ソードアート・オンライン —Raison d’être— 作:天狼レイン
前回より文字数増えましたが、内容はそこまで厚くありません。
カヤーバーの台詞を原作通りにしたせいだと思います。
※ダッシュ追加。
突然、リンゴーン、リンゴーンという、鐘のような——或いは警報音のような大ボリュームのサウンドが鳴り響いた。絶景に見惚れてた二人は思わず声を上げて飛び上がる。
「うぉっ!?」
「び、びっくりしたぁ……」
同時に叫んだ二人は、自らに起きていることに気がつく。身体を包む、鮮やかなブルーの光の柱。青い膜の向こうでは、草原の景色がみるみると薄れていく。
この現象はかつてベータテストの時に何度も体験していた。場所移動用アイテムによる《
そこまで考えた時、身体を包む光が一際強く脈打ち、アーカーの視界を奪った。青い輝きが薄れると同時に景色が再び戻ったが、そこはすでに夕暮れの草原ではなかった。
広大な石畳。周囲を囲む街路樹と、瀟洒な中世の街並み。正面遠くに聳える黒光りした巨大な宮殿。間違いない。ここは《はじまりの街》の中央広場だ。ベータテストの頃何度も通った景色だったせいか、すぐに所在地が分かった。直後、《転移》の影響でユウキと離れ離れになっている可能性も考えたが、すぐそばにいたことに気がつくと咄嗟に感じた不安が消えた反動か胸を撫で下ろした。
しかし、安心したのも束の間、周囲を犇めくプレイヤー達が目に入る。どうやら一斉にこの場所へと強制的転移させられたようだ。少しずつボリュームが上がってザワザワとし始める中央広場。混乱に満ちているせいか、この光景は何処か記憶の片隅にある嫌なものに近かったせいか微かにちらつく。
それはユウキも同じなのか、少し震えているようにすら見えた。その震えを止めようとその手を握り、小さく告げる。
「落ち着け、ユウキ。確かに嫌なものを思い出させるけど、
「……うん、そうだね。ありがと、ソラ」
ユウキの震えが少しずつ収まり始めたのを確認し、アーカーもまた周囲を何度も確認する。特に変わった点はないか、異常が起きているところはないかと。
すると、誰かが何かに気がついたのか、突然叫んだ。
「あっ……上を見ろ!!」
その声を聞いて、二人は反射的に視線を上向けた。そこにあったのは異様な光景。少なくとも先程の夕焼けの影響を受けたものではないかとを理解した。
百メートル上空、第二層の底を、真紅の市松模様が染め上げていく。先程まで薄紫に染まっていた底部は何処へやら。
よく見ると、その市松模様は二つの英文が交互にパターン表示されたものでしかなかった。真っ赤なフォントで綴られた単語は、【Warning】、もう一つは【System Announcement】とあった。つまりこれは、運営からのアナウンスで間違いない。一斉に安堵するプレイヤー達。だが、アーカーとユウキ、その二人だけは嫌な予感が消えることはなかった。ただただ異様すぎた。安心を搔き消す何かがそこにあったのだ。
それに応えるかのように、続けて起きた現象は二人の———いや、全プレイヤーの予想を大きく裏切るものだった。空を埋め尽くす真紅のパターン、その中央部分がまるで巨大な血液の雫のようにどろりと垂れ下がったのだ。高い粘度を感じさせる動きでゆっくりと滴り、だが落下し切ることなく、赤い一滴は空中でその姿を変化させた。
出現したのは、体長二十メートルはあろうかという、真紅のフード付きローブを纏った巨大な人の姿だった。
しかし、それが人の姿だと感じたのは最初だけで、途中から不気味なものでしかないことに気がついた。フードの中には顔がなく、長い袖の中にも肉体らしきものがない。空疎な間隙があるだけだ。
アーカーにはーー恐らくベータテスターには見覚えがあったが、それとはかけ離れたいたようにすら感じたそれは両袖をそれぞれゆっくりと掲げて————
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』
その一言は、あまりにも場違いなものであった。現在プレイヤー達はログアウトに関する情報を求めている。漸く登場した
しかし、続けて放たれた言葉に、誰もが驚愕することとなる。
『私の名前は
今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
「茅場……晶彦!?」
その名前をアーカーは知っていた。知らないはずはなかった。ナーヴギアの基礎設計者だから、SAOの開発ディレクターだから、アーガスを急成長させた天才ゲームデザイナーだから、天才量子物理学者だからという訳ではない。その名前を知っていたのは、そんな理由では決してなく————
「なんで……貴方が、貴方が出てくるんだ……
「……ソラの、叔父さん、なの……!?」
