ソードアート・オンライン —Raison d’être—   作:天狼レイン

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 執筆途中で公式設定との食い違いが一つ出てきたので、独自設定・独自解釈のタグで一部変更。

《森の秘薬》クエストは一人用クエスト。
→正式サービスからパーティでも受けられる。ただし後から組むのは不可。
あとタイトルが違うのはあくまでも前回の予告は予定だったから、変えただけです。






3.出会いの一つ

 

 

 

 

 

 

 《はじまりの街》北西ゲートを出て、広い草原をそのまま突っ切り、深い森の中の迷路じみた小径を抜けた先に《ホルンカ》という名の村がある。これはベータテスターなら誰もが知っている、最初の情報だ。特に片手剣、詳しく区分すれば、片手用直剣使いには決して外せない重要なクエストがある場所として知られている。

 小さいながらもちゃんと《圏内》で、宿屋と武器屋、道具屋があり、充分な狩りの拠点にも使えるという点から、アーカーとユウキは、真っ先にその場所へと向かっていた。道中いくらかモンスターが———と言っても大方青イノシシばかりだったが、軒並み擦れ違い様に倒し、無数のポリゴン片にして送り返してきた。

 足早に向かうにしては焦る様子もなく、むしろ心理状態も含めて安定していた二人の狩り 兼 移動は眼を見張るものがあったことだろう。

 

 しかし、彼らの動きを評価する者は二人を除いていない。未だ恐らく《はじまりの街》にいるか、その周辺へと動き出した程度だろう。アーカーも言っていたが、前線へと出ることは死に近づくことと同義だ。デスゲームと化した影響からか、ベータテストの情報が正しいとは限らないと思考の片隅でこれまでの情報を疑い始める必要さえあった。加えて、ノーコンテニュー前提の戦いなど、ベータテスターですら恐怖を掻き立てられるに違いない。すでに何人か半狂乱し、あと数時間のうちに戦死者が出始めるかもしれない。

 

 果たして、何処の誰がデスゲーム開始してから初の死者となるか。考えただけでも気分が悪くなりそうだった。

 

 何はともあれ、二人の目的は《ホルンカ》への到達もあったが、それ以上に目指していたのは、ホルンカの村を拠点としたレベリングだ。可能な限り、現状上げられるところまでレベルを上げながら、例の片手剣を手にしなくてはならなかった。動き出したプレイヤーに追い付かれる訳にはいかない訳ではないが、それでもせっかくのアドバンテージを有効活用しなければならなかった。自己満足などではなく、ユウキを守るために。

 

 

 そうして、夕陽があと数分ほどで消え去る直前に目的地《ホルンカの村》には到着できた。現実なら今頃息を切らして、何度も深呼吸をしていたことだろうが、とりあえず今はユウキを気遣いながら、周囲を見渡す。

 

 入り口から確認できたのは、民家と商店あわせて十数棟しかないというだけだった。本当に小さい村だと今更ながら思うが、《圏内》判定があるのはありがたいことだった。視界に浮かぶカラー・カーソルには全てNPCのタグがついている。プレイヤーのカーソルはユウキを除いてアーカーには見つけられなかった。脳が《隠蔽》スキルの可能性も示唆したが、わざわざ《圏内》で使う奴はいないため、除外するとユウキを連れて移動を開始した。

 

 まずは武器屋だ。チュートリアル開始前にたっぷりと狩り尽くした青イノシシ以下モンスター諸君の素材アイテムがストレージに貯まっていたので、これをどうにかしたかった。生産性のスキルはきっと取らないだろう。ユウキがどうなのか気になったが、訊ねる前に躊躇なく売り払っていたのを見て、何事もなかったようにアーカーもまた売り払った。

 

 さて、僅かばかり金貨———コルが増えた訳だが、何に使うかは決まっていた。

 

「ユウキ、ポーションに余裕まだあるか?」

 

「うん、かなり残ってるから問題ないよ。何か買うの?」

 

「ああ、これを買っておこうかなって」

 

 指差したのは、そこそこ防御力の高い茶革のハーフコート。恐ろしく地味であり、アーカーも何処か諦めの色が浮かんでいる。そんな姿を可笑しそうにユウキは小さく笑うと、ハーフコートの横に置いてあった、同じく革製の———ただし、女性用らしく茶革ではないハーフコートを指差す。

 

「ボクもこれかな。少し色は黒っぽいね」

 

「女性用は黒っぽいって……いやいや男性用は茶色ってなんだよそれ……」

 

