ソードアート・オンライン —Raison d’être—   作:天狼レイン

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 出来れば昨日投稿したかった———!(苦悩)
 前回に引き続き、甘々な話をお届けします。タイトルと内容が地味に変わりましたが、お気になさらず。
 今更ですが、ソラ/アーカーのイメージがしやすいよう、СVつけるならこの人かなぁーってのを探してました。鳥海浩輔先生です。ぶっちゃけると、とある作品の主人公のイメージが分かりやすいです。何処ぞの学園オペラですけどね。

 この作品のユウキは、ソラと出会い救われたことで、原作よりも〝逆境〟や〝困難〟には強くなってますし、原作よりも実力は化け物性能になります(断言) 〝諦めない〟ことが彼女の信念にすらなってますからね。
 対して〝繊細〟にもなったので、ソラに関することには耐性が低いです。そこの辺りはシリアス展開ばかりだった8、10、12くらいですね。




16.いつか手作りを君に

 

 

 

 

 

 

「…………その、なんつーか……うん……。ユウキ、身体の調子は……大丈夫か…………?」

 

 

「ふぇっ!? ……あ、うん………問題、ないよ?」

 

 

「……それなら、いいんだが…………」

 

 

 長い夜を終え、疲れ果てた二人が目覚めたのは昼前。本来なら早朝に起きて第一声が「準備して攻略だー!」だったのだが、二人は休暇を取っている。暫くの間は休みが続くということもあり、珍しく惰眠を貪る気が満々だったため、《強制起床アラーム》を切っていた影響かお昼が近づいていたのだった。

 とはいえ、睡眠時間がいつもより短いのは、それはそれで問題があるため、今日はこれで良いのだろうと自分自身を言い包める。

 

 しかしながら、二人の様子が可笑しいのはそこではない。当然、睡眠不足から来るイライラでもない。そんなものとは縁遠い感情。それが互いの胸の中で渦巻いていたからである。言ってしまえば、恥ずかしさ———〝羞恥〟というものだが、つまるところ、そういうことだ。齢14歳の子供が、互いに異性をよく知ったと言えば、分かるはずだろう。こんな話、昨日のパーティー中に自業自得で気絶していたモテない男が聞いていれば、全力で嫉妬するだろうことが言わずとも窺えそうだった。

 

 アーカーとユウキは、共にベッドの上で目を覚まし、開口一番に「おはよう」と言い合ったのだが、急に〝夜でのこと〟が過って、少々気恥ずかしい想いに駆られていた。会話も何処かぎこちない。いつものテンションに戻るまで、いくら時間がかかるのか、当人達にすら検討がつかなかった。まだ確認していないが、フレンドからのメッセージには〝おめでとう〟と言いながらも内容はとことん煽りだろうものが届いているはずだ。

 

 取り敢えず朝起きて、喉が渇いていることに気がついたアーカーが、水分補給にコップに水を入れて、ユウキにも手渡した。チビチビとお酒を飲むように飲んでいく二人の間には謎の距離感があったが、初々しさ故のものだろう。半分ほど飲み終え、喉の渇きを感じなくなった辺りで、漸くユウキが声をかけてきた。

 

 

「………ソラは」

 

 

「………ん?」

 

 

「………狼さん、だね」

 

 

「———ッ!?」

 

 

 突然〝夜でのこと〟を突かれたアーカーは飲んでいた水を綺麗に吹き出し、派手に咳き込む。気管支が果たしてこの世界で詳しく用意され存在しているのかという疑問と共に、こんなことが一層の頃にでもあった気がするんだが……という既視感を覚えながら、ジロリとユウキを睨む。

 

 

「お前なぁ、水飲んでる時にそういうこと言うのやめてくれよ……。そういうユウキも結構———」

 

 

「わー! わー! 言わなくて良いよ! 言わなくて良いから〜!」

 

 