消え入るような声で呟いたそれはユウキにだけ届く。偶然とはいえ、周りが騒がしかったお蔭か、アーカーが茅場晶彦の身内であるという情報は広まらず、事あるごとに責められる危険性は薄れたが、だが、それで終わっていい話ではない。例え身内だろうが身内でなかろうが、この状況で茅場晶彦は名乗り上げた。偶然にも———いや、これが必然だったとしても、アーカーの知る彼の性格からして、ほぼ有り得ないことだ。彼は裏方に徹してこその人物だろう。そんな彼が出てこないといけないということは、それほど事態は急を要するのか、或いはもっと洒落にならないものなのか————
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
続けて告げた一言が、アーカーにこの現状における、ある程度の理解を及ばせた。不具合ではなく、仕様。その一言でアーカーは気がついてしまった。嘘や冗談が得意な人ではない茅場晶彦がそう宣言するということは、正しくこれが真実であることを強く認識させた。
どよめきが走る中で、茅場晶彦はさらにアナウンスを続ける。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』
この城の頂———おおよそ城と言えるものをアーカーはこの場所において知らなかったが、頂と呼べるものなら一つだけ気がついた。全百層、それがこの《ソードアート・オンライン》の世界だ。頂はその全百層の百層目を示す言葉だとすれば————
「……ああ、そうか。そういうことか、茅場 晶彦」
かつて———彼と言葉を交わした時のことを思い出した。懐かしい思い出だ。連鎖的に引き摺り出されたそれを間違いない理由だと考えると、自然とあの男を叔父さんなどと呼ぶつもりは毛頭無くなった。
アンタのやろうとしていることが予想できたよ、やってくれたな。アーカーは言いかけた言葉を喉の奥に戻し、続く説明を待つ。こうなったら聞き損ねる訳にはいかない。この場で狂気に呑まれて狂うべきではないことを瞬時に理解し、ユウキが狂わないよう、しっかりとその手を握る。
己が瞳が、元の色を失い、
「ユウキ、これは紛うことなく現実だ。それを理解していてくれ」
「………………うん」
俯いていたユウキの、もはや消え入りそうな声だ。それでも、返事を返してくれただけでも、まだユウキが狂ってしまいそうになっていない証拠だと信じて、ただ前を向く。
『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合———』
僅かな間を以て、その言葉は冷酷に告げられた。
『———ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
その瞬間、分かってはいたが、それでも中々に理解しがたい気持ちが脳を突き抜ける。これまで以上に強く手を握り締めるユウキの気持ちが痛いほど分かる。怯えている、きっと怖いのだろう。それはアーカーも
周囲では出来るはずがないと口々に言う者がいたが、それらは次に勘付いた者たちの意見によって駆逐されていき、絶望の色が濃くなり始めた。
『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試みーー以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果』
一呼吸入る、その間。茅場 晶彦が意図的に作り出した間ならば、彼は心底嫌な奴だと宣言できる。恐怖と絶望を深く掻き立てる、このちょうどいい間を知っていたのなら、余計に。
『———残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
何処かで細い悲鳴が上がった。その悲鳴を聞いて、さらにユウキが強く手を握り締めてくる。もはや何処の誰が怯えようが構わない。
だが、ずっと一緒にいた幼馴染がこうして怯えさせられている状況にだけは我慢ならなかった。絶望だの恐怖だの———それは今のアーカーには無くなっていた。残ったのは、怒りと憎悪。自身に対するものと、叔父である茅場 晶彦に対してのもの。その両方が強く残る。
それはいずれ、彼と対峙した際、叔父だからという甘えは残さず、容赦なく殺しにさえ行けるほどに強まった。
ざわつく周囲の声を遮るように、再びアナウンスは再開される。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってもよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』
