ソードアート・オンライン —Raison d’être— 作:天狼レイン
皆さま、お久しぶりです。
無能投稿者の天狼レインが再びSAO二次創作に足を突っ込みました。ホント毎度のことすみません。現在《ゲーマー夫婦》の方も少しずつではありますが、時間を取って進めています。まだ暫くかかりますが、矛盾など生じないように心掛けてますので、悪しからず。
それはともかくとして、こちらの作品は見覚えのある方がいらっしゃると思いますが、あらすじ以下略です。
ユウキ熱が再発したことで、再び書きあがったものなので、こちらも勢いがある時は勢いよく書きますが、勢いが落ちればゆっくりと投稿になるのをご了承ください。
以上で挨拶 及び 注意を終えます。それでは。
※ダッシュ追加。加筆修正。
1.プロローグ《アインクラッド》前篇
西暦2022年11月6日、日曜日。
全てはこの日から始まった。
当時齢12歳だった少年は、幼少期からの付き合いだった幼馴染の少女の、奇跡的な回復を以て完治したのを記念に《ソードアート・オンライン》、略称《SAO》とそのソフトを起動させるハード《ナーヴギア》を買った。勿論、整理券だとか人数確認の問題で、長年の付き合いであった少女の担当医師を理由付けて連れて、買いに行ったのだが、二人して少女の笑顔に疲れが吹っ飛んだことは語るまでもない。
完治祝いと称されたその二つのプレゼントは重度のコアゲーマー達が喉から手が出るほど欲しいものであった。細かい説明は省くに限るが、要するに《ナーヴギア》はあらゆる脳信号を遮断・回収することで現実世界から脱却し仮想世界を自由に動くことができる装置であり、《SAO》はその仮想世界をこれまでの全てのマンネリ化したゲームというタイトルを一新させる初の
そんな二つの大きな理由から、当然ハードとソフト、その二つを購入するのは至難を極めたが、そこは意志力と推測力、対応力エトセトラで何とかしたのは言うまでもない。その後仕事がある医師には少しでもいいから休んでもらうことにして、少年は少女を連れて、現在自分が住んでいる一軒家にお泊まり会のようなノリで来てもらった。
最初の一時間は細かい説明とルールを簡潔に、かつ何度か確認を取って双方理解するまでに費やし、続く一時間はやりたいことをある程度固めておこうと互いに相談し合った。幸い少年が驚異的な倍率であったベータテストに当選していたお蔭か、最初にやっておくと困らないことなどが分かっていたため、最初から焦らず楽しめると思えた。
結果として二人の会話は、スタートダッシュ云々ではなく、ある程度進めてから出来ることにばかり集中したが、それでも待ち時間を退屈させないほど、楽しい雑談であったことに違いなかった。
そして、来たる正式サービスの時刻。直前にナーヴギアを被っておいた二人は、来客用に用意していた布団を敷き、その上で魔法の言葉を口にした。
「「リンク・スタート!」」
そう、これが人生
今思えば、この選択が本当に正しかったのかと、二年経った今もなお考えている。だが、きっとこれからも答えは出ないだろう。いや、恐らく出なくとも、そばで君が笑っているなら————
そうして、少年———
———*———*———
ナーヴギアによる五感の遮断・回収を受け———視界的には虹色のリングを抜けた後、手慣れた操作でキャラクタークリエイティングを済ませた蒼天は《はじまりの街》の一角で、木綿季が合流場所に来るのを待っていた。
ログインしてから数十分は経つが、木綿季は一向に現れない。恐らく慣れないキャラクリに手間取っているのか、迷子になっているのか。前者ならともかく、後者なら不安でしかないが、下手に動くのも合流しにくくするだろうと思い、大人しく待ち続ける間、何度もプレイヤーに声をかけられたのだが、当然知り合いではない。みんな顔知らぬ何処かの誰かだ。当然、待ち合わせもしているため、あっさりと断りを入れていると、漸くその時が来た。こちらに向かって来る一人のプレイヤーが目に入った。
そして、蒼天の目の前で止まって、深呼吸をして息を整えると、嬉しそうに声をかけてきた。
「お待たせ! ごめんごめん、時間かかっちゃったんだー」
「平気だ。大方キャラクリに時間かかったんだ……ろ?」