 顔を真っ赤に染め上げながら、大慌てで大声を上げつつ、アーカーの口を直接塞ぎに行くという実力行使に出るユウキ。まさかいきなり突撃して来るとは思わなかったアーカーはベッドの上で見事に態勢を崩した。それが偶然にも、ユウキが彼を押し倒す格好となる。目と鼻の先に大切な人がいる状況となり、互いに数秒見合わせたまま、思考停止。そこから、どうしてだろうか、なんだか可笑しくなって笑いが込み上げた。

 

 

「ははっ、そういや、あの頃もこうやって二人でじゃれ合ったことあったよな。そしたら、藍子さんに怒られて、さ」

 

 

「あはは。うん、確かにあったね。姉ちゃんによく怒られちゃったな〜」

 

 

「藍子さん、ゲーム強かったよな。俺もよく負けたよ」

 

 

「ボクより姉ちゃんに勝ってて、姉ちゃんにもライバル認定されてたソラが言うとなんだか悔しいな〜」

 

 

「とか言って、俺に何度も勝負仕掛けてきたよなお前。全部勝ったの俺だったけどさ」

 

 

「あれは純粋にソラの戦い方がずるいんだよー! ボクの攻撃全部往なしたり、弾いたりしてさ〜。あんな風に戦われるとボク勝てなくなっちゃうんだよ!」

 

 

「悪いな、あれが性分だ。現にこっちの世界でもずっとそうだったからなぁ」

 

 

「そうだよね。こっちでも同じような戦い方するんだから、ボク勝てなかったこと全部思い出しちゃったよ」

 

 

「………でも、勝っただろ? 俺に」

 

 

「うんっ! 初めて勝った!」

 

 

 無数に積み上げた敗北から、ついに掴んだ初勝利。それはアーカーとユウキ、二人の未来を無事に守った。それは人の命を救った偉大さよりも、初めて勝ったことが、ユウキにはとても大事だった。そう思わないと、なんだか楽しい記憶にできない気がしたから。

 

 

「そういや、一つ思い出したことがあったんだけどさ。あの時、お前急に速くなったよな。同時に一撃が重くなった。いくら限界突破したー!って言っても理由としては通じないぞ、あれは」

 

 

「あ、それボクも忘れてたよ! 確かあの時———」

 

 

 『解放条件達成。エクストラスキル《至天剣》、解放します』

 そんな文字の羅列が表示されていたことを、今の会話からユウキは思い出した。アーカーを押し倒したままでは悪いと感じて、彼の横に寝転がるとメインメニューからスキル一覧のウィンドウを開き、そのスキルを探す。確かにその名前があるのを確認すると、アーカーにも見えるように可視モードにして示した。

 

 

「これだよ。これがあの時、解放されたんだ」

 

 

「見たことないな、こんなスキル。〝してんけん〟? 〝してんのつるぎ〟? 読み方どっちだろうな……。取り敢えず、この《至天剣》の効果見せてもらえるか?」

 

 

「うん、えーっとね……」

 

 

 本来スキル情報とはこの世界における最大の生命線であり、他人に見せるのは死活問題だ。しかし、二人は幼馴染であり、これから共に居続けるパートナーであり、元々は相棒であり、今では恋人だ。結婚システムのことを果たして本人達が知っているのかは定かではないが、親密な仲である以上、お互いのことを知り得ている方が、戦闘の幅が広がると思ったのだ。

 

 そうして、躊躇いなくスキルの効果を知るべく、タップして確認する。表示されていたのは、五項目。

 

 

 ・敵が格上であるなら、常時全ステータスが微上昇。

 ・片手用直剣だけ装備時、AGI値に一定の倍率が乗算。

 ・専用ソードスキルがない代わりに、片手用直剣ソードスキルが使用でき、発動後の硬直時間が短縮される。

 ・重量が軽い武器装備時、STR値とAGI値が上昇。

 ・使用者の意志力に効果が強く左右される。

 

 

「……なあ、ユウキ」

 