 何故かこういう時だけ羨ましそうにした後、大人しくそれを買い、即時装備ボタンをタッチ。初期装備の白い麻シャツと灰色の厚布ベストの上に、しっかりとした質感のある革装備がオブジェクト化され、見た目的な問題はともかく、防御力が上がったことに小さな安心感を抱く。

 一方のユウキも同様に装備したのだが、やはり色合い的に羨ましかった。じーっと眺めていると、ユウキが何処か変だったりしたのかと誤解したのか、何度も自分の格好を確認し始めたので、眺めるのをやめて次に移る。

 

 次に向かったのは道具屋だった。残っている額はそこまで多くはないが、少しずつ回復するポーション類は比較的安めだ。後々手に入る結晶アイテムなどは恐ろしく高いが、即効性がある。当然ここには結晶アイテムはない上に数多く買えないので、大人しく回復ポーションと解毒ポーションをそれぞれ買えるだけ買うことにした。

 

「ねえ、ソラ」

 

「ん? どうかしたか、ユウキ」

 

「さっき武器屋に入ったけど、武器は買い換えなかったよね。どうしてなのか教えてもらってもいいかな? あそこには今の《スモールソード》より強い《ブロンズソード》があったから気になったんだよね」

 

「あー、あれかぁ……」

 

 詳しく話すと長くなる話だ。取り敢えず今は短く端的に、しかしながら、分かりやすく。すぐに頭で言葉を纏めてユウキに伝える。

 

「簡単に言うとな、《ブロンズソード》は脆い。クエストに出てくる《ペナント》系モンスター———つまり、植物系モンスターの腐蝕液には特に弱くてな。俺達は盾を持たないから余計に耐久値減らすだろうから、丈夫な方が良いと思ったんだよ」

 

「ふむふむ、なるほど。ボク一人だったら絶対に買ってたかも」

 

「あー……うん、否定はしない」

 

「むぅ……そこは否定するところだよ! ソラは相変わらずだよね、そういうとこ」

 

 急に不機嫌になったユウキに、アーカーはただ困惑する。

果たして何処か不味かっただろうか、と。何度か考えるが、検討がつかなかったので、機嫌が直るように一つ提案する。

 

「狙ってるクエストの報酬の《アニールブレード》獲得に必要な《リトルペネントの胚珠》。出たら先にユウキにあげるから……な?」

 

「…………まったく、仕方ないなぁ」

 

 何かを優先してもらえる、その条件にユウキは機嫌を直してくれたのか、アーカーの手を握る。アホ毛が素直すぎるほどに喜んでいる時と同じ動きをしているところからして機嫌は直してくれたらしい。アホ毛が何故動いているかはさておき、そこからは打って変わって、先程の不機嫌なユウキではなく、いつものユウキらしい元気さに溢れていた。果たしてこれを世間的にはチョロいというのか否かは不明だが。

 

「ところで、そのクエストっていうのは何処で受けられるの?」

 

「そこの奥の民家だ」

 

 指差した場所は確かに一軒の家が建っており、明かりが灯っていた。恐らく他のプレイヤーなら遠慮なくズカズカと入るのだろうが、気持ち的にアーカー達はノックをすると、家の中から一人のNPCが出迎えた。

 

「こんばんは、旅の剣士さん」

 

「「こんばんは」」

 

「お疲れでしょう。食事を差し上げたいけれど、今は何もないの。出せるのは、一杯のお水くらいのもの」

 

 ここで何らかのアクションを取らないと先に進めないのだが、それを知るか知らぬかは不明だが、ユウキがすかさず言う。

 

「お水二人分貰ってもいいですか?」

 

「ええ」

 

 すると、NPCは古びたカップ二つに水差しから水を注ぐと、二人の前のテーブルにことんと置いた。立ち飲みするほど無礼ではないので、二人揃って椅子に座り、その水を飲む。

 

 ほんの少し笑い、おかみさんは鍋を煮込んでいたのか、そちらに向き直る。ここで、アーカーがユウキに小さくフラグ建てをすることを伝える。それを聞いてユウキはじっと待つと、やがて隣の部屋に続くドアの向こうから、こんこん、と子供が咳き込む声がした。それを聞いておかみさんが哀しそうに肩を落とす。それから数秒後、彼女の頭上に、金色のクエスチョンマークが点灯した。それはクエスト発生の証で、そこで漸くアーカーが動く。

 

「何かお困りですか?」

 

