本編中でアルベドとシャルティアを呼び捨てにしてたので、デミウルゴスも敬称無しなんじゃないかなーと思って書きました。(確かオバマスでもそうだったと思うのですが)
もしどこかで敬称付けて読んでたら何巻のどの辺か教えて下さると助かります!(冊子版でもKindle版でも大丈夫です。両方持ってます)
畏まりました、の部分の混在や他の表記ゆれ箇所もいつか直せたらと思っていますが……。
五分ほどで、前方に妙にキュートな家が見えた。真っ白な壁に、所々キラキラと光る物がある。色は鮮やかな赤やピンクだ。
(……雪原の中だと結構目立つけど、それは大丈夫なのかな?まぁ、攻略ルートからは外れてるから問題無いかもしれないけど……)
そんな事を考えつつ、悟は停車した雪車から降りる。
「ニューロニスト。アインズ様のお越しだよ。ここを開けてくれるかい?」
デミウルゴスがショッキングピンクの扉をノックしながらそう言うと、中からバタバタと駆ける音が聞こえてくる。
「お待たせ致しました、アインズ様……♡大したおもてなしは出来ませんが、どうぞお入り下さい♡」
妙にパチパチと瞬きをしながらそう言われて。悟の背筋にじんわりと脂汗が滲んだ。
「あ、あぁ。では邪魔するぞ、ニューロニスト」
距離も近いような気がして、悟は一歩後退る。すると、その瞬間スルリ、とデミウルゴスが二人の間に割って入る。
「……ニューロニスト。今のアインズ様の状態は理解しているだろう?きちんと距離を保ってくれないか?コキュートスだって距離を取っているんだ、君も倣って欲しいんだがね?」
口元に笑みを湛えたままそう言うデミウルゴスの尻尾は、その先端だけが激しく揺れていて。まるでニューロニストを威嚇しているようだった。
「あぁ~ら。デミウルゴス、そんなに警戒しないで貰えるかしらぁ?アルベドやシャルティアみたいな小娘共と私を一緒にしないで欲しいわ!私はちゃんと分を弁えてるし、私からアインズ様の玉体に触れるような事なんてしないんだから!」
両手を腰にやってプリプリと怒るような素振りを見せるニューロニストに、デミウルゴスは笑顔を見せる。
「理解はしているんだけどね、君が彼女たちよりも大人である事は。だが……何分、今までが今までだったからね……。大変申し訳ないが、アインズ様との間には必ず警護が入るようになっているんだよ。その点は了承して欲しい」
「まぁ!あの子たち、何やらかしたの?温厚な貴方にそこまで言わせるなんて!お疲れ様、デミウルゴス」
くねりくねり、と身体を動かしつつ上目遣いでデミウルゴスと悟を見つめるニューロニストに、悟はアルベドに感じた物と同じ様な気配を感じて大きく身体を震わせた。
(……何だろう。すごく、身の危険を感じる……。ニューロニストはアルベドみたいに襲いかかってくる訳じゃ無いのに……)
内心すっかりとビビリモードの悟だったが、支配者ロールでニューロニストに声を掛ける。
「いつも情報収集感謝する、ニューロニスト。お前の働きがあるからこそ、作戦も安全に進められる。今後もナザリックの為に精度の高い情報収集を頼むぞ」
悟のその言葉に、ニューロニストは頬を染める。恥ずかしげに両手で顔を隠し、身体をくねらせる姿は、人間の美的感覚のままである悟には少々刺激が強過ぎた。
(……こんなに近くでニューロニスト見たの初めてだけど、ネイルこんなにガチなのしてたんだ……。やっぱり女性で間違いないんだろうな……。脳味噌喰いの女性って、全部こんな感じなんだろうか……)
「アインズ様……!勿論ですわ!!これからもアインズ様のお役に立てるよう、誠心誠意尽くさせていただきます……!♡」
ニューロニストはそう言うとしきりに瞬きをして悟を熱く見つめる。その瞳が妙に潤んでいるように見えたのは、恐らく見間違いではない。アルベドと違い距離を詰めては来ないが、微妙に語尾に甘い物を感じて悟はほんの半歩ほど後退る。
「そ、そうか」
辛うじてそう返すと、悟はそっとニューロニストから視線を逸らす。熱の篭もったニューロニストの視線に耐えかねて。
「アインズ様、どうぞお掛けになって下さい。よろしければ、お茶でもいかがです?♡アインズ様がいらっしゃる時のために、とっておきの花茶を用意してあるんです」
相変わらず身体をくねらせながらそう言うニューロニスト。彼女の勧めのままパステルピンクのソファに腰掛けた悟は咄嗟に判断が出来ず、悟とニューロニストの間に立って警護しているデミウルゴスに視線を送る。すると、デミウルゴスは小さく頷く。
「ニューロニスト。実はね、アルベドが少しやらかしてね……。アインズ様に何かをお出しする際は我々警護の者が毒味をする事になるのだが、それでも構わないかい?」
「え!?あのブ……いえ、アルベドが!?じゃあ、ご迷惑になってしまうかしら。毒味、勿論私は構わないわよ?私はアルベドと違ってそんな姑息な手段を使わないもの!そんなのに頼るのって、自分に自信が無いオンナだけよぉ?」
そう、自信満々、といった風情で言うニューロニストを悟は何とも微妙な表情で見ていた。
(オンナって怖い!!)