 

「えーっと……なに、かな?」

 

 

「これチートだろ」

 

 

「うん、ボクも思っちゃった」

 

 

「突然お前が速くなったり、一撃重くなった原因がこれかよ………」

 

 

「ボクも効果見て、すごく納得したよ……」

 

 

 「うがー!」という変な声を上げるアーカーと、実力で押し勝てた訳じゃないと気がついたユウキは、共に落ち込み始めた。前者後者共に考えていることは違ったが、悔しいという思いだけは一緒だった。

 それから気を取り直して、アーカーは断言しておくことにした。

 

 

「まぁ……お前に負けたのは事実だ。

 それに運も実力のうちだ。うだうだと文句言うのもダセェしな」

 

 

「ボクもいつかこれ無しでソラに勝てるようにならないと!」

 

 

「ま、取り敢えず、疑問も晴れたことだ———と言いたいんけどさ。ユウキ、こんなスキルは俺も初めて見たんだが」

 

 

「やっぱり? 実はボクも聞いたこともないんだよね」

 

 

「…………ユニークスキルかもな。お前専用スキル」

 

 

 ユニークスキル。

 それはエクストラスキルのように、条件さえ満たせば手にいれることが出来るというものではないスキルで、簡単に言えば、《ぼくだけの最強スキル》みたいなものだ。よく小説に登場する主人公やラスボス辺りだけが持ってる特殊技能のようなものと考えていい。

 

 現在このユニークスキルと呼べるものを所持しているのは、公には一人、《血盟騎士団》団長ヒースクリフだけだ。あの男につけられた二つ名の一つ《神聖剣》は、まさにそのユニークスキルの名だ。その力の全容は不明だが、現状判明しているのは〝攻防一体の安定した強さ〟を誇る、ということだ。

 事実、噂でしか聞いていなかったが、《クォーター・ポイント》である五十層のフロアボスによって、脱出者が増えすぎたせいで戦線崩壊しかけたところを援軍が到着するまでの十分間耐え抜いたそうだ。ハッキリ言って化け物だと言える強さを作り上げたユニークスキルを、まさかユウキも手にいれるとは……と考えたところで、アーカーの脳裏に何かが過った。

 

 それは以前キリトと賭けデュエルをした時のことだ。あの時、アイツはアーカーに〝無いはずのもう片方の剣を振り下ろす〟という芸当で、まるで()()()()()()()()()()()ような殺気を感じ取った彼に迎撃をさせ、見事に不意討ちを喰らわせたことがあった。

 もしあれが、本当に振り下ろすことが出来るから感じさせられた殺気だったというのなら———

 

 

「………今度揺さぶってみるか」

 

 

「ソラ、なんだかすごく悪い顔してたよ?」

 

 

「ん? いや、ちょっと面白いこと考えついてさ。今度それ実行する時に連れて行ってやろうと思ってな」

 

 

「わーい!」

 

 

 上半身を起こしてバンザーイ!と両手をあげて喜ぶユウキに、微笑ましいものを見守る気持ちで、アーカーはメインメニューを開く。そこには予想した通りフレンドである〝アイツら〟からのメッセージが数件届いていたが、今は無視して自分のスキル一覧を確認する。特に意味のない行為であるはずなのだが、どうしてだろうか。ユウキがユニークスキル持ちになったから、自分にもそんなチャンスがあったりしないかなー、っという夢を見たかったのかもしれない。一層の頃から運に恵まれない日々を過ごしている以上、そんなことがあるはぶがないとは思いつつ、何処かまだ自分が子供っぽいのだと苦笑しながら操作する指を下へと滑らせて———固まった。

 

 

「ん? どうかしたの、ソラ〜?」

 

 

「あー、うん。ちょっとお前に報告したいことができた」

 

 

「え、なになに〜。もしかして、ソラにもユニークスキルが出現したとかそういう感じかな〜?」

 

 

「おう、その通りだ」

 

 