 いくつかある、NPCクエスト受諾フレーズの一つ。恐らく、始めたばかりの初心者(ニュービー)のほとんどは知らないだろう。事実、ここで強力な片手用直剣が手に入ることは何かしらの前情報がない限り知ることができない。

 

「旅の剣士さん、実は私の娘が……」

 

 ぴこぴこと《?》マークを頭上に点滅させながら、彼女は話し始めた。曰く、市販の薬草を煎じて与えても一向に治らず治療するには、西の森に棲息する捕食植物の胚珠から取れる薬を飲ませるしかないが、とても危険で花を咲かせている個体が滅多にいないので助けてほしい。助けてくれたら先祖伝来の長剣を差し上げます、とのことだ。

 当然とても長い説明を短くしたものだが、それでも長いと感じるものには長いだろう。加えてこれは、現在ユウキとパーティを組んでいるのだから一度で済む訳だが、組んでいない者と共に受けた場合、説明は二度受けることになるのだ。

 ここでも詰まる者がいたとベータテストで聞いたことがある。

 

 そうして、説明を終えたおかみさんが口を閉じ、視界左に表示されたクエストログのタスクが更新された。これでフラグ建ては完了だ。ここから漸くクエスト開始となる。

 

「ユウキ、フラグ建て終わったぞ。向かう先は分かってるな?」

 

「西の森の捕食植物だね。花が咲いてる個体が少ないって聞いたけど、どれくらいかかるの?」

 

「二人分だから、数時間は考えた方が良いな。リアルラック高いなら話は別だけどな。まあ……この世界に幸運値なんてステータスないけど」

 

「数時間かぁ……途中で少し休憩欲しいな」

 

「そうだな。それじゃ軽く動きを覚えながら戦うか。突っ込んだりしないようにな、ユウキ」

 

「初見のモンスターに突っ込むほどバカじゃないもん!」

 

 プンプンと怒り出すユウキに、謝罪を入れて二人は西の森へと向かう。先程の民家がもう少しで見えなくなる辺りで、誰かが駆け込んだのが見えたが、恐らく他のプレイヤーだろう。動きや時間的にベータテスターであることは間違いない。彼の視界にも微かに映った可能性が高いだろうから、きっと驚いているかもしれない。自分よりも早く辿り着いている奴がいるとは、と。

 

 それから二人は村の門を潜り、不気味な夜の森に足を踏み入れていた。アインクラッド内部には空がない。あるのは頭上百メートルに広がった次層の底だけだ。そのため、太陽や月を直視できるのは朝と夕方のいっときに限られる。一応夜にでも明かりはあるが、それは逆に薄暗さを強調していた。

 

「そ、ソラ……お、オバケとか出たり……しない、よね?」

 

「この森で出るモンスターって言ったら、クエストに関係する《リトルペネント》ってモンスターと奥にしかいない《ラージペネント》だけだから安心していいぞ。オバケは後のお楽しみにな」

 

「オバケ出ないんだ……だったら、安心かな。最後の言葉はちょっと聞き逃せないから後でお話……しよっか?」

 

 すごーく怖い顔をしてこちらを睨むユウキに、流石のアーカーも気合を入れて謝罪をする。さっきからこんな調子ばっかりだなと何処かで思うも、急にあることを思い出した。

 

「そういえば、ユウキ」

 

「うん? どうかしたの?」

 

「スキルスロットの二つ目決めたのか?」

 

「あっ、そういえば、まだ決めてないね。《索敵(サーチング)》と《隠蔽(ハイディング)》、他にも何かあるけど、どっちが良いの?」

 

「今は《索敵》取っておいた方がいいな。この森だと《隠蔽》は役に立たないし、他のスキルは必要だけど、今じゃなくてもいいからな」

 

「そうなの? てっきり《隠蔽》優先で取るのかと思ってたよ。これだけ薄暗いから、効果が発揮されやすいかなって」

 

「あー、実はな。この森のモンスターの《ペネント》系は、視覚以外の五感に特化してるせいか、視覚に影響を及ぼす《隠蔽》は効果がないんだよ。まあ、見たら分かる見た目してるんだけどな……」

 

 実際あれは序盤の苦手意識の塊だろう。ここで死ぬプレイヤーはイノシシよりも多いかもしれない。イノシシも大概慣れてないと怖いらしいが、あれとは違ったグロテスク系の怖さが、この森のモンスターにはある。捕食植物らしいと言えば〝らしい〟が。

 

「取り敢えず、まずは戦ってみるか。ユウキ、サポートよろしく」

 

「うん、りょーかい!」

 