と、内心思いつつ。何となくその言葉の端々から、ニューロニストとアルベドの仲があまり良好では無いのを察してしまったが故に。ぷるぷると震えてしまいそうになるのを、必死に気力で抑えて、悟は口を開く。
「ほぅ、花茶か。中々風情があるな。ニューロニストは花が好きなのか?」
悟のその問いに、ニューロニストは瞳の煌めきを増した。長い睫を強調するかのように何度も瞬きをしてしなを作りつつ上目遣いで悟を見つめ、恥じらうように口を開く。
「えぇ、勿論ですわアインズ様!女は美しい物と可愛い物が大好きなものですもの。私とて例外ではありませんわ♡この部屋に相応しく、美しくて可愛らしい物を取り揃えておりますの。アインズ様にはやはり華やかな大輪の薔薇が一番お似合いかと思いますので……薔薇の花茶はいかがですか?お茶請けはシンプルなバタークッキーですけれど、形が薔薇になっていてとても優美なんですのよ?……その、私の手作りなので、アインズ様のお口に合うかは解らないのですけれど……」
そう言ってニューロニストがインベントリから取り出した透明の硝子ポットの中には、茶葉のように見える塊が一つ。そこにニューロニストが白磁のポットからお湯を注ぐと、中の塊はゆっくりと花開き……見事な大輪の薔薇になった。微かに漂っていた薔薇の香りも、湯の中の薔薇が花開いたと同時に一気に強くなって。ニューロニストの乙女チックな部屋中に広がった。
「おぉ……!これは、素晴らしいな。見た目にも美しく、香りも良い」
その見た目の華やかさと香り高さに、悟も思わず感嘆の声を上げる。すると、ニューロニストは目に見えて満足げな笑みを浮かべた。
「アインズ様に喜んでいただけて光栄ですわぁん♡お茶の香りを殺さないよう、お茶請けはプレーンなバタークッキーにしてますの。見た目はちゃあんと薔薇ですけれど」
今度は白磁の縁に薔薇模様の飾りのある洒落た皿を取り出す。その上には薔薇の形をした狐色に焼けたクッキーがあった。ナザリックの高級バターを使用したそれは、花茶の香りを邪魔しないが食欲をそそる甘く良い匂いを漂わせていて。思わず、悟の視線がそちらへと向かった。
「これを、お前が?随分と器用なんだな、ニューロニストは」
(って、ニューロニスト、女子力滅茶苦茶高くない!?ネイルや部屋だけじゃなく、料理まで……!え、制作者マジで何を考えてこの設定にしたの!?タブラさんと同じくギャップ萌えの人だったっけ、ニューロニストの制作者って!?)