話しかけてきたプレイヤーの顔をゆっくりと見て固まった。まだまだ短い人生だが、初めてじゃないかというくらい驚きで固まったことは他にない。何故固まったかといえば、全くの別人になっていたから———ではなく、全く逆の、現実世界とほとんど
「えーっと……ユウキサン? キャラクリって何かご存知です?」
思わず変な敬語になるくらいぎこちなくなった蒼天は思わず本名で呼んでしまうが、よくよく見るとキャラ名すらも本名だったことに気がつき、さらにぎこちなさが加わる。その一方で訊ねられた木綿季———ユウキは、ちょっぴり恥ずかしがるように答えた。
「ボクも最初は自分のなりたい姿にしようかなー、って思ってキャラクリしてたんだ。でも、よく考えたらボクの分身がこの世界で過ごしたいんじゃなくて、
小動物のように小首を傾げて訊ねてくるユウキに、漸く思考回路が整った蒼天は溜息を吐きながら言いたいことをいくつか考えて言おうとするが、考えを改めて口にする。
「いや、うん。間違ってはないな。少なくとも楽しみ方は人それぞれだ。俺にとやかく言う筋合いは無いしな……。本当なら今後のことを考えてキャラクリをやり直させようかと思ったんだが、まぁ、しっかりとした理由もあるからな……」
本当に今後のことを考えるならキャラクリをやり直させるべきだと、言った後でも思っているのだが、口からそれを強く指摘することはなかった。決してユウキの小首傾げる姿に負けた訳ではない、と自分自身にすら言い切れないまま、続くユウキの質問に答えることとなった。
「そういう蒼天もほとんど変わらないね。変わったのは……身長くらいかな?」
「俺もユウキと理由はほとんど変わらないからな……身長は別に」
「もしかして、ボクと身長があんまり変わらないの気にしてた?」
「気にしてねぇよ。身長なんざ変わってもちょっとだけだ。誤差だろ誤差」
誤差程度しか変えてないのは、現実で苦労しないためだ。仮想世界で身長を高くしすぎると、ログアウト後に大きな影響が出る。いざ現実で階段を降りる時などで脳が再確認し切るまでに時間がかかり過ぎるのは問題だろう。だからこそ、身長はほんの少し高くしただけで止めているのだが、どうせならそのままでも良いだろうと思考の何処かが告げるが、ちょっとくらい見栄を張りたかった欲望が上から押し潰して黙らせる。他に目立つ特徴と言えば、黒髪の毛先だけが白くなっているだけだろうか。
すると、続けてユウキが思い出したかのように訊ねる。
「えーっと、蒼天は———じゃなくて、《アーカー》って呼んだ方がいいのかな?」
「あー、うん。そうしてくれ。本名を一部でも使うと色々厄介なことになりかねないからな……って思ってたんだが」
「えっと、ごめんね……」
理由がどうであれ、姿形だけではなく、本名まで一緒にしてしまったユウキは肩を落として落ち込む。きちんと説明されたのにやってしまった訳ではあるせいか、怒られるのではないかと思っているのかもしれない。そう思い、誤解を解くべくアーカーは告げる。
「まぁ、ユウキがそうしたいんだから別に構わないさ。何か起きたら俺もどうにかしてやるから気にしないでいい」
「うん、ありがとう、ソr———アーカー」
「……仕方ない、二人の時はいつも通りに呼んでくれ。正直俺もユウキには
とことん自分がユウキに甘いのを再確認したアーカーは、お互いが合流したこともあり、すぐさまやっておきたいことの一つであった〝フレンド登録〟を済ませる。そこから流れるように、ベータテストで知った入り組んだ裏道にあるお得な安売りの武器屋に迷わず向かう。そこにはすでに先客が二人いて品定めをしていた。
「早いな……俺たちもしっかりと武器選んでおこう。事前に教えたものがあるから、あとは現物をしっかりと手に取って確認してくれ」
「うん、分かった!」
人数がこれ以上増える前にと武器屋の前に滑り込み、先客二人と共に品定めを始める二人に、先客の片割れが興味深そうにこちらを窺う。視界の端で確認すると、どうやら黒髪の好青年のようだ。尤も、現実がそうなのかは定かではないが。
「……ま、俺はこれが一番馴染むかな」
