「納得いかないわ!何で階層守護者はアインズ様に会えるのに、守護統括であるこの私が会えないの?おかしいじゃない!!」
バン!と執務室の机を叩きながらそう言うアルベドに、デミウルゴスは冷たい視線を向ける。
「当たり前だろう。君はアインズ様へ今までどれ程非礼を働いたと思う?今やアインズ様関係で君への信頼はマイナスなんだよ?そんな君にアインズ様のスケジュールは教えられないに決まっているだろう」
淡々と書類仕事をこなしながらデミウルゴスがそう言えば、アルベドは小さく舌打ちする。
「……貴方が邪魔さえしなければ、とっくに私とアインズ様は結ばれていたというのに……!貴方が前心配していたお世継ぎの問題だって解決したのよ?なのに何故止める訳!?」
腰の羽根を派手にばたつかせながらアルベドがそう言えば、デミウルゴスは眉間に深く刻まれた皺を伸ばすように指先でマッサージをしながら答える。
「アインズ様がそれを望まれていないからだよ。アインズ様がお望みであれば、私だって邪魔立てなどしないさ。お世継ぎの誕生は私にとっても喜ばしいことだからね」
「なら!私に協力してくれたっていいじゃない!!アインズ様は奥手でいらっしゃるから、女淫魔である私がリードして差し上げなくっちゃ……!!」
一向に書類に手をつけずそう叫ぶアルベドに、流石のデミウルゴスもぶち切れ寸前だった。建国時よりは書類の量は減ってはいたが、それでも有能な事務官でもあるアルベドが仕事を半ば放置していると、デミウルゴスの負担がグッと増えるのだ。悟に付いていることが増えたデミウルゴスは、その執務時間が減少していて。少々溜まり始めた書類に若干焦りを感じていたのだ。
「……君は、本当にアインズ様を見ていないんだね?君のリードとは無理矢理行為を行うことなのかい?先ずはアインズ様をその気にさせることが先決なんじゃないかね?」
遠回しにムードを作れと言っているのだが、アルベドは聞き入れない。
「だって!アインズ様を見ると気が付いたらお側に行きたくなっちゃうんだもの!!仕方ないじゃない!!」
「……。君がもう少しプライベートでも理知的だったなら、協力するのも吝かでは無いのだけどね。アルベド、君は毎回アインズ様を怯えさせているだろう?そんな君にアインズ様を近付けたら何があるか解ったものじゃない。今のアインズ様のレベルを考えると、君を遠ざけるのが最も合理的だと理解出来るだろう?」
ペンを置き、大きく溜息を吐いたデミウルゴスはアルベドを睨み付ける。
「君がもっと落ち着いていてくれたら、私だってもっと協力しても構わないと思っているんだけどね。……アルベド。一度だけ、チャンスをあげよう。その時にアインズ様をその気に出来たなら、今後は君に協力してやろう。出来るかい?」
眼鏡をクイ、と押し上げながらデミウルゴスが挑発的にそう言えば。
「出来るに決まっているわ!デミウルゴス、今の言葉忘れない事ね!!」
と、アルベドはそう言って執務室を出て行った。
「……いい加減、仕事もいつも通りこなして欲しいんだがね……」
やや苛立ったようにそう言うデミウルゴスだけが、室内に残されたのだった。
「アインズ様。アルベドから陳情が出ております」
翌朝、デミウルゴスは悟にそう告げた。朝食が終わり、悟がお茶を飲んで寛いでいた時に。
「陳情?一体何だ?」
「……その。階層守護者だけがアインズ様に拝謁出来るのはズルイ、と……」
言い難そうにデミウルゴスがそう告げれば、悟も頭を抱えた。
「……アルベドは、先日の謹慎の件はどう思っているんだ?」
「その……。アインズ様は奥手な御方だから、と言っておりまして……」
「……」
悟は、デミウルゴスのその言葉に大きく溜息を吐く。
「何が悪かったのか理解していないのか?」
「理解は、その……」
デミウルゴスは言い辛そうに口籠もる。
「……していないのか。そんな状態で会うのは危険過ぎると思うんだが……デミウルゴス、お前はどう思う?」
「確かに危険だとは思うのですが……このまま放置して不満を溜める方が危険だと愚考致します」
デミウルゴスの言葉に、悟はこめかみに手を当てる。微かに頭痛がしたような気がしたからだ。
「仕方ないな。なら、警護を万全にして、短時間だけ会うという事にすれば問題無いか?」
「はい。ガス抜きは必要かと思いますので……。そうでもしないと、彼女がいつアインズ様に襲いかかるか予想が出来ません」
苦渋を滲ませながらそう言うデミウルゴスに、悟は視線を遠くに向ける。
「……アルベドのアレは、不敬に当たると思うのだが……どう思う?デミウルゴス」
「……確かにそうなのですが……。彼女からしてみれば親愛の情の発露でしかないので、何度注意をしても中々聞き入れては貰えず……」
デミウルゴスのその言葉に、悟は覚悟を決めたのだった。
(……何でナザリックの守護者たち、武力に優れた者のうち二人が女性で、しかも俺の身の安全を脅かす様な事になってるんだろうな……。俺今アンデッドじゃないのにシャルティアの好感度も下がってないし……!!)
