは粗方埋まっていて僕はカフェで頭を抱えていた。

 

「ああ…バイトが見つからない……ここのカフェもダメだったし……どうしよっかな…」

 

そんなことを呟いてダラダラとコーヒーを啜っていると目の前の席に誰かが座った。

何でここに座るんだよ、と顔を上げると満面の笑みを浮かべた女性が座っていた。

 

「ねえ君、うちでバイトしてみない?」

 

これが僕とまりなさんの出会いだった。

 

 

「突然声かけちゃってゴメンね〜、お昼ご飯食べようとしたら君の声が聞こえちゃって…あ、私は月島まりな。宜しくね!」

 

「はあ…えっと俺は影山想って言います。宜しくお願いします……月島さん」

 

この頃の僕は慣れない都会での生活や見つからないバイトへのストレスなどで仮面を上手く被れていなかったんだと思う。

 

「…うん、宜しく。想くん」

 

「は……っ!?」

 

突然名前で呼ばれた事に動揺してしまった。

普段は苗字で呼ばれていたし、何なら虐められていた時は「おい」や「お前」等と呼ばれていたから急な名前呼びで驚いたのだ。

 

「…どうしたのかな?そんな顔しちゃって……名前で呼ばれるのは久しぶりだったりしたかな?」

 

こちらを探る様な微笑みを浮かべて話しかけてくる月島さんに、僕はほんの少しだけ恐怖を感じた。

 

「……………どういう意味ですか?」

 

思えば、この時にはもう仮面が外れていたんだと思う。

 

「いや〜、ね。私は名前教えたのに苗字で読んでくるからさ、最初は私が馴れ馴れしすぎたのかなーって思ったんだけど…違ったみたいだね。想くんさ、自分で気付いていたかは分からないけど、私の名前を言った時、声…震えてたよ」

 

「…………」

 

何でそんな分かるんだよ。声が震えてたってだけで…何者だよ、この人。

 

「ねえ、お姉さんに話してみない?少しは楽になるかもしれないよ?」

 

微笑みを浮かべたまま話す月島さんの無責任な言葉に、仮面が外れた僕はイラつきと怒りをぶちまけた。

 

「………ふっ、はははは!!楽になる?バカ言うなよ…何も知らない他人が!!軽々しく、気休めにもならない言葉を吐くな!!虫酸が走る!!」

 

そう、誰も分からない。他人の心なんか、知りたいと思う奴は居ても、知ろうと行動する奴なんかいない。所詮、そんなものなんだ。人なんか。

 

 

そう思っていた。

 

 

「うん、やっと本音で話してくれたね」

 

「…………は?」

 

「君みたいな子はこうゆう事を言うと本音を話してくれるからね。でもちょっと言い方が酷かったね、ゴメンなさい」

 

呆気に取られている僕を置いて、月島さんは頭を下げる。

それを見てやっと僕は理解した。

 

月島さんが僕をわざと怒らせたという事に。そして、僕の事を知ろうとしてくれた事に。

 

恐らく月島さんは僕のような人を何人も見てきたのだろう。だからこんな簡単に僕の感情を引き出せたのだと思う。

そう考えると怒りはスーッと消えていった。

 

「…さて、じゃ、お話しようか?」

 

顔を上げた月島さんの表情は、にこやかな笑顔だった。

 

 

第一印象は「荒んだ目をした子」だった。

 

私はオーナーから任せられたCiRCLEの経営に悩んでいた。

まずスタッフが圧倒的に足りない。ライブハウスを立ち上げたばかりだから仕方の無いことなんだけど…いくら何でも私一人と言うのが辛すぎる。

 

取り敢えず気分転換にと、私はCiRCLEと隣接しているカフェスペースへ足を運んだ。

 

コーヒーを注文してテーブルへ向かう。その途中で頭を抱えている青年が見えた。その青年はブツブツと独り言を話している。

 

「バイトが見つからない……ここもダメだったし…」

 

その言葉を聞いて私は「この人しかいない」と思った。

そして許可もとらずに青年の目の前に座りコーヒーをテーブルに置いた。

青年は私を見て訝しげな表情

浮かべる。私はそんな青年を見て、笑顔でこう言った。

 

「ねえ君、うちでバイトしてみない?」

 

それから話してみて分かったのだが、この子はどうやら他人に本当のことを話したがらない性格らしい。

私はこれでも昔、バンドを組んでいた。その時にこの子と似たような子を見てきたから言える。こういう子は一度怒らせてスッキリさせた方が警戒心もリセットされて、心に押し込んでいる言葉も聞けるのだ。