「……………………ふぇ?」

 

 

 目を丸くして固まるユウキに、アーカーは自分が見ているウィンドウを可視モードにして示した。そこには、よく聞いたことがあるスキルなどが並ぶ中で、一つだけ本当に見覚えも聞き覚えもないスキルが混ざっていた。名前は《天駆翔》。よみは、〝てんくしょう〟だろうか。文字の通りなら、〝天を駆けて翔ぶ〟ということになるが、果たして————

 

 

 ・壁や天井は無制限、空中は十秒の間自由に駆けることができる。着地時に時間制限がリセットされる。

 ・片手用直剣だけ装備時、AGI値に一定の倍率が乗算。

 ・専用ソードスキルがない代わりに、エキストラスキルを含むスキルがこのスキルを使用中にも発動可能になる。

 ・重量が軽い武器を装備時、STR値とAGI値が上昇。

 ・使用者の意志力に効果が大きく左右される。

 

 

「アーウンヤッパリカァーシッテタ」

 

 

「ソラずっるーい! 壁や天井にスパイダーマンできるだけじゃなく翔べるんだよ! いいなーいいなー羨ましいな〜!」

 

 

「いやお前のも充分ずるいからな!? なんだよ常時全ステータス微上昇って! レベル差あったのに押し負けたんだぞこっちは!」

 

 

 やいのやいのと言い合うこと数分。互いに自分達の手に入れたユニークスキルが羨ましいだのずるいだのと言い合って気が済んだのか、二人揃って顔を見合わせると口を揃えて言った。

 

 

「「バレたら厄介だな(ね)、これ」」

 

 

 特にアルゴ辺りに漏れると洒落にならないのが目に見えた。何処からでも漏れたら大変なことになるだろうなと、バレた後の光景が目に浮かぶ。流石に家まで押しかけることはないだろう。なにせここは二十二層の最南端。森の中にひっそりと立つ隠れ家のようなものだ。アルゴを筆頭に他の奴らにも場所は秘密にしてもらえるようにしているから安心している。

 

 問題は、普通に出かけた際に困るだろうなーということだ。嫉妬深い彼らは、出現条件などを聞いてくるはずだ。こちらも条件がよく分かっていないのだから伝えようがない。ユウキの場合も、戦闘中に出てきたから条件を絞れるのではないかと思ったが、もし条件が〝仲間同士で限界ギリギリの戦いをしなくてはいけない〟などとなれば洒落にならない。

 

 そういうことから、このスキルのことは互いの秘密ということにしようと話し合いをした。二人の秘密が増えたと喜ぶユウキに釣られて、アーカーも嬉しそうに微笑む。

 

 

「ところで、今日は何しよっか? せっかくの休みなんだから、普段あんまりできないことやっておきたいからね!」

 

 

「そうだな。普段できないことか…………あっ」

 

 

 次は習得したスキルを確認する。そこには《片手用直剣》や《索敵》、《武器防御》や《隠蔽》などとあり———そこには、一年以上前に取って、喧嘩別れしてから一度も使わなかった《料理》スキルが残っていた。

 

 

「やっぱり俺は徹し切れてないなぁ……」

 

 

「《料理》スキル、残してたんだね」

 

 

「ん? まぁな。死にたいだの何だの抜かしておいて、ホントはお前との繋がりを大切に残しておきたかったんだろうな」

 

 

「………ソラってたまに歯の浮くような恥ずかしい台詞言うよね………」

 

 

「?」

 

 

 そんな台詞言ったか?と首を傾げるアーカーに、ユウキはほんのり頰を赤く染めながらボヤく。どうして彼は変なところで鈍いのだろうかと思う一方、戦いばかりだった一年を過ごしてなお、《料理》スキルを残していた彼の想いには嬉しさを感じていた。

 気を取り直し、ユウキはアーカーに甘える。

 

 

「ボクも《料理》スキル取ったんだけど、どうせならソラの手料理がまた食べたいな〜」

 

