アインズ様Lv1   作:赤紫蘇 紫

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本日はアインズ様に拝謁出来る記念すべき日です(*´∀`)
予約投稿しときまーす♪

まだまだ超序盤。デミウルゴスが出て来ますー。
アルベドや他の守護者は次回登場です。


鈴木さん、多いに混乱する

(え、ちょっと待て!?何でいきなり!?)

 慌ててアイテムの破片を見る。道具鑑定をしようとしたのだ。だが……。

「魔法が、使えない……?」

 いつもなら息をするように(アンデッドはそもそも呼吸はしないが)自然に発動させられた魔法。それが、今は発動しない。体の中には、確かに魔力を感じるのに。

「……MPは、ある。なのに、発動しない?」

(ひょっとして、アバター……いや、見た目に引きずられてるのか?)

 確かに、人間のアインズ……いや、『鈴木悟』には、魔法など使えない。そもそも、あの世界はユグドラシルのような剣と魔法の世界ではない。

 ベッドを降りて、寝室内にある姿見の前に立つ。そこに映るのは、やはり人間『鈴木悟』で。装飾過多なアインズのローブがやけに重く感じる。

(魔法詠唱者じゃないからかな?装備、というよりは羽織ってるって認識なんだろうか)

 いきなり脱げても困る、と悟はアイテムボックスから別の装備を取り出す。防御力は皆無に等しいが、異形種のアインズが持っている人間種にも装備出来る装備など、殆ど無い。

(懐かしいなー。初期装備、やっぱり売らなくて良かったよ)

 ユグドラシルを開始した時に、全アバターが着用している汎用装備。『旅人の服』と『冒険者のマント』、『革のブーツ』だ。誰でも装備可能ではあるが、一度売ると二度と手に入らないため、レアコレクターの悟的には勿体なくって売れなかった装備の一つだ。シンプルな生成りの綿の服(シャツとズボン)に、砂漠の砂を思わせる落ち着いた色のマント、何の革かは定かではないが、本革であることは間違いない、歩く時に衝撃を吸収するようなソールのブーツ。悟はすぐに『魔術師のローブ』に買い換えたため、アバターを作った直後くらいしか着用していなかった装備だった。

(……多分さっき壊したアイテムの効果だろうけど……どうするかな)

「アルベド……いや、ダメだな。だったら適任者はデミウルゴスか」

 以前正気を失ったアルベドに押し倒されたのを思い出し、悟は体を震わせる。今アルベドを呼んだなら、間違いなく貞操の危機だ。それだけでなく、人間に対する態度もアルベドは明らかに悪かった。

(ナザリックの住人は全員人間に対する態度がアレだけど、対応がマシな者がいたとしても知恵者はいないだろうしな……消去法でやっぱりデミウルゴスかなぁ)

「レベルも落ちてるっぽいしなー。武器も装備出来ないとか。守護者のレベルで触られたら、すぐに死んじゃいそうだ」

(人間って異形種に比べて基本能力が低いしな……。あ、俺の手持ちの最低レベルの武器でも持てない)

 ハズレガチャの景品の短剣はレベル制限はあるものの、全職業、全種族装備可能だった筈なのに、悟には装備が出来なかった。装備レベルに達していないせいだ。

(レベル30以下って事は確定だけど……どこまでレベルが下がってるんだろう?)

 色々確かめたくはあったけれど、魔法の使えない悟では無理だ。悟はアイテムボックスから伝言の巻物を取り出すと、デミウルゴスを呼び出した。

 

 

 

 

 デミウルゴスにはまだ指輪を渡していないから、到着まで多少時間が掛かるだろう。そう思いつつ、ベッドの上に散らばっていた整理整頓途中のアイテムをまたアイテムボックスに入れる。落とした謎のアイテムの破片はそのままだ。

(……転移直後だったら、こんな風に守護者に頼ろうとは思わなかったんだろうけど)

「皆の忠誠心をこれだけ見せられてて信じられないとか、あり得ないもんな」

 小さく笑いながらそう呟くと、扉をノックする音が聞こえる。

(って、早!?デミウルゴス、今ナザリックに居たっけ!?)

 予想以上に到着の早かったデミウルゴスに焦りつつ、悟は大きく深呼吸して自分を落ち着かせる。

(あ。呼吸する、って久しぶりだなぁ。何か懐かしいな)

 人間だった時の行為をするだけで、ほんの少しだけ心が暖かくなる。しっかりと落ち着いた悟は、ゆっくりと扉の方に視線を向ける。

「アインズ様、デミウルゴス様がいらしています」

「うむ、大切な話があるからデミウルゴスだけ中に入れ。他の者は室外で待機するように」

 もう慣れた支配者ロールでそう声を掛けると、扉が開いてデミウルゴスが優雅な仕草で入って来る。

「アインズ様、お呼びで……!?」

 跪こうとしたデミウルゴスは、途中で固まった。視線は、悟に向けたままだ。

「あぁ、やっぱりお前でも驚くか、デミウルゴス」

「ど、どうなさったのですかアインズ様!そのお姿は……」

 デミウルゴスはそう言うと、悟に駆け寄ってその前に跪く。

(あぁ、驚いてても跪くのは忘れないんだ)