と、そんな事を悟が考えていると。
「アインズ様。では、お毒味失礼致します。私も今は毒の耐性は切っておりますので、きちんとお役目は果たせるかと」
「あらぁ、デミウルゴスが毒味するの?随分と気合いが入ってるのねぇ。……何か失態でもあったのかしらん?」
目の前で花茶とクッキーを一口ずつ食べるデミウルゴスにそうニューロニストが声を掛けると、デミウルゴスの眉間に一瞬だけ皺が刻まれた。
「……まぁね。君のライバル、アルベドが粗相を、という話はさっきしただろう?だからね、もう二度とあの様なことはあってはならないと……私はそう思っているんだよ。うん、見た目だけでなく味も良いね。君が情報収集だけでなく料理まで上手いとは知らなかったよ、ニューロニスト」
最上位悪魔であるデミウルゴスは、それはそれは優雅にティーカップに花茶を注ぎ、その香りを楽しみつつ一口口にしてしっかりと味わう。単なる毒味だというのに、妙に絵になる。
「あぁ~ら♡デミウルゴスのお墨付きなんて嬉しいわぁん♡自信出て来ちゃったわぁ~」
デミウルゴスのその言葉に、ニューロニストはますますその機嫌を良くしている。
「アインズ様。異物は入っておりませんし、味も問題ありません。安心してお召し上がり下さい」
「あ、あぁ」
(飲食の前に毒味とか!!どこの殿様だよ!!……毒が効いてしまう体って不便なんだなぁ……。今回冷気耐性に極振りしてるから、ちょっとした毒でも命取りだし……まぁ、仕方ないか)
昔見た時代劇の光景が脳裏を過り思わずそう突っ込んでしまうが、レベルが1ではどんな毒でも効果覿面であろうし、治癒が間に合わない可能性がある以上、忠義に厚いデミウルゴスが毒味役を買って出るのも当然と言えた。
「……あ。本当に、美味しい……」
と、素の言葉で話す悟は、本当に美味しそうにクッキーを食べていた。サッパリとした花茶がよりクッキーの旨みを引き出し、いくらでも食べられてしまいそうだな、と悟は思う。
「アインズ様……!♡嬉しい……!!♡♡」
サクサクとしたクッキーを次々平らげてゆく悟の姿に、ニューロニストは感極まった様子で身体を震わせていた。
「ニューロニスト、馳走になったな。これからもナザリックのため、どんな些細な情報も漏らさず収集するようにしてくれ」
花茶を全て飲み干し、クッキーも綺麗に食べ尽くした悟がそう言うと、ニューロニストはその瞳を潤ませながら何度も瞬きを繰り返していた。その視線は、悟に向いたままで。悟は瞬時に身の危険を感じ取り、慌ててソファから立ち上がる。
「では、次はニグレドに会いに行かねばならんのでな。……デミウルゴス、コキュートス。案内を頼む」
「畏まりました、アインズ様」
「ササ、コチラヘ」
扉を開けて悟を雪車に招くコキュートスに悟はそそくさとついていく。その後ろ姿を、ニューロニストは名残惜しそうに見つめていた。
「……うふふ♡今最もアインズ様の正妃に近いのは私で間違いなしね♡やっぱり男は胃袋を掴むのが一番よ……♡」
(……何だろう。今、もの凄く寒気が……)
一瞬鳥肌が立った身体を装備の上から撫でさすっていると、コキュートスが気遣わしげに悟を見る。
「アインズ様。オ寒イノデショウカ?何カ羽織ル物ヲゴ用意致シマショウカ?」
「あぁ、大丈夫だ。ちゃんと装備が冷気を防いでくれているからな。ニグレドの館へはどれ位だったか」
「はい、あと五分程かと。彼女は常に館に居りますが、一応連絡を入れておきます」
デミウルゴスはそう答えると今度はニグレドへと<伝言>を送る。
「ニグレドかい?アインズ様が今各階層の視察をなさっているのは知っていると思うんだが……今日が、第五階層の日でね。これからアインズ様をお連れするから、待機しておいてくれないか?」
ニグレドからの返答に、デミウルゴスが小さく頷く。その間にも雪車は進み、あと数分で到着する距離になっていた。
「アインズ様。ニグレドも問題無いとの事ですので、このまま向かいましょう」
「……あぁ、そうだな……」
前もって知っていても、怖い物は怖い。悟は大きく溜息を吐くと、改めて覚悟を決める。
(タブラさん……!せめて、同じギルドの人間には反応しないように設定してってくれたら……!!)