 

「お前も《料理》スキル取ってたのか……熟練度どれくらいだ?」

 

 

「うーん、四割くらいかな?」

 

 

「それじゃ、俺の方がまだ高いのか……四割強あるしな」

 

 

 この世界の料理は簡略化され過ぎている。工程や素材さえ間違えなければスキル値次第で何でも作れるのだ。とはいえ、流石に一年以上サボっていたことは変わらない。四割強では作れる範囲も限られている。習得しているほとんどのスキルが熟練度カンストに仕上げているアーカー個人のプライド的にも、《料理》スキルをカンストさせておきたいという衝動に駆られた。

 

 

「数ヶ月で《料理》スキルカンストいけるか……?」

 

 

「ソラならできるよ」

 

 

「そう言って貰えると気が楽だな」

 

 

「一日三食作ってね!」

 

 

「えっ、あー、ソーダナー」

 

 

「なんで棒読みになっちゃうのかな〜?」

 

 

「キノセイキノセイ」

 

 

 小悪魔的な笑みを浮かべて突いてくるユウキに、片言で誤魔化すアーカー。チラリと時刻を確認して、お昼が迫っているのを知ると、いい加減ベッドから離れた方がいいと判断して、立ち上がった。

 

 

「昼ご飯作るから、顔洗ってこいよ。大したモン作れねぇけどな」

 

 

「うんっ、ソラが作ってくれるものなら何でも美味しいよ! 顔洗ってくるね〜」

 

 

 やや小走り気味に洗面所へと駆けていくユウキの背中を見送った後、アーカーは頭に手をやり呟く。

 

 

「歯の浮くような恥ずかしい台詞を言うのはお前もだろ……」

 

 

 何でも美味しいよ、なんてよくも本人の前で堂々と……。

 気恥ずかしい思いをしながらも、アーカーはキッチンへと向かう。アイテムストレージの中を物色し、持っているものから作れそうなものを思考。必要なものをオブジェクト化させると、包丁を取り出して、それらを続けて軽くタップ。切り込みが入ったパンや、野菜、肉などに切り分けられ、肉はフライパンへと移動させ、中まで火が通るように設定し、一定時間ごとに知らせてくれるようアラームもセット。それまでは、暫くストレージの中を確認して待つことにした。

 

 

「……ホントこの一年、物欲微塵もねぇなおい」

 

 

 特に《笑う棺桶》討滅戦から一ヶ月弱は酷い。断食続きだった理由は、ストレージに食材アイテムが一つもなかったことにある。いくら餓死しないからと言って、三大欲求の一つである食欲を無視し続けると言うのは苦痛以外の何ものでもない。加えてあの頃は睡眠もロクに取れていなかった。三大欲求を二つも無視し続けるなんて芸当をよく出来ていたなとアーカーは我ながら思うしか無かった。

 昨日ユウキの誕生日パーティーを行なったお蔭で、こうして昼ご飯にサンドウィッチを拵えることができるが、それが無かった場合は、今頃買い出しに出かけていたことだろう。

 

 

「……無茶したモンだなぁ…………」

 

 

 アラームが鳴ると同時にフライパンの上で肉をひっくり返し、裏面を焼く。あとは焼きあがったものをパンに野菜と共に挟んで完成だ。ストレージの確認を終えて、あとは何を確認していようかと考えていると、見覚えのあるアホ毛がひょこっと壁際に現れた。

 

 

「ユウキ、隠れてても無駄だからな?」

 

 

「あれ? 見つかっちゃった? 上手く隠れられたと思ってたんだけどな〜」

 

 

「隠し切れてないアホ毛が自己主張してたぞ。『ボクはここにいます』ってな」

 

 

「むー……これ見えてたのか〜………」

 

 