初期武器に相応しい貧弱さが滲み出る片手直剣だったが、それでも最初に手に入る片手直剣では一番良いものを手に取ると、すぐさま会計を済ませる。開始直後に貰ったコルが底を尽き掛けるほどだったが、それでも安いと思う。次の村である《ホルンカ》で買える《ブロンズソード》は強いが脆い。あれを買うくらいなら、これの方が使い方次第では長持ちするのは分かっていた。
そそくさと自分の分を買ったアーカーは、隣で悩んでいるユウキに声をかける。
「何で悩んでいるんだ?」
「ボクも片手直剣にしようと思ったんだけど、少し剣身が太いからこっちの
「なるほどな。それなら、片手直剣で良いと思うぞ。細剣は基本的に剣身の太さは変わらない。だけど、片手直剣は《鍛治》スキル持ちに頼めば、細身のものだって作ってもらえるからな」
「うん、それならボクも片手直剣にするよ」
悩みが無くなったのか、迷わずアーカーと同じ武器を選択し、会計を済ませるユウキは、早く戦いたいという欲望がオーラのように溢れていた。まだここ街だから落ち着けと言わんばかりに落ち着かせる一方で、先程まで同じ場所にいた二人がいないことにアーカーは気がつく。どうやら片方はベータテスト経験者らしい。早く教えて早くレベリングして優位を確保したいというのがよく伝わってくる。
それなら俺たちも———
「それじゃ、フィールド行くか。事前に身体の動かし方は教えたけど、やっぱり実際に立たないと分からないことが多いからな。再確認も踏まえて、もう一度教えてやるよ」
「わーい! 指導よろしくね、ソラ」
———*———*———
「やあっ!」
「ぷぎー!?」
青イノシシ、正式名は《フレンジーボア》という名なのだが、ベータテストの頃から大体青イノシシとしか呼ばれない悲しいモンスターの断末魔が上がる。
「とうっ!」
「ぷぎー!?」
また一体。
「ええーい!」
「ぷぎー!?」
続けて一体。
「こんにゃろー!」
「ぷぎー!?」
そして、もう一体。
計四体があっという間に倒され、無数のポリゴンの欠片と散っていく。その動きに無駄はなく、当然被弾などしてすらいない。無邪気な子供が縦横無尽に動き回るかの如く、始めて数分の動きにしてはおかしいとすら思えるほどにユウキは成長していた。必死に抗おうと、ただではやられまいと暴れ回るイノシシの突進も、恐れることなく最低限の動きで交わし、隙だらけの首や胴に一撃を見舞う。何年も元気に動き回っていなかった彼女が、現実では
しかしながら、そうは言っても———
「……指導って何だっけ?」
教えたのは、ログイン前とこの数分だけだ。
しかし、どうだ? 目の前で戦うユウキの姿の何処に
他のプレイヤーが戦っている辺りにはまだいたのだが、近くには残念ながら一匹たりともいやしない。全部ユウキに倒されたらしい。
「あー、楽しかった!」
満足感に満ちた笑顔を振り撒きながら、ユウキは休憩とばかりに側に駆けつけると、褒めて褒めてと言わんばかりにアホ毛が何故か揺れる。アホ毛が動かせるぐらいナーヴギアって凄かったのか?と言う疑問の傍らで、倒す敵が近くにいなくなったことによる悲しさが心に染みるが、そっとユウキの頭を撫でて我慢する。
急に撫でられたことに驚くユウキだったが、すぐに撫でられることに身を委ね、嬉しそうに微笑む。それからちょっとして青イノシシが湧いたところで、ユウキがそっと呟く。
「……あのね、ソラ」
「ん?」
「ボクを見捨てないで一緒にいてくれてありがと」
「お互い様だ」
そう言うと、アーカーは片手直剣を握り直す。
「それじゃ、次は俺の番だ」
「うんっ。ソラの戦いっぷり、楽しみにしてるね」
「任せろ」
それだけ返すと、アーカーは草原を駆け抜ける。
まずは近くにいる青イノシシがこちらに気がつく前に、容赦無く片手直剣を本来の扱いとは違った様々な動きへと転化させて巧みに振るう。その振るい方は、時に本来の片手直剣の斬撃、時に細剣のような刺突、時にメイス系のような打撃へと転化し続ける。ある意味乱暴に扱っているのと変わらないように見えるが、その動きはただ乱雑なものではなく、ベータテスターらしい経験から来る磨き上げられた戦闘スタイルだった。ソードスキルを使うことなく完封し切った動きに、初心者とは思えない動きをしたユウキですら舌を巻く。普段の彼とは違う戦闘スタイルだが、それでも動きは洗練されていた。ベータテストを経験した者ならではのものなのかもしれない。