ぷるぷると小さく躯を震わせながら、悟はデミウルゴスに告げる。
「明日、アルベドに会おう。アルベドにはそのように伝え、大人しくしているように言い含めろ。アルベドの茶々が入らぬうちに戦力を整えておくように」
「畏まりました、アインズ様!二度と彼女に後れを取る事など無いように致します……!」
デミウルゴスはプレート・メイルに包まれた尻尾を激しく左右に揺らしながら力強くそう宣言した。
「……信じているぞ、デミウルゴス」
悟は重々しくそう言うと、必死に明日の対策を考え始めた……。
「ちょっと!何なのよデミウルゴスっ!!」
玉座の間に、アルベドの声が響く。だが、デミウルゴスは涼しげな顔をしている。
「君の今までの行いのせいだよ、アルベド。護衛も無しにアインズ様を君と会わせる訳が無いだろう?」
そう言うデミウルゴスの背後には魔将を始めとした多数のシモベたち。そして、その後ろに悟がちょこんと玉座に座っているのだった。当然、厳ついシモベたちが囲んでいるのでアルベドからは悟は見えない。
「に、したって限度ってものがあるでしょう!?これじゃあアインズ様の御尊顔が……!!」
腰の羽根をばたつかせながらそう言うアルベド。そんなアルベドを見て、悟はデミウルゴスへ声を掛ける。
「あー……その、デミウルゴス。他の守護者とも顔を見て話しているしな、アルベドともそうすべきだと思うのだが」
「……左様でございますか。では……。お前たち、少しだけ隙間を作れ。あぁ、勿論アルベドはそこから動かないようにね。動いたら即座に面会は中止にするからそのつもりで」
気遣わしげにそう言うと、デミウルゴスは配下に命令を下しつつアルベドに釘を刺すのも忘れない。
「チッ!わかってるわよ!ここから動かなければいいんでしょう?」
距離としては、悟から三メートル程度だが、本気のアルベドが飛びかかったなら一瞬で消える距離だ。そのため、デミウルゴスの警戒は緩まない。
「……アルベド。先日の何がいけなかったのか、ちゃんと理解しているのか?」
悟が護衛のシモベたちの間からアルベドを見ながらそう言うと、妙に潤んだ瞳で見つめられる。……その瞳の奥には、肉食獣めいた光が見える。その光に、本能的に恐怖した悟は、そっとアルベドから視線を逸らす。
「勿論です!……ですが、その。アインズ様が魅力的過ぎるからどうにも我慢が出来なくなってしまって……」
ほぅ、と熱い溜息を吐きながらそう言うアルベドからは、妙な色香が漂っていて……。魅了耐性のある装備を身に着けていなかったら、色々と危ないところだ。
「私はそういった行為は好まないのだが、お前はそれを理解しているか?アルベド」
と、悟がそう言えば、途端にアルベドが青褪める。
「そ、そんな……!では、お世継ぎは……!?」
(あれ?アルベド勘違いしてる?別に俺エロいことは嫌いじゃないけど……グイグイ来られるのが苦手って言いたかったんだけど……)
けど、誤解させておいたほうが都合がいいのでは?と、悟は思ったので特に否定もしないでおく。
「世継ぎというのは、すぐに死んでしまう人間種ならば必要だろうが……本来の私のような寿命の無い異形種には不要なものだ。何故なら、この私アインズ・ウール・ゴウンが永遠に支配者としてナザリックに君臨し続けるのだからな」
と、必死にロールを回して威厳を保ちながらそう言い切れば、シモベたちやデミウルゴスは涙ぐんでいた。かつてナザリックに居た至高の四十一人。その全てが異形種で寿命を持たない者たちだったけれど、悟を除いて皆消えてしまった。だからこそ、唯一の支配者である悟が消えてしまう事をシモベたちは何よりも恐れていた。
だが、悟は永遠にナザリックに君臨すると宣言した。もう、支配者を失わなくてもいい。そう思うだけで言い知れぬ安堵感に皆涙を抑えることが出来なくなっていた。……そしてそれは、アルベドも例外では無く。