そう心の中で叫ぶが、もうNPCの設定は書き換えられない。彼女の元に向かう度、あの儀式を繰り返さなければならないのだ……。
「……デミウルゴス。ニグレドに鍵を渡すのはお前に任せた」
「畏まりました。今のアインズ様には、彼女のあの行動は少しばかり危険でしょうから……私が先頭に立ちます。コキュートス、君はアインズ様の背後を守ってくれ」
「承知シタ。任セテクレ」
白い息を派手に吐き出しながら気合いが溢れたようなコキュートスが答える。レベルMAXのNPC二体の護衛という贅沢な状況。悟には危害は及ばないと理解はしていたが、それでも怖い物は怖い訳で……。
(……肉体的には被害が無くてもさ……。精神的被害が計り知れないんだよな、あそこ……)
ホラーの定番、赤子の泣き声。それが複数、かなりの数聞こえて。更にはそれが声だけではなく肉体を持って無数に蠢く。……正直、何度行っても慣れない。それに、今の悟は人間で。沈静化も効かない状態で……。つまりは、恐怖が天井知らずになっているのだ。
(……指輪してるし、流石に恐怖で心肺停止とかはしないと思うけど……。嫌だなぁ……)
止まった雪車。悟は雪車から降りるが、その足取りは自然と重くなり。進行速度も遅くなる。
「アインズ様?どうなさいましたか?」
「……いや、何でもない。さぁ、行くか。デミウルゴス、パンドラズ・アクターに渡された気付け薬の準備もしておいてくれ。この体になってから感性も若干変わっているからな。……その、ニグレドの所に現れるアレがな、少々心臓に悪いというか……」
悟のその言葉に、デミウルゴスはハッとしたように口を開く。
「さようでございましたか。確かにあれは人間種にとってはかなり精神的にダメージを与える作りだと聞いておりましたが……今のお姿のアインズ様にも影響を与えるという事でしょうか?」
「そうだ。だからこその気付け薬だ。何らかの状態異常に見舞われていたらすぐに使うように」
悟はそう言うと、デミウルゴスに扉を開けるように促す。背後のコキュートスは、悟の言葉により気合いが入ったのか、彼を守る事に集中する。刀を掴む手にも力が入る。
「では、入ります」
「……あぁ」
ギィィ…………
嫌なきしみ音を立てながら、扉が開く。その音自体が既に恐怖を煽って止まない。悟は自分の心拍数が徐々に上がってゆくのを感じていた。
(怖くない!!怖いけど、怖くない!!これで見るのは三度目ッ……!!)
自分に必死にそう言い聞かせ、悟はデミウルゴスの後に続く。デミウルゴスの手には、既にニグレドに渡すための赤子の人形が握られている。通常侵入者が入るのとは逆の入口からだからか、悟が今までに見たのとは逆の眺めに恐怖が煽られる。豪奢な洋館の通路を通ってのそれではなく、裏口から入っていきなりソレ、というのはかなり心臓に悪い。
(……裏口から入っても動作するのか……。この泣き声が本当に嫌なんだよなぁ……)
無数の赤子の泣き声が、悟の耳に刺さる。ゾワゾワとした悪寒が全身を満たし、自然と鳥肌が立つ。視界には、揺りかごを揺らす喪服の女の後ろ姿。
(……来る……!!)
タイミングは、もう知っている。だが、それでも恐怖を感じなくなる訳では無い。
「ちがうちがうちがうちがう」
そう言ってニグレドは揺りかごから人形を取り出し、壁に叩き付ける。そうして、彼女のその行動をトリガーに足元から腐肉赤子が大量に湧き出してくる。……館に入ったときから聞こえてきた泣き声の元凶たちだ。
「ひっ……!」
思わず出てしまった悲鳴を、必死に止める。そして、口を手で覆い、ニグレドの行動を見守る。
「……なるほど。アルベドの姉、ですね。確かに。皮膚があればもっと分かり易いのでしょうが……良く似ています」
デミウルゴスはそんな風に冷静に言い放つが、沈静化もされない今の悟にそんな余裕は皆無である。いつの間にか手にしていた鋏を振りかぶりつつデミウルゴスに襲いかかろうと猛ダッシュで駆け寄ってくる彼女に、悟は硬直している。
「ニグレド。君の子供はここだよ」
笑みさえ浮かべながらデミウルゴスはそう言って赤子の人形を彼女へ渡す。すると、彼女は鋏を仕舞ってそれを受け取る。そうして、愛しげに人形を抱き締めると、揺りかごに収めて満足げな笑顔を浮かべる。
「……正気に戻ってくれたか……」
いつもの儀式が無事終了し、ニグレドが話せる状態に戻ったことに悟は安堵する。そして、配下の前で恐慌状態にならなかったことに心底ホッとしていた。
(良かった、醜態を晒さなくて……!さっきニューロニストの所でお茶飲んだし、漏らしたらどうしようかと……!!)
「あら?デミウルゴスにコキュートス、どうしたのお揃いで。何かあったかしら?」
「……ニグレド。先程<伝言>を入れた筈なんだが。忘れてしまったかい?」
小さく溜息を吐いてそうデミウルゴスが言えば、ニグレドは小首を傾げている。どうやら、先程の狂乱のせいで忘れてしまったようだ。
「アインズ様が各階層の視察をなさっているんだよ。お姿が変わっていらっしゃるから、私たちが警護として付き添っているんだ」
「あら、そうなの?……アインズ様、ようこそお越し下さいました。この様な所にまでいらして下さるなんて、光栄の極みですわ」
そう言うとニグレドは喪服のスカートを掴んで優雅に一礼する。その淑女然とした姿は、先程の狂いようが嘘のように穏やかで。悟はそのギャップに嘗ての仲間を思い出さずにはいられなかった。
(……タブラさん……。ニグレドにまでギャップ萌え要素を詰め込まなくても……!そりゃ、確かに皮膚があれば美女かもしれないけど……!だから余計に怖いんですよっ……!!)