その言葉を聞いた瞬間、さらに憎悪は強まった。なるほど、確かにこれはゲームらしい別のものだ。予想通りの展開なら、これはデスゲームと化したはずなのに、変なところはゲームだ。こんな嫌がらせのようなことも織り込んでくるのは流石と言いたい。お蔭で本気で殺したくなったよ。そんな怨嗟が喉から溢れ落ちそうになるほどに迫っていたが、辛うじて飲み込んで、次に備える。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実とも言うべき存在だ。……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
これまでを上回るほどに、ユウキの握り締める手がその強さを増す。圏内でなければ、ダメージを受けていてもおかしくないと思えるほどに強いそれは、彼女の心が辛うじてまだ保たれている証だと感じた。アーカーという、唯一残った細い寄り木に凭れかかるような、そんなものにすら感じる。
だから、せめて————
「……ユウキ、君は俺が絶対に死なせない」
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
第百層の最終ボス。恐らく茅場 晶彦はそこに君臨するだろう。彼の性格からして、最後の最後まで高みの見物などするはずもない。必ず何か行動する。それが途中なのか、最後なのかは分からないがしかし、最後には出張ってくることだけは確定だ。
なら、俺がすることはなんだ? 自らに問う。
———簡単だ。第百層に辿り着いて、茅場 晶彦を殺す。単純な答えだ。それだけだ。それしかない。落とし前をつけるという意味でもやらなきゃいけない。使命感などではないと自分に言い聞かせた。
そして、最後に茅場 晶彦は最後の嫌がらせをここに残す。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
プレイヤー全員が、糸に操られた人形のように、右手の指二本を揃え真下に向けて振ってた。広場いっぱいに鳴り響く電子的な鈴の音のサウンドエフェクト。
出現したメインメニューから、アイテム欄のタブを叩く。表示された所持品リストの一番上に、彼からのプレゼントはあった。
アイテム名は———《手鏡》。
皆一同にそれをタップし、浮き上がった小ウィンドウからオブジェクト化のボタンを選択。効果音と共に小さな四角い鏡が出現した。
恐る恐る皆が手に取るが、何も起こらない。覗き込む者もいくらかいたが、同様だ。
彼らが一同に安堵した———その瞬間、白い光が一人一人を包んでいく。それらはほんの二、三秒で消える。続けて元のままの光景が広がるはずだった。彼らが見たのは、変貌した各々の顔だった。少なくとも、自らのアバターの顔とは細かいところも含めて違っていた。それはアーカーとユウキも同様で。
「……ソラ、だよね。それも
「……ああ、
手鏡に映っていたのは、紛れもなく現実世界を生きてきたアーカーの———いや、雨宮 蒼天としての顔だった。何処か少し幼さが残るも、その表情には向こうで楽しそうに笑っていた時の暖かさはもうない。わざわざ顔まで同じにしてくれてご苦労さん、よくもやりやがったなテメェと言わんばかりに、ここまでの憎悪に歪んだ〝らしく〟ないものだった。
一方のユウキはせいぜい再現していた程度だった顔が、再現ではなく同じものになった。あまり目立った変化が見られないが、それでもアーカーにはこっちの方がユウキと呼んで完全に違和感のないものだった。流石はナーヴギアの再現率だ素晴らしいさ反吐がでる。
顔の再現は覆うように装着されたナーヴギアによる再現、僅かに縮んだ背は現実と全く変わらない辺り、何らかの事前行為から得られた情報からの計測・再現らしい。周りではキャリブレーションがどうとか聞こえるが、恐らくそれだろう。
そんな推測が立っているうちに、茅場晶彦は最後を締め括るために言葉を続けた。
『諸君らは今、なぜ、と思っていることだろう。なぜ私は———SAO及びナーヴギア開発者の茅場 晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模なテロなのか? あるいは身代金目的の誘拐事件なのか? と』
そんなはずは断じてない。直感が、記憶が確かにそう告げた。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての
最終目標、その言葉を聞いて予想は確信へと変わった。先程まで抱いていた憎悪が薄れていくような心地を味わいながら、アーカーは、いや、雨宮 蒼天は漸く気がついた。金色に染まった瞳は、そこで元の色を取り戻していく。
やはり、
『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の———健闘を祈る』
僅かな言葉が、最後を締め括った。静まり返る広場。不穏な光景や市松模様のように並んだメッセージも消滅し、ログイン時と同じ、穏やかなBGMが鳴り響く。ゲームは本来の姿を取り戻していた。幾つかの致命的なルールの変更だけを除けば、元通りだった。