 

それから私は想くんにライブハウスの経営事情に着いて話した。10分程話すと想くんの方も納得してくれたらしく、来週からスタッフのバイトをしてくれることになった。

 

想くんは真面目に働いてくれた。ライブハウスのスタッフは覚えることがかなり多い。それ故に音楽関係のことなど学校の授業程度の知識しかない想くんは、何度もミスをしてかなり苦労していた。逆にミスをしない方がおかしいのでそこは仕方がない。

想くんは分からないことがあれば私に聞きに来て、失敗したら何故失敗したのかを考え、原因を探した。その為、想くんは同じミスは決してしなかった。

 

それが大体スタッフを初めてから1ヶ月程の想くんだった。

 

2ヶ月も経つ頃にはもう既に教えることなど無かった。

 

 

「それでさ〜、教授に言ってやったんれすよ!抜けてんのはアンタの毛の方だろ〜って!」

 

「あはは!想くんも中々酷いこと言うねえ。教授さんカンカンだったでしょ?」

 

「はい〜そうなんれすよー。そのあと俺だけレポート増やされたんれす!あのハゲめー!」

 

そう言ってジョッキを飲み干す想くん。言動から見て取れるとおり、彼はかなり酔っている。

何故こんなことになったのかと言うと…今日は想くんの誕生日だったのだ。そしてめでたく20歳になった想くんにお酒を飲ませる為に私行きつけの居酒屋に連れて来た。

最初は度数の低いお酒…まあビールとかをチビチビと飲んでいるだけだったんだけど、私がカクテルを飲んでいるのを見ると想くんも「飲んでみたい」と言ってきたので「1杯くらいなら大丈夫かな?」と思い飲ませてみた結果が……コレでした。

ちなみにカクテルの名前はロングアイランドアイスティーと言う度数が30度前後もあるカクテルです。度数が高いお酒だけどレモンティーと同じ味がして飲みやすいので私が愛飲しているお酒の1つです。流石に想くんには早すぎたかな……?

1杯で止めさせたのだけど想くんは代わりにビールを飲み始めてずっと大学の愚痴を話してきます。想くんはからみ酒だったみたい。

 

「聞いれるんれすかまりなしゃん!!」

 

「はいはい聞いてるよー。大変だったねー」

 

個室にしといて良かった…数時間前の私ナイス判断!心の中で私は自分の事を褒めていた。

 

それからさらに小一時間。想くんは愚痴からスタッフの仕事について話し始めた。

やれ仕事量が多いだ、やれもっとスタッフ増やせだ、やれ今どきの女子高生はスキンシップが多すぎるだの。いや最後のは何があったのか私にも分からないけど。何?スキンシップされたの?女子高生に?

 

酔いが完全に回った想くんが潰れるのも―いやもう既に潰れかけているんだけども。まあこのままではお店の迷惑にもなるのでお勘定をして私は想くんの肩を担いで店からでた。

 

「ほら、想くん。しっかり自分のカバンくらいは持って」

 

「ぅい………」

 

想くんは目を閉じながらも小さな声で返事をする。私より身長が高くて男の子なのに全然重く感じない……ちゃんと食べてるのだろうか?

 

「想くんちゃんとご飯食べてる?」

 

「ん〜…」

 

「ちょっと想くん、寝ちゃダメだよ。ほら家までもうすぐだから」

 

「…………」

 

あ、ダメだこれは。完全に落ちちゃってる。

人の体は意識があると無いとではかなり重さが変わる。今はずっしり、とまではいかないが少し重くなったので想くんの意識が眠りへと誘われたことがわかった。

 

「全く……想く〜ん、君の家教えてくれないと分からないんだけどー?」

 

「……すぅ……すぅ……」

 

「はぁ……しょうが無い、私の部屋連れてくか」

 

草食系を凌駕する絶食系男子のこの子なら襲われる心配も無いので私はタクシーを捕まえて自分の部屋へ向かった。

 

 

「ほーら想くん。靴脱いで、あーそこで寝ないでほら立って!」

 

「ん……」

 

うつらうつらとほんの少しだけ意識が覚醒した想くんに指示を出す。想くんは聞こえてるのか聞いてるのか分からないがちゃんと靴を脱いで洋室へ連れていく。

 