 

 

 

 

 

———*———*———

 

 

 

 

 

 それから数十分後くらいだっただろうか。かなりのハイペースでリトルペネントを狩り続けた二人の———正確には一人のストレージには驚くべきことに、件の胚珠が……

 

「わーい、やったね! これで五つ目!」

 

「…………………不平等だ」

 

 半ば泣きそうな顔をするアーカーのストレージには、件の胚珠の姿は一つもない。数ならユウキよりも狩っているのだが、一つも拝めていない。

 一方でユウキのストレージには五つ目の胚珠が押し込まれていた。本当にリアルラック依存とは恐ろしいものだと心底思う。あの難病を除いて、ユウキに〝運が悪い〟は適応されただろうか。恐らく無いなと諦めた顔でリトルペネントを狩る。しかし出ない。

 

「………………あー出ねぇなぁ……」

 

「えーっと……ねえ、ソラ? ボクこんなに胚珠いらないから一つあげるよ? クエスト達成条件も一つだけだから、充分な数手に入ってるし……」

 

「…………ホント泣きそう」

 

 幼馴染の少女に慰められるとはこれいかに。あまりの情けなさに涙が出そうになる。おかしいな、このままだと俺が先導されかねないなとアーカーが真剣に悩み始める姿に、ユウキもまたどうしたものかと考える。彼のプライドの問題なのか、それとも渡す口実が悪いのか。間違いなく前者だが、ユウキは後者だと考えたのか、もっと良い口実を考え直す。

 ———つもりだったが、何処からか現れたまた何故か花が咲いてるリトルペネントのムカつく顔が考え事をしていたユウキには癪に触ったのか、半ば八つ当たり気味に蹴散らすと、ちょうど経験値がレベルアップ必要量を超えたのか、レベルがまた一つ上がった。

 

「わーい、レベルまた上がった!」

 

「……ん? ああ、レベルアップか。おめでとう、ユウキ」

 

「ありがと、ソラ。あ、これまた出たからあげるね」

 

 ポンと手渡しされたのは件の胚珠。また出たと言う辺り、本当にリアルラックどうなってんだと思ったアーカーだったが、流石にこのままだと出ない気がしたので、大人しく貰うことにする。本当に情けないが、出ないものは出ないのだ。やはり、ドロップで信じられるのはネームドモンスターのラストアタック産だけだ。

 

「さて、今更ながら思ったんだが、その胚珠四つどうする? 今合計で六つな訳だが」

 

「うーん、全部《アニールブレード》に交換してもらって、誰かにあげるとかどうかな?」

 

「まあ、その辺りが無難だろうな。下手に何本も持ってても、ポキポキ折るような愚行はする訳にはいかないしな」

 

「うん、そうだね。取り敢えず、はい」

 

 渡されたのは胚珠二つ。先程受け取ったのも含めて合計三つ。

 

「ん?」

 

「え、だってボクが《アニールブレード》五つも持つのはおかしいかなって」

 

「あーなるほど……」

 

「たまにソラってとんでもなく頭回らなくなるね」

 

「ごめんそれユウキには言われたくない」

 

「……うん、ちょっとお話しよっか?」

 

「ナンデモアリマセンゴメンナサイ」

 

 逆鱗に触れかけたアーカーは爆発寸前のユウキに何とか落ち着いてもらい今日だけで何回目かになる謝罪をしていると、直後、遠くから剣戟が耳に届く。

 

「他のプレイヤーか。一応《索敵》スキル使って確認———ちょっと待て、まさか《実つき》の実を割ったバカがいるのか!?」

 

「《実つき》って確かソラがボクに何回も注意してた、あのリトルペネントのこと!?」

 

「ったくメンドクセェ……臭いがこっちにも届いたらマズイな」

 

 あまり巻き込まれて危険を犯したくない。そう読み取れる表情をするアーカーだが、一度思考を入れ替えて、率直にユウキへ訊ねる。

 

「……それで、ユウキ。一つ聞いておくが、()()()()()()()?」

 

「うんっ、助けに行こう! 剣戟が聞こえるってことは、まだ必死に戦ってる。だから……!」

 

「了解だ。行くぞ、ユウキ」

 

 決断、そして行動。そこからは熟練者の動きも斯くやと言うものだった。道中を阻むリトルペネントを《スラント》よりも弱点を狙いやすく高火力な《ホリゾンタル》で弱点を的確に突き、瞬く間に屠り続ける。先頭はアーカー、討ち漏らしをユウキが確実に倒し、薄暗い森の中を駆け抜けていく。