 と、どうでも良いことを考えると、自然と笑みが浮かぶ。

「デミウルゴス。姿も装備も変わっているのに、お前はちゃんと私がわかるのだな」

「勿論です。何があったのです?」

 自分を見上げてくるデミウルゴスに、小さく頷くと悟は床を指さす。

「あのアイテムが何だかわかるか?」

「アイテム……?少々お待ちください。……っ……!」

 悟の指示に従い、アイテムの破片を凝視したデミウルゴスは、すぐに目を見開いて息を呑む。その様子に、悟はそれがあまり良いアイテムではなかったのだろう、と察した。

「……呪いのアイテムか?」

「えぇ……。アイテム名は『弱者の呪い』ですね。効果は、『このアイテムを破壊した者を最も弱い種族である人間のレベル1にする』だそうですが……通常解呪不可、効果期限はランダムと」

 眉根を寄せて、苦々しげにそう言うデミウルゴス。悟はその様子を見ると、大きく息を吐いた。

「……ランダム、か」

「えぇ、ランダム、です……」

「完全なる狂騒は一時間で切れたのだがな……。デミウルゴス。そういう訳で、今の私はレベル1の人間だ。勿論、魔法も使えん」

「そんな……!」

 悟の言葉に、デミウルゴスはこの世の終わりのような、絶望した表情を見せる。

(あー……やっぱりショックかー。だよなぁ。皆人間嫌ってるしなー……)

「この私だとわかっていても、人間は嫌か?デミウルゴス」

 そう問い掛けると、デミウルゴスは途端に大きく頭を振った。

「いえ!違います、アインズ様。そうではないのです。どうやって貴方様をお守りしたら良いのか、と」

「そうか。なら、人間になった私にも忠誠を誓えるか?」

 そっと、デミウルゴスの肩に触れてそう言うと、デミウルゴスは歓喜に満ちた顔を悟に向ける。

(階層守護者でも特に体温が違うとかはないんだな)

 そんなことを考えつつ、悟はデミウルゴスの表情を窺う。いつも余裕の表情を崩さない彼が取り乱す姿は、なかなかにレアだ。

「誓います。私の永遠の忠誠を貴方様に、アインズ様」

「うむ。お前の忠誠を受け取ろう、デミウルゴス。……それで、まずはお前に相談したいのだがな」

「はい」

「……どうやったらアルベドから身を守れるだろうか?」

「あ……」

 心底困ったような悟の言葉に、デミウルゴスは一瞬固まった。アインズ様のご寵愛を、と常日頃言っている彼女のレベルは100。しかも、アインズは以前襲われた事もある。アルベドは複数の八肢刀の暗殺蟲とマーレが協力してようやく引き剥がせたというくらいの剛力の持ち主だ。そんな彼女に、アインズが生殖可能な人間になったと知られたら……。

「……諦めてお世継ぎを作るというのは……」

「却下だ。ナザリック一の知恵者のお前なら名案があると思い呼んだのだ。何かアイディアは無いか?」

「……そうですね……」

 必死に悩むデミウルゴスを見ながら、悟は大きく溜息を吐く。

「今の私はレベル1だ。アルベドに押し倒されたら、恐らくその衝撃で大怪我、下手をしたら死亡する可能性もあるからな……」

「!?」

 悟の言葉に、デミウルゴスは思わず頭を上げて悟を凝視する。その言葉の内容があまりにも衝撃的過ぎたからだ。

「ア、アインズ様……それは、本当ですか?」

「あぁ、本当だ。お前たちが軽く触れたつもりでも、恐らくはダメージを受ける。私からお前たちに触れる分には問題無いだろうがな。勿論、お前たちがスキルなどダメージを与える効果を発動していない事が条件になるが。以前の私のスキルで言うなら、この体では絶望のオーラレベル1でもあっさり恐慌状態に陥るだろうし、下手をしたら発狂するだろうな」

 分かり易くそう説明すると、デミウルゴスは血の気を失った顔で呆然と悟を見つめた。

「……レベル1の人間とは、そんなにも脆弱なのですか?」

「そうだ。ナザリックの一般メイドよりも、耐久度が無い」

 ナザリックの一般メイドは、ホムンクルスだ。だから、今の悟よりも強いのだ。

「では、まず皆の前でその事を発表しましょう。そうでなかったら、何かの弾みにアインズ様がお怪我をしてしまいます」

「……やっぱり、それしか無いか」

「えぇ、無いでしょうね。そうでないと、私もアインズ様を守り切れません」

 悟は困り果てたようにそう言うデミウルゴスに微笑みかけると、

「そうか。ではデミウルゴス、玉座の間に皆を集めよ。三十分後、皆に全てを説明することとしよう」

 と、脆弱な人の身でありながら、いつものアインズを思わせる支配者の表情でそう言った。


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