 両手でアホ毛を押さえるが、離すとすぐさま自己主張を始めるアホ毛。最早寝癖よりもしっかりしているそれに、ユウキは「むむー」と唸りながら考える。トレードマークとも言えるそれの存在は仕方のないものだが、隠れるにはあまり向かないらしい。果たして《隠蔽》スキルがカンストしていても、隠し切れるのだろうか。少しばかり気になったが、アーカーは口にはしないことを選んだ。

 

 

「ま、隠れんぼはまた今度な。ほら、出来たぞ」

 

 

「わーい♪」

 

 

 出来立てのサンドウィッチが乗せられた皿を受け取り、嬉しそうに運ぶユウキ。「落とすなよー」と忠告しながら、二人はテーブルに皿を置いて、隣り合うように椅子に座る。それから、両手を合わせた。

 

 

「いただきます」

 

 

「いただきまーす!」

 

 

 真っ先に噛り付いたのはユウキ。当然出来立てだ。美味しいのは間違いないと彼女は言いそうだと思っていたが、それよりも先に火傷しそうになっていた。

 

 

「出来立てなの見えてなかったのか、お前……」

 

 

「えへへ……行けるかな〜って思っちゃった」

 

 

「ちゃんと少し冷まして食えよ? 現実だったら、せっかくの味分からなくなるぞ」

 

 

「うんっ!」

 

 

 今度はちゃんと「ふーふー」と冷ましながら噛り付くユウキ。それを隣で見守りながら、アーカーもサンドウィッチに噛り付いた。昨日アスナ達が作ってくれた料理よりは美味しくないと自分の作った料理に厳しい判決を下したが、それは逆に対抗心のようなものに火をつけた。若干マッチポンプに聞こえるが、それは間違いない。自分に厳しく、というのはある意味自分に対するマッチポンプなのだろう。次に活かす、という目標を立てやすくするための。

 

 

ろうひはの(どうしたの)ひょだ(そら)?」

 

 

「食うか喋るかどっちかにしろよ……。ん、まあ、あれだ。アスナ達に負けてるのが悔しいなぁって思っただけだ」

 

 

「へぇー、ソラも普通に悔しがることあるんだね」

 

 

「当たり前だ。正直お前に負けたのも悔しいよ。いつか十倍にして返してやる」

 

 

「一回負けただけなのに、十倍にして返すの!? ちょっと酷いよ、ソラ!?」

 

 

「連勝記録ストップされたら、誰だってそう思うだろ。ま、それはまた今度にするけどな」

 

 

「ソラってやっぱり何処か子供っぽいところあるよね」

 

 

「子供よりも子供っぽいお前が言うな」

 

 

「むむー、ボクだっていつまでも子供って訳じゃないんだよ?」

 

 

「アーウンソッカァーソーダナァー」

 

 

「また片言!? ソラはボクのこと軽く流そうとしてないかな!?」

 

 

 やいのやいのと言い合いながらも、サンドウィッチを腹に収める二人。いくつか言い終わると、両手を合わせて「ごちそうさま」と言って、皿をキッチンに置きに行く。

 

 

「ねぇ、ソラ」

 

 

「ん?」

 

 

「この世界でお菓子って作れるのかな?」

 

 

「作れると思うぞ。実際何処かの層でチーズケーキか何かあったって聞いたけど」

 

 

「ふむふむ……」

 

 

 何か考え事を始めたユウキに、何を考えているのかさっぱりなアーカーは、手早く皿を洗うことにする。と言っても、これもタップすれば終わってしまうようなものなので、すぐに片付いた。皿を棚へと戻してそれで終わり。その間にユウキは考え事を終えたのか、期待の眼差しでこちらを見た。

 

 

「マカロンって作れるかな?」

 

 

「ん? まぁ、材料とレシピさえあれば、な。つーか、何する気だよお前」

 

 

「別に〜、何でもないよ〜?」

 

 

「ほう……隠し事とはいい度胸だな」

 

 

「自分は隠し事たくさんしてたのに!?」

 

 

「問答無用!」

 

 