 

 僅か数分の高速移動で多少無茶があったが、何とか間に合った。そこにいたのは、女顔のような男性プレイヤー。かなり疲弊しており、相当な数を単独で屠っていたのだろう。武器である片手用直剣はすでにボロボロで耐久値も危うい。このまま行けば、武器が破壊され、死んでいた可能性すらあった。

 

「うらぁっ!」

 

 囲みを破るべく、背後からリトルペネントの包囲網を破る。突然できた突破口と援軍に、彼は固まっていたが、すぐさま気を取り直すと、再びモンスターの大群を薙ぎ倒す。三人のプレイヤーによる反撃が数分ほど繰り返され、モンスターの群れ、その全てが討伐された。

全員が疲弊した様子を見せ、誰一人として軽口を叩く元気など有りはしない————

 

「ふふっ」

 

「ははっ」

 

「「あははははっ!!」」

 

 ———はずだった。響き渡ったのは、援軍として参戦したアーカーとユウキの笑い声。もはや折れる寸前とまで弱った片手用直剣を眺めてから、満足そうに呟いた。

 

「いやー戦った戦ったぁっ! 流石に疲れたなぁー」

 

「ボクもこんなに疲れたの久しぶりだよー。あ、レベルアップしてる。ねえ、ソラ。何処に振った方がいいかな?」

 

「ん? ちょっと待ってくれ。俺もレベルアップしたから、ステ振りしないとな」

 

「やっぱり敏捷力かな? 動きに自由度ある方が楽しいから」

 

「ま、それでいいんじゃないか? 俺も似たようなもんだし」

 

「そっかあ、それじゃあボクもそうしよっと」

 

 わいわいと会話を繰り返す二人組の援軍に、助けられた男性プレイヤーは困惑の表情を浮かべたまま、首をこれでもかと傾げた。おかしいな、これでも俺はさっき《MPK(モンスター・プレイヤー・キル)》されそうになったところなんだが……と。

 そこまで考えたところで、アーカーが漸く男性プレイヤーに声をかかる。

 

「よっ、ナイスファイト。生きててなによりだ———とはいえ、助けに行こうって提案したのそっちだから、俺にお礼なんか言うなよー」

 

「お礼を言われるほどのことでもないけどね。ところで、大丈夫だった? ポーション無いならあげるよ?」

 

「えっと……その……大丈夫だ」

 

 あまりにもグイグイ押してくる二人に、未だ困惑冷めやらぬ状態の彼は、一旦深呼吸をして冷静になって考える。果たして彼らは味方なのかと。助けてくれたのは間違いないが、またコペルのように何かしらの意図を持って仕掛けてきている可能性がある。この場合なら胚珠を狙っている可能性も————

 

「さてと、それじゃ俺達は先に戻るか。流石に武器の耐久値も危ういからな。レベルの方も充分上がったから、《アニールブレード》貰って、手慣らしに奥の《ラージペネント》でも倒しにいくか?」

 

「うん、それ良いねー。あ、でも、この人このまま置いていくのも大丈夫かな……ほら、武器壊れちゃったみたいだし」

 

 たった一人で《MPK》を捌いていた彼の武器は壊れ、今は他に予備がないようだ。次の武器を握っていない辺りから、そう窺えた。ここから村まで戻れるかと言えば、少し難しいかもしれない。だが、一応本人の意思は訊ねておく。

 

「なあ、アンタ。一人で村まで戻れそうか?」

 

「……どうだろうな、また《MPK》や群れに囲まれたら逃げ切れない可能性が高い……と思ってる」

 

「うん、それじゃあ一緒に村まで戻ろ! まだボク達は辛うじて戦えるから村までなら何とかなるよ!」

 

「———と、うちのユウキが言ってるんだが、アンタはどうするんだ?」

 

「……アンタ達のこと信じていいんだな?」

 

 その目は猜疑心に満ちていた。恐らく先程の《MPK》が原因だろう。主犯格がどうなったかは知らないが、一応こちらとしても警戒しようとユウキに伝えると、自己紹介をする。

 

「俺の名はアーカー」

 

「ボクはユウキ。君は?」

 

「俺は———キリト。ソロだ」

 

 

 

 

 

 これが、のちに名を轟かせるソロプレイヤー《黒の剣士》との出会いだった。

 

 

 

 

 出会いの一つ ー完ー

 

 

 

 

 








次回 遺志を託して逝く者へ 前篇(の予定)




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