ニグレドはスタイルも良いし、声も美しい。顔の作りも整っているから、恐らくは美女なのだろうが……。その顔には皮膚が無く。赤い筋繊維が丸出しなのだ。その事がより恐怖を増幅させて。あの事が無ければ常識人のように思えたが……。
(ふとした拍子にあんなふうになられたんじゃ、全然安心出来ないよ!せめて俺のレベルが100ないと、危なくて傍で話すとか無理!!)
悟はそう結論づけて、デミウルゴスの後ろからニグレドに声を掛ける。
「ニグレド、先日のシャルティアの件は助かった。礼を言う。また何かあったら頼むぞ」
そう労いの言葉を掛けると、ニグレドは微かに微笑む。
「勿体ないお言葉ですわ、アインズ様。私の力はナザリックの為、アインズ様の為に使うのが当然ですもの」
「そ、そうか。今後もナザリックの為に働いてくれ、ニグレド」
微笑みの際に動く表情筋が、より不気味に見えて。ほんの少し悟の頬が強張る。
(タブラさんこそ、コレ見て欲しいですよっ……!ユグドラシルで見るよりも数段怖いですからね、リアルなニグレド……!筋肉が動くのが見えるのってどれだけ怖いか分かります!?)
心中でタブラにそう語りかけつつ、悟は必死にロールを回して答える。悟のその言葉にニグレドはその笑みを深め、優美に頭を下げる。
「畏まりました。アインズ様のお望みのままに……」
「では、今日はこれで失礼させてもらう。デミウルゴス、コキュートス、本日はすまなかったな、私のわがままで付き合わせてしまって」
そう言ってその場を辞そうとした悟だったが、デミウルゴスとコキュートスの二人が大きく尻尾を揺らしながらその言葉に答える。
「わがままなどと……!アインズ様の仰ることは何一つわがままなどではございません!」
「視察ハトテモ重要ナ仕事ノ一ツデス!ワガママトハ違イマス!!」
「わ、わかった!落ち着け、二人とも!!とりあえず、部屋に戻るぞ。コキュートス、今日は世話になった」
ヒートアップする二人を宥め、悟はそうコキュートスに礼を言うと雪車に乗り込む。
「イエ、大シタコトハシテオリマセン。出口マデオ送リシマス」
「頼む。……雪狼とも暫くお別れかと思うと名残惜しいが……」
雪狼のリーダーの頭を撫でると、きゅうん、と甘えたような可愛らしい声で鳴かれて。悟の中のモフモフ愛が強く刺激された。
慣れた様子でコキュートスが雪車を走らせる。気候はまだ穏やかで、吹雪く様子は無かった。そんな中、何の抵抗も受けず雪車は軽やかに雪原を走り抜けてゆく。暫くして階層の出口に着くとすぐに悟は雪車から降り、再び雪狼たちを思う存分モフり倒す。そのついでとばかりに肉球まで触らせて貰い、悟はその感触と温もりに心の底からじんわりと癒やされてゆくのを感じていた。
(絶妙な固さのグミみたいだな、雪狼の肉球って。雪原を走って冷えてた筈なのに、仄かにあったかくて気持ちいいなぁ……)
その弾力を思い切り堪能した後、悟はコキュートスに別れを告げデミウルゴスたち警護を引き連れて自室に戻った。
「……今日は、思った以上に濃厚な日になったな……」
自室のソファに腰掛け、大きく息を吐く。すると、デミウルゴスは気遣わしげに悟の様子を伺う。
「第五階層はかなり広大でしたし、お疲れでしたら明日はお休みにしてはいかがでしょうか」
デミウルゴスの言葉に、悟はほんの少しだけ考えるような素振りを見せる。
「そうだな……。では、明日は一般メイドたちが集まる食堂に寄って、あとは休養とするか。デミウルゴス、私が食堂に行っても問題無い様、通達だけはしておいてくれ。行く時間は未定だ、と」
「畏まりました。……夕食はいかがいたしましょう?軽い物の方が良いでしょうか」
「ニューロニストのクッキーも食べたしな……。普段より若干軽めにしてくれるよう、料理長に伝えてくれ。私は少し休むから、一時間後くらいに来てくれ」
悟はデミウルゴスにそう伝えると、そのまま寝室へ入り暫し休むことにしたのだった。雪狼の毛皮と肉球の感触を思い出して精神的に癒やされつつ。……その他の出来事は、意識して思い返さぬよう努めながら……。