「はい布団敷くからそれまでベッドに寝っ転がっててね」

 

「…………ん」

 

顔を右腕で隠しながらベッドに倒れる想くん。それを見て私は押し入れから布団を取り出しテーブル等を片付けて出来たスペースに敷いていく。

 

シーツを掛けているとベッドで寝ている想くんから話しかけられた。

 

「……まりな…さん」

 

「んー、目覚めたの想くん?もうちょっと待っててね、布団敷き終わるから」

 

想くんに背を向けながら返事を返す。ものの数分で寝床の準備は完了した。

終わったよ、と後ろで寝ている想くんに声をかけようとしたら突然背中に何かが覆いかぶさって来た。軽い衝撃が体を揺らし、バランスを崩しそうになるが何とか踏みとどまる。

何事かと顔だけ振り向いてみると薄く瞼を開けた想くんが私の背中に体を預けていた。

 

「そ、そ、そそ想くん!?どしたの!?」

 

まさか絶食系男子の想くんが襲ってきた!?

やはり幾らなんでも女が男を自分の部屋に招くのは不味かったか。

などと色々な事を考えて思考がぐちゃぐちゃになる。この歳になっても恋人がいた事がない自分には少々キツすぎる事態が起こっている。

 

想くんはそんな私の心中をつゆ知らず、口を開いて一言、言葉を発した。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

「…………はい?」

 

突然の感謝の言葉に、私の先程までまとまらなかった思考が停止した。

想くんは続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日、誘ってくれて、祝ってくれて、ありがとう。凄く楽しかった。」

 

 

「まりなさんのおかげでなんか、昔の自分が少し思い出せた気がする。」

 

 

「仮面を付けるのも上手くなったし……これはまりなさんにとってはあんまり嬉しく無いかも知れないけど。」

 

 

「あの時、一年前にまりなさんが誘ってくれなかったらこんな、満ち足りた毎日は送れなかったと思う。」

 

 

「覚えてるかな?僕がバイト先が見つからなくて頭抱えてたらまりなさんが突然目の前の席に座って来たんだよ?流石に驚いたよ。」

 

 

「それから僕は自分の事情も話さずただ喚き散らしただけなのにまりなさんは怒るどころか謝ってくれてさ。あの日ほど驚いた日は無いよ。」

 

 

「バイト、雇って貰ってさ。仕事なんか、全く分かんなくて、教えて貰ったのに失敗ばっかして、迷惑かけて、それでもまりなさんは笑顔で僕に『次は失敗しないように頑張ろうね』って励ましてくれて。」

 

 

「……初めて会ってから3ヶ月くらい経った頃からだったかな?僕がまりなさんに仮面を外した僕(素顔)を見せるようになったのは。最初見せた時は驚いてたよね?普段の僕と違うって。僕さ、それ聞いてちょっと怖かったんだよね。拒絶されないかな、見損なったとか言われないかなって」

 

 

「…でも………嬉しかったんだ。その後まりなさんが『でも中身の性格は一緒だね!』って言ってくれたのが。すっごく、嬉しかった。」

 

 

「仮面を被り始めてから、まりなさん以外、僕の中身を見破る人は誰もいなかったからさ。本当に、久しぶりだったんだ。僕自身を認めてくれる言葉を掛けてくれる人なんて……家族以外でいなかったから。」

 

 

「僕は、だから、まりなさんには、まりなさんだけには、話そうと思ったんだ………僕の事を。今まで話せなかった僕の話を。今日。」

 

 

「……まあ、結局最後まで話せずに初めて飲んだお酒に飲まれちゃって、まりなさんの部屋まで連れて行って貰うことになっちゃったんだけどさ。それも含めて色んな意味を込めた、『ありがとう』なんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――だから、まりなさん。僕の話を、聞いて貰えますか?」

 

 

しっかりと、力強く、彼の双眸は、私の目を見つめていた。

 

それに対して、私は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はい」

 

 

 

 

 

 

 

彼の双眸を見つめ返して、しっかりと返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷の轟音が鳴り響き、豪雨が体を打ち付ける中、影山想は走っていた。

どこを目指すわけでも無く、ただひたすら、走っていた。着ている服は既にびしょびしょに濡れており、随分と重くなっているだろう。

この天候のせいで普段学生が歩いている通行量の多い通学路も、人は誰一人見当たらず、道路に車は一台も走っていない。

 

「はっ、はっ、はっ……何で今更、あんな事を思い出してるんだ……僕は………」

 