「アインズ様……本当に、永遠にナザリックに居て下さるのですか……?」
涙を流しながらそう問い掛けられて。悟は大きく頷く。
「あぁ。だから、世継ぎなどは気にする必要は無い。……泣くな、アルベド。お前がそのように泣いていたら、どうしたらいいのか分からなくなる」
そう言いながら、悟はシモベたちの間を縫ってアルベドの前に立つと、そっとその涙を拭う。
「ア、アインズ、様……?」
「お前は多少情熱的だが、本気で私が嫌がれば無理強いはしないだろう?」
真っ直ぐに潤んだ金色の瞳を見つめながら悟がそう言えば、途端にアルベドはモジモジし始める。
「そ、その。アインズ様」
「どうした?アルベド」
アルベドのその発言に我に返った護衛たちがジリジリと距離を縮めてくる。
「……アインズ様。どうか距離をお取り下さい。今のままではお守り出来ません」
警戒を露わにしてデミウルゴスがそう言うが、それより僅かに早くアルベドが悟の手を取った。
「以前のように……どうか、触れて下さい」
そしてその言葉と同時に、悟の手を自分の胸元に移動させた。
「!?」
(やっ……柔らかい……!前触った時より、今の方がリアルに感じるっ……!)
以前触れたのは、転移後すぐ。悟がモモンガとなって、肉体も骨に変化してからだ。だから、触感が鈍くなっていたのだが、今は生身で。柔らかいだけでなく弾力のあるその感覚に、自然と手が動く。
「あっ♡アインズ様……♡」
そのアルベドの声に正気に戻った悟は、慌ててアルベドの胸から手を離すと距離を取る。
「デミウルゴスっ!!あとは任せたっ……!」
その言葉に、デミウルゴスは素早く反応した。自ら悟とアルベドの前に立ち塞がり、シモベたちに指示を出す。すると、魔将たちは一斉に悟を取り囲み隙間を無くす。
「ちょっと!!どうして邪魔をするのっ!?アインズ様だって嫌がってなかったじゃないのっ!!」
叫びながら魔将を掻き分けようとするアルベドを、八肢刀の暗殺蟲が必死に取り押さえる。
「わ、私は!!このような事は望んでいないからな!?」
と、挙動不審になりながらも悟がそう叫ぶと、アルベドは目に見えてしょんぼりとしてしまう。
「そんな……!アインズ様、お世継ぎが必要ではなくとも正妃は必要なのではありませんか!?でしたら私がっ……!!」
「……私は、色仕掛けをするような正妃など欲していないぞ」
そう。悟の好みの女性は、アルベドやシャルティアのような肉食女子とは真逆であった。楚々として可憐な巨乳美女、という現実世界には存在しそうにもない幻の女性が好みであると、一体誰が想像しただろうか?悟のその言葉に、アルベドは一瞬のうちに凍り付いた。
「そ、んな……!」
そう言うと、アルベドはそのままその場に崩れ落ちる。アルベドはもう抵抗をしなかった。力の抜けたアルベドを、八肢刀の暗殺蟲たちが捕縛する。
「アインズ様、ご無事ですか?」
「……あぁ。今のは私が悪かった。まさか、アルベドがあそこで動きを見せるとは思っていなかったからな。油断していた」
大きく息を吐いて、悟はそう言う。その視線は、捕縛されているアルベドを見つめている。
「アルベドを離してやれ。今回彼女は何も悪くない。女淫魔であると考えれば、かなり我慢をした方だしな。……ただ、今後も私の予定は秘匿しろ」
悟はそう言うと、疲れた顔のまま踵を返す。
「今日はもう疲れた。このまま部屋に戻る」
その直後、悟は<転移>を使って自室に戻ってしまう。デミウルゴスとシモベたちは慌ててその後を追った。
「……そんな……。自分から迫るのがダメだなんて……。私はこれからどうしたらいいの……?」
玉座の間には打ちひしがれた様子でそう言うアルベドだけが残されていた……。
次はアインズ様を慰める男性陣のお話です。スパリゾートナザリック!