ただし、取り返しのつかないほどに戻らないものがあった。それは、この世界に存在するプレイヤー達の心情だった。
直後、広大な広場は多重の音声と共にびりびりと震動した。
「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ! 出せ! ここから出せよ!」
「こんなの困る! このあと約束があるのよ!」
「嫌ああ! 帰して! 帰してよおおお!」
悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。そして———咆哮。
ゲームプレイヤーから処刑台前の囚人へ。
街から出れば、死がすぐそこにすら転がっている。
これは実に現実味がある。モンスターや武器がこんなに近くになければ、それこそ現実と何ら変わらない。ここがもう一つの現実という言葉はなるほど的を射ている。実に明快だ分かりやすい。
だからこそだろうか———アーカーは
かつて見た、人間の残酷さと、非情さ、冷酷さ。細かく区分すれば、幾つでもあるが、とにかく人間の嫌な部分をこれでもかと見た、あの頃のように。
「ユウキ、君に話がある。ちょっと来てもらえるか」
ユウキの手を握ると、小さく他には聞こえないように呟く。その言葉を聞き、彼女は小さく頷く。それを合図に、二人は集団から、足早にある場所へと向かう。それは、ログイン前に伝えていた次の村《ホルンカ》がある場所へと一番近い街道だった。近くには回復ポーションを高めではあるが、買うことができる場所があり、準備するには格好の位置だ。そこに辿り着くと、アーカーはユウキに訊ねた。
「ユウキ、君には二つの選択肢がある。一つは、この街に残って全てが終わるのを待つか。いつかは保護も役立たなくなるかもしれないが、それでもここはそれまで安全だ。死ぬことは絶対にない」
「…………………」
本当はこれが望ましい選択肢だ。ここにいれば、少なくともユウキは生きることができる。これ以上の理不尽に晒されて死ぬことはなくなる。いつかは保護コードが消え、安全でなくなるかもしれないが、それまでは安全だ。だから残って欲しい。生きてくれているだけで、俺には十分すぎるくらいだから。本当は言いたかった。
「君は俺が絶対に死なせない」。俺は確かにそう告げたが、本当はここに残ってほしいくらいだった。例え無責任だと言われても。
「そして、もう一つは、俺と一緒に来るか。下手をすれば死ぬし、安全とは掛け離れた場所だ。いくら俺でもユウキを守り切れなくなる時がいつかは必ず来る。だから———」
お願いだ。こっちには来ないでくれ。表面上、問題なく装った彼の心が瓦解しそうになる。すでに一度、人間を信じられなくなって壊れた心が、漸く信じようとしていた心がまた軋む。
それは自分に対する怒りか。あるいは、茅場晶彦に対する憎悪のせいか。それとも———責任を感じて孤独を選ぼうとしているせいか。
答えは単純だ。三つも選択肢がなくても、はっきりしていた。怖いのだ。孤独になることが。
はっきり言って矛盾している。それを分かっていて、心を軋ませながら、アーカーはユウキに選択肢を選ばせようとしている。押し付ける強さが無いからこうなった。それしか俺は知らないからと言い訳をして。顔は無表情で、しかし心では泣き続けて————
「———ボクは……ソラと、一緒にいくよ」
その答えに、すごく心が安らいでしまった。
心を軋ませてでも、保った表情が崩れ始めた。冷めた感情が、暖かさをもう一度だけ思い出す。きっと今の俺は情けない顔をしているのだろう。そう思ってはいるが、不思議とアーカーは直す気にはなれなかった。それは離しかけた指を絡ませるように、ユウキの言葉は心に溶けたからだと信じるように。
「確かに、すごく怖いよ。
覚悟を決めて、ユウキは告げる。
「ボクはもう、君に
強いと思った。恐らく俺は一生彼女に勝てないだろうと思うくらいに。勝負で勝ったとか、そういうのじゃなく。ただ自然と負けを認めていた。
「……そうか。ああ……そうかぁ……はは」
何処か諦めがついたような声だというのに、何処かすごく嬉しそうにアーカーは掠れた笑いを溢す。何度か目元をゴシゴシと擦り、情けない顔はこれまでだと覚悟を決めて————
「それじゃ、行こうか。目的地は《ホルンカ》。夜になるまでには絶対に向こうに辿り着いて、レベリングをする。誰よりも強くなって、一緒に終わらせてやろうぜ、ユウキ。アイツの———茅場 晶彦の世界を!」
「うんっ! 一緒に帰ろ、あの世界に! ソラの背中はボクが守るから」
これが彼らの物語の
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