 室内だというのにAGI値に物を言わせて接近し、途中で壁を軽く蹴り上げ、ユウキの背後に回るアーカー。突然アクロバティックな動きをされたせいで、対応が遅れた彼女は直後に襲ったむず痒さに身をよじらせた。

 

 

「こちょこちょこちょ」

 

 

「あはっ、あはははっ、やっ、やめてっ、やめてよソラぁっ!」

 

 

「ほら、ささっと吐けばやめてやるからなー」

 

 

「ま、負けない、よ! く、くすぐりなんかにっ、ぼ、ボク、負けないもんっ」

 

 

「強情かよ……」

 

 

 強弱つけて脇腹の辺りをくすぐったが、結局何も吐かなかったため、アーカーは大人しく諦めることを選ぶ。くすぐりから解放されたユウキは、こちらを少し睨んだ。

 

 

「……女の子にこういうことはしちゃダメなんだよ!」

 

 

「うんまぁそりゃあな。とはいえ、何か隠してると分かったら知りたくなる性分で。お前も知りたくなるだろ?」

 

 

「分からなくはないけど、ソラにだけは言われたくないよ」

 

 

「………言うようになったな、ユウキ」

 

 

「ボクをこんな風にしたのはソラだよ。責任だって、これからも取ってもらわなきゃダメなんだからね」

 

 

「………………」

 

 

 突然の台詞に、アーカーの思考が停止する。キョトンとしたまま、身動き一つしない彼にユウキは小首を傾げながら、どうしたのだろうといった顔をしている。数秒かけて思考が回復した彼は、大きめの溜息を吐いた後、彼女に向けて理由を告げた。

 

 

「ユウキ、お前なぁ……自分が何言ったのか分かってるのか?」

 

 

「え? ボクが何か変なこと言ったの?」

 

 

「お前、実は〝天然ジゴロ〟とか〝唐変木〟とかそういう才能あるんじゃないのか……?」

 

 

「むぅ、それってソラの方がそうだと思うんだけどなぁ……」

 

 

「………マジかよ———じゃなくて。お前さっき俺に向かって『ボクをこんな風にしたのはソラだよ。責任だって、これからも取ってもらわなきゃダメなんだからね』って言ったんだぞ……」

 

 

「………………」

 

 

 最初は何のことか飲み込めずにパチパチと瞬きするだけだったが、少しずつ自分の言った言葉の意味を理解すると、顔を真っ赤に染め上げてユウキの口からは変な声が漏れ始めた。「やっと気付いたか」と呆れるアーカーに対し、彼の肩をガシッと掴んだ彼女は、容赦なく前後に揺らした。当然無意識にやっていることなので、揺らされている彼はどうしてこんな目に遭ったのか分からず仕舞いである。

 

 

「ゆ、揺らすな、揺らなって、落ち着けユウキィッ!」

 

 

「〜〜〜〜〜っ!」

 

 

「さ、三半規管にダイレクトに来るから! 三半規管弱くねぇけど、流石に酔う、酔うぞマジで! だから、止めろってユウキィッ!」

 

 

 顔を真っ赤に染めて羞恥に呑まれたユウキが自我を取り戻すまで五分ほど。その間ずっと強く揺らされていたアーカーは、今にも吐きそうな青い顔をして、譫言のように「ユウキを揶揄って遊ぶのはやめよう……マジで」などと呻いていた。〝自業自得〟、〝因果応報〟と言われても仕方のない行為だったが、自我を取り戻したユウキは、少しばかり責任を感じていたらしく、酔った彼をきちんと看病していた。

 

 

「ソラ、大丈夫?」

 

 

「………多少な。流石に五分間は酔うよな………何となく分かってた」

 

 

「うっ………ごめんね?」

 

 

「……お前は悪くない、煽り過ぎた俺が悪い。マジで〝因果応報〟だったわ……」

 

 

「いんがおーほー?」

 

 