「ぷぎー!?」という断末魔が耳に入った、湧いたばかりの他の青イノシシがアーカーという敵の存在に気がついて攻撃に転じ始める。
だが、遅い。勢いよく突進してきた青イノシシに対し、アーカーはソードスキル《スラント》を発動。突進をカウンターするが如く、往なしながら迎え撃ち、大きくHPを減らした青イノシシに叩きかけるように片手用直剣を首根っこに向かって振るう。ソードスキルによって加算された速度によって、切り落とされてたまるかと抵抗する肉を掻き分ける。
一層最初の敵であるイノシシはそこまで強くはない。戦い方一つで優勢を保てるほどであるため、急所を狙うだけで大ダメージか一撃で倒せるほどだ。その結果、敵の首はごろんと地面に落ち、続けてばっしゃーんとポリゴンの欠片と散る。見慣れた光景に、感覚がそこまで鈍っていないと分かると、他の青イノシシめがけて走っていき、湧きが止まるまで倒し続けた。
次の湧きが始まるまでユウキと談笑し、湧いたらユウキが戦い、湧きが止まれば談笑し、湧いたら次はアーカーが戦う。そんなことを何度も繰り返しているうちに、あっという間に時間は過ぎていった。
時刻は午後五時を過ぎ、もう少しで半刻すら過ぎようとしていた頃。アーカーは立ち上がり、ユウキに声をかける。
「そろそろ頃合いだから、一旦落ちてご飯食べるか」
「うん。ちなみにご飯って何かな?」
「完治祝いも兼ねて、ユウキの好きな食べ物の予定だ。流石に栄養バランスの問題で用意してないものもあるけどな」
「わーい! ボクも下拵えとか手伝うよ!」
「いや、完治祝いだからな? ご飯の後にまたログインする時間あるだろうから、その時にやりたいことでも考えてていいから」
「はーい。それじゃログアウトしよっか」
次ログインしたら何をしようかと期待に胸を膨らませながら、《メインメニュー・ウィンドウ》を呼び出し、一番下にあるログアウトボタンを押す。それだけで現実世界に戻れる。本当に便利なものだと思いながら、ウィンドウを勢いよく下まで降りて———気がついた。
「なあ、ユウキ」
「うん、ボクも気がついたよ」
「「
今日の午後一時、正式サービス開始時にはキチンと存在していたはずのログアウトボタンが綺麗に消滅していた。それを受け、二人で分担してウィンドウの隅から隅まで確認するが、やはり見つからない。
どうやらそれは二人だけではなく、他のプレイヤー達もそうらしく、近くで困惑の声が上がっていた。恐らく、《はじまりの街》の中では同じ混乱が起きているだろう。
「ユウキ、これって
「ううん、思わないよ。バグにしては
そもそもバグとは、更新の際などに引き起こされる現象。ベータテストの頃から変更された箇所、或いは追加された際に起きることがほとんどであり、当然数々のゲームでログアウト———及び、最も肝心な部分には比較的起きにくい。それもこの《SAO》に於いては決してバグを起こしてはいけない箇所であるログアウトがないというのは洒落にならないことでもあり、同時にそんなことは
「ユウキ、俺は今すごく嫌な予感がしてるんだけどさ。この直感当たってるよな」
「ソラの直感はほとんど当たるからね。今回もきっと当たってるよ」
当たらない方が良いんだが、という本音は飲み込む。
さて、これからどうしようかと考えた直後、ユウキに手を引かれた。
「ん? どうかしたのか、ユウキ」
「ソラ、あれを見て。こんな時に言うのもおかしいと思うけど、すごく綺麗だよ」
ユウキが指差した方向を見る。
すると、そこに広がっていたのは、言葉を失うほどの絶景だった。遥か百メートル上空には、第二層の底部が薄紫に霞み、細く覗く空は真っ赤な夕焼けに染まっていた。差し込む夕陽が、広大な草原を黄金色に輝かせるその光景は、現実世界でも滅多に見られないほど綺麗だ。これが仮想世界の見せる美しさなんだなと心の底から思いながら、そっとアーカーはユウキの手を優しく握る。こんな異常事態であるというのに、呑気なものだと思われるだろうが、今だけは構わないと本気で思いながら————
その数秒後。
浮遊城アインクラッドはその在り方を大きく変えた。
そして、それは人生二度目の逆境———理不尽との戦いの幕開けを告げていた。
プロローグ《アインクラッド》前篇 —完—
次回 プロローグ《アインクラッド》後篇