自分と月島まりなの出会い、そして彼女に自分の仮面の事(秘密)を話した日の事を思い出して、それと連想するように影山は数十分前の出来事を思い出していた。

 

そして一つの考えが頭に思い浮かぶ。

 

もしかしたら彼女達も、彼女(まりなさん)と同じように自分の事を考えてあんなことを聞いてきたのか、と。

 

だが、直ぐにその考えを振り払う。

 

 

「まりなさんは、あの人は、僕の事を、僕の中身を、見てくれたんだ、自分からは、決して踏み込まずに、僕を傷付けないように、ちゃんと僕の事を考えて見てくれた!あの子達とは違う!興味本位で!ただ自分が知りたいってだけで!()の心の中を暴こうとしてきたあの子達とは!違う!!違う!!!違うんだ!!!」

 

何度も何度も自分に言い聞かせるように豪雨の中を走りながら、影山は叫んだ。

 

すると一際大きい落雷が近くの電柱に落ちた。

 

流石に驚き足を止めた影山は、途端に膝から崩れ落ちてしまう。

CiRCLEを飛び出てから数十分間、少なくとも30分以上も豪雨の中を走り抜いて来たのだ。雨のせいで走り辛くなっているのも相まって足腰に疲労が溜まり、限界が来るのも当然であろう。むしろ今やっと限界が来たというのに大抵の人間は驚くだろう。

 

 

「(やば……いし、きが………)」

 

 

バチャリと音を立てて道の真ん中に倒れ伏す影山。そこで影山の意識は暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ〜凄い雨、こんなことなら送って貰えば良かった…って誰か倒れてる!?きゅ、救急車…あれ?この人って確かCiRCLEの……」

 

一人の少女の声は、聞こえなかった。




はい嘘の仮面6話、どうだったでしょうか?ちなみに影山さんはまりなさんに恋心は抱いてませんのでそこの所は気をつけてください。(何に?)
そして今回出てきた日向君、静奈ちゃん、剛士君、木杉君の名前は某有名アニメのキャラの名前をアレンジして使わせてもらってます。約一名殆ど違いますけど。

そしてUAがなんと10000を、お気に入りは400件を超えていました!皆さん!誠にありがとうございます!!

では評価を下さった方々です。

☆10を評価して下さった
『とみぃたそ』様、『猫夜凪』様、『吹雪@暁』様、『patton』様、『紀伊』様、『皐月奏』様、『ヘアピン』様。

☆9を評価して下さった
『セロリ畑』様、『izumico』様、『そらいおん』様、『タケト』様、『ユダキ』様。

☆8を評価して下さった
『マルク マーク』様、『GBAN』様。

☆7を評価して下さった
『特にはない』様。

☆5を評価して下さった
『将太』様。

☆2を評価して下さった
『ライオギン』様。

評価ありがとうございます!

そして5話に感想をつけてくださった『玖遥』様、『〝時雨〟』様。
3話に感想をつけてくださいました『光の甘酒』様。
感想ありがとうございます!

嘘の仮面も残り3話くらいになってきました。終盤に入りましたね。さあ、どうやって話を進めようか……(行き当たりばったり)。

そう言えば最近暑いですよね。皆さんも熱中症には気をつけてください。水分補給、これ大事。





以後これから下はおまけです。これは皆さんが恐らく疑問に思うであろうシーンの補足をしないおまけです。これに登場する影山さんは本編に登場する性格の影山想ではありません。別人と思って下さい。
では読みたい人だけ、どうぞ。


おまけ

一年前のまりなさんと影山さんの会話シーンのその後、多分なかったであろう会話。

「想くんさ、さっき流暢に話していたけど本当に酔ってたの?」

「え?よよよ酔ってましたよ、はい。酔いが覚めるのが早いんですよ、僕」(目逸らし)

「………確かに居酒屋とかタクシー内では完璧に酔ってたね…いやまったまった部屋入った時も同じような感じで酔ってたよね?あんな直ぐに回復する普通?」

「……♪~(´ε` ;)」くちぶえ

「………」ジト目

「(^ω^;);););)」汗ダラダラ

「……まあいっか、想くんはむっつりって事で」

「!!!???」

影山さんが泥酔していたのにあんな流暢に話せたのは影山さんが「酔いやすく」、「覚めやすい」体質だからです。OK?

終わり(終われ)
お目汚し失礼しました。
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