「〝自業自得〟と似た意味の四字熟語だよ。現実(向こう)に戻ったら勉強会だな、やっぱ」

 

 

「お、お手柔らかに、ね……?」

 

 

「そこは要相談だな」

 

 

「それって手加減する気ないよね!?」

 

 

「一割ぐらいでいいよな?」

 

 

「ソラのバカ……」

 

 

「ンなこと言って、手加減されるの大嫌いだろお前」

 

 

「そ、それはそうだけど………うぅ…………」

 

 

 多少体調が良くなったのか、容赦無く理不尽な仕返しを始めるアーカーに、ユウキは勉強はお手柔らかに頼みたいと思いつつも、手加減はされたくないというジレンマに迷っていた。そんな彼女の頭に、ポンと手を置いて、優しく撫でながら彼は笑う。

 

 

「ま、お前は勉強熱心だしな。覚えようと思えば、飲み込みも早い。容赦と手加減はしないが、見捨てたりしねぇよ」

 

 

「……そっか」

 

 

 〝見捨てない〟、その力強く信頼できる言葉を聞いて、嬉しげに笑うユウキ。〝あの頃〟と変わらない彼女の姿に、アーカーも何処か嬉しく感じながら、何処から教えようかと思考を巡らせる。多少気が早いかもしれないが、どうせ現実世界(向こう)に帰還すれば、リハビリの毎日だ。今からでも考えて悪くないだろう。勿論、彼自身もユウキを教える立場に立つのなら、彼女よりも勉強しておかなければならないのは間違いない。どちらが苦労しやすいのかと言われれば、どっちもどっちだろう。

 

 

「———ところで、マカロンを誰かにあげるのか?」

 

 

「うんっ、ソラにあげたいなって———あっ」

 

 

「………え?」

 

 

 カマかけ成功。どうせ分からないだろうと高を括った上で仕掛けていたのに恐ろしく簡単に引っかかったことで、流石のアーカーもキョトンとしながら、チラリとユウキの顔を見る。真っ赤だ。せっかく秘密にしていたことを自分の口から簡単に洩らしてしまったのだから恥ずかしさと悔しさで一杯なのだろう。このままだとまた肩をガシッと掴まれて揺らされそうだなと思った彼は、すかさずフォロー(?)を入れる。

 

 

「……その………なんつーか…………楽しみにしてるからな」

 

 

「………うん」

 

 

 サプライズをぶち壊した罪悪感が強く込み上げたが、同時にユウキが頑張ってみようとしていたことを知ることができたアーカーは、頰を人差し指で掻きながら、隠すことなく嬉しそうにする。そんな様子をしっかりと目で見ることができたユウキは、もっと嬉しそうな顔が見てみたくなったのか、心の中で絶対に美味しいマフィンを作ろうという覚悟がさらに固まっていた。

 

 

(………俺もお返しの品ぐらい作ってやるか)

 

 

 《料理》スキルカンストを目指すのだから、全身全霊を賭けて作ってみる価値はあると自分に言い聞かせながら、初々しさ残る気持ちを多少誤魔化した。照れ臭いという思いが素直になれないのだろう。アーカーは自分がどう感じているか分かっていながらも、愚直に言えない情け無さを実感する。〝男のツンデレに需要はない〟。何処ぞの〝天然ジゴロブラッキー〟が宣った言葉だが、悔しいながらも納得していた。

 

 

 

 アーカーは、そんな自分を好きになってくれた幼馴染の頭を優しく撫でながら、その温もりを思う存分に感じていたのだった————

 

 

 

 

 

 いつか手作りを君に —完—

 

 

 

 

 

 






 アインクラッド六十五層、六十六層はホラー系フロアだ。

 そのことを知ったアスナは、理由をつけて二人の元に逃げ込んだ。

 その流れで開催されたのは、何故か女子会。

 その一方で、アーカーは〝あの男〟と奇跡的に出会っていた。

 次回 謎の